真・恋姫✝無双~とある男のそれなりに不幸な人生~   作:世紀末敗者寸前

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第四話

不本意な出兵となってしまったが、兵は皆咲夜が事前に理由を説明して、どこに出兵するのか大まかな予定は話していたので納得してくれた

その後の咲夜の軍の進軍は好調だった

初戦は賊徒10000が籠るとある砦だった

まず咲夜は降伏するのなら命はとらない

だがこちらに攻撃を仕掛けるつもりであるのなら容赦は一切しないという矢文を敵に送り付けた

その後に咲夜は護衛に秋葉を連れて手紙と同じ内容のことをその砦の前に行き、直接言いに行った

勿論、その際に策を練っていたが

 

 

その時は交渉は決裂し、賊は咲夜が大将だと知ると我先にとばかりに門を開いて攻めてきた

 

 

 

その為、咲夜は説得を諦め殲滅行動に移ることにした

 

まず咲夜と秋葉は逃げるように撤退した

それを調子に乗って追いかけてくる賊

だが少しした後、開いた道に入ると急に咲夜と秋葉は敵に向かって反転し、同時に賊に矢の嵐が吹き荒れた

雛里の率いる弓を持った兵士1000が待ち構えていたのだ

そしてその背後には焔耶の率いる兵2000が混乱する賊に攻め入った

それと同時に待機していた風の率いる兵2000が側面から賊を突いた

また先程まで弓を射ていた1000の兵士も剣を持ち、咲夜と秋葉と共に突撃した

 

こうして初戦の戦いは終わりを告げた

ほんの少し怪我人は出たが、それも大したものではなかったため、初戦は大勝と言っても良いほどだった

 

 

降伏した賊は約3000

咲夜はどうしてこんなことをしていたのか一人一人聞いてみることにした

するとやはりというか…大抵の者は食べるものを大方領主に絞り取られ、普通に生きることすらできなくされてしまったとか…

後は漢王朝に対する報復だとか…そういった人ばかりだった

 

咲夜はそれを聞くと静かに諭した

 

 

「…なあ、食べる物に困って賊になったのならうちの領地に来ないか?」

「え…」

「うちの領地には元盗賊だった人たちもいるんだよ。勿論、矯正のためにちょっとしたことも学んでもらうけど、それが終わった人たちは皆、今ではちゃんと一人一人仕事を持ってしっかりとした生活を送っているんだよ」

「…そ、それは俺たちにも生きることが出来るようになるってのか!?」

「勿論、ちゃんと一日三食食べられるし、仕事もあるし、娯楽もある。それに俺の所ではちゃんと領民の生活を保障する法を作っているからね」

「…信じて…いいのか?」

「うん、それはそっちの好きにして」

 

 

 

それから賊の人たちは皆、咲夜の領地に行きたいということになり、必要な荷物を纏めてもらい、その後にそれなりに近くにある襄陽の方に三軍の兵数人を道案内役として任せて連れていってもらうことにした

 

 

 

こんなことを続け、咲夜の軍は連戦連勝

降伏した賊の殆ども咲夜の元で保護下に置かれることとなり、その賊の数も約20000を超えていた

 

 

 

 

「ふぅ…これで何回賊と戦ったっけ?」

「えっと…多分、13回目だな」

「ならもう良いか、これで命令も果たしたことになるだろう。朝廷は出兵しろといっただけで賊を滅ぼせなんて言っていなかったしな」

「でもいいんですか? 報告によると、今までとは異なる規模の賊が暴れ回っていると聞きますよ~」

「み、皆頭に黄色い頭巾を被っていることから朝廷は黄巾党と名付けたそうです。その黄巾党の被害もどんどん広がっているそうです」

「だからこそ、今は領内の守りを固めるべきだろう? それにこれ以上、朝廷の身勝手な命令に兵士達を戦わせたくないしな」

「う~ん…なら後二月、進軍しませんか? 今は黄巾党の活動が活発化する時期です。そんな時に私達だけが領内に戻ったら朝廷に何か理不尽な事を言われかねません」

「あ~、それは風も賛成ですね~。とにかく今は襄陽、樊城のことは劉泌様や紫苑さん達に任せて風たちは進むしかないと思います~」

「…ふぅ、仕方ないか。ならその胸を兵士たちに伝えておかないとね」

 

