真・恋姫✝無双~とある男のそれなりに不幸な人生~   作:世紀末敗者寸前

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第七話

「凪、そこから右に回し蹴りした後、周りを目で瞬時に確認」

「はい!!」

「(パンッ)甘い! 足だけで蹴らない!! 身体全体を使う」

「はい!!」

 

 

今現在、咲夜は凪に教えられるだけの格闘技を伝授していた

幸いといっても良いのか、凪は基礎の面ではほぼ合格ラインに達していたので直ぐに技を教えることが出来ていた

今は強者との戦いを意識した対スピード型の裁き方を教えている

 

 

「ハァ…ハァ…」

「よし、前よりも良くなっているね」

「はい!! ありがとうございます!!」

 

 

凪との訓練は早朝に取り行い、その後朝食を取り、進軍

 

そして夜になると咲夜は自身の天幕に桃香を招き、自身の知識を教えられるだけ教えていた

 

 

 

「あの咲夜さん。ここは?」

「ああ、これは需要と供給の問題だね。これはね…」

 

 

念のため、何が起こっても対処できるように兵50に自分の周りを見回って貰うことにしているみょんなところでチキンな咲夜だった

 

 

 

そんな調子で進軍して20日が経ったある日…

 

 

 

 

「伝令!! これより先に孫の旗印あり!!」

 

 

先方させていた見張りが急いで咲夜の元にやってきた

 

 

 

「孫の旗…ってことは紅蓮さん達かな?」

「恐らくは~」

「さて、どうする「報告!!」……何かな?」

「ハッ!! 曹操様より『今から孫堅と会談するから来なさい』とのこと!」

「………また面倒な事になりそうな予感」

「お兄さん、お疲れ様です~」

「ハァ~~…仕方ないか、じゃあ雛里と焔耶。付いてきてくれるかな?」

「「御意

です

」」

 

 

何だかんだ言っても咲夜は基本的優しい上にフェミニストなため大抵の要求なら飲んでしまうのだった

 

 

 

だが咲夜はそれを後ほど後悔することとなった

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「あ、あの…咲夜様?」

「…ゴメン雛里。帰っても良いかな?」

「え、えっと…」

「…それに同意したいところだけど…出来ないだろうね」

「デスヨネー」

 

 

孫堅ら一行と会うために用意された天幕…

そこからは並々ならぬ怒気や殺気を感じ取った咲夜達

その気配は周りに居た者たち皆を怯えさせていた

 

周りの状況を察するにどうやら孫堅と曹操は既に天幕の中に居るようだった

だが咲夜は入ることが出来ずにいた

何故なら頭の中でずっとアラートが鳴り響いていたからである

入ったら後悔する、絶対に後悔するだろうと…

 

 

 

とりあえず咲夜は心の中でだが強く思った

 

 

 

―――帰りたい…平和で静かな樊城に戻りたい…

 

 

 

と…

 

 

 

だが現実は非情である

 

 

 

 

「いつまで私達を待たせる気かしら、咲夜?」

 

 

どうやら咲夜のいたことに気付いていた華琳が天幕から顔を出したようだ

 

 

 

 

「あ~…すいません」

「まあ良いわ。さっさと入りなさい」

「……はい」

 

 

 

咲夜は諦めて天幕に入った瞬間、その天幕に居た全員に鋭い視線を向けられた

 

 

 

「……(え、何この視線?)」

「久方ぶりじゃのう、咲夜」

「あ、お久しぶりです紅蓮さん」

「やっほ~♪ 会いたかったわ、咲夜」

「あ、雪蓮も居たんだ」

「そうよ~♪」

「冥琳も久しぶり」

「ああ」

 

 

呉組と久しぶりの再会を果たし、一人ずつ挨拶した咲夜

その天幕に居るのは孫堅、孫策、周瑜の三人だった

 

 

 

「蓮華や思春は?」

「ああ、あの二人には今は陣の守りについてもらっている」

「ふ~ん、なら後で挨拶に行った方が良いかな?」

「ああ、そうしてくれると有難い」

 

 

とりあえず咲夜は挨拶して回った後、空いている場所に座ることにした

 

 

桃香達も既に天幕内に居て既に用意された場所に座っていた

 

座っている状況を説明すると…

スクエア状態で咲夜達が華琳達と向き合い、桃香達が紅蓮達と向き合っているという状態だ

 

