真・恋姫✝無双~とある男のそれなりに不幸な人生~   作:世紀末敗者寸前

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第一話

…どうしよう

 

 

 

そう自室で悩んでいる劉封こと咲夜である

 

 

何故彼がここまで悩んでいるのかというとそれは今日、彼の元に届いた幾通かの手紙が原因である

 

ただの手紙であるのなら彼とてこうも悩んだりしない

 

 

だがその送り主が問題だった

 

 

 

彼が持っている手紙は二通

 

 

送り主の名はそれぞれ…

 

 

 

曹操孟徳、そして孫堅文台であった

 

 

曹操の方は

 

 

――1度あなたと話してみたかったのよ

 

 

孫堅の方は

 

 

――お主の新たな酒お陰で楽しんでいる所だ。是非直接礼を言わせてくれ

 

 

 

「……曹操はまあ利が通っているというか…曹操らしいっていうのは良く分かるけど。孫堅はねぇ…これはねぇよ。何これ? 酒の礼で太守同士会いたいって…」

 

 

でもこれは断りにくいなぁ…

曹操のいる陳留も孫堅のいる長沙もこの樊城から結構近い位置だし…

 

 

ハァ…会うしかないか

 

 

出来れば何事もなく終わってくれると有難いんだけどさ

 

 

 

「あら、そんな顔をなさってどうかされたのですか、咲夜様」

「あ、紫苑」

「咲夜様、皆が心配なさってましたぞ」

「焔耶もいたのか」

 

 

 

この二人は黄忠と魏延

黄忠は元々長沙から、魏延は荊州から来た優将である

少し前にこの樊城に訪れて来て是非、こちらで使えたいという希望をした為こちらもそれを望み、今では重要な役割を二人には担って貰っている

真名も既に交換済みである

 

 

「それで理由を教えていただけますか?」

「ああ、実は…」

 

 

咲夜は二人に自分の悩みを話した

 

 

 

「…成程、ですがどうしてそのお二人とお会いになるだけなのにそこまで?」

「密偵からの情報によると曹孟徳はどうやら同性愛好者な上に有能な人材を欲しているらしい。悪いことにうちには紫苑や焔耶もそうだけど結構曹操の好きそうな女性も多いし、そのほとんどが有能でしょ? だから下手に興味を持たれても困るんだよ」

「ふむ、良く分からないのだが???」

「まあつまり曹操がこの土地と人材を求めて攻め入ってくる可能性もあるってこと」

「なんだ、それならば望むところではないか!」

「……焔耶? それ、本気で言ってるのか?」

「え…」

 

 

その刹那、咲夜から異常なほどの殺気が焔耶に向かって放たれた

それは武官であり、殺気を浴びることに慣れているであろう魏延文長を固めさせるほどに濃厚且つ、隣に居る紫苑には全く感じさせないほどの精密性を持っている殺気をだ

 

そのため、焔耶は動くことが出来ずにいた

目の前に居る劉封が放つ殺気によって動いたら殺されると本能的に悟ったからである

 

 

 

「前にも言ったけど、俺は無駄な血を流すことは好まないし、戦で俺の大切な民達を傷つけることもしたくない。もし、焔耶が今の言葉を本気で言っていたのなら…俺は正直、君を許さないよ?」

「う…も、申し訳ありません……」

「あらあら。咲夜様も焔耶ちゃんも少し落ち着いて下さい」

「…スマン、いい過ぎた」

「いや、私こそ…考え無しに物を言って…」

「いや、分かってくれたのならそれでいい」

「で、咲夜様。孫文台の方は?」

「…あちらは全く糸が掴めない。とりあえず会って何が目的か調べないことにはどうしようもないだろう。焔耶とシオン、悪いんだけど麻理と秋葉、それから杏を呼んできてもらえないかな? このことを皆にも意見を聞きたいからね」

「承知しました」

「分かりました」

 

 

二人が部屋を出ていくと、咲夜は一人溜息をついた

そして二人が戻ってくるまでの間に仕事を片付けてしまおうと思い、次の竹簡に目を通すことにした

 

 

 

 

 

それから暫くして…

 

 

 

「ふぅ~~~、何とか終わったか」

 

咲夜は一息つき、鈴を鳴らして付き人を呼ぶとお茶の用意を頼み、そのまま次の自身の仕事に取り掛かった

それは小説の下書きである

これまでに咲夜は約10作品の小説と15作品の絵本を作り上げた

 

どれもこれもが人気作品となり、朝廷や宦官は勿論のこと、それなりに裕福な一般家庭にも絶賛されている位である

 