 

 

 

それから再び、戦いを目的とした進軍が始まった

その最中、幾人もの兵が死んでいった

咲夜は戦いが終わる度に死んでいった者達のために簡単だが、葬式を執り行い、それを記録に残すと死者達を火葬して遺骨を骨壷に入れていった

この時代、本来なら土葬なのだが咲夜はそれをせずに火葬して骨を遺族に送り届けることにしていた

死んでいった者達のことを忘れない為に…咲夜は絶対にその記録を…死者達の顔を…忘れない

 

 

それらが終わると咲夜は一人、誰の目もない所で泣いていた

人の上に立つ者なら弱い所を見せないようにしなければならない…それ故に咲夜は人前で泣くようなことはしないのだ

 

 

無論、大半の将兵たちはこのことを黙認しているため、何も言わずにただその咲夜の後姿を見て、咲夜の助けになろうとするだけだった

 

 

 

 

 

進軍を再開してから三日たったある日のこと…周りを偵察していた一人が慌てて咲夜の元に戻ってきた

 

 

 

「も、申し上げます!! この先に官軍が黄巾党と戦っているようです」

「旗は?」

「劉と曹の旗、他にも関、張、夏候等の旗も有りました!!」

「………(何だろう、それを聞くと物凄く嫌な予感がするんだけど……)華琳さんと…後もう一人軍を率いている人がいる…か」

「あら~、どうしますか、お兄さん」

「…華琳さんの性格のこととか今の状況を想定して考えると…会っておいた方がいいかもね」

「わ、私もそう思いましゅ…あうぅ///」

 

 

 

一応、念には念を入れて共を秋葉と雛里に頼み、その間、軍のことを焔耶と風に指揮してもらうことにした

これでもし賊の奇襲があったとしても直ぐに対処できるように前もって準備している上に、有能な将と軍師のいる状態なので、咲夜がいなくても大丈夫なのだ

 

 

 

事前に華琳の元に使者を送っておき、返事を貰った後に咲夜は雛里と秋葉を連れて曹の旗印のある陣に入っていった

 

 

陣に入った後、咲夜は華琳のいる場所に案内され、その手前で秋葉と雛里は待機ということになった

 

 

「久しいわね、こうして直接あなたと会うのは」

「と言ってもそれほど久しいわけではないでしょうに」

「ふふ、それにしてもまさかあなたまで出兵することになっているなんてね。それを聞いた時は驚いたわ」

「…まあ勅だったのでね」

「そう…それで貴方はどれくらいの兵を連れているの?」

「とりあえず5000だった。まあ戦っていくうちに何名か死んでいったけどね…」

「…そんな少ない兵数でよくここまで戦って来れたわね」

「こっちは数よりも質と軍略で勝ってきたようなものだからね」

「捕虜は?」

「もう樊城と襄陽に護送済み。矯正を受けた後に軍に所属するか町で働くか、町の外で働くかを決めてもらう予定」

「…相も変わらず風変わりな方針ね。普通元賊の輩をそうやって直ぐに職につかせたりはさせないと思うのだけど…」

「え? だって賊となった人たちの大半は生活に困って仕方なく、生きるためになるしかなかったのが理由だからね。そのことを考えると…ね」

「…やっぱり甘いわね、貴方」

「あはは、それは自分でも自覚してるよ。でも俺は俺のやりたいようにやる。ってそれは前も言ったね」

「ふふ、ええそうね。でも残念ね、貴方ほどの有能な人ならどんなことをしてでも引き入れたくなるわね」

「あはは、俺よりも優秀な人なんか華琳さんの元に一杯いるでしょうに」

「それがそういうわけでもないのよ…秋蘭に春蘭、それに貴方には後で紹介するつもりだけど…桂花と新しく入ってくれた凪、真桜、沙和、稟、流流に季衣。他は私の親戚とか桂花には劣るけどそれなりに仕える武官と文官が少しって感じで時折手が回らなくなるのよ」

