Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第二十一話 プリム、ナッシュ夫妻

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――クロエ。 俺は後悔している。

 

 

不意に、その人は言った。

東洋人の特徴的な顔立ちを歪ませ、手にしたAKのグリップを強く握る。

彼はボロボロの椅子に深く腰掛け、ため息を吐き捨てる。

 

私はその言葉を黙って聞いていた。

いつも何か深い事を考えていそうな人ではあったけど、近寄りがたいとかそういう事は無かった。

機嫌が悪い時でも、私が甘えるといつでも頭を撫でてくれたし、無理にでも笑ってくれた。

 

でも、その時だけはその場に居たくなかった。

これから紡ぎ出される言葉を聞きたくなかったのかもしれない。

 

少しだけ震えた唇が動く。

「お兄ちゃん」は、絞り出すように言った。

 

 

――俺が、お前を造りだしてしまった。俺が、お前を、兵器にした。

 

 

理解が出来なかった。

どうして、彼はそんな事を言ったのだろう。

普段から、孤児を引き取って訓練している彼が、なぜ私に絞って言って来たのだろう。

 

別に、彼を非難しているわけではない。

ただ、理解できなかっただけだ。それは、もう子供じゃない私にも分からない。

 

お兄ちゃんは続ける。

 

 

――お前を、感情のないただの兵器にしてしまったんだ。

 

 

私にも心はあるよ、と反論する。

その反論に、彼は諦めたように笑った。

 

 

――敵を殺す時、お前は何も思わない。死んで当然、そう思っている。

 

 

それは、と私は答えに困ってしまう。

敵だって、死ぬのを覚悟して向かってくる。私はそれに対応しているだけだ。

そんな質問おかしい、だって私たちは戦争をしているんだから。

 

 

――……すまん、こんな事、言うべきじゃなかった。

 

 

彼は謝る。

そして立ち上がり、AKを棚に置くといつもの笑顔で言った。

 

 

――さ、ご飯を作ろう。他の奴らが作ると下手過ぎて食えたもんじゃないからな。

 

 

ちょっとだけ温度差に混乱したが、すぐに彼の笑顔に応える。

結局、お兄ちゃんがそんな事を言ったのはそれっきり。

私も忘れてしまっていた。

 

なんで、今更こんな事を思い出したのだろう。

 

 

 

なにか、大切なことを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あれ、私……」

 

 

ふと、眩しい光が目に飛び込む。

眩しいと言っても、ただの裸電球の光だからそんなに眩しくはない。

眩しいと思ったのは、私が寝起きだったからだろう。

そうだ、確かあの時、支店長からどこかの土地の話をされて……そのまま倒れた。

 

私はベッドに寝かされている。

あの老人が介抱してくれたのだろうか。

 

これで老人に助けられたのは2回目だ。

今度は装備も、服もちゃんと着ている。

 

 

起き上がり、ベッドから降りる。

足元にはいつも履いているブーツが。

さすがにこれは脱がされたか。

 

靴下も脱がされていたので、Pip-Boyから予備の靴下を取り出して履く。

そのままの流れでブーツを履こうとすると、部屋の奥から角を曲がって、お婆さんがやって来た。

 

見た事がある。

確か、プラチナチップの仕事を運んできたルビー・ナッシュだ。

 

 

「あら!目が覚めたのね!」

 

 

お婆さんはニコニコしながら、食事の入ったプレートをベッド脇のテーブルに置く。

 

 

「お久しぶりです、ナッシュ夫人。と言っても、つい先日会ったばかりですが」

 

 

急いでブーツを履いて頭を下げる。

 

 

「あらあら、相変わらずウェイストランドに似合わないくらい礼儀正しい子ね」

 

 

そう言うナッシュ夫人の言葉は孫と話す祖母のように優しい。

そういえば、私が倒れてからどれくらい経ったのだろうか。

また何日か経っていたら奴らに追いつけなくなる。

 

思い出すと同時に急いでPip-Boyのデジタル時計を確認する。

そこで私はホッと一息ついた。なぜなら一時間しか経っていないからだ。

 

 

「大丈夫かい?いきなり倒れたからビックリしたって旦那が言ってたよ」

 

 

「えぇ、多分、疲れてたんです。寝ていなかったもので……」

 

 

多分、直接的な理由は違う。

その明確な理由は分からないが……

 

だが、疲れていたというのは本当だ。

半日かけてプリムまで休まずに来たし、そのあとすぐに戦闘へと突っ込んだ。

それに、一応病み上がりでもある。

 

 

「なら今日は泊まっていきなさいな、旦那も喜ぶだろうよ」

 

 

夫人も嬉しそうにそう言ってくる。

だが、ここでのんびりしていたら、スーツの男に逃げられてしまう。

ここで戦闘に加勢してもう一日近く費やしてしまった。

 

でも休まなければ人間倒れてしまうのも事実で。

うーん、どうしよ。

 

 

「お言葉に甘えたいのは山々なんですが……その……」

 

 

「分かってるよ、あんたを撃った卑怯者達を追ってるんだろう?」

 

 

きっとジョンソンさんから聞いたのだろう。

 

 

「でもね、倒れるくらい疲れてるんだから休まなきゃ。そんなんじゃNCRの前哨基地にも行けやしないさ。それに、そいつらについて知ってるのがいるよ」

 

 

「本当ですか!?どこに……」

 

 

引っかかる言葉に思わず食いつく。

ジョンソン夫人はそんな私をなだめると、一旦ベッドの上に座らせた。

 

 

「ほら、あんたとNCRが助けたらしい保安官代理のビーグルの野郎さ」

 

 

ビーグル……あぁ、あの自称保安官代理のことか。

ていうか、あの人は本当に保安官代理だったのか。

 

その後のナッシュ夫人によると、どうやら彼はプリムの自宅にいるらしい。

そして、今現在のプリムには保安官が「不在」で、やや治安も悪いとか。

NCRはあてにならないらしい……それじゃあビーグルを保安官にしてしまえば、と聞くと、満場一致で却下されたそうな。

それに本人も責任重大な保安官なんてやりたくないと……どうしようもない。

 

 

それはともかく、少しでも手がかりがあるなら縋るべきだ。

 

 

 

「で、どうするんだい?泊まっていくかい?」

 

 

あと数時間で夕方。

夜のモハビはレイダーや動物が活発化するため、危険である。

なら、仕方ない。

老夫妻にお世話になるとしよう。

 

 

「すみません。一晩だけよろしくお願いします」

 

 

ぺこりと頭を下げると、ナッシュ夫人は満面の笑みで了承した。

 

 

 


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