だがそれは樊城外の話であり、この樊城では一般家庭でも咲夜の小説は最低一冊は家におかれるようになっている

 

樊城の一般の民の生活水準が他に比べて高いからである

この時代、紙と言うのは貴重であるが故に高いのだが、咲夜はその問題を完全に解決し、竹簡と紙の二つで書きあげていた

 

竹簡に書いたのは貧しい家庭にも自分の書いたものを読んでもらいたいが為である

紙と比べると読み難いのだが、コスト上の問題は解決されているため、今まで本が読めなかった物でも読めるようになっている

 

 

加えて言うのであれば、この時代は文字が読み書きできる者はほとんどいない

それは教養が全くと言って良いほどなかったためである

私塾やそれなりに分かりやすい解説本などもあるのだが…

大半の人はそれを全く必要としないのである

 

 

そのため、咲夜は一般の人たちに数字や文字の必要性を説き、暇があれば文字と数字を勉強するようにさせた

すると樊城の人たちは少しずつだが文字と数字を勉強することを日課にし始めた

これは咲夜が赴任して直ぐに行ったことでもあるため、今では大半の人が計算や読書が出来るようになっているのだ

そのためこの樊城で繁盛している店は鍛冶屋と料理亭に並んで本屋がかなりの額を稼いでいる

 

 

 

まあそんな咲夜の本は売上一位なため、度々本屋から催促が来たりするのだが…

 

 

 

「…ふぅ~~、とりあえず次の小説の下書きはこれでいいかな~?それにしてもこれほど人気が出るなんて…この海のリハクの目を持ってしても(略)…でも本当にこれ続けてたら何時かネタに困るかもなぁ」

 

 

 

因みに今回の新作はけい○んの三国志風改変小説

ギターとかベースとかの代わりにこの時代の楽器を持って幼き少女たちが様々な事情を抱えながらもいつか大きな舞台で演奏することを夢見て中国全土を旅しながら曲を演奏してまわるというストーリーである

 

 

まあ人気が出るかどうかは分からないけど私的にはかなり気に入ったような顔をしている咲夜だった

 

 

 

「だけどこれで楽器が流行るとかそういう傾向が出てくるのは止めて欲しいかも…」

 

 

実は以前書いた【仮面騎士】

発売して暫くしてからこの小説の登場人物たちの真似をしてまわる輩が出ていたのである

それなりに教養のある連中は余り酷くないのだが、一部では過剰な暴力や悪役のヒーローに憧れてしまい、それを真似する奴が出てきてしまったりして大変だったのだ

 

 

そのため、【仮面騎士】は咲夜の本で唯一樊城外では発行禁止となった

まあ一部では出回っているのだが

 

 

 

そのため、咲夜は弁償として騒ぎを起こした連中の被害をすべて自費で払って回ることとなってしまった

 

それから咲夜は決めた

こういった小説はもう書かないと

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

 

「ん、どうぞ。鍵は掛かっていないよ」

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「失礼します。シオンさんからお呼びだと聞きましたので」

「大将、私今日は非番なんだけどさぁ」

「秋葉!! 貴方は主君に対して何という口を…!!」

「別にいいだろう、杏。大将は気にしないっていうんだしさ。それにちゃんと公私位は区別ついてるんだし」

「そういう問題じゃないでしょう!!」

「…あ~そろそろいいかな、三人とも」

「!! も、申し訳ありません!!!」

「…気にしなくても良いからもう少し声を下げようね。ちょっと声でかいよ」

「…すいません」

「それから秋葉のことはもう俺自身が良いと許可したことなんだ。それに公の場ではしっかりとした対応を取っている。それで十分じゃないかな?」

「……そうですね、申し訳ありません」

「ふふ、気にしないで。杏は俺のことを思って言ってくれたんでしょ? だったらむしろ感謝しないとね、ありがとう杏」

「い、いえ!! 咲夜様にお礼を言っていただけるなんて/// こ、光栄です///」

「よし、じゃあ5人に集まってもらったわけを話そうかな」

「いえ、それには及びません。既に皆紫苑さんからお話しは伺っています。話を円滑に進めつつ、時間を短縮するには良いかと思ったので」

「流石、麻理だね(ナデナデ)」

「ふわわ/// あ、ありがとうござましぃ」

「なら話が早いね。君達はどうすべきだと思う?」

 

 

先程までの緩んだ顔を止め、真剣な武人として、国主としての顔をし出した咲夜

その為周りの五人も真剣な表情で咲夜の顔を見た

 

 

その中で一番に手を早く上げたのは軍師の一人、先程麻理と呼ばれた徐庶元直である

 