「…まあその気持ちは良く分かりますが…華琳さんの領地は今陳留だけですよね?」

「他にもチラチラと治めている領地も出来たから咲夜と会った時よりは領地は増えているわ。だからそれに伴って人手がどんどん必要になってきてるってわけよ」

「…その気持ちは良く分かります」

 

 

 

それから少し雑談した後、咲夜は気になっていたことを聞いてみることにした

 

 

 

「そう言えば華琳さん、さっき劉の旗が見えたんですけど…あれって華琳さんの軍じゃないですよね? どこの軍なんですか?」

「ああ、あれね。偶然義勇軍の一部隊と出会ったのだけれどちょっと気になったから軍を共にしているのよ」

「……(あれ、何か俺の中の第六感と脳髄と魂が雄たけびをあげながら警告しまくってるような感じがするんだけど…)…一応聞きますけど…その軍を率いてるのって…」

「ああ、それは…」

 

 

 

 

 

―――――劉備玄徳よ

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、咲夜の周りだけの空気が凍りつき…

 

 

 

「(ぎゃあああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーっ!!!!)」

 

 

咲夜は心の中で驚愕の雄たけびを上げ…

 

 

 

「(○△○)」

 

 

暫く開いた口が塞がらず、茫然としていた

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと? 大丈夫、咲夜?」

「Σ あ、ああ…わ、悪い。ちょっと疲れてるみたいで…えっと、もう一度言ってくれないかな?」

「え、だから劉備玄徳だって」

「……OTZ」

「え!? 本当にどうしたの!?」

 

 

 

 

咲夜は失念していた

昔読んだ書物には曹孟徳は黄巾党制圧の戦いの際に劉玄徳との会合の時を得ていたことを…

 

 

 

 

「…(って言うかタイミング悪過ぎだろ、俺!? 何で会いたくない人物に……いや待てよ…そうだ!! このまま何事もなく帰れば…)」

 

 

だが運命は余程咲夜のことを嫌っていたのだろう…

 

 

咲夜にとってこの世界の人生で最も逢いたくない人物は・…

 

 

 

 

「あの~曹操さん」

 

 

 

空気を読まずに…

 

 

 

 

 

「あらどうかしたの、劉備」

「え゛…」

「えっと…実は先日お話した兵糧についての相談なんですけど…ってあれ? 誰ですか?」

 

 

 

 

咲夜の前に姿を現した

 

 

 

 

「ああ、前に話したでしょ? 貴方と似ているようで全く違う理念の元に軍を持つ奴がいるって」

「え、じゃあこの人がその劉封さんなんですか?」

「そうよ…って咲夜、貴方はどうして逃げようとしているのかしら?」

「(ギクッ) い、いえ…俺が関わったらいけないような話のようだったので空気を読んで出ていこうとしただけですよ」

「いえ、構わないわよ。何なら貴方も一緒に進軍しない? その方が効率が良いでしょ?」

「出来ればそれは断りたいですね。俺達はもうあまり戦わない予定だったので」

「あら、どうして?」

「もう合計で20戦はこなしているのでこれで直に従う義理は果たしたと思っているからですよ。そもそも今回の出陣は乗り気じゃなかったので」

「ふぅ、まあ確かに貴方は半強制的に出兵させられたものだしね」

「あ、あの~どういうことなんですか?」

「ああ、咲夜は元々出陣なんかする気はなかったってことよ」

「え、ええ?! ど、どうしてですか!?」

「理由は簡単。えっと、劉備さんで良いんだよね?」

「あ、はい」

「樊城、襄陽の話は聞いたことあるかな?」

「えっと……あれ?」

「…知らないの、貴方は。どこの領主ももう誰でも知っていることよ?」

「い、いえ!! し、知ってはいるんですけど…わ、忘れちゃって…」

「ハァ…仕方ないわね。樊城・襄陽の太守、劉封。字の無い、珍しい人物だが仁君として謳われ、自身からは決して他の領地を攻めることのない変わり者。だけど、自分の領土を侵された場合、一変して攻めに転じ、攻めてきた軍の領地を掠め取ってしまう。決して手を出してはならないというのが売りの変わり者よ」

