Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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初投稿です。


第十五話 プリム、CQB

 

 

 

 

 

 NCRの物見やぐらから双眼鏡で、灰色の少女が敵を殺すのを少尉は眺めていた。

少女が静かに、次々と脱走犯達を殺していく様に少尉は心の底から震え、そして感謝する。

……少女が味方で良かった、これが彼の本音である。

 

隣には、過去にスナイパー候補であったヘンリー伍長がハンティングライフルのスコープ越しに少女をカバーする。

ライフルのマズル(銃口)には、中身の入っていないペットボトルがダクトテープで括り付けられていた。

これはあの少女の提案によるものだ。

 

銃声というものには、大きく分けて二つある。

一つは、弾が発射された際にマズルから出てくる発射ガスが出す膨張音。

二つ目は、弾丸が音速を超えることによって出るソニックブームの甲高い音。

 

後者は、弱装弾という火薬を少なめにした弾薬を使って音速を超えないようにすれば、解決できる。

前者の銃声は、サプレッサーと呼ばれる減音器を取り付けることによってある程度は抑制可能だ。

だが、いくらサプレッサーでも、銃声をゼロにする事は出来ない。

オートマチックの銃は、弾が発射されるのと同時に薬莢が排出される。

この時、ガスの破裂音も一緒に出て行ってしまうのだ。

 

だが、これはボルトアクションライフル。

排莢は手動で行うので、それまでは密閉されている。

つまり、ガスはほぼバレルを通ってマズルから排出されるということだ。

 

なので、そのガスの膨張が一時的にペットボトル内に抑えられるため減音効果は高い……らしい。

これも少女が言っていたことだ。

 

それに、弱装弾なんてものもここにはない。

少女が火薬量を事前に減らしていたが、果たして本当に使い物になるのか不安でもあった。火薬量が減るということは、威力が減るという事だ。

おまけにペットボトル程度の強度では一発撃てば壊れてしまう。

 

つまり、減音できるのは一発のみ。

 

 

「ま、俺は外さねぇけどな」

 

 

伍長が自信たっぷりに言った。

 

 

「狙撃が得意ならなんで第一偵察隊に入らなかった?」

 

 

少尉は双眼鏡を覗きながら、長年の疑問をぶつけた。

 

 

「なぁに、その前に左遷されちまったんですよ」

 

 

伍長は鼻で笑う。

その間もスコープからは目を離さない。

第一偵察隊というのは、NCRで優秀なスナイパーが集まる特殊偵察部隊だ。

決して見えない存在、という彼らのスローガン通り、目視できない距離から一撃で敵を射抜く。

狙撃のプロだ。

 

 

思えば、こういう辺境の任務に回されるのはそういうヤツらが多い。

自分もそうだ、と一人思う。

 

ヘイズ少尉は、もともと士官学校出のエリートだった。

フーバーダムでの戦いには参加していなかったが、その後の治安維持活動では優秀な戦績をおさめ、NCRで最も強いレンジャー部隊に配属される一歩手前まで来た。

 

それもアホな上官に楯突いたせいでおじゃんになってしまったが。

 

 

「少尉こそ、なんで突然こんな事をしようと?」

 

 

少尉はしばし沈黙したが、ようやく重い口が開いた。

 

 

「さぁな。ただ、あんな幼い子供が俺らを手伝うと言って来たんだ。それで何もしないのは人間が廃るだろう」

 

 

「いつになく感情的ですね」

 

 

少尉は何も答えなかった。

ただ双眼鏡で少女を観察し、その技術を盗む。

こんなに勉強熱心なのも、

 

しばらくして、少女が最後の一人を屋根からの襲撃で倒す。

襲撃された男は、頭をカチ割られ、腕を落とされて絶命した。

 

 

少女が手を上にあげて回し、集合の合図を送る。

 

 

「援護を頼む」

 

 

「Roger that」

 

 

それだけ言うと、少尉はやぐらから降りて選抜メンバーと合流する。

伍長の任務は狙撃支援。

 

無線はないので、言葉で伝えることは出来ない。

 

 

彼は深く息を吸い込むと、再びスコープを覗き込む。

 

 

夜はまだ長い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少尉と合流すると、私はピストルと囚人から奪ったバタフライナイフを取り出す。

左手でナイフを逆手に、右手でピストルを握ってクロスさせるように構え、グリップを確認した。

うん、小さい手には小さいナイフがよく馴染む。

 

少尉はそんな私の構えを不思議に思ったのか、観察する様に私を見ていた。

 

 

「なんだ、その構えは?」

 

 

案の定、勉強熱心である少尉が尋ねてくる。

その瞳は少年のように純粋だ。

 

 

「近接戦闘は不意な遭遇戦が多いの。こうして構えればナイフと拳銃を素早く切り替えて使うことが出来るわ。……CQCとか呼ばれてるらしいけど、名前なんて詳しく知らないわ。さぁ、行きましょう。指揮は少尉が取って」

 

 

指揮権を譲渡されたが、それでも引き連れていくのは少尉の部下だ。

付き合いが長い方がうまく運用できるだろう。

 

少尉はハンドシグナルを駆使して部下に命令を出す。

元レンジャー候補というだけあって、指示の出し方はそれなりだ。

 

彼が出した指示はこうだ。

まず、私を含めた4人の部隊を更に二つに分ける。

 

私と少尉で1チーム、女兵士と目つきの悪い兵士でもう1チーム。

私達が前衛で、もう一つが後衛をつとめ、超過型交互前進でホテルの入り口まで進む。

 

超過型交互前進(Alternative Bounding Overwatch)