 

 

「さて…先程までの話はまたあとで話すということでいいわね」

「はい!!」「ああ、よいぞ」

 

「あの~…先程の話って何のことですか?」

 

 

咲夜が恐る恐るそう聞いた瞬間…先程まで天幕を覆っていた気配が復活した

 

 

「…咲夜、聞いていいことと悪いこと…あるわよね?」

「はい!!! すいませんでした!!!」

「…咲夜、空気読め」

「すいません…もう聞きませんから許して下さい」

「……」

「…無言でこっちを見ないでください桃香さん。地味にきついです(泣)」

 

 

といった感じで流されてしまった咲夜だった

 

 

 

 

「コホンッ。それでは再開するわ」

「…今日は何を話すんですか?」

「ああ、それなんだけど実はこの近くに黄巾党の大部隊が集結している場所があるという情報が入っていたのは忘れていないわよね?」

「あ~、そう言えば先日制圧した衢地は黄巾党の兵糧を蓄えていたところだったね」

「ええ、敵もそれでかなりの打撃を受けているという情報もあるわ」

「まあ数が数だからねぇ」

「儂らもその情報を聞きつけ、この地に赴いたのじゃよ。こういった戦いは根底となるものを潰さねば鼬ごっこじゃからな」

「そこで私が考えたのは私達魏と咲夜の襄陽樊城軍、劉備の義勇軍、そして孫呉の同盟を結び、その大部隊を破るということよ」

「……ふむ、確かにそれは効率的だな。それに…その大部隊の中に敵の首領である輩もいるという情報も入っている。上手くいけばこの乱を鎮めることが出来るな」

「咲夜、劉備。貴方達はどう思うかしら?」

「私は賛成です。この乱を鎮めることが出来るのならこれ以上のことはないと思いますから」

「……ふむ、反対する理由もないだろう。戦力は多ければ多い方がいい。何せ相手はこちらよりも遥かに多いからな」

「それじゃ全員賛同ということでいいわね」

「ああ」「はい」「うむ」

「では次にこれからの行動を決めるわ」

「とりあえずその場所に進軍しつつ、情報収集するというのは確定だな」

「ええ、次に…」

 

 

咲夜、華琳、桃香、紅蓮の四人はどんどんと話を進めていった

時に軍師として一緒に居た雛里、桂花、朱里、冥琳も話に混ぜながら次々と必要な事柄を決定し…

 

 

そしてそれについていけない焔耶や愛紗ら武官たちはその時ばかりは空気と化していたのは余談である

 

 

 

 

それから幾時かの時間が過ぎていき…

 

 

 

「ふぅ…これで大体のことは決まったかしら」

「そうだな、後は敵さんの動きを見てから決めないとな」

「ふぇ~…疲れましたぁ」

「…とりあえず話すことは話したんで少し休息取りますか?」

「…いえ、今日はこれ位にしておきましょうか。こっちはこっちでまだまだ話したいことがあるのよ」

「「!!!」」

 

 

 

華琳のその言葉を聞いた瞬間、少しだけだらけていた桃香と紅蓮が物凄い反応をした

 

 

 

「…え、ええと……なら俺は退出した方がいいですか?」

「ええ、そうして頂戴」

「な、なら紅蓮さん。ちょっとそちらの陣に挨拶に行っても良いですか?」

「ああ、一応先に連絡に行かせておこう」

「助かります」

 

 

 

 

こうして咲夜は半強制的に天幕から追い出され、何故か雛里と焔耶はその場に残ることとなった

 

 

 

「…何かここ最近一人での行動多くなったなぁ」

 

 

 

…普通、君主が一人になるなんてこと、有り得ないと思う

 

 

 

 

「まあ良いか♪ とりあえず蓮華たちに挨拶に行かないとな」

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

さて…一方でこちらは華琳達のいる天幕

 

 

 

「…さて、咲夜も居なくなったことだし……続きを話すとしましょうか」

「…そうですね曹操さん」

「ああ、この際だからきっぱりと決めようじゃないか」

 

 

目から火花が飛びだしそうな勢いでにらみ合う三人

 

 

 

「あ、あの~…一体どんな話を?」

 

 

それを見かねて雛里が恐る恐る聞いてみた

 

 