「…華琳さん、どうして変わり者を二回も繰り返したんですか?」

「大事な事だからよ」

「………」

「まあそんなことは置いておくとして…ともかく、咲夜はこちらから手を出さない限り絶対に戦ったりはしないってことで有名なの」

「そ、そんな人がどうして…」

「咲夜は朝廷で官職を与えられたの。現漢王朝皇帝、霊帝に気にいられてね。で、そのせいで今回、こうして出兵することになったのよ」

「ハァ…まあそういうこと」

「…何だか大変なんですね」

「まあそんなことはもう良いから。それよりも二人はどうしてこの地に?」

「劉備とは偶然、先の戦の終息の際に出会ってね。ちょっと興味が湧いたのよ」

「…ああ、そういうことね」

「で、劉備達は兵糧が足りないということであげる代わりに一緒に戦って貰ってるってわけ」

「あうううぅ…」

「ふむ、成程。でもそこまで聞いても劉備さんに利はあっても華琳さんには全く利がないように思えますが?」

「そんなことないわよ。私にだって利はあるからこうして受け入れたのよ」

「……ああ、そういうことね」

「ふむ、それを聞いて私の考えを悟ったか…流石は劉封といったところかしら?」

「そんなことありませんよ。華琳さんのことを知っている人なら大抵の人が察することが出来ると思いますよ」

「過ぎた謙遜は良くないと思うわ」

「そんなつもりはないんですけどね」

「ふふふ…」「あはは…」

 

「?????」

 

 

 

 

 

「それで? そんなことを話して華琳さんは俺に何を望む?」

「だから言ったでしょ? 貴方も私達に少しの間、加わって欲しいのよ」

「…ハァ、それはうちの軍の技術を得たいからですか? それともうちの軍師や将の実力を測りたいからですか? それとも単なる好奇心ですか?」

「全部よ」

「……そこまで正直に言われると断るに断りきれないのだが…ハァ、仕方ない。なら少しうちの軍師や将と相談しても良いですか? これを俺一人で決めるのは流石に無責任なので」

「まあ良いわよ。待っているわ」

 

 

 

咲夜は直ぐに陣から出ようとしたのだが…

 

 

 

「あ、あの!!」

 

 

劉備に呼びとめられた

 

 

 

「…何ですか?(おいいいいぃ!!! 何で話しかけてくるんだよ!!!)」

「少し…劉封さんと御話がしたくて…その…そ、それに私の所で軍師をしてくれている朱里ちゃんが劉封さんの所で軍師をしている鳳統ちゃんに会いたいとも言っていたので!! そ、その…良いですか?」

「……ええ、まあ良いですよ(くそぅ…そんな上目遣いで言わないでくれ!! 断るに断れんだろうに!!)」

 

 

 

こうして咲夜の陣に劉備達が訪れるという

咲夜にとってこの世界の人生で最も不幸なイベントが舞い降りることになった

 

 

 

 

それから自身の陣に戻る最中にそのことを雛里と秋葉に話し、それを聞くと雛里は凄く喜んだ顔をした

だが、秋葉は少し考える様な顔をしていた

 

 

 

 

 

陣に戻り、風と焔耶の居場所を見張りをしていた兵の一人に聞き、その場所に行くと…

 

 

 

「では焔耶ちゃん。この模型を使って8種の陣形を作りあげてください」

「う、う~ん…こ、これが魚鱗?」

「…それは鶴翼の陣です。では次です」

「え、えっとこれが長蛇の陣?」

「…ふぅ、それは鋒矢の陣です。焔耶ちゃん、ちゃんと復習してませんね~」

「ウグッ…」

 

 

どうやら暇な時間を使って焔耶に風が陣構成を教えているようだ

それにしても…

 

 

 