二つの部隊が交互に前進することだ。

ここで重要なのは、次に前進する部隊は、先に進んだ部隊よりも更に先へ進むという事だ。

よく人間が歩くときの足と同じ動きと比喩される。

 

さて、少尉が合図を出したので私たちは前進を開始する。

駆け足で、なるべく音を発てないようにするのは私にとっては当たり前だが、少尉もまた同様にやってみせた。

なんでこんなところで燻っていたんだろうか、不思議でならない。

 

 

カジノ前まで到着すると、次に女兵士たちの部隊が前進を開始する。

彼女達は少尉と比べて練度は高くないようで、ぎこちない。

構えているライフルも振れているのが一目瞭然だった。

 

 

彼女達のチームがホテル前の入口に到着すると、私と少尉は移動を再開した。

何事もなく入口に辿り着いた私達は、少尉の合図で集合する。

その間も私は周囲を警戒していたが、他の二名の兵士たちは少尉だけを見ていた。

 

少尉が私の肩を叩くと、彼の指示に注目した。

 

 

まず、目つきの悪い部下が扉をゆっくり開ける。

次に私を先頭に少尉と突入し、玄関を制圧、次のフロアへ……ということらしい。

銃火器の使用は指示あるまで控えろ、という少尉の命令に、部下たちの表情は曇った。

 

どうやって敵を倒せばいいんだ、と目つきの悪い隊員は呟く。

ナイフを使え、少尉は言った。

 

 

少尉はナイフを取り出し、左手で構える。

先ほど私がそうしたように、逆手であるが、違うのは右腕でライフルを構えている事だ。

 

彼のしている事は正しい。

パワー不足のピストルではなく、ライフルを使う事は私も習ったし、使った事もある。

 

だが、彼のライフルは重量がキツイ。

片手で構えるとどうしても疲労が溜まってしまうが、私はそれを教えない。

それは、彼が実戦で学ぶことだ。

 

 

 

目つきの悪い兵士が扉を静かに開ける。

同時に、私は静かに速やかに、中へと突入して右手へ逸れる。

 

 

フェイタルファンネル、というものがCQBでは存在する。

これは、部屋の入り口から対角線上の部屋の両方の角までを結んで扇形にした範囲だ。

CQBでは、この範囲は敵からの火力が増える範囲として、速やかにフェイタルファンネルから出て制圧を行わなければならない。

詳しく言えばもっと様々な形があるのだが、長くなるので割愛。

少尉もそのことについては知っていたようで、可及的速やかに私と同じ方向へ逃れた。

本来ならば少尉は反対側の左手へ逸れるのだが、左側にスペースが無かったので仕方ない。

 

 

玄関には誰もいなかった。

しかし、奥からどんちゃん騒ぎが聞こえてるので、ホテル内に複数の敵がいる事は確かだろう。

 

 

「クリア」

 

 

少尉がそう小声で言うと、外で見張っていた隊員たちが中へと入る。

次はここから見える奥の通路をクリアリングしなくては。

 

またしても私が先頭で、奥の通路へとカルガモ親子のように歩いていく。

 

 

が、私は全員にストップと隠れろという合図を送る。

理由は、奥からこちらに向かってくる足音がしたからだ。

 

 

全員がそのことに気付き、物陰に身を隠し、息を飲む。

私は通路前の壁に張り付き、ピストルをホルスターにしまう。

 

 

「あー飲み過ぎたな、気持ちわり」

 

 

フラフラの囚人が酒瓶片手に玄関へとやってきた。

真横で潜んでいた私をスルーするあたり、かなり酔っているのだろう。

 

即座に私は囚人の後ろから忍び寄り、相手の膝裏を蹴って跪かせる。

 

 

「ウグッ」

 

 

そのまま口を右手で塞ぐと、ナイフを横から首に突き刺した。

血が噴き出すが見られなければ問題ない。

 

私はそのままナイフを前へ押し出す。

 

すると囚人の首は半分からぱっくり割れてしまい、考える暇もなく絶命した。

 

 

 

「おっと」

 

 

囚人が酒瓶を離したので、地面に落ちる寸前でキャッチする。

これで玄関はクリアになった。

 

私が追従の意味のハンドシグナルを送ると、少尉たちがひょっこり物陰から現れ、私の横に並んだ。

 

 

私が先頭になり、ゆっくりと通路内を確認する。

いわゆるカッティングパイという、パイを切り分けるような動きで通路の安全を見ていくわけだ。

 

誰もいない。

 

 

クリアであるというシグナルを送ると、今度は少尉が前衛になり、仲間とともに通路を進む。

私はその間、銃を構えて通路内を見張ってカバーする。

 

 

と、その時だった。

 

少尉の左手から酔った囚人が飛び出してきたのだ。

 

 

「ッ!!??」

 

 

「お、何だお前」

 

 

少尉は一瞬驚いたが、酔っ払っている囚人の胸に左手のナイフを突き刺す。

ぐふっと囚人は血を吐き、少尉は囚人を壁に叩きつけるとナイフを身体から抜いて腹に何度も突き刺した。

 

 

「ふ、ふ、ふ、ふぅー……!」

 

 

荒い息遣いで少尉がめった刺しにしている光景を、部下たちはひきつったような表情で見ている。

完全に死んでいる事を確認すると、少尉は周囲を確認して、ナイフに付着した血を囚人のジャケットで拭う。

 

少尉は自分の事を見て立ち尽くしている部下たちを一瞥すると、集合させた。

 

 

 

 




ちょっとくらいねつ造しても……バレへんか

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