Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第六話 グッドスプリングス、トルーディ

 

 

 

 

 ゲッコーのステーキを奢ってもらい、キャップを手に入れた私は、再びサニーさんとプロスペクターサルーンに寄ることにした。

 

目的は情報収集。

私を撃ってチップを盗んだスーツの男の足取りを追うことが最優先だ。

じゃなきゃ運び屋としてのプライドに傷がつく。

 

情報収集として一番適しているのは酒場である。

大体の人間は休憩がてら酒場に寄る。これは共通である。

ちなみに私は宗教上、お酒は飲めない。

いや、もう宗教も何もない世界だが、それでも習慣として飲まないのだ。

 

祈る神や、祈るべき場所ももうありはしないだろうから。

 

 

さて、もう一つ目的がある。

それは、酒場を切り盛りしているトルーディというグッドスプリングスの母親的存在の人に会ってほしいという、サニーからの頼みを聞くためだ。

どうやら新参者に会いたがっているらしい。

 

 

「こんにちは~」

 

 

私は挨拶をして店に入る。

 

と、何やら争うような会話がカウンターの方から聞こえてきた。

何やらリンゴを渡さないとこの町を焼き払うだの、物騒なワードが聞こえてくる。

リンゴって日本語でたしかAppleだったかな……でもきっと関係ないんだろうなぁ、なんて考えていると、何やら青い警備用スーツを着た黒人の男が奥から出てきた。

 

彼は怒った様子で扉の横にいる私を睨みつける。

私も彼を見つめる。

 

 

「ッ!!……クソッ!」

 

 

そう言うと彼は少し怯えたように店を去って行った。

 

 

 

ふぅ、とため息をつく。

ああいう輩はどこにでもいるんだな、と一人意気消沈していると、奥から30代くらいの女性が出てきた。

この人がトルーディだろうか。

 

私は一礼して話しかける。

 

 

「こんにちは。貴方がトルーディさんでしょうか?」

 

 

あら、と女性はにっこりして、

 

 

「あなたが噂の……話は聞いてるわ。私がトルーディよ」

 

 

クロエです、と自己紹介を済ませる。

感じの良い人だった。それでいて抜け目のなさそうな、賢い人……それが私が抱いた第一印象。

ビジネスパートナーとして、信頼できるタイプの人だ。

 

 

私は先ほどの男の件が少し気になったので、失礼を承知しつつ尋ねる。

 

 

「あの、先ほどの男は……?」

 

 

そう話を切り出すと、トルーディさんは困ったようにため息をしてみせた。

 

 

「コッブよ。今、この小さな町が問題に巻き込まれててね。関わりたくないのに……」

 

 

心底困った様子のトルーディさんは語った。

どうやら一週間ほどに、トレーダーのリンゴという男が一人でこの町……に、やってきたらしい。

どうやら攻撃を受けたようで、追っ手を気にしていたリンゴの為にトルーディさんたちは使われていないガソリンスタンドを隠れ家として提供してあげた。

最初はショックを受けてて被害妄想気味になっているのだと思っていたらしいが、どうやら本当に追手がいて困っている……ということらしい。

 

どうするか、と聞いたら、サニーさんは頼まれればリンゴに味方するだろうけど、頼まれてないからなんとも出来ない、という事らしい。

 

 

「リンゴが夜逃げでもしてパウダーギャングを連れてってくれたらいいんだけどね……」

 

 

「パウダーギャング?」

 

 

聞き慣れない言葉が入ってきた。

私はモハビに来てから日が浅い。

モハビの住人達が知っている事でも私が知らない事もあるのだ。

 

 

「NCRが線路開発のためにカルフォルニアから連れてきた囚人よ。今じゃ脱走して好き勝手やってるわ。……問題は奴らが発破用のダイナマイトと爆薬を持ってるってことよ」

 

 

だからパウダーギャング(火薬使いのゴロツキ)か……納得なっとく。

 

 

