そんなわけで、私は外でシャイアンと遊んでいるサニーさんの下へやってきた。
彼女に事情を説明すると、二つ返事で了承して見せた。
どうやらパウダーギャングにはいい思いをしていないらしく、一泡吹かせてやりたいとの事。
それに、あの手の輩はまた戻って来て町を荒らしに来る、というのも理由だ。
それには同意した。
馬鹿は死んでも治らない、お兄ちゃんもよく言ってたっけ。
「でも、私達3人じゃ力不足かも。ここの人たちを味方に出来ればなんとかなりそうだけどね」
「どうすればいいと思います?」
そう私が尋ねると、彼女は即答した。
「トルーディよ。みんな彼女を尊敬してるから、トルーディさえ説得できれば……」
「任せてください、説得は得意です」
伊達に高Speechスキルじゃない。
昔から口は上手かったから、自信はあった。
私がそう言うと、サニーさんは笑って見せた。
「イージーピートはダイナマイトがあるし、チェットはレザーアーマーを仕入れた所だから、借りられるか……う~ん、ちょっと難しいかも。あいつ守銭奴だから。あとは、予想以上に撃たれた場合に備えて、ドッグ・ミッチェルが嫌々でもスティムパックをくれれば上出来ね」
あの雑貨店の店主のことだ。
確かにケチそうな人間だった。
イージーピートは、店の前でぼけっとしていた老人だ。
話してみたが、元炭鉱夫だったそうで、爆発物の知識があった。
ドッグ・ミッチェルは……これ以上迷惑をかけたくないが、仕方ない。
「わかりました。ありがとうございます、サニーさん」
「いいのよ、楽しそうだし」
次にやって来たのはもちろん酒場のトルーディさん。
「あら、いらっしゃい。何か飲む?」
「じゃあ、サルサパリラを……はい、キャップ」
わずかなキャップを渡してジュースをもらう。
コップに注がれたそれを飲むと、私は話を切り出す。
「トルーディさん、パウダーギャングと戦う為に力を貸して欲しいんです」
トルーディさんはちょっとだけ困ったような顔をして言った。
「作戦はあるの?奴らは危険よ、それなりの案がないと……」
「《Speech/70》私達が団結すれば恐るるに足りませんわ。これでも何年も運び屋をしてましたし、こういう状況は切り抜けてきました」
自前の話術を生かし、それなりの態度で諭す。
すると彼女は納得したように頷いて見せた。
「【成功】わかったわ、あなたが言うんだもの。町の人たちに私からも言っておくわね」
私はその言葉に笑顔で応える。
「ありがとうございます、トルーディさん」
次はイージーピート、おじいさん。
おそらく村一番の老人である彼は、見た目と歳の割にはしっかりとしていた。
けど、訛りは一番ひどい。
「こんにちは、イージーピート」
「おお、お嬢ちゃん、何の用じゃ?」
私は彼の隣に座り、にっこりして会釈する。
しばらく世間話をして、私は本題を切り出す。
「そう言えば、おじい様は爆発物のエキスパートとか」
イージーピートはため息まじりに言った。
「わかっとる。お前さん、パウダーギャングを追い払う為にわしから爆発物を借りるつもりじゃろ?サニーとの会話が聞こえておったわ。だがな嬢ちゃん、爆発物っつーもんは、少しいじり方を間違えると全部吹っ飛んでしまうんだで」
サニーとの会話が聞かれていたのは想定外……でもなかった。
酒場のみんなに話を伝えやすくするために、サニーさんとの会話は少し大きめでしていたから。
「ええ、おじいさま、私もその事は分かっておりますわ」
「なら……」
断られる前に交渉するとしよう。
「《Explosives/55》ですが、私は運び屋です。小型の核弾頭を運んだこともあれば、道を拓くために様々な爆発物を利用してきました。ダイナマイトも例外ではありません」
そう言うと、イージーピートは少し悩んだが、渋々了承したようにこちらを見た。
「【成功】まぁ、わかっとるならええわい。確かに、嬢ちゃんはそれなりに経験を積んどるようだしな……わかった、貯蔵庫からダイナマイトと、特別にC4を持って来よう」
C4があるのは正直予想外だった。
しかし、使えるものはなんでも使わなければ生き残れない。
ウェイストランド流のサバイバル術だ。
私は頭を下げ、感謝の言葉を述べる。
着々と準備は整いつつあった。
次はもちろん、近場にある雑貨屋のチェット。
正直、彼が一番簡単だろう。
最初は渋りそうだが、少し脅せばああいう人間は案外あっさりいう事を聞く。
……できれば脅しはしたくないが、手段を選んではいられない。
私のプライドよりも、村の人たちの命を優先させなければ。
「ごめんください」
そう言って私は雑貨店の扉を開ける。
いらっしゃい、と言ってカウンターで椅子に座り本を読んでいるのは店主のチェット。
私はカウンターの前に立ち、本題を述べる。
「パウダーギャングと戦う為にレザーアーマーを貸して欲しいんです」
すると、チェットはすぐに待ちな、と言って不機嫌そうに続ける。
「なら1000キャップ払え。こっちも商売としてやってんだ。それに命のためならそれぐらいどうってことないだろ?」
やっぱり。
こういう人間は商売人としては間違っていないが、人として好きじゃない。
私は内心相手を見下しながらも、表所は真顔のままで座っている彼を見下ろす。
そして腰のマチェットに手をかけ、抜いた。
「お、おいなにを……」
ドンッ!!!