「コホン。先程まで私と劉備、孫堅が言い争っていたのはどうやったら咲夜を振り向かせることが出来るかについてなのよ」

「……はい?」

「そ、それはどういう???」

「あら、分からないかしら? 咲夜はその辺の男とは違ってかなり優良株よ。料理が出来て、頭が良くて、噂だと呂布にも負けずとも劣らないと言われている。なら、女として傍に置きたいというのは当然のことでしょ? それに今の時代、咲夜の力は絶対に必要となってくるでしょうしね」

「「!!!!」」

 

最初こそいきなりのカミングアウトに混乱していた雛里と焔耶だったがその場にいた大半の人の顔をみた瞬間、それが冗談ではないことを理解した

 

 

 

「ふふふ、言わずとも私は咲夜のことを狙うわよ」

「ッ…わ、私だって!!」

「くははははっ!! 儂とてあやつなら雪蓮や蓮華、それに小蓮を任せられると思っておるわ。だからこそ、あ奴に儂の娘の誰かを継がせようと考えておるのじゃが…」

「しょ、しょれは確か咲夜様がお断りした筈でしゅ!!」

「あら、そうなの孫堅?」

「まあのう、じゃがそれだけで諦める儂じゃないわい」

 

 

 

 

暫くの間、天幕内では咲夜のことが話されることとなった…

 

 

 

 

 

 

ゾクッ…

 

 

 

 

 

 

「な、何だろう…凄く嫌な予感がする…」

 

 

蓮華と思春のいる陣に行く途中、妙な寒気を感じた咲夜

だが、それが予感ではなくいずれ現実となることであったということを彼は今は知らない

 

 

 

 

 

 

再び、華琳達のいる天幕にて…

 

 

 

 

「ふぅ…このままだと水掛け論になりそうね。結論はまた今度ということにしようかしら」

「その方がいいと思われます」

「ああ、それに…一番肝心な咲夜様が…」

 

 

 

「「「「「「「ああ、そういえば…咲夜

さん

(様)って滅茶苦茶鈍感だし…」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「はくしっ!!」

「だ、大丈夫か?」

「…風邪ですか、咲夜殿」

「いいや…多分誰か噂してるんだと思う」

「そうなのか?」

「まあ経験上、俺の勘って結構当たるからね。(ずず…)あ~、久しぶりにゆったりした感じがするよ」

「…大変なのだな」

「それはお互い様でしょ、思春さん。それより…(ガサゴソ)っと、あったあった。これ、俺の書いた新作なんだけど、いるかな? まだ発売前のやつだよ」

「い、いいのか!?」

「まあ友好の証にね」

「感謝する!! 蓮華様!!!」

「あ、ああ。分かった思春。暫し、抜けてもいいぞ」

「ありがとうございます!!」

 

 

 

 

そう言い残すと思春は消えるような速さで駆け抜けていった

 

 

 

 

「あ、あはは…」

「思春さんが俺の書いた本を愛読してくれてるのは以前の訪問で分かってたことだけど…ここまで好きになってくれてたんだなぁ」

「まあ咲夜の書く本はどれも面白いから分かるのだけれど…思春は異常なくらいに嵌まっているのよ」

「…まあ作者からしたらこれ以上ない位に嬉しいことですけどね」

「所で先程渡した本はどういった物なのだ?」

「今回の本は恋愛の話ですね。一人の女性に複数の男性が恋をしたり、愛ゆえに苦しみながらもその女性がその内の一人を好きになって行くという話ですよ」

「…いいわね、私も後で読ませてもらおうかしら」

「ええ、是非後で感想を聞かせてくださいね」

 

 

 

ゆったりとした空間を蓮華と一緒に堪能した咲夜だった

 

 

 

 

 

 

それから幾日の間…咲夜は桃香、華琳、紅蓮の軍と進軍を共にし…ついに黄巾党の大部隊を接触することになった

 

 

 

 

「…これは壮大ですね」

「人がゴミの様ね」

「…(ム○カ!?)そ、そうですね」

「報告によると敵の数は20万だそうだ」

「かなりの数ね…これなら確かに敵の首領が居ても不思議じゃないわ」

 

 

 

桃香、華琳、咲夜、紅蓮、雪蓮の5人は護衛を引き連れて敵の様子を確認し終えた後、立地の良い場所に陣を構え、早速作戦会議を開くことにした

 

 

 

 

 

 

 