 

「私は今、お二人に会っておくべきだと思います。何故なら曹孟徳と孫文台。この二人はいずれ崩れゆく漢王朝の後、新たな風を作る人物の有力候補だからです」

「…麻理、あまりそのことを大声で言わない様にね」

「大丈夫ですよ、密偵さんたちはここには入って来れない様に手配してありますから」

「流石としか言いようがないな、麻理の用意周到性には」

「えへへ/// あ、そ、それでですね。このお二人に会うことの利点は二つ、一つは咲夜様自身がこのお二人と直接出会うことで咲夜様の器を見せつけることが出来ること。二つ目はこの城の最低限の情勢を見せつけ、一筋縄ではいかないという無言の圧力を掛けておくということです。今後、この二人が力を付けた後は分かりませんが、今はかなり効果的だと思われます」

「器を見せるって…俺はそんな大層な人間じゃないと思うんだけど…」

「いいえ、私も麻理ちゃんの意見に賛成しますわ」

「紫苑…」

「咲夜様は今までに見たことのない国主様です。私がこの国に仕えたのは今までに見たことのない咲夜様が考えた私たちの労働条件、賃金、そして衛生面など言いだしたら切りがないほど他の城と比べると優遇されていたからでした」

「うん、それは璃々ちゃんのためだっていうのは分かってるよ」

「それを理解したうえで咲夜様は私が仕事に出ている間、侍女の方に璃々のお世話を担当するように手配して下さいました」

「当たり前でしょう、子供は国の宝だよ? それを大切に出来ない者は国主である前に人としてどうかと思うよ?」

「だからこそです。だからこそ、私は…いえ、私達は咲夜様に仕えたいと思ったのです」

「そうですね、私も紫苑さんの考えに同感しますよ。咲夜様は私的に今までに見たことのない仁君です。もし、他の城の方々に我々の生活がいかに良いかを知れば恐らく大半の物が咲夜様にその土地を収めて欲しいと思うでしょうね」

「…杏」

 

 

 

軍師にも少し顔を出し、意見を出し合っている杏こと徐晃公明

どうやら杏も麻理と紫苑の意見に賛成派のようだ

 

 

 

 

「俺はそれに反対するかな」

 

そう言いだしたのは秋葉こと、太史慈子義である

 

 

「…どうしてか理由を教えてもらえますか?」

「俺は難しいことは良くわかんねぇけど、この樊城の繁栄振りは他の場所じゃ全くと言って良いほど見られねぇ。密偵の報告位なら細部まで見せることはねぇからさほど気を使うほどじゃねぇが、曹孟徳や孫文台みたいな頭の良い連中を国に入れてみろ。直ぐにあっちにとって有益な情報を集めて回って利用されるぞ」

「私も難しいことは分からんが…とりあえず味方でもない奴をこの国に入れるのはあまりいい気持ちじゃない」

 

 

焔耶も秋葉の意見に賛同した

この二人は曹操と孫堅を招くことに反対のようだ

 

 

 

そこまでを聞き、咲夜は暫くの間悩んだ後、決意した顔をして自身の考えを話した

 

 

 

 

「皆、考えたが少し先の未来よりも遠い未来の方が大事だ。故に俺は曹操と孫堅との会談をすることにした。ただし、秋葉の言ったことにも一理ある。だから、皆には民に情報の漏洩があるから、必要最低限こちらだけが持つ技術などの会話を避けるように忠告してきてもらいたい。それから、当日は隠密部隊を普段の倍、回してもらうように手配しておく。麻理、特別手当の分を用意してもらっておいても良いかな?」

「は、はい!! お任せくだちゃい!!」

「紫苑は重要書類をその日は後に回してもらうように文官の人たちに手配して」

「はい」

「秋葉と焔耶は武官の人たちと兵士の人たちに当日はこちらの訓練内容がばれない様に他の場所でもやっている訓練に変更してもらうようにして」

「御意」

「分かった」

「杏は警備隊の人たちと協力してさっき言ったことを」

「御意です!!」

「俺はこれから場内での案内予定とか食堂で作ってもらい料理の予定とかを作成しておくから」

 

 

 

こうして慌しくなりながらも咲夜達は自分たちの仕事をこなしながら曹操と孫堅を迎える準備をすることとなった

 

 

曹操と孫堅の二人には返礼の手紙を書き、様々なやり取りをした後、曹操は付き人に2人と500の兵を

孫堅は付き人を4人と兵300を引き連れることになった

 

 

 

まず最初に樊城に来たのは曹操

 

共に来たのは夏候惇と夏候淵と名乗っていた

 

 

…マジですか?