「ぷぷっ…焔耶、お前そんなことも分かんないのか」

「な!? あ、秋葉!?! それに咲夜様に雛里も…っ!!」

「おや、お兄さん。いつ戻ってきたんですか?」

「ついさっきだよ。それにしても焔耶…ちゃんと予習復習はしようって約束したよね?」

「ううぅ…」

「ぷぷ…っ」

「く、秋葉!!! 貴様ぁ!!!」

「はいはい、そこまで。秋葉も挑発しないの。なら秋葉が続きを解きなさい」

「ええ~~…」

「文句言わない」

「…はい」

 

 

 

咲夜は風と焔耶の二人に事情を話しながら、雛里に秋葉への問題を出題することを任せた

 

 

「…というわけだ。どう思う?」

「ふぅむ、雛里ちゃんと秋葉ちゃんはどう思っているのですか?」

「二人とも軍を共にすることに賛成だと。雛里に至っては諸葛亮って言うこの事もあるんだろうけど…劉備さんと華琳さん、その二人はいずれ乱世で頭角を現すだろうから見ておいた方がいいって言ってたよ。で、秋葉は…まあいつも通り強そうなやついたら共闘したいって…」

「おやおや、いつも通り秋葉ちゃんは勝負好きですねぇ」

「咲夜様!! 強い奴っているんですか!?」

「う~ん、華琳さんのところは言う必要はないと思うけど、春蘭さんに新しく加わったらしい楽進さんって言う人もいるらしいし…劉備さんの所には関羽さんや張飛さんって言う物凄く強い人がいるらしいよ」

「咲夜様!! 私も一緒に軍を進めることに賛成します!!」

「……まあ焔耶の方はそうだと思っていたからよしとして…風はどう思う?」

「ふぅむ、風もこの際、曹操軍と劉備軍のことを実際に見ておくことを推奨します。理由は二つあります。両軍の強さを知っておくこと。それから雛里ちゃんや燐花ちゃんと話してる時に聞いた荀彧さんと諸葛亮ちゃんの力量を同じ軍師として見ておきたいのですよ~」

「…だけどそれはあっちにだって同じことだろう?」

「はい~、ですがこちらには三軍とまだ無所属の兵士さん達しかいませんし、何より常に戦闘の中核を担っていたお兄さんが本気を出さずにいれば問題ないのでは?」

「……むぅ、確かにそれを想定した訓練も行ったけど……焔耶はそれでも大丈夫?」

「はい!! お任せ下さい!!」

「よし、なら少しの間だけだが俺達は曹操・劉備連合軍に加わることにしよう。風、補給部隊は?」

「先程こちらに入ってきました~」

「よし、その補給部隊の人に手紙を渡しておくか…少しだけ帰るのが遅くなるだろうからな」

「それが良いかと~」

 

 

 

それから咲夜、風、雛里で必要な処理を済ませ、その間、焔耶には兵士たちの陣中訓練を、秋葉には華琳及び劉備へ軍を共にするという返答をしに行ってもらった

 

 

 

 

 

 

 

それらを終え、暫くした後咲夜の陣に劉備達がやってきた

 

 

 

「劉封さん、お邪魔します」

「ええ、ところでまずはちゃんとした自己紹介から始めませんか? 幾人かは面識がありますが、初見の人もいるでしょうし」

「あ、そうですね。私は性を劉、名を備、字を玄徳といいます」

「俺は性を劉、名を封、字はない」

 

 

「私は性を関、名を羽、字を雲長と申します」

「鈴々は性を張、名を飛、字が益徳なのだ~!」

「わ、わらひは性を諸葛、名を亮、字を孔明といいましゅ!! あううぅ…」

 

 

「俺は性を太史、名を慈、字を子義という」

「私は性を魏、名を延、字を文長という」

「風は性を程、名を昱、字を仲徳といいます~」

「わ、わらひは性を鳳、名を統、字を士元といいましゅ!?(ガリッ)あううぅ…舌をかみましゅた」

「あ~、雛里。こっちに来て口の中見せてみなさい」

「う~ん、何か朱里ちゃんと鳳統ちゃんって似ているね」

「あ、桃香様。私と雛里ちゃんは昔、一緒に司馬徽先生の元で勉強した仲なんです。桃香様達とお会いする前に別れたんですけど…」

「え、そうだったんだ。じゃあ、二人はお友達なの?」

「はい」

 