「敵陣の詳しい情報が入ったわ。どうにも向こうは兵法皆無といった所で適当な状態でいるみたいね」

「…これは酷い」

「そうですね…ここまで酷い陣は久しぶりに見ましたね」

 

 

軍師である桂花、稟、風が冷静に突っ込んだ

 

 

「向こうは元は農民です。数は多くとも学のある人物はそうはいないのでしょう」

「ふむ…ならば後は向こうの将を担っている者を打ちとって行けば総崩れになるのでは?」

 

 

同じく、軍事である雛里と冥琳が補足を加えた

 

 

 

「ならばまずは敵陣内の将の配置を把握した後に、それぞれの割り当てを決めなければなりませんね」

 

 

最後に朱里が補足した

 

 

 

 

「…荀彧、郭嘉、程昱、鳳統、周瑜、諸葛亮…これだけ有能な軍師が勢揃いしているのは凄い光景なんだろうな」

「ふふふ、そうね」

 

 

 

 

軍師が方針を提案し、それを咲夜達で相談しあって…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこれより敵、黄巾党殲滅作戦を説明する。司会は俺、咲夜とその補助役として雛里が担当する」

「よ、よろしくでしゅ///」

 

 

 

全員を集め、軍師達が考え、国主が決断した策を話すトキになった

 

 

 

 

 

 

「まずはこちらに入っている黄巾党軍の将についてです。まず首領である張角、張梁、張宝。この三人は余程厳しい警備が敷かれているので顔が割れていません。ですが、他の将についてはかなりの情報が入っています。まず名前だけ挙げると…馬元義、波才、張曼成、韓忠、孫夏、趙弘、卜己、楊奉、韓暹、劉僻、程遠志、鄧茂がいます」

「…そう聞くと流石に将の数が多いのだな」

「でも将の質はこちらの方が上です」

「そうね、まあ当然のことよ」

 

 

「次に敵の陣と数についてです。皆さんももう既に知っているとは思いますが黄巾党は総勢20万を超える数です。布陣は主に2か所。1か所は背後を断崖の絶壁が守る形を取っているここ」

 

雛里は広げられた地図を咲夜特製の指示棒を使ってその場所を指し示した

 

 

「そして二つ目の陣は一つ目の陣よりも少し離れた場所にあるここです」

 

 

次に雛里が指し示した場所は山の上にある場所

 

 

「数はそれぞれ10万ずつ配備されているようです」

「ここまでで何か質問はありますか?」

 

 

咲夜がそう尋ねると春蘭が手をあげて

 

 

 

「なぜわざわざ陣を二つに分けているのだ? 一つにまとめた方が良いと思うのだが…」

「それは二つ目の陣には兵糧が蓄えられてるんだよ。加えて、少し前に俺達が敵の衢地を制圧したことを踏まえているのか兵糧は別の所にあるみたい。加えて防衛のしやすい山の上にしたって感じかな」

 

 

春蘭の質問に咲夜がサラッと答え、その後、咲夜は雛里に話を進める様に目で指示した

 

 

 

「それ故に策はまずこの兵糧の蓄えられている陣を攻めることから始めます。まず、荷駄隊に偽装した兵1,000を先行させます。怪しまれない様に5000の兵を護衛に付けます。恐らく、これに釣られることでしょう。彼等は確かに兵糧は持ち合せていますが長くは持たない量ですから。その為、この餌に必ず食いついてきます。そして荷駄隊は敵を釣りながらこの位置に移動します」

 

 

 

雛里が指し示したのは道が狭くなっている道筋

その図から縦にならんで十数人程度しか同時に通ることしか出来ない狭い道である

 

 

 

「荷駄隊がここに逃げ込んだ後、峡谷上から弓兵と落石部隊を動かし、敵を殲滅します。その後、陣に戻ろうとする残兵を伏せ兵部隊によって打倒します」

「その後はどうするの? 荷駄隊を追いかけて逆に殲滅させられたなんて情報が敵に渡ったら敵は守りを固めてしまうでしょ?」

 

 

 

華琳は何やらニヤニヤとしながら咲夜と雛里に問いかけた

 

 

 

