Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第十九話 プリム、コーヒー

 

 

 

 ――数時間後、プリム。

 

 

 

 少尉を救出し、下層で待っていた仲間と合流した私は、一先ずビーグル保安官代理を拘束したままNCRのテントへと戻ってきた。

伍長に感謝を述べ、少尉に輸血を施すと私は一人瓦礫のそばの椅子に座り、で朝日を眺める。

この調子だと、少尉はすぐに復帰できそうだ。

 

 

人殺しをした後には似合わないくらい、すがすがしい朝だった。

 

朝日の持つ優しい光がゆっくりと、確実に登っていく。

伍長から貰ったミルクたっぷりのコーヒーを口に含み、その甘くて苦い一時を享受する。

美味しくはない。

でも、この味は特別でかけがえのないものだ。

 

 

不思議と眠くは無かった。

先の戦闘のせいでアドレナリンが分泌されていたのは分かっていたが、まだ残留しているのだろうか。

いわゆるコンバットハイというヤツが、まだ抜けきっていないのか。

それともカフェインのおかげで眠くないだけ?

 

だがそこまで医療の専門的知識が無い私は、考えるのをやめる。

そして優しい老人から受け取ったPip-Boyの操作ボタンを弄り、ラジオの周波数にセットすると、ナノマシン経由で耳に直接音声が流れてきた。

 

渋い老人の個性的なトークの後に、彼がチョイスした戦前の曲が流れる。

 

 

一時の休息を私は楽しむ。

そして一曲目が終わり、立て続けに違う曲が流れると、不意に背後に気配がした。

 

さきほどまで負傷していた少尉だった。

 

 

彼は私の隣に座り、同じようにコーヒーを綴る。

異なるのは、それが甘さのないブラックコーヒーだという事。

なんとなくだけど、その味と、それを飲む彼の表情は、彼自身の人生を表しているようにも思える。

 

 

「ありがとな」

 

 

復帰してからの第一声がそれだった。

私は朝日を眺めつつ、頷いた。

 

 

「困った時はお互い様ですわ、少尉殿」

 

 

先ほどまでとは違い、敬意を持った口調で言った。

今の私にNCR兵に対しての権限などない。

 

 

「プリムの住人たちは自分たちの家へと戻っていったよ。あいつら、こっちの気も知らないで、やっと片づけたか、って顔してやがった」

 

 

苦笑いとともに愚痴る。

私も同調する様に笑った。

 

 

「人生そんなものです」

 

 

「君が言うとなんだか深いな」

 

 

それから、お互い無言でコーヒーを綴る。

さりげなく私はPip-Boyのスピーカーからラジオを流しながら。

 

しばらくして、コーヒーを飲み終える寸前。

朝日をぼんやり眺めていた少尉が言った。

 

 

「なんだか、今回の事で分かった気がするよ」

 

 

なにを、と聞く前に彼は続けた。

 

 

「俺はレンジャーになりたかった訳じゃない。ただ、こうして何かを達成したかっただけだったんだ。君は、ここで腐ってた俺に気付かせてくれた」

 

 

なんだかこそばゆい感覚になる。

私は少尉の方を見ずに、コーヒーを綴る。

ミルクの甘さがなんだか私の心情を表しているようで恥ずかしい。

 

 

「あなたが勝手に気付いただけです……褒められるようなことはしてませんわ」

 

 

「……そうかい」

 

 

ふっと笑うと、少尉はタバコに火をつける。

そして一息吸うと、空へと煙を吐きだした。

 

 

「やはりコーヒーとタバコは最高だな……」

 

 

そんな事を言っている少尉がおかしくて。

ちょっとだけ笑ってしまった。

そんな私の笑みを見て、少尉も笑って見せた。

 

 

「君はその方が似合う」

 

 

ふと、少尉がそんなことを言った。

私はきょとんとして少尉の顔を見る。

 

 

「女の子は、無邪気に笑うべきだ」

 

 

その言葉に、私は思わず赤面した。

こんな世界で、まさかこんなロマンチック?な事を男の人に言われるとは思わなかった。

すぐに私はポンチョを広げて顔を隠す。

恥ずかしくて、加熱した銃身のように真っ赤なこの顔を誰かに見せたくはなかったから。

 

少尉はそんな私の気持ちが分かっていて、笑い飛ばした。

 

 

「おや少尉、なかなか良い雰囲気ですな。ムカつくんで割り込ませてもらいます」

 

 

と、急に伍長がニヤケ面で割って入ってきた。

一部始終を見られていたようで、年下の少女にこんなにもクサイ言葉を言った事を知られた少尉の顔が赤くなる。

同時に、空いた手で伍長の胸元を叩いた。

 

 

「上官をおちょくるたぁいい度胸だな伍長」

 

 

「いやいやぁ、そんなつもりはありませんって、そんな怒んないでくださいよ~」

 

 

そう言う伍長のニヤケ面は止まるところを知らない。

私は顔を隠しつつも、しばし少尉と伍長の子供のようなやり取りを眺めていた。

 

 

 


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