Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第十四話 プリム、ステルス

 

 

 

 

 

 プリムという町は、そこまで大きい町ではない。

 

モハビ・ウェイストランドでは、ニューベガス以外にも利用できる唯一のカジノではあるが、交通手段や地域の過疎具合も手伝って人はあまり来ないし、そうなれば入植者ももちろん少ない。

そもそもある程度金があれば誰でも利用できるカジノというのは、それだけ儲けられる金も少ない物だ。

そりゃそうだ、誰でもやってたらその半分は大当たりするかもしれない。

だからそれほど人はやって来ない、というのがプリムの現状だった。

 

それでもプリムはある程度の収入を得ていた。

それはモハビ・エクスプレスの拠点がある、というものが多い。

モハビ・エクスプレスに属する運び屋ならば、この地域に来たら立ち寄って情報収集やより良い仕事を探したいし、なにより同業者に会えるというのは、孤独な運び屋にとって魅力的だった。

それ故、ここには多くの運び屋や、その付き添いのキャラバン隊がそれなりに立ち寄り、買い物をしていく。

それが主な収入源だった。

 

 

それも今では脱走した囚人たちによって占拠され、過去のものとなっている。

生き延びた住人はカジノに逃げ延びて、NCRが彼ら無法者を倒す日を待っている。

 

そして、解放の日は近かった。

 

 

プリムにある戦前のホテル、バイソン・スティーブ・ホテルの前で警備をしている囚人が、タバコに火を付けた。

彼はホテル北西の警備担当で、夜は彼の番。

 

 

「ち、NCRめ、攻撃できねぇんならとっととカルフォルニアまで帰りやがれってんだ」

 

 

どうやらNCRは数や武器の理由から、彼らに攻撃できないでいた。

それはギャング集団も同じで、物資や弾薬が減るのを恐れて攻撃は仕掛けない方針でいたようだ。よって、このプリムは一種の冷戦状態にある。

 

それに呼応して、同じく外で見張りをしている囚人も頷いた。

 

 

「ま、あいつらリージョンの連中への対処で忙しいからな」

 

 

シーザー・リージョン。

86の部族を纏め上げ、コロラド川を超えてアリゾナからやってきた戦闘集団。

彼らは総じて古代ローマ人のような恰好をしており、その見た目通り近接戦を好む。

過去にはフーバーダムを巡ってNCRと大戦を交えた事もあり、敗れはしたがその規模は計り知れない。

士気は高く、数も多く、NCRは彼らへの対応で手を焼いていた。

 

へっ、とタバコの煙を吸う囚人は笑った。

 

 

「両方とも相打ちになって死んじまえばいいんだ」

 

 

それが、モハビ・ウェイストランドに生きる無法者たちが抱く共通の考えだった。

NCRは自称法治国家で、自分たちを圧迫していく。質は高くないが、数は尋常じゃないからギャング団にとっては厄介だ。

シーザー・リージョンは、残虐だ。自分たちの意にそぐわない者は容赦なく殺して切り刻む。運が良ければ奴隷になるかもしれないが、それでも老い先は短い。

 

どっちもどっちである。

 

 

その時だった。

 

ふと、何かが西にある家で動いた気がした。

あの家は彼らが殺した保安官の家で、特に何も目ぼしい物がない事から誰も近寄らないでいた。

それにあの家はNCRの物見やぐらから丸見えだ。

いくらお互い攻撃を躊躇っているといっても出来るだけ敵に姿は曝したくないというのは生物的本能だろう。

 

 

「おいダンカン、お前見てこい」

 

 

タバコをふかしながら、囚人は言った。

その命令に隣りの囚人は嫌そうな顔をして見せたが、立場としてはこのタバコ野郎の方が上だから仕方ない。

 

渋々囚人はシングル・ショットガンを担いで保安官の家の方へ向かう。

そんな彼を興味なさげに見ていたタバコの囚人。

 

 

見に行った囚人が死角に入る。

丁度タバコを吸っていた場所からは、保安官の家の半分はカジノに隠れて見えない構図になっていた。

 

まぁ何事もなく終わるだろう、そう考えながら短くなった質の悪いタバコを楽しんでいた。

 

 

 

「ウガッ」

 

 

短い悲鳴のような声が、保安官の家から聞こえてきた。

一気に囚人の身体に緊張が走る。

 

彼はタバコを捨ててブーツの底で火を消すと、背中に背負っていたバーミンターライフルを取り出して弾丸を装填する。

そしてライフルを腰だめで構え、小走りで偵察へ行った仲間のもとへ向かった。

 

一瞬仲間の名前を呼ぼうかとも考えたが、もしNCRが攻めてきていたら自分の存在を知られてしまう。

それだけはマズイ。

 

 

彼は保安官の家へと急ぐ。

具体的には、そっちへ向かった仲間の下へ。

 

だが、仲間はどこにもいない。

 

 

「クソ、クソ……」

 

 

周りを見渡すが、人っ子一人いない。

彼は急に自分が世界で最も孤独であるような感覚に陥った。

周りは闇で、ぼんやりとしか物の輪郭が分からない。

 

その中に、手のようなものが見える。

 

 

それは10mほど離れたところにあるガソリンスタンド……正確に言えば、そこに放置されている戦前のボロボロの車の陰だ。

沢山の手が、足が、おもむろに置いてある。

 

その手の持ち主はすぐそばで倒れ、血を吹きだして死んでいる。

彼は絶叫しそうになった。

 

 

 

それも、出来ずじまいに終わる。

 

 

タンッと何かが頭上で鳴る。

ブーツを踏み出したような音だ。

 

見上げてみると、それは人だった。

 

 

銀髪をなびかせながら、保安官の家の屋根からこちらに飛んでくる、一人の少女。

 

 

彼は今度こそ泣きそうになる。

 

 

「おやすみ」

 

 

まるで戦前のホロテープから聞こえてくるような美しい声が鼓膜に響いた。

 

次の瞬間、少女の手にあったマチェットが、彼の頭を縦に両断する。

それだけでは足らず、ちょうどマチェットの線上にあった腕を切断した。

 

ごろん、と落ちる腕と、ばたりと倒れる身体。

それを合図に、隠れていたNCR兵士たちが姿を現す。

 

 

「正面の見張りはクリア。今度はあなたたちが先導して」

 

 

少女がそう言うと、少尉の階級章を付けたNCR兵士がハンドシグナル(手信号)で部下の兵士たちに合図した。

 

 

 


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