通路を制圧した後、今度はホテルのレストラン部分の制圧をする事になった……
のだが、そこで問題が発生した。
敵の数が多すぎる。
Pip-Boyの生体探知機で確認するが、10人ほどいるようだ。
全滅させるのは難しくはないが、ここでドンパチやれば上のフロアにも居る囚人たちに存在がバレてしまう。
どうしたものか、と悩む。
その時、目つきの悪い兵士が壁を触ったり耳を当てたりして何かを調べている。
「どうした一等兵」
少尉が尋ねると、一等兵と呼ばれた兵士が言った。
「これ、防音素材で出来てるみたいですね」
「なに?なんでそんなこと分かる?」
「地元に、戦前の施設が色々残ってましてね。実家がそれを使って建物を修復してたんです。……恐らく、レストランの騒音が客室に漏れないようにするためでしょう」
ほへ~、と私は納得してしまう。
彼は決して戦いには向いていなさそうだが、知識を持ち合わせていそうな人間だった。
言われてみれば、レストランからの騒音があまりしないような気もする。
彼の言っている事は本当だろう。
「でも、仮に防音で上の階の連中に聞こえないとしても、レストランだけで10人はいるのよ?いくら何でも……」
「相手は酔ってるわ、即座に反応するのは無理。皆殺しにしないと……プリムの為にもね」
私が制止する様に言い放つ。
自分でも、笑みが止まらない。
プリムのため、そう言ったのは嘘ではない、嘘ではないが……
少尉は覚悟を決めたように、サービスライフルのコッキングレバーを引く。
むしろ今まで銃弾を装填していなかったというのが驚きだが、ステルス性の高い任務だ。
恐らく
「俺と運び屋が右の扉から、お前らは左だ。俺たちが突入したらお前らも突入しろ」
あまりにも無謀だと思っていそうな女兵士だったが、何を言っても考えを変える気はないと分かった途端、あきらめたように頷いた。
私と少尉が右手にあった一番大きな扉の左右に張り付く。
今度は少尉自ら先陣を切りたいと言って来た。
ちょっとだけ不安だが、私も同意して突入に備える。
コンバットナイフをしまった少尉が手でカウントする。レストラン内部は開けた場所だからナイフよりもライフルを重視した方がいいと判断したのだろう。
5、4、3、2、そこでカウントをやめ、銃に手をかける。
ゼロと同時に、私が後ろ蹴りで扉を思い切り蹴る。
戦前の、200年以上経っている扉だ、勢いよく開くどころか、そのまま倒れてしまった。
少尉が飛び込んでいく。
私も続いて飛び込み、少尉とは逆の右側へ逸れるように移動しつつ、状況を把握する。
V.A.T.S.が起動する。
前の時のように、ちくりとする痛みは無い……確かあれは最初の神経接続時のみの痛みだと書いてあった。
時間が引き伸ばされる。
ドアの音に驚き、飛び込んできた兵士たちに唖然とする囚人たち。
中には急いで銃に手をかけようとしている囚人もいたが、真っ先に私と少尉が放った弾丸に沈んでいく。
セミオートの甲高い、複数の音と共に囚人たちはなす術もなく地獄へ落ちていった。
「クリアッ!」
「こっちもクリアだ!」
レストランを掃討すると、少尉たちNCR組が叫ぶ。
CQBは時間が大切だ。
ぐずぐず手間取っていたら相手に反撃される可能性が増えてしまう。
そうなれば無事では済まない可能性もある。
私はリロードしながら各メンバーを観察する。
少尉がこのメンバーを選んだ理由が分かった。
彼らは状況認識と反射速度が通常よりも早く、射撃の腕もそれなりだ。
「厨房を確認しましょう」
私は提案すると、皆は当然の反応と言わんばかりに厨房への扉へと急ぐ。
と、その時。
「全員くたばれぇええええ!!!!!!」