 

 

 

「貴方がこの樊城の太守、劉封ね。私が先日手紙をそちらに送った曹孟徳よ」

「これはどうもご丁寧に。どうぞ、長旅でお疲れでしょうし貴女方用のお部屋にご案内しましょう」

「その必要はないわ、私は直ぐにでも話をしたいのよ」

「…そうですか、分かりました。ではあなたが連れてきた部下の方々は魏文長と徐公明に任せることになります。よろしいですか?」

「ええ、構わないわ」

「ではそのように。魏延、徐晃」

「「ハッ!!」」

「二人には曹操殿の護衛の方々の世話を任せる! 決して失礼のない様に!!」

「「御意!!」」

 

 

二人に曹兵500のことを任せ、咲夜は共として紫苑と秋葉を連れ、咲夜の屋敷の応接間に案内した

 

 

その際に、やはりというか…曹操は街並みや人の顔、更には言葉の一つ一つに注意を払っているようだった

やはりこの人物は本物だなと理解した咲夜だった

 

 

 

 

屋敷に着くと、まずは軽く食事と御茶を取りながら話でもしようと咲夜が提案し、事前に用意させていた軽食を差し出した

 

 

今回はサンドウィッチにしてみた

良い小麦が手に入ったので作ってみた

結構いい具合になったと思う

 

 

 

「劉封、これは何かしら?」

「俺がこの大陸から出て、船を使って旅をした際に見つけたパンというものを使って、その中に色々な具を挟んだものです。調理法も簡単ですし、片手でも食べられるので非常に便利な食べ物なんですよ。名前は…そうですね、挟壱

さんどいち

っていうのはどうでしょうか?」

「どうでしょうかって…貴方、これを初めて作ったの?」

「いえ、幾度か食べてるんですけど名前はつけなくても良いと思ってまして」

「…まあ良いわ、じゃあ頂くわね」

 

 

パクッ×4

 

 

「Σ あら、これは…」

「う、美味い!!」

「うむ、このぱんという食べ物と中に挟まれている牛肉と野菜の組み合わせが何とも言えんな…」

「喜んでくれているようでなによりですよ」

「…ねえ、このパンという食物の技術」

「タダでは渡しません、それは当然のことでしょう?」

「ふふ、それもそうね。では貴方は私に何を望むのかしら?」

「我が領地と曹孟徳が領地との不可侵条約」

「あら、そんなことでいいのかしら?」

「俺は出来る限り戦いを避けたいと思っている。この乱世の中、こんなことは戯言に過ぎぬかもしれない。だが、最初からあきらめていては何事も成し遂げることは出来ない。だから、俺は戦を起さずに争いを止める方法を行使している」

「…そのようね、こちらの情報によると貴方の土地では殆ど争いは起こらず、他の領地から賊徒がやってきても殆ど被害を出さずにかたを付けているそうね」

「それは賊となった彼らの意見も聞いているからですよ。殺戮を目的とした賊ならば俺は一切容赦はしない。だが、食糧難やこの腐敗している大陸の情勢に反抗するために武器を取り賊となったものであるのなら俺はそのことを当人の口から直接聞きたいと思っている。一応とは言え、俺も漢の臣下になったみたいだからな。それならこの世の中の腐敗を止められない俺の力不足もあるのだから」

 

 

 

実は咲夜、先日朝廷から樊城太守兼主簿に任命された

主簿、簡単に説明すると生徒会の書記のようなものである

最初は樊城の太守としての仕事があるため辞退したいと連絡したのだが、時折で良いから手伝って欲しいと頼まれて仕方なくその任を請け負ったというわけだ

 

 

今では定期的に洛陽に訪れて朝廷の仕事を手伝っている

 

 

 

因みに殆ど俺は朝廷では一部の人間としか会っていない

理由はやはり十常侍と現大将軍の何進、そして李儒に王允、袁紹に袁術の存在があったためである

これらは皆、朝廷を我がものとしようとしている輩のため、有能なものに分類されている咲夜を何とか勧誘しようとしつこいのだ

 

 

勿論、咲夜は内心面倒だと思いながらのろりくらりとその話題を逸らしているのだが

 

 

まあそれなりに中が良いのは劉弁、劉協、董卓、賈駆、呂布、陳宮、華雄辺りだろう

 

 

っとまた頭の中が別のことを考えていたな

俺の悪い癖だなこれは

 

 

 