 

そんな会話を他所に咲夜は雛里の口の中を注視していた

 

 

「ふむ…」

「あ、あうぅ…///」

「よし、どこも切ってはいないか。雛里、初見の人に挨拶するからって慌てちゃ駄目だよ?」

「あ、はい…申し訳ありません」

「ふふ、良いよ。でも次からは気をつけようね?」

「あ、はい♪」

 

 

 

そんな光景を何やら複雑な顔で見つめる面々

まあ心中は異なっているのだが…

例えば…

 

 

 

ケース1・風の場合

 

「むぅ~~、雛里ちゃん。ずるいです……風も後でお兄さんに構って貰うことにしますか」

 

 

ケース2・焔耶&秋葉

 

「…(何だろう、咲夜様が他の奴と一緒に居ると…胸が痛い……この痛みは?)」

「(むぅ…咲夜様って本当に天然の女たらしだ……よし、今度紫苑と一緒に咲夜様の寝室に忍び込むか…)」

 

 

 

ケース3・諸葛亮孔明

 

「(う~ん…雛里ちゃん、出来ればこっちに引き入れたかったんだけど…あの顔だと無理かなぁ~…でもあの雛里ちゃんが君主とした劉封さん…今後、桃香様にどう影響するか…軍師としてしっかり見ておかないと…)」

 

 

 

 

などなど…

 

 

「(ブルッ)? なんか変な予感がするなぁ……まあいいか」

「? どうかしましたか、咲夜様」

「いや、何でもないよ。で、君が諸葛亮ちゃんかな? 雛里からよく話は聞いていたよ。何でも雛里は鳳雛と言われていたことに対して君は伏龍と呼ばれていたそうだね」

「あ、は、はい!! こ、光栄でしゅ」

「ふふ、緊張しなくても良いよ。それで? 劉備さん、君はどうして関羽さんや張飛ちゃん、諸葛亮ちゃんを連れてこの陣に来たの? 俺は劉備さんが数人の護衛の身を連れて来るものだと思っていたのだけど?」

「え!? え、え~っと…それはその…」

「ああ…そういうことか、要はうちの陣の様子や武器のこと、食糧などの情報を得たかったのね」

「ギクッ!? な、なんのことですか~? (の▽の)」

 

 

 

バレバレやがな…

 

 

「と、桃香様…その反応はバレバレですよ」

「あうぅ…」

「ハァ…まあ良いですけどね。どうせ華琳さんも同じ理由で軍を共にしたいそうですから」

「…あの、劉封殿」

「ん、何ですか関羽さん」

「一つ尋ねたいのですが…曹操殿とはどのような仲なのですか? 真名を交換し合っていたようなので…」

「ふむ…二言でいうのなら不可侵条約を結んだ仲といった所ですかね。それが何か?」

「あ、いえ…あの曹操殿が男性の方と仲良くなるというのがどうにも信じられずにいて…」

「華琳さんは別に男嫌いというわけではない様ですよ? ただ、自分にふさわしい男性が居ない為に今は気にいった女性達を閨に入れて楽しんでいるそうです」

「……それは曹操殿に聞いたのですか?」

「そういった話になった時に華琳さん本人が口にしたことですよ」

「はあ、そうなんですか…」

「さて、時に劉備さん」

 

 

 

その一言を言い終えた瞬間、咲夜の顔と雰囲気が一変した

笑顔だった顔がいきなり真面目な顔になった為、劉備達は驚いたようだった

 

 

 

「あ、はい」

「これは華琳さんにも似たようなことを聞いたことなのですが…貴方は何のために義勇軍を結成したのですか?」

「…私は力のない人を虐げる傾向にあるこの世の中を変えるために義勇軍を結成しました。力のない民を…皆救うために」

「(ピクッ)…へぇ、立派な夢だね。そんな夢が叶ったら確かに良いことかもねぇ」

「え、じゃ、じゃあ…劉封さんも私と同じ夢を!?」

「違う、俺はそんな非現実的な理想も夢も抱いたことはない」

「え…」

「ッ!! 貴様ぁ!!! 桃香様の理想を非現実的だと!!!」

「ああ、そうだ関羽雲長。そんな世界などこの世界、いや、どこの世界に行っても有りはしない。そんな夢が叶うのは人の夢の中だけだ」

「っ…どうして…ですか!!!」

 

