Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第八話 グッドスプリングス、説得

 そんなわけで、私は外でシャイアンと遊んでいるサニーさんの下へやってきた。

彼女に事情を説明すると、二つ返事で了承して見せた。

どうやらパウダーギャングにはいい思いをしていないらしく、一泡吹かせてやりたいとの事。

それに、あの手の輩はまた戻って来て町を荒らしに来る、というのも理由だ。

それには同意した。

馬鹿は死んでも治らない、お兄ちゃんもよく言ってたっけ。

 

 

「でも、私達3人じゃ力不足かも。ここの人たちを味方に出来ればなんとかなりそうだけどね」

 

 

「どうすればいいと思います?」

 

 

そう私が尋ねると、彼女は即答した。

 

 

「トルーディよ。みんな彼女を尊敬してるから、トルーディさえ説得できれば……」

 

 

「任せてください、説得は得意です」

 

 

伊達に高Speechスキルじゃない。

昔から口は上手かったから、自信はあった。

 

私がそう言うと、サニーさんは笑って見せた。

 

 

「イージーピートはダイナマイトがあるし、チェットはレザーアーマーを仕入れた所だから、借りられるか……う~ん、ちょっと難しいかも。あいつ守銭奴だから。あとは、予想以上に撃たれた場合に備えて、ドッグ・ミッチェルが嫌々でもスティムパックをくれれば上出来ね」

 

 

あの雑貨店の店主のことだ。

確かにケチそうな人間だった。

イージーピートは、店の前でぼけっとしていた老人だ。

話してみたが、元炭鉱夫だったそうで、爆発物の知識があった。

ドッグ・ミッチェルは……これ以上迷惑をかけたくないが、仕方ない。

 

 

「わかりました。ありがとうございます、サニーさん」

 

 

「いいのよ、楽しそうだし」

 

 

 

 

 

 

次にやって来たのはもちろん酒場のトルーディさん。

 

 

「あら、いらっしゃい。何か飲む?」

 

 

「じゃあ、サルサパリラを……はい、キャップ」

 

 

わずかなキャップを渡してジュースをもらう。

コップに注がれたそれを飲むと、私は話を切り出す。

 

 

「トルーディさん、パウダーギャングと戦う為に力を貸して欲しいんです」

 

 

トルーディさんはちょっとだけ困ったような顔をして言った。

 

 

「作戦はあるの?奴らは危険よ、それなりの案がないと……」

 

 

「《Speech/70》私達が団結すれば恐るるに足りませんわ。これでも何年も運び屋をしてましたし、こういう状況は切り抜けてきました」

 

 

自前の話術を生かし、それなりの態度で諭す。

すると彼女は納得したように頷いて見せた。

 

 

「【成功】わかったわ、あなたが言うんだもの。町の人たちに私からも言っておくわね」

 

 

私はその言葉に笑顔で応える。

 

 

「ありがとうございます、トルーディさん」

 

 

 

 

 

 

次はイージーピート、おじいさん。

おそらく村一番の老人である彼は、見た目と歳の割にはしっかりとしていた。

けど、訛りは一番ひどい。

 

 

「こんにちは、イージーピート」

 

 

「おお、お嬢ちゃん、何の用じゃ?」

 

 

私は彼の隣に座り、にっこりして会釈する。

しばらく世間話をして、私は本題を切り出す。

 

 

「そう言えば、おじい様は爆発物のエキスパートとか」

 

 

イージーピートはため息まじりに言った。

 

 

「わかっとる。お前さん、パウダーギャングを追い払う為にわしから爆発物を借りるつもりじゃろ?サニーとの会話が聞こえておったわ。だがな嬢ちゃん、爆発物っつーもんは、少しいじり方を間違えると全部吹っ飛んでしまうんだで」

 

 

サニーとの会話が聞かれていたのは想定外……でもなかった。

酒場のみんなに話を伝えやすくするために、サニーさんとの会話は少し大きめでしていたから。

 

 

「ええ、おじいさま、私もその事は分かっておりますわ」

 

 

「なら……」

 

 

断られる前に交渉するとしよう。

 

 

「《Explosives/55》ですが、私は運び屋です。小型の核弾頭を運んだこともあれば、道を拓くために様々な爆発物を利用してきました。ダイナマイトも例外ではありません」

 

 

そう言うと、イージーピートは少し悩んだが、渋々了承したようにこちらを見た。

 

 

「【成功】まぁ、わかっとるならええわい。確かに、嬢ちゃんはそれなりに経験を積んどるようだしな……わかった、貯蔵庫からダイナマイトと、特別にC4を持って来よう」

 

 