「まあそういうわけだ、だから俺は少しでもその朝廷の尻拭いをしようと思ってな」

「それは必要ないのじゃないかしら?」

「おれがそうしたいだけだよ」

「…なら単刀直入に聞くわ。貴方はこの漢王朝はどうなると思っているの?」

「……盛者必衰の理、この国はその末期だ。故にいずれこの大陸全土を揺るがす大乱が起こると俺は思っている」

「なら漢は滅ぶと?」

「それは仕方ないことだろうね、ここまで腐敗するのを誰も止めようとせずむしろ促進させてきたのだから」

「そうね…それを言われるとこちらも同意せざるを得ないわね」

「よく言うよ、貴方も宮仕えなのだからそれくらいは理解していただろうに」

「ふふ、何のことかしらね」

「…まあいいや、それで話はまだあるのかな?」

「ええ、この国を見て思って今確信したわ。劉封、貴方私につかないかしら?」

「……素敵なご誘いだが、断らせてもらおう」

「き、貴様―――!!! 華琳様の誘いを断るとは!!」

「春蘭、黙っていなさい。それで理由は教えていただけるのかしら?」

「…俺と貴方の往くべき道が同じではないから、かな?」

「…そうね、私は我が覇道を往くわ」

「俺は俺の我儘をこの世で貫く」

「ふふ、気にいったわ、劉封。でも覚えておきなさい? 私は自分が欲しいと思った者を諦めたことがないのよ」

「…まあそれは置いておいて、詳しいことを話しましょう」

「ええ、そうね。そちらが望むのは相互不可侵だったわよね?」

「ええ、俺は無駄に民や兵の命を危険にさらすようなことはしたくありません。故に今まで何処とも同盟を結んだりもしませんでした。彼等の目的は我が軍の技術などですからね」

「…そう、でもそれにしては貴方の所の兵はかなり強いという噂を耳にしているわよ?」

「それほど強くはないと思うんですけどね、ただ俺は生き抜くために必要な技術を皆に教えた、それだけですよ」

「…ふぅ~ん、なら私からの要求はそちらの持っている幾つかの技術提供よ」

「分かりました。では三つ、新しい技術を提供させてもらいます」

「ただし役に立たない技術は要らないわよ?」

「そんなことはしませんよ。相互不可侵を決めるのですから、そちらがこちらを信用できるようにしていきたいですからね」

「そう、なら後で詳しく教えてもらうわね」

「はい、ではそろそろ休んだ方がいいのでは? お連れの方も疲れて眠ってしまいそうですよ?」

 

 

そういうと曹操は言われたとおり、連れて来ていた夏候惇の方を見た

すると既にウトウトして今にも眠ってしまいそうだった

どうにも挟壱が気に入ったようで、満腹になるまで食べたようだ

 

 

 

「…部下の恥ずかしい姿を見せて申し訳ないわ」

「気にしなくても良いよ。それだけこちらの用意した食事を気にいってくれたんだからね」

「…華琳様、そろそろ姉者のことをしっかり寝かせてあげたいのですが」

「ああ、そうね。劉封、部屋を教えてもらえるかしら?」

「はい、分かりました。それで、皆さんは一緒の部屋が良いですか? それとも一人一人の部屋がいいですか?」

「別々でお願いするわ」

「分かりました」

 

 

 

そのまま咲夜が曹操達をそれぞれの部屋に案内した後、咲夜は一息つき自室に戻っていった

 

 

 

翌日、いつも通りの時間に目覚めた咲夜は少し気分が良いので食堂に行き、朝ご飯を作り始めた

今日のメニューは白米、お味噌汁、鮎の塩焼き、お漬物、卵とベーコン炒め

 

味噌は自分で試行錯誤しながら作ってみた

苦労はしたが、何とか作り上げることが出来たので今はこうして活用している

 

 

「ふふふ、やっぱり俺の朝食はこうでないと♪ では、いただきま~~「あら、美味しそうね」……あれ? 曹操さん、何でここにいるんですか?」

「何でって言われてもお腹がすいたから何か食べに行こうと思って貴方がつけてくれた侍女に聞いたらこの時間なら食堂で劉封が何かを作っているころだと聞いたのよ。だから少し興味が出たの」

「…そうですか」

「それで」

「ええ、構いませんよ。どうぞ」

 

そう言って咲夜は自分が食べようとした朝食をそのまま譲った

 

「口は付けていませんから」

「貴方はどうするの?」

「もう殆ど準備も終わってますし、魚とかを焼くだけなのでもう一回作りなおしますよ」

「悪いわね」

「気にしないでください」

 

 

曹操はそのまままずは味噌汁を一口

 

 

 

