それからラジオを直し、一晩をサルーンの予備ベッドで過ごした私は、隣りの雑貨店で武器や弾、それと保存食を買い、ガソリンスタンドへと向かっていた。
雑貨店の店主はいかにも守銭奴な人間だったが、金さえ払えばしっかりと取引してくれる。
まぁ少し割高だったために300キャップも使ってしまった。
だが、ピストルとそれ用のロングマガジンが手に入ったのは収穫だ。
買ったピストルはモハビで広く普及している9㎜ピストルと呼ばれているものだ。
細かく言えば、ブローニング・ハイパワーと呼ばれる拳銃で、作られたのは第二次世界大戦前。
銃器界の伝説であるジョン・ブローニングが開発したピストルだ。
このピストルが革命的だったのは、
使用弾薬は9×19㎜口径の弾薬だ。
13発の装弾数は戦場では心強く、世界中に広まった。アメリカでも例外ではない。
このロングマガジンは、その容量を更に増やすもので、長くなる代わりに装弾数が20発になる。これは素晴らしい。
更に、私が買ったこの銃はある程度質が良く、いい工場で作られたのか、アイアンサイトに蓄光塗料のドットが入っている。
これで夜でも狙いが付けやすい。
ちなみに、私は事前にチャンバーの中に1発弾を入れることはしない。
安全性の問題から、戦闘直前に装填するのだ。
さて、もう一つ買ったものがある。
それは近接戦闘用のマチェットだ。
元は山刀で、邪魔な草や木を切り開いて道を拓くものだ。
だが、このマチェットは武器として使っても申し分ない脅威を誇る。
まず、リーチが長い。
加えて、刃の重量が重いため、一撃が強力になりやすい。
狭い場所では向かないかもしれないが、許容範囲だ。
さて、ガソリンスタンドに着く手前、へんてこなロボットが居た。
一輪のタイヤで走行し、中央のモニターにはカウボーイ風のイラストが映っている。
あれが私を助けてくれたロボットだろうか。
「お!やぁやぁ元気になったみたいでホッとしたぜ!」
ロボットらしからぬ陽気な話し方に、ちょっと驚いたが私は笑顔で話す。
AIを積んでいるロボットの話は聞いたことがある。
「こんにちは、ロボットさん。あなたが私を助けてくれたのかしら?」
「おうよ!そんな大層な事はしてないけどな、あんたが助かって良かったぜ、具合はどうだ?」
「身体はまだ調子が戻らないけど、ほとんど治ってるわ。ありがとう」
そこからは他愛もない話をする。
しばらく話した後、彼……に、私を襲った奴らの事を尋ねた。
どうやらあの夜、気まぐれに散歩……?していたら、果樹園の方が騒がしかったらしい。
行ってみると、悪党がいたらしく、息を潜めていたそうだ。
それで、ヤツらが去った後、私を土の中から掘り返してみると、まだ息があったらしく、急いでドッグ・ミッチェルの所まで運んだ……と、要約するとこんな感じだ。
ちなみに、彼は奴らの事については分からないらしい。
「ありがとう。またね」
「あぁ、良い一日を!」
そう言ってヴィクターというロボットと離れ、ガソリンスタンドの扉をそっと開けた。
――誰もいない。
中は締め切られていて薄暗く、少なくとも見ただけでは人はいない……が。
……気配は隠せないものだ。
カウンターの奥から一人分の気配がする。
いつの間にか神経接続されていたPip-Boyも同じ反応を示しているようだ。
私はゆっくりとカウンターの横に回り込む。
そうして、ようやくカウンターの後ろにある気配の主を覗こうとした、その時。
「動くなッ!」
突然気配の主である男が拳銃を突き付けてきた。
動くな、とは言われたが、反射的に銃を横へ払いのける。
「ッ!?」
男が何かを言おうとしていたが、その前に私は彼の首と銃に手をかけていた。
銃のスライドとフレームを掴みつつ、首にかけている手に力を入れる。
そして相手の足を払うと、男はバランスを崩した。
「ふッ」
呼吸を整えつつ、私は相手を後ろへ倒す。
銃を掴んだ手はそのままに。
「ぐわっ!!!!!!」
男は倒れた衝撃で悲鳴を上げる。
しかしそんな事、意にも介さずに私は銃を奪ってスライドを引き、相手に銃口を向けた。
「こっちの台詞だわ」
男の眼前に突き付けられた銃口は、今にも弾を吐き出して彼の命を奪おうとしていた。
男はびびってしまったのか、目をかっ開いて完全に動かない。
私は今になってちょっと悪い事したな、なんて思いながら、銃口を男から離す。
そしてチャンバー内の弾とマガジンを抜くと、男に差し出した。
「ごめんなさい、こんなことするつもりはなかったんだけど、身体が勝手に動いちゃって。私は敵じゃないわ」
「あ、あぁ……そうか……こっちこそすまない、ちょっと過剰に反応しちまったよ」
男はそう謝罪すると、銃を取って立ち上がる。
大した怪我はないはずだ、ある程度加減したから。
男は身体の埃を払うと言った。
「銃を向けて悪かった、でもいきなりだったもんで……」
「こちらこそごめんなさい。私はクロエ、運び屋よ。あなたがリンゴさん?」
男は頷く。
「あぁ。てことは、トルーディあたりから聞いたのか。そうだ、俺がリンゴさ」
「話しは聞いてるわ。パウダーギャングから追われているみたいね。さっきトルーディさんが追い払っていたわ」
ああクソ、とリンゴは悪態をつく。
無理もない、武装した無法者に追われているのだから。
「私が力になるわ」
はっ、とリンゴは鼻で笑う。
「一人でも二人でも同じさ、あんたがどんなに強かろうとどっちみち墓場行きだ。だが、まぁ、町の人を味方につけられるなら話は別だ」
「正直10人いようが退治できると思うけど……そう言うなら説得してみるわ」
ちょっと不服そうに私は言う。
実際、あのコッブとかいうヤツの装備や歩き方を見ていてもプロの殺し屋には到底見えない。
持っていたものは.357口径のシングルアクション・リボルバー。
威力は9㎜に比べれば脅威だが、シングルアクションだし、リロードはおそらくシリンダーを開くタイプではない一発ずつの装填だから時間がかかる。
よほどの熟練者でなければあれを使いこなすのは無理だ。
まぁ、リンゴがそう言うならしょうがない。
素直に町の人たちを説得しよう。
「なら、まずはサニー・スマイルズだ。この町で一番フレンドリーな女で強い」
「分かったわ、確かに彼女なら話が通じそうね」
最初の目標は彼女とその愛犬に決まった。
こんな調子で大丈夫かな……