厨房に隠れていた囚人がドアを破って飛び出してきたのだ。
手には包丁を持っていて、薬を決めているようだった。
対処は先頭にいた私だった。
これだけ近いと撃つよりも先に切りつけられてしまう。
男が包丁を振りかぶる。
それを右腕で受け流すと、私は相手の背後に回り込んでバタフライナイフを背中に突き刺した。
「やろぉ!!!!!!」
薬を決めているせいか、男の痛覚は鈍っていた。
私はナイフを突き刺したまま、彼の背中に3発ピストル弾を撃ちこみ、足を払う。
身体は正直で、蓄積したダメージも相まってかあっさり男はすっころんだ。
その身体の頭めがけて、私は2発弾丸を撃ちこむ。
男が事切れたのを確認すると、周囲を警戒した。
どうやらクリア……ではないようだ。
奥に誰かいる。
接敵の合図を後ろに送ると、私は厨房に入る。
モールラット一匹逃さないようにクリアリングしていくと、縛られた男がいた。
彼は猿轡を噛ませられていて、手足も縛られているので動こうにも動けない。
「こいつは……ギャングじゃなさそうだな」
少尉がそう言った理由は服装にあった。
比較的綺麗で、囚人たちのようにラフな格好ではなくきっちりと傭兵が着そうな服を着ている。
私は銃を向けつつ、猿轡を外す。
「ハァ!ハァ、あ、あんたらNCRか!?俺を助けに来たのか!?」
中年男性は混乱しているのか、大声でそう叫ぶ。
「ここの囚人を討伐しに来ただけですわ。あなたは?」
優しい口調で諭すように言う。
「お、俺はプリムのビーグル保安官代理だ、あの囚人どもに捕まってたんだ!」
保安官代理。
その言葉を聞いて、私は少し考える。
少尉の話曰く、保安官は妻ともども殺されているのに、なんで保安官よりも下の階級である代理は殺されてないんだろうか。
少尉も同じことを思っていたようで、ビーグルと名乗った怪しい男を問い詰める。
「なんで保安官が死んで保安官代理が捕まってるんだ?」
「あぁ、それは奴らが初めに襲った家がたまたま保安官の家だったんだ。そんで、あいつらはもしもの時の交渉材料として俺を捕まえたんだ」
それなら納得がいく……が、信用は出来ない。
ビーグルが何か企んでいる可能性も否定できない。
そもそも保安官代理なんてものが存在するかも情報が無い。
少尉は少し悩んだ末、結論を出す。
「分かった、だが信用できん。二人はここでこいつを見張れ。俺と運び屋で二階を掃討する」
了解、と二人の声が重なる。
するとビーグルは今にも泣きそうな顔で言った。
「嘘だろ?解放してくれないのか?俺は本当に保安官代理だ!」
「うるせぇぞ、黙っとけ」
一等兵が銃を突きつけて無理矢理黙らせる。
私達は二階へ通じる階段へと足を運ばせた。
その途中、私は前を歩く少尉に話しかける。
「……いいわね、少尉」
「何がだ?」
振り返らずに少尉は答える。
私はこみあげてくるものを抑えながらそっと耳元で言った。
「あなたが返り血でいっぱいになってるのを見るのがよ」
ぞくりと、少尉の背筋が凍る。
振り向くと、運び屋の少女がこちらを覗き見ていた。
その表情は、笑っている。
笑み、とカテゴライズされる表情だ。
そのはずなのだが、何かが違う。
こんな表情は見たことが無い。
少尉は金縛りのように動けなくなる。
その間、少女はずっと彼の目を見ていた。
「……冗談よ。さぁ、行きましょう?」
今度は少女が先を歩く。
数秒、少尉は動けなかった。
ようやく動けるようになった時には、最初に抱いた恐怖は消え、一種の安心感が彼を包んでいた。
今までに感じた事のない感情に彼は戸惑いながらも、階段の上の扉で待つ少女の後を追った。
一部設定を捏造しまくってます。
そっちの方が都合がいいし臨場感出るし、多少はね?