原作ゲームでは、プリムにいた囚人たちはNCRCFの囚人たちとはほぼ別の集団となっていますが、この話では同じ集団としています。
「クリア」
少女が冷たい声で言い放つ。
整った顔には凍えるような笑みを浮かべてはいるが、それが楽しみや歓喜による笑みであるかと聞かれれば答えることは出来なかった。
少尉はこの部屋が、二階で最後であることを確認すると、囚人の死体が傍にあるにも関わらずに安堵し、その場に座り込んだ。
そして胸元からタバコを取り出すと、口にくわえて火を付けようとする。
が、
「まだ終わってないわ少尉」
少女が彼の口からタバコを取り上げる。
少尉は不機嫌そうな表情で彼女を見上げたが、反論はできなかった。
確かにまだ外の兵士の掃討が残っている。
少尉は重い腰を動かして立ち上がると、肩にかけていたサービスライフルを手に頷いた。
「ならさっさと外をやろう、疲れてきた」
疲れてきた、その言葉に少女は考える。
少尉はレンジャー志望だったとはいえ、こういったCQBになれていないのは一目瞭然だった。
それもそうだ、通常のNCR兵は入隊から二週間の訓練だけで実戦配備される。
訓練らしい訓練はしないんだろう。
それに、近接戦闘は細かい世界での戦いだ。
一つでも些細な異変を見逃せば死ぬ……そういう世界で戦えば、疲労は酷い。
「……三分だけ休みましょうか」
それだけ言うと、私は取り上げたタバコを彼に差し出す。
久しぶりのCQBで少し私もムキになっていたのかもしれない。
私も休むために汚れたベッドの埃を払って腰かけた。
そしてPip-Boyの収納機能を開いてキャンティーンを取り出すと、蓋を開けて一口飲む。
中身はもちろん綺麗な水。
この前グッドスプリングスで補充したものだが、戦前の水が飲めているのに、補充したばかりの水が飲めないはずもなく、もちろん美味しく飲める。
「……軍に入った頃は、もっとやりがいのある仕事が待ってるんだと思ってた」
ふと、少尉がタバコをふかしてそう言った。
「国や故郷のために戦って、名乗りをあげるもんだと、そう思ってた」
だが、と彼は続ける。
「実際はそんな事、あるわけないんだ。左遷されて、人手不足に悩んで、見ず知らずの少女の助けを借りる。こんなもんさ」
彼が言い終わる頃にはタバコの火も消えていた。
たったあれだけしか彼は語っていないのに、酷く長く感じたのはなぜだろう。
タバコの吸い殻を足で踏み潰すと、彼は外に続く扉へと歩き出す。
こっそりと外へ出ると、ジェットコースターのレールには囚人たちが。
確認できるだけでも5、6人はいるようだった。
お互いを監視できる位置に陣取り、尚且つ地上を監視できるベストポジションを占領している。
手にはバーミンターライフルやNCR兵から奪ったであろうサービスライフル。
火力は十分だった。
私達が出てきたのはホテルの二階部分。
ここで手を出してもいいが、最初の一人を倒した時点で銃撃戦は回避できないだろう。
私一人ならまだしも、少尉がいることが悩みだ。
彼のポテンシャルは高いが、精神的にも肉体的にも疲労が溜まっている。
戦場ではそんな人間から死んでいく。
私の、数少ない教訓だ。
「俺が引き付ける。援護を頼むぞ」
唐突に、少尉は言った。
私が何か言う前に、彼はサービスライフルのセーフティを外して物陰から飛び出る。
すると、彼は近場の敵めがけてライフル弾を放つ。
「少尉ッ!!!」
叫びながらも、私は少尉を狙おうとする囚人に9㎜拳銃を向け、トリガーを引く。
距離にして約60m。
拳銃でじっくり狙って当てられない事もないが、今は緊急事態だ。
私はホルスターに拳銃を突っ込むと、すぐにバーミンターライフルのスリングを掴んで引っ張る。
「NCRだ!やっちまえ!」
囚人の一人が叫ぶ。
少尉は敵の銃弾をかいくぐりながらも反撃した。
声にならない叫びをあげながら、少尉はトリガーを一心不乱に引く。
だが、あれはマズイ。
周りが見えなくなっている。
「
私の呼びかけにも応じず、彼は身を晒し続ける。
が、そんな時、少尉のサービスライフルの銃撃が止まった。
弾切れ。
いつもなら気が付くはずの、そんな簡単な事。
少尉は驚いたようにライフルを叩く。
その隙を、囚人に狙われた。
「死ねぇ!」
囚人の放った弾丸が少尉の肩を貫く。
5.56㎜口径の弾丸は、いとも容易く少尉の服と肉を貫いた。
「ぐあっ!!!」
撃たれた勢いで少尉はその場に倒れこむ。
私のいる場所から数メートルの場所だったが、敵の攻撃が激しくて近づけない。
助けに行けば、私も少尉と同じ目に遭うかもしれない。
どうすれば。
こんな時、お兄ちゃんならどうしただろう。
お兄ちゃんなら、どう動く……?私は、どうすればいい……?
お兄ちゃん、教えて。
私は。
「ぐあああああ……!!!!!!」
ふと、私達を狙っていた囚人たちの内の一人がレールから落ちる。
囚人たちどころか、私でさえも唖然としていると、銃声が響く。
音と同時に、もう一人、囚人がレールから足を滑らす。
「スナイパーだぁああ!!!!!!」
囚人がそう叫んだ。
私もスナイパーが私達を援護してくれている事を理解した。
最初の一発目は銃声がしなかった。
それに、銃撃の方角……間違いない、伍長だ。