「Σ これは…」

「どうですか?」←鮎を焼いている

「美味しいわ、なんていう名前なの?」

「味噌汁ですよ、東方の倭という国では好まれて使われている味噌を使った汁物です」

「そう…でもこれは朝食向きね。さっぱりして美味しいわ」

「ふふ、お気に召して何よりです」

 

 

その後、夏候惇と夏候淵もその匂いにつられて食堂にやってきたため、咲夜は更に二人分の食事を作ることとなった

 

 

 

「ふぅ、御馳走様」

「美味かったぞ劉封」

「確かに…今まで食べたことのないものがあったから新鮮だったぞ」

「いえいえ、どういたしまして。それより、今日はどうしますか?」

「そうね…悪いけど、今日も泊めてもらえるかしら? 少し、城下を見て回りたいのだけれど」

「構いませんよ、では案内を付けますので。俺はこの後仕事があるので」

「悪いわね、邪魔しちゃって」

「気にしないでください」

 

 

それから咲夜は時間の空いている劉延と孫礼の二人(武官で焔耶の部下)に案内を頼むことにし、自身は仕事をするために仕事部屋に入っていった

 

 

やはりというか…今日もかなりの仕事の山だった

もうチョモランマ3倍位?いや、これはエベレストだろう

なんてくだらない脳内劇場が出来る位に酷い竹簡と木簡の山がそこにあった

 

既にその部屋で仕事をしているのはふわわ軍師こと、徐庶であった

ふわわ軍師と言うのはいつも口癖で「ふわわ」なんて言っているが故にいつの間にか定着していた

当人は最初こそ、止めて欲しいと言っていたのだが…結局止められず今に至る

 

 

他にも文官はいるのだが、その人たちは皆別室で各自、仕事を取り行っている

咲夜と麻理が一緒なのは、仕事が重要な案件ばかりで相談しつつ仕事を取り行うためであった

それくらいしないと一日の仕事が終わらないのである

 

 

 

「(さらさらっと)…これくらいかな? 麻理、この案件はこれでいいかな?」

「…はい、十分です。咲夜様、こちらの金額は?」

「あ、それは孤児院経費だね。一応、額は変わっていないと思うけど?」

「そうみたいですね。あ、でもこの孤児院収穫高、これ少し変動してます」

「本当? …あ、でもさほど悪くなったわけじゃないね。多分、初めて作物を育てる子もいたからこれ位は仕方ないんじゃないかな?」

「そうですね…ではこれはいつも通り処理しますね」

「頼むよ」

 

 

 

などというやり取りをしながらテキパキと仕事を終わらせていった

 

 

そんなやり取りを続けること幾時間…

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「失礼しますわ」

「しゃくやしゃま~♪」

 

 

 

仕事部屋に来たのは紫苑とその娘の璃々だった

 

 

 

「あれ? 紫苑に璃々ちゃん、どうしたの?」

「いえ、お二人ともそろそろご休憩なさったらどうですか? もうお昼になりますよ」

「え? あ、ふわわ!! も、もうそんな時間ですか!?」

「態々伝えに来てくれたのか」

「いえ、咲夜様と一緒にお昼でもどうかと思いまして」

「しゃくやしゃま~、いっしょにごはんたべにいこ~」

「ふふ、良いよ璃々ちゃん。どこで食べたい?」

「ら~めん~~♪」

「あらあら璃々ったら。御免なさいね、咲夜様」

「気にしなくても良いよ。子供は好きだからね」

 

 

 

それから咲夜は紫苑、麻理、璃々を連れてお気に入りのラーメン店に入った

 

そこには意外な先客がいたのだが…

 

 

 

「あら、劉封。貴方もここに来たの?」

「…曹操さん、どうしてここに?」

「どうしてって…そろそろお昼の時間だから案内をしてくれてる二人にお勧めの店を聞いたらここだっていうからね。ついさっき、注文を取った所よ」

「そうですか…まあ良いか。親父~、皆いつものね~~!!」

「おうよ、任せときな!!」

 

 

 

何だか少し騒がしい昼食になりはしたけど、咲夜はとりあえず腹を満たすことを考えた

その際、何故か紫苑や麻理が注文した餃子をあ~んとしてきたり、璃々が杏仁豆腐をあ~んして貰いたがったのでやってあげたら周りから温かい目で見られたり…

咲夜は精神的にものすごく疲れた

 

 

 

その後、再び仕事に戻る咲夜

竹簡の山が処理し終わると今度は武官の仕事を手伝いに行き、それが終わったら町の警邏の手伝いをしつつ、町の問題を見つけながら子供たちと戯れる

 