C4があるのは正直予想外だった。

しかし、使えるものはなんでも使わなければ生き残れない。

ウェイストランド流のサバイバル術だ。

 

私は頭を下げ、感謝の言葉を述べる。

着々と準備は整いつつあった。

 

 

 

 

 

 

 次はもちろん、近場にある雑貨屋のチェット。

正直、彼が一番簡単だろう。

最初は渋りそうだが、少し脅せばああいう人間は案外あっさりいう事を聞く。

……できれば脅しはしたくないが、手段を選んではいられない。

私のプライドよりも、村の人たちの命を優先させなければ。

 

 

「ごめんください」

 

 

そう言って私は雑貨店の扉を開ける。

いらっしゃい、と言ってカウンターで椅子に座り本を読んでいるのは店主のチェット。

 

私はカウンターの前に立ち、本題を述べる。

 

 

「パウダーギャングと戦う為にレザーアーマーを貸して欲しいんです」

 

 

すると、チェットはすぐに待ちな、と言って不機嫌そうに続ける。

 

 

「なら1000キャップ払え。こっちも商売としてやってんだ。それに命のためならそれぐらいどうってことないだろ?」

 

 

やっぱり。

こういう人間は商売人としては間違っていないが、人として好きじゃない。

私は内心相手を見下しながらも、表所は真顔のままで座っている彼を見下ろす。

 

そして腰のマチェットに手をかけ、抜いた。

 

 

「お、おいなにを……」

 

 

ドンッ!!!

 

マチェットの刃が木製のカウンターにめり込む。

驚いてこちらを見るチェットに、こう言った。

 

 

「《Barter/75+Terrifying Presence》ならパウダーギャングがここを制圧した後もそうしているといいわ。もっとも、商売が続けられればの話だけど。ヤツらがあなたとまともに商売してくれるといいわね」

 

 

すると、チェットの表情が青ざめ、脂汗が滲む。

そして何度も頷くと、

 

 

「そうだ、その通りだ。よし、みんなにレザーアーマーを支給する、お安い御用さ。あ、あんたのは?」

 

 

「見て分からない?着てるからいらないわ」

 

 

「そうだな、うん、よし。あ、俺は戦闘時には店番させてもらうよ、店が心配だから……」

 

 

バキィ!っと私がマチェットをカウンターから抜いた事により音が発つ。

チェットはそれに怯えながらも、そそくさとレザーアーマーを出す準備をしだした。

そんなへっぴり腰を見ながら、私は店を後にする。

 

 

「テーブルの修理代はいらないわよね?」

 

 

そう言い残すと彼は大丈夫だ、と何度も言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後はドッグ・ミッチェル。

正直、あまり気が進まないが、腹をくくろう。

 

私が診療所の扉を開けると、部屋の奥からドッグ・ミッチェルが出てくる。

眼鏡をかけ、医療の本を片手に持つその姿は白衣さえあれば医者そのものだ。

 

 

「御機嫌よう、先生」

 

 

「あぁ、君か。どうした、怪我でもしたかね?」

 

 

その質問に私は首を横に振った。

 

 

「失礼を承知でお頼み申し上げます、先生」

 

 

私が深く頭を下げると、先生は困惑した様子で私の肩を叩いた。

 

 

「なんだねそんなに畏まって……」

 

 

「近々、パウダーギャングと戦う為にスティムパックを分けて欲しいのです」

 

 

そう言うと、ドッグ・ミッチェルは納得したように顔を歪めた。

どうやら、私の頼みに対しての心労ではないようだった。

 

少しだけ悩んだ末、ドッグ・ミッチェルは私に玄関で待つように言う。

 

 

私が立ち尽くしていると、ドッグ・ミッチェルは医療用のバッグを持ってきた。

そしてそれを私に手渡す。

中には、沢山のスティムパック(注射器型のナノマシン回復剤)と、その他の治療器具が入っていた。

 

 

「持って行きなさい。……どこにいても同じだな、人が居る場所には必ず争いが起きる」

 

 

その言葉には心底同意した。

どうでもいいことで人間は争う。

アフガニスタンでも、ウェイストランドでも、それは変わらない。

まるでそれが人間の性質と言わんばかりに、人は争うのだ。

 

人は、過ちを繰り返す。

 

 

「私は訳あって足が不自由でね、戦うことはできん。君のような若者に戦いを押し付けたくはないんだが……」

 

 

「いいえ、そのお気持ちとこの医療品だけで私は満足……それ以上ですわ」

 

 

にっこり笑って頭を下げる。

アメリカにはお辞儀の習慣は無いが、心は通じる。

 

これで準備はほぼ整った。

あとは、汚い蛆虫共を聖地から追い払うだけだ。

 

 

 

 


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