 

劉備は怒りと戸惑いが混じった顔をし、関羽、張飛は今にも槍の矛先を劉封に付きつけそうな位に怒り、諸葛亮も咲夜に対し、怒りを露わにしていた

その様子を風、雛里は静かに見て、焔耶と秋葉は万が一に備えて自らの獲物に手を掛ける準備をしていた

 

 

 

「…ならいくつか聞こう。劉備玄徳、君は力のない民を皆救うために義勇軍を作った。そうだね?」

「……(コクッ)」

「だがな、良く考えろ。君達が敵と認識している賊も大半は元力無き民だ」

「え……」

「ならどうしてその民達は賊となった? それは生きるためだ。自身が生きるために他の物を犠牲にしても行きたいという意思を示し、武器を取って賊となった」

「で、でも…それは……」

「確かに正しい行為とは言えないだろう。だが君は正面から彼等に言えるのかい?『貴方達の行為は間違いです』と? 彼等はこう言うだろうね『なら俺達はどうやって生きればいいんだよ!!』とな」

「う……」

「それにな、民が弱いって君は認識しているのかもしれないけどさ。そこまで民は弱くない。民がいなければ国も軍も宦官も…そして皇帝すら成り立たなくなる。それほど民の影響力は強い。だから民が弱いだなんていう前提はお門違いなんだよ」

「………」

「貴様!! 桃香様はこう見えても」

「何を他人事のように見ている」

「何!?」

「お前達も同罪だ、関羽、張飛、そして諸葛亮」

「? どういうことなのだ?」

「…お前たちとて愚かではないだろう。特に諸葛亮、君なら気付いていただろう? 劉備の理想の現実との矛盾に」

「…………」

 

 

諸葛亮は何も言えずに黙っていることしか出来なかった

 

 

 

「その沈黙は…肯定と受け取るぞ」

「どういう…ことですか?」

「…ハァ、なら聞く。劉備、君に突然ある選択を迫られた。それは民1000を救うために関羽を殺せという二者択一の選択だ」

「え、ええ!?」

「さて、君ならどちらを選ぶ。ああ、ちなみに両方という答えは無しだ」

「っ……そ、それは……」

「……ふぅ、君は考えが甘すぎる。こんなことは今の時代、有り得ることだ。俺や君は軍を率いる立場…つまりは他者の命を背負う立場だ。今の君のままだと…いずれ大事なものを失うぞ」

「……ッ!!」

「なら……」

「ん?」

 

 

先程まで黙っていた諸葛亮が口を開いた

 

 

 

「なら貴方ならどうするんですか!! 例えばそこに居る魏延さんと民1000を救うのならどっちを選ぶんですか!!」

「焔耶だ」

「え……」

 

一秒もせずに咲夜は諸葛亮の質問に答えた

 

 

「俺は自分の大切だと思える存在以外は基本的に助けない。まあ、助けて欲しいと手を伸ばされたら俺は出来るのならその手を掴む。だけど見知らぬ誰かを助けるために俺の大切な人たちを危ない目に会わせるなんてことは出来ない」

「っ…ならその1000人はどうなるんですか!!!」

「死ぬだろうね、それを承知の上で俺は焔耶を選ぶ」

「//////」

 

 

焔耶は顔を真っ赤にして俯いてしまった

 

「無論のことだが、何もその千人を見殺しにするわけではない。俺は自分の手が届く者は可能な限り守る。そして、救えなかった者たちがいたらその者たちの夢を引き継ぎ、背負って行く」

「……」

 

「俺や劉備、華琳さんのような立場の人間は時に9を捨て1を救ったり、9を救うために1を捨てる。そういった覚悟が必要になる。そんな覚悟すらないのなら義勇軍など率いず、誰かの配下にでもなれ。…劉備、あと一つだけ忠告してやる」