「…華琳も分かってるだろうに。まあ他の人にも分かる様に説明すると…敵はすべて殲滅させるわけじゃない。数名は残して敵陣に態と逃がす。その際に、俺の軍にいる偽装工作や変装などの特化した奴を敵陣に送り込む。勿論、黄巾党に偽装させてな。その際に使うのは火薬だ。偽装させた兵の服の中に火薬を仕込ませてそれを敵の陣の至る所に仕掛けさせる。幸いにも今は空気が乾燥している時期だから火の手は回り易い。俺の予測だと明日は少し強めの風が吹くようだしな。仕掛けが終わり次第にこちらから仕掛け、火矢を射る。そして外に出てきた連中を討つ」

 

 

 

「その際、もう一方の黄巾党軍がいる陣にも火の手が上がったのが見えるはずです。そうなれば彼等は慌てて向かってくるでしょう。その際に、いくらかの兵を伏せておき、奇襲を仕掛けます。そして、可能ならばその部隊は全滅させます」

 

 

 

「後はその都度臨機応変に対応すればどうとでもなると思うけど…とりあえず簡単に言うと相手は雑兵に等しい上に数だけ多いのだから、その利点を逆手にとる策をとれば勝てるってわけ」

 

 

 

 

 

結果として、連合軍の勝利に終わった

黄巾党軍は策にハマり、将は次々と咲夜達に討たれていき、兵も次第に混乱を極め、散り散りになりながらその数を減らしていった

 

 

そして敵の兵糧庫は勿論のこと、今現在、敵の本陣は火の海に包まれていた

 

 

 

本陣に攻め込む際、曹操軍は正面から、孫堅軍は左翼から、そして劉備及び劉封軍は右翼から本陣に向かって行った

 

劉備軍と劉封軍が一緒になっているのは劉備軍の兵数が極端に少ないためである

 

 

 

「さてと…後の敵さんはどこかな」

 

劉封こと咲夜も1000の護衛と焔耶を引き連れ、向かってくる敵を次々と打倒していった

 

 

「咲夜様!! 危険ですから少しは自重して下さい!」

「そうは言っても敵の大将、張角、張梁、張宝を捕えないとまた大乱が起こる可能性がある!! だからこそ、今少し無茶をしてでも探さないと!!」

「…それはそうですが」

「秋葉、風、雛里のほうはどうなってるか分かるか?」

「そちらは私達とは別のほうに向かっているようですが…約4000も引き連れさせて良かったんですか? 半々にした方が良かったと思うのですが」

「秋葉達のほうは逃げていく賊兵たちが多かったからね。それにここなら華琳さんや桃香にみられないだろうし…少し本気を出しても問題ないだろうしね」

「…ハァ、仕方ないですね。って…あれは?」

「ん?」

 

 

咲夜と焔耶が見つけたのは火の海の中から逃げようとしている三人の女性

その後ろには数名の黄色い頭巾を付けた男達

 

 

 

「咲夜様!! あれは黄巾党に捕まっていた人たちでしょうか!?」

「……分からない、とりあえず保護しよう」

 

 

咲夜はそのまま焔耶と1000の兵を引き連れ、黄巾党の残党兵に向かって行った

 

 

 

「な、なんだ!? こ、こんなところにも官軍が…」

「く、くそっ!! てんほーちゃん、早く逃げてくれ!!」

「ちーほーちゃん!! 愛してる~~~~!!!」

「れんほうちゃん!! デレてくれーーーー!!!」

 

 

三人の女性を追っていた輩が咲夜達に向かってきた

だが…

 

 

 

「フンッ!!」

「はぁ!!!」

 

 

ザシュッ…

グシャッ…

 

 

咲夜の戦斧で体を真っ二つにされ、焔耶の鈍砕骨でぺしゃんこにされ、向かってきた男達は直ぐにあの世へと旅立っていった

 

 

 

それを確認すると咲夜は周りの警戒を兵たちに任せ、自身は焔耶と共に先程まで逃げていた三人の女性たちの元にゆっくりと歩いていった

 

 

 

 

「…大丈夫か?」

「は、はい!!」

「…混乱しているかもしれないがいくつか聞きたいことがある。いいか?」

「…それには私が答えます」

 

 

 

二人の女性を庇うように眼鏡を掛けた一人の女性が前に立ち、咲夜に向かいあった

 

 

