Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第二十話 プリム、エクスプレス

 

 

 

 

 

 

 昼前に、私は晴れて囚人から解放されたプリムの街中を散策していた。

いや、散策は第二で、主な目的はモハビ・エクスプレスのモハビ・ウェイストランド支店を探すことだ。

囚人たちが闊歩していた町並みは、今では住民たちが復興の為にせわしなく歩き回っている。

 

と、なんだかんだそんな感じで町を楽しむ私だったが、ふとあるものが目に付く。

それは、青い鉄製の、大きめの箱だった。

大きめの、比較的綺麗な家の前に置かれているそれは所々錆びついてはいるが、それでいてどこか存在感がある。

 

エクスプレスボックス。

どこかへ届けたい荷物をモハビ・エクスプレスの社員が運ぶために必要な箱だ。

社員は支店に寄ると真っ先にここの中身を確認し、配達を開始する。

それは社員である私も例外ではない。

 

東から西へ、北から南へ。

 

私はいろいろ人の思いを運んできた。

良きにしろ悪いにしろ、私は人の意志を運んできた。

 

 

さて、私はちょっとだけ感傷に浸りながら家の玄関の扉を開ける。

恐らくここがモハビ・エクスプレスの支店だろう。

 

玄関をくぐると、質素なカウンターが見えた。

そのカウンターの奥には、戦前の服を着た一人の老人が、椅子に腰かけて疲れたようにタバコを吸っていた。

 

 

ぷかぷかと浮かぶ煙と重なった私の姿に気が付いた老人が、目をじろりとこちらへ向ける。

 

 

「おや、こりゃ珍しいお客さんだ。年頃の娘がここになんの用かな?」

 

 

そう言って老人は煙草を灰皿に押し付けて消す。

さりげないが、急いで消すところを見るに、女性の前ではタバコを吸わない主義なのかもしれない。

 

私は一礼してカウンターの前に立つ。

 

 

「こんにちはおじ様、ここはモハビ・エクスプレスの支店でよろしいでしょうか」

 

 

すると老人は頷いて、傍らにあった戦前の本を読みだす。

今日のタンブラーという鍵師ご用達の冊子。

過去には立派な目的の為に用いられていたその本は、今では盗賊のためのピッキング入門書となり果てた。

 

 

「私、先日チップを運ぶ依頼をこちらから受けたモハビ・エクスプレスのクロエと申します」

 

 

その挨拶に、老人は目を見開いて立ち上がった。

 

 

「おぉ!君がクロエか!話は聞いている、俺はジョンソン・ナッシュ、ここの支店長で君に仕事を持ってきたルビーの夫だよ」

 

 

突然フランクになった老人は、カウンター越しに手を差し伸べる。

私はその手を握りると、二、三回振って応えて見せた。

 

ルビー・ナッシュ。

確か、私にプラチナチップの配達を仲介してきた老婆だ。

丁寧な態度で、ものすごくいい人だったのは覚えている。

きっと、プラチナチップの危険性は知らなかったんだろう。

 

 

「しかしどうしてここに?てっきりもうストリップ地区に行ってるもんだと……」

 

 

やはり、彼は私が襲撃されたことは知らないようだ。

もしかしたらあのスーツ男のグルかもしれないと考えたが、長年の勘がそうではないと告げている。

彼はシロだ。

 

私は配達票を彼に渡し、事の経緯を簡単に話す。

グッドスプリングス付近での出来事、そしてスーツの男。

 

するとジョンソンは同情したように溜息をついた。

 

 

「そいつは気の毒に。まぁ、確かにあの仕事は怪しかったが、いかんせん報酬もよかったんだ」

 

 

「怪しかった?」

 

 

彼の言葉に入っていたワードを聞き返す。

 

 

「あぁ。依頼してきたのはカウボーイ風のロボットだった」

 

 

カウボーイ風のロボット。

私の頭に、グッドスプリングスで会ったヴィクターの姿が過ぎる。

確か私を土の中から救ってくれたのもあのロボットだったはずだ。

 

出来過ぎている。

ヴィクターが何か知っているのだろうか。

 

 

「お前さんを含めた運び屋を六人雇って、それぞれ違う物を運ばせたんだ。確か、サイコロとかチェスの駒とか……そんなもんだったよ」

 

 

ということは、私を除く五人は囮か。

 

 

「彼らへの支払いは?」

 

 

「後払いだ。しかももう済んでるようだな」

 

 

支払いが済んでいるという事は、あのスーツ男は囮に引っかからなかったということか。

少し私は事の複雑さを考える。

 

どうやら、あのチップは相当重要なものらしい。

囮には引っかからないくらいの情報網があるということは、割と規模が大きいのかもしれないし、計画も念入りにしていたのかもしれない。

 

 

「そういや、本来そのチップを運ぶのは君じゃなかったんだ」

 

 

ふと、気になることを老人が言った。

 

 

「そいつがキャンセルしたおかげでモハビの外に居た君に頼まざるを得なくなったんだ。まったく、こんなに礼儀正しくて優しそうな子をこんな目に遭わせるなんて……ザ・ディバイドの砂嵐が奴を痛めつけてくれりゃあいいんだが」

 

 

一瞬、意識が飛んだ。

 

はっと意識が戻った時、私は慌てるように老人に尋ねた。

 

 

 

「今、なんて?」

 

 

その質問に老人は首を傾げた。

 

 

「ザ・ディバイドの事か?」

 

 

なぜか心臓が跳ね上がった。

どくんどくんと、鼓動が早くなる。

 

私が知らないはずの土地。

そのはずなのに、私はその名を聞いたことがある気がする。

 

手が震え、呼吸が激しくなる。

 

 

こんなこと今まで無かった。

 

今まで忘れた事がないくらい大切な事を私は忘れている気がする。

何を?私は何を忘れているの?

 

この世界に来る前の事は覚えている。

あの濃過ぎる出来事は忘れられるものじゃない。

 

 

でも、それと同じくらい大切な何かを私は。

 

 

 

 

 

 

 

ふと、安全装置が発動したように私は意識を手放した。

 


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