 

すべてが終わったのはもう日も完全に暮れる頃であった

 

 

咲夜は今、城壁の上に居た

酒瓶を持ちながら町の風景を眺めていた

 

 

 

時折、咲夜はこうして町を眺めている

それは咲夜が決意したことを再認識する為である

 

 

―――自分の手が届くところに居る人たちが手を伸ばしてきたら、俺はその手を掴んでやる。何があってもな…

 

 

 

この樊城は咲夜にとって大切なものを具現化したものだ

自分の守りたい物…守るべきもの、それらがすべてこの場所に会った

だからこそ、咲夜は決してそれを忘れない

 

その為にこうして町が一望できる場所に来ているのだ

 

 

 

 

だが今日は一人で町を眺められない様だが

 

 

 

 

「あら、劉封じゃないの」

「り、劉封様!?」

 

 

そこにやってきたのは、曹操と今案内を担当している杏だった

 

 

「あれ、曹操さんと杏じゃないか。こんなところに何か用で?」

「あ、あの…曹操様が一度町を一望したいということで…その…」

「成程ね。ってあれ? 夏候惇さんと夏候淵さんは?」

「…春蘭、夏候惇が昼間にはしゃぎ過ぎて今、ぐっすりと眠っているわ。秋蘭がそれに付き添っているわ」

「…いいんですか、それ?」

「仕方ないでしょ、我が陳留では見ることの出来ない娯楽や店があって私も少し羽目を外していたしね」

 

 

 

それ以降、二人の間で会話が途切れた

 

その様子を見て杏があわあわしていた

 

 

「…それで、貴方はどうしてここに居るのかしら?」

「……その前に一献どうかな?」

「…頂きましょう」

「杏、悪いけどちょっと軽く摘まめる物と追加のお酒を持ってきてもらっても良いかな?」

「は、はい!!」

 

 

逃げるように杏はその場から逃げていった

 

 

「(こくっ)あら、美味しいわね」

「うちの酒職人が精を込めて作りあげた逸品だからね」

「もう貴方の城は技術大国って呼んだ方がいいのかしらね」

「まあそれは自由にしてください」

「…それで、さっきの質問に答えてもらえるかしら?」

「ここに来た理由は…俺が力を持った理由を忘れない為さ」

「…聞かせてもらっても良いかしら?」

「……俺は以前までは羅侯寇氏の一人息子だったらしい。だが城は敵に攻められ崩壊し、俺は運よく母に助けられ、叔父である劉泌のいるこの樊城に入ってきた。俺の命はこの二人によって今がある様なものだ。それと同じように命と言うのは鎖のように何かに繋がっている物だと俺は思っている。絆、運命、偶期、それはまた一人一人違うのだがな。でもそう思うからこそ、俺はそのつながりを大事にしたいと思っている。そのつながりを守るために俺は力を得た。殺戮の為でも侵略のためでもない、この力は俺の守りたいものを守るために使う、それを忘れない為に度々こうして町の風景を眺めているんだよ」

 

 

 

そう言い終え、咲夜は一口酒を飲みほした

 

 

 

「…成程ね、貴方が噂で仁君と言われている理由が良く分かったわ。でも、貴方はそれを貫けるのかしら? この乱世の中で」

「貫いてみせる、それが俺の決意だ」

「……ふふ、益々気にいったわ。ねえ、真名を教えてもらえるかしら? 私の真名は華琳よ」

「咲夜、それが俺の真名だ」

「そう、咲夜。私はいずれ貴方を手に入れて見せるわ」

「ははは、もし俺が華琳に仕えることになったのならそれは俺の天命なのだろうな」

 

 

 

そして翌日、華琳達は樊城を去っていった

その際に、華琳と咲夜が真名を交換し合ったことが分かり、夏候惇と夏候淵が咲夜に真名を授けることとなった

 

 

 

三人が帰っていくのを確認すると、咲夜は深く溜息をついた

 

 

 

「ハァ~~~、次は孫堅殿か………ハァ~~~~~~」

 

 

曹操と会うだけでこれだけ疲れたというのに、この上孫堅とまで会わなくてはならないなんて…俺って不幸だよOTZ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後…

孫堅文台が樊城を訪れてきた

 

 

 

「初めまして、俺はこの樊城太守「ああ、そんな堅苦しい言い方はせんでいい」…はい?」

「儂は長沙の太守、孫文台じゃ。 ほれ、お前達も挨拶せい」

「こんにちは、貴方があの噂の劉封なのね~。私は孫策よ」

「…私は孫権という、少しの間だがよろしく頼む」

「…甘寧だ」

「…済まないな、劉封どの。何やら礼儀にかけた挨拶で…私は周公瑾だ」

「…いえ、もう何か慣れてますからこういうのは」

 