「……なんですか?」

「理想や夢を持つことは人間にとって当たり前のことだ。だがな、夢や理想は呪いと同じなんだよ。その呪いを解くにはそれを叶えるしかない。叶えられなかった人間は一生呪われたままなんだ。高すぎる理想、非現実的過ぎる夢は人間を悪い意味で逸脱させる。理想に埋もれて死ぬ、それが今の君の未来の姿だ」

「………」

「…よくよく考えることだ、君はまだ若いし、君の周りには君を助けてくれる存在が居る。関羽、張飛、諸葛亮、君達もよく考えるんだな。君達がこれからどうあるべきかを…」

「「「………」」」

「…ふぅ、雛里、風、焔耶、秋葉。後は頼む。俺は少し華琳さんと話しておきたいことがあるから」

「「「「御意です」」」」

 

 

 

咲夜は劉備達を一瞥すると、華琳の元に向かって行った

 

 

 

「……朱里ちゃん、大丈夫?」

「……うん、平気だよ。ちょっと…色々と考えちゃって…」

「…愛紗ちゃん、私……何か間違っていたのかな……」

「そ、そんなことは……そんなこと…あるわけが…」

「…ふぅ、お兄さんは皆さんにただ現実と理想を区別するようにと注意しただけなのですよ~。まあ、風も少しお兄さんの雰囲気に驚きましたけど~」

「ああ、そうだな。あの人は普段、殆ど笑顔を絶やさない人だからな…本気で怒った時の笑顔ほど怖いものはないが……(ブルブル)」

「そういうことです~、ですから恐らくお兄さんは劉備さんの理想の危うさを問いたかったのだと思いますよ~」

「…現実を見えていない者に理想を語る資格はない。咲夜様の教えられたものでそういった言葉があります。例え辛くとも目を逸らすことをしてはいけない現実を見ろ、それは人の上に立つ者、国を率いる者の当然の義務だ。そう言っていました」

「……ねぇ、鳳統ちゃん。もっと劉封さんについて教えてくれないかな?」

「あ、はい!」

「ふむ、なら風もお手伝いするのですよ」

「…俺は見回りに行ってこよう」

「頼む秋葉。私は一応、ここの見張りをしておく」

「ああ…それで、関羽と張飛、それに諸葛亮はどうするんだ?」

「…私も雛里ちゃんに劉封さんのことを聞きます」

「…なら私もだ」

「鈴々も聞くのだー!」

「…ということらしい」

「了解した」

 

 

 

 

それから劉備達は咲夜が陣に戻ってくるまでずっと雛里と風の話を聞くことにした

 

 

 

 

 

一方で咲夜の方はというと…

 

 

 

 

「OTZ」

 

陣の外で無茶苦茶凹んでいた

陣の外と言っても少し離れた場所に居るので、誰にも咲夜の声は聞こえない

 

 

「…言い過ぎた、確かに劉備さんの理想が非現実的過ぎてくちゃくちゃ腹立っていつの間にか口が動いてた……うおおおおおおーーーーーーっ!!! 俺の馬鹿ぁーーーーーー!!!! 劉備があんなに可愛いおんニャの子って言うことにも驚いたけど、あんなにぼろくそ言う俺自身に驚いたわーーーーーーー!!!!」

 

 

今度は地面にのた打ち回りながらゴロゴロと回転し始めた

 

 

 

「ううう…一緒に軍を共にするってことになったのに……これからどうやって会えばいいんだ………しかも…劉備さんって容姿無茶苦茶俺の好みのタイプやんけ~~~~!!!!」

 

 

 

…今度は木に頭を打ちつけ始めた

 

 

 

「うぐぅ……これって俺の中の劉封が劉備さんの何かに惹かれたのか…それとも前世の俺の好みが劉備さんなのか…もうどっちでもいいけどさぁ……俺これからどないすればええねん!!!」

 

 

 

それから暫くの間、咲夜は葛藤しながら頭の整理を付け…

その結果が

 

 

 

 

「うん! ポーカーフェイスでいこう」

 

 

などという変な結論に至った

 

 

 

 

本当に大丈夫か? 劉封


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