「…そうか、ではまずどうしてここにいる? ここは黄巾党達の集う場所だ」

「…連れていかれてきたんです。それで火の手が上がってきたので私は姉さん達を連れて逃げようとしたのですが、追手が来て」

「へぇ…官軍が攻めて来て、しかも陣に火の手が上がっているのにもかかわらずタダ連れて来られたという君達三人を追うなんて…奇妙な事もある物だね」

「っ……あ、あの人たちに随分と気に入れられていましたから」

「成程成程…でもさぁ、俺はさっき切り殺した男達を見て、こう思ったんだよ。…こいつらは君を逃がそうとしたんじゃないかって」

「…どうしてそう思ったのですか?」

「それは君達が張角、張梁、張宝だからじゃないのかな?」

「「「っ!!!?」」」

 

 

 

それを言った瞬間、三人が凍りついたように見えた

 

 

 

「? 咲夜様、この三人が黄巾党を率いていたっていうんですか?」

「可能性は高いだろうね。まあ黄巾党の捕虜は何人か捕えているだろうから、その人たちに顔確認させれば大丈夫だろう」

「ならば捕えますか、この三人」

「逃げようとしなければね」

 

 

 

眼鏡を掛けた女性が一番早く、冷静になり咲夜に再び顔を向けた

 

 

「…私達を捕えて……どうするんですか?」

「本来なら打ち首だろうね。これだけの大乱を引き起こす原因を作りだしたのだから」

「そ、そんな…」

「ち、ちーたちはただ歌いたかっただけなのに!!」

「し、死にたくないよ…」

「ふざけるな」

「「「!!!!」」」

 

 

文句しか言おうとしない三人に咲夜は静かにキレた

 

 

 

「歌いたかっただけ? 死にたくない? そんなので自分達がやってきたことの罪をなくせるとでも思っているのか?」

「だ、だって…」

「確かに君達三人はただ単に歌いたかっただけなのかもしれない…だけど、君達が原因でこのような大事態が起こったのも事実だ。違うか?」

「……」

「それよりも何よりも君たちだって気付いていたはずだ。拙い状況が起こっていると」

「…」

「沈黙は肯定と見るぞ。それが暴走する前に君達には幾らか対策も取れたはずだ。例えば、黄巾党になった輩の暴走を止める努力をするとか一時期歌ったりするのを中止して、時間をしっかり空けた後、再び歌うとかな」

「そ、それは…」

「つまりは君達が考え無しにただ自分のやりたいことをやって、その内に周りが自分たちが制御できなくなる位に大きくなり、そして暴走してしまった。それだけだ」

「「「………」」」

「故に君達は償わなければならない。君達の罪をな…。この大乱だけでどれだけの人間が死んでいったと思う? どれだけの無関係な人々が苦しんでいったと思う? それらを理解したうえで君達は文句を言っているのだろうな?」

 

 

三人はそれ以上何も言えなくなってしまった

今まで目を逸らしてきたことが余りにも過酷で…あまりに残酷な事だったから…

 

 

 

「ふぅ…さて他に何か言いたいことがあるか?」

 

 

 

咲夜はそれだけ言うと一息つき、三人を見据えた

 

 

「……なら私達は処刑される…ということですか?」

「漢王朝ならそういう処罰を下すだろうな。だけどさ、君達が死んだだけで問題が解決すると思うのか?」

「え…」

「悪いけど俺は君達三人が死んだ程度では何にも解決しないと思うよ。精々、君達三人の首を帝に献上して権力を手に入れるくらいしか価値はないね。まあ俺はそういうことに全く興味はないけど」

「じ、じゃあ…私達は……どうすれば」

「生きろ」

「「「え…」」」

「生きて償うことだ」

「どういう意味ですか?」

「死は逃げ、生は苦しみ。それが咎人に与えられるものだ。だから君達は生きて君達の罪を償え。その為の手助けは少ししてやろう」

「「「え…」」」

 

 

それだけ言い残すと咲夜は焔耶にその三人を自身の陣に連れていくように命を下し、自身は一人、周りを警戒していた兵たちを纏めるためにその場から離れて行った

 

 

 

「え、えっと…さっきの言葉はどういうことですか?」

 

眼鏡の女性が焔耶におずおずと尋ねた

 

「知るか。咲夜様には私達には分からない考えがあるのだろう。お前たちはただ私についてくればいい…だが、もし逃げようなどと考えれば…今ここでその命を絶ってやろう」

 

 

自身の武器をしっかりと持ち、三人に見せつけると三人は真っ青な顔をしながら首を縦に振り、焔耶の後をしっかりと付いていった

 

 

 

 

こうして黄巾党の乱は静かに終わりを告げていった


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