「ちょっと前に収容所で大規模な反乱があって、収容所が乗っ取られたらしいの。NCRがなんとかしようとしてるけど、この様子じゃ期待できないわね」

 

 

NCR……西部最大の国家だ。

今じゃモハビ全域で見かけるが、人員不足やリージョンと呼ばれる大規模な勢力相手に手を焼いているそうだ。

 

さっきのヤツを殺せば解決する、という単純な話でもない。

ヤツに手を出せば、仲間が報復しに来る。

 

 

この町にはそれほど戦力はないだろうし……

 

 

……だが、私はこの町に対しての恩がある。

恩は返せ、お兄ちゃんはそう言っていた。

 

 

「……もし、私がリンゴの問題を解決したら、どうします?」

 

 

その言葉にトルーディさんは少し驚く。

 

 

「そりゃあ……いいことだけど。グッドスプリングスからの評判も良くなるし、何だったら値引きしてあげるわよ。ただ……そうなれば、ヤツらは押し寄せてくるでしょうね」

 

 

私は考える。

どうすればこの問題を解決できるか。

だが、すぐに考える事をやめた。

簡単な話だ、襲ってくるヤツらを物理的に黙らせればいい。

 

 

「わかりました。……ところで、一つ聞きたい事が」

 

 

「何かしら?」

 

 

私はスーツの男の話をする。

すると、彼女はあからさまに嫌な顔をした。

 

 

「あいつらね……よく知らないけど、2、3杯ただ飲みしようとしたからなんとか払わせてやったわ」

 

 

「災難でしたね……」

 

 

苦笑いして答える。

 

 

「まったくよ。それで、一緒にいたグレート・カーンズの男が、私のラジオを間 違 え て 床に落として壊したのよ」

 

 

バーに置かれているラジオを指さす。

電源が切られたラジオが寂しそうに鎮座していた。

もし、酷く壊れていないなら直せるかもしれない。

ちなみに、グレート・カーンズというのはモハビ・ウェイストランドの北西に住む危険な部族だ。

 

 

「ええっと、どこへ行くとかは……」

 

 

ひとまずトルーディさんは怒りをおさめてその質問に答える。

 

 

「そのことで口論してたわね。チェックのスーツのヤツが黙るように言ってたけど……採石場ジャンクションから来たみたいだったから、怒鳴りたくなる気持ちも、まぁ分かるわね」

 

 

「なんでです?」

 

 

「あの辺一帯に、最近クリッターが出てるらしいのよ、それも獰猛なのがね」

 

 

はえ~、と私は納得する。

この場合、彼女の言うクリッターはただの害獣じゃないだろう。

恐らく、デスクローあたりか。あれなら嫌でも迂回せざるを得ない。

デスクローというのは……ウェイストランド最強の野生生物だ。

獰猛で、大きな爪を持って相手を一撃で引き裂く。

 

 

「最近の商人たちは放射能を避けるみたいにインターステート15を避けるけど、多分そのクリッターが原因ね」

 

 

確かインターステート15は採石場ジャンクション方面からベガスのストリップ地区へ行くことのできる道だ。

ストリップ地区はいわゆるカジノが沢山ある場所で、富裕層が多い。

 

 

「……ストリップ地区について何か言ってませんでしたか?」

 

 

「あぁ、スーツの男が何かストリップ地区について言ってたわね、はっきり聞いてなかったけど」

 

 

決まりだ。

割と綺麗で目立つスーツと、外装に金をかけたピストル。

それにカーンズのヤツらを雇えるほどのキャップ。

 

ストリップ地区の住人である可能性は高い。

 

 

「ありがとうございます。情報料といっては何ですが、あのラジオを直してみても?」

 

 

そう言うと彼女の顔は喜びに染まる。

 

 

「もちろんよ!あなた、若いのに良い子ね」

 

 

「ど、どうも……」

 

 

あまり子ども扱いされるのは好きじゃないけど、言わないでおこう。

 

 

 


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