マチェットの刃が木製のカウンターにめり込む。
驚いてこちらを見るチェットに、こう言った。
「《Barter/75+Terrifying Presence》ならパウダーギャングがここを制圧した後もそうしているといいわ。もっとも、商売が続けられればの話だけど。ヤツらがあなたとまともに商売してくれるといいわね」
すると、チェットの表情が青ざめ、脂汗が滲む。
そして何度も頷くと、
「そうだ、その通りだ。よし、みんなにレザーアーマーを支給する、お安い御用さ。あ、あんたのは?」
「見て分からない?着てるからいらないわ」
「そうだな、うん、よし。あ、俺は戦闘時には店番させてもらうよ、店が心配だから……」
バキィ!っと私がマチェットをカウンターから抜いた事により音が発つ。
チェットはそれに怯えながらも、そそくさとレザーアーマーを出す準備をしだした。
そんなへっぴり腰を見ながら、私は店を後にする。
「テーブルの修理代はいらないわよね?」
そう言い残すと彼は大丈夫だ、と何度も言っていた。
最後はドッグ・ミッチェル。
正直、あまり気が進まないが、腹をくくろう。
私が診療所の扉を開けると、部屋の奥からドッグ・ミッチェルが出てくる。
眼鏡をかけ、医療の本を片手に持つその姿は白衣さえあれば医者そのものだ。
「御機嫌よう、先生」
「あぁ、君か。どうした、怪我でもしたかね?」
その質問に私は首を横に振った。
「失礼を承知でお頼み申し上げます、先生」
私が深く頭を下げると、先生は困惑した様子で私の肩を叩いた。
「なんだねそんなに畏まって……」
「近々、パウダーギャングと戦う為にスティムパックを分けて欲しいのです」
そう言うと、ドッグ・ミッチェルは納得したように顔を歪めた。
どうやら、私の頼みに対しての心労ではないようだった。
少しだけ悩んだ末、ドッグ・ミッチェルは私に玄関で待つように言う。
私が立ち尽くしていると、ドッグ・ミッチェルは医療用のバッグを持ってきた。
そしてそれを私に手渡す。
中には、沢山のスティムパック(注射器型のナノマシン回復剤)と、その他の治療器具が入っていた。
「持って行きなさい。……どこにいても同じだな、人が居る場所には必ず争いが起きる」
その言葉には心底同意した。
どうでもいいことで人間は争う。
アフガニスタンでも、ウェイストランドでも、それは変わらない。
まるでそれが人間の性質と言わんばかりに、人は争うのだ。
人は、過ちを繰り返す。
「私は訳あって足が不自由でね、戦うことはできん。君のような若者に戦いを押し付けたくはないんだが……」
「いいえ、そのお気持ちとこの医療品だけで私は満足……それ以上ですわ」
にっこり笑って頭を下げる。
アメリカにはお辞儀の習慣は無いが、心は通じる。
これで準備はほぼ整った。
あとは、汚い蛆虫共を聖地から追い払うだけだ。