 

先日の曹操とは対照的で軽い人多いなぁ

まあ春蘭さんが二人になったと思えば良いか

 

 

 

「ねえねえ、劉封♪ 早速案内してよ、お酒の美味しい所」

「………は?」

「ちょ!! 姉様、来て早々それはいくら何でも…」

「そうだぞ雪蓮、それは後のお楽しみということにしておこう」

「あ、結局飲むんですね」

「当然よ、まあそれよりも大事な話があるがな」

 

 

 

そのまま、何というか力強く中に入っていった孫堅とそれに続く孫策だった

 

 

それを呆然としたまま見ていた咲夜だった

流石に予想外過ぎた

 

 

 

「…すまない、うちの太守と問題児が迷惑を掛ける」

「……いえ、いいですよ」

「本当にすまない、後で母様と姉様には私達からよく言っておくから」

「…ハァ、まあ気にしないでください。皆さんは皆さんで楽しんでいって下さいね」

「…なあ、劉封殿」

「はい、どうかしましたか周瑜殿」

「貴公はこの【相棒】や【黄門奉行】の作者なのだろう?」

「あ、買って下さったんですか? ありがとうございます」

「いや、私の方こそ礼を言いたい。これほど面白い本はあまり読んだことがないのでな」

「……劉封様」

「えっと…甘寧さんでしたよね? どうかしましたか?」

「次の本はいつ頃出るのですか?」

「あ、甘寧さんも読んでくださっているんですか?」

「ええ、まあ」

「俺の新書はもうこの国で発行される予定ですよ。恐らく明日には本屋の店頭に並ぶ予定です。まあそちらの国だと…一月先だと思いますが」

 

 

 

そう言った瞬間、周瑜と甘寧の目が光った

 

 

「ど、どんな本なんだ!?」

「ふえ!? え、えと…今回の話は音楽家の旅の話です、よ?」

「ふふふ、今から楽しみだ」

「冥琳様、早速明日本屋に行きましょう」

「そうだな、こんなこともあろうかと私金を持ってきておいて正解だったな」

「はい」

 

 

 

…気にいってくれているのは嬉しいんだけど、ここまで行くとちょっと引くなぁ

 

などと思っている咲夜だった

 

 

 

「…うぅ、本当に申し訳ない」

「あ、孫権さん。気にしないでください、俺の本を好きだと言ってくれるのですから嬉しいですよ」

「そ、そうか…まあ確かに貴公の書は今までに見たことのない魅力があるからな」

「あ、あはは…(まあそりゃ俺の世界だとベストセラーの物とか元ネタが人気あった奴選んでるからなぁ)」

 

 

 

そのまま、咲夜は孫堅達を以前と同じように咲夜の屋敷の応接間に案内した

 

 

連れてきた兵300は今度は劉延と紫苑に任せ、一応咲夜の付き人として秋葉が付くことになった

 

 

全員分の御茶を出してもらう様に侍女に指示し、全員で一息つくとその場に居た二人が直ぐに空気を一変させた

 

 

 

「…単刀直入に言わせてもらう、孫呉と同盟を結ばないか?」

 

孫堅と

 

 

「同盟はお断りしますが、不可侵条約なら良いですよ」

 

 

咲夜だった

 

 

 

「ほぅ…どうして同盟を断る?」

「簡単な理由です、我が樊城は争いは可能なら避ける精神である故」

「…この戦国の世ではそんな惰弱な方針では喰われるぞ?」

「江東の虎らしいお言葉ですが、俺や家臣一同、この構えを解くつもりはありませんし、もしいずれかの勢力が押し寄せてきても防ぎ切り、後の憂いを断つくらいの力はありますよ?」

「…らしいな、以前お前の土地を狙って劉表の軍が攻めたが返り討ちにあい、そのまま逆に城を取られたとか…」

「ええ、まだ完全に戦後処理が終わったわけではありませんが、襄陽城は我が手中にあります」

 

 

そう、実は一月ほど前、こちらの配下に付けなんていう理不尽極まりない手紙を送ってきた劉表に返事として

 

 

 

『もう一回生まれ変わって常識と礼儀を学んできたら考えます』

 

 

と送り付けた

 

 

 

流石に腹が立ったのだ

 

 

 

まあそんな具合でこちらと劉表軍の中は悪くなり、あちらが樊城に攻め入ろうとしてきた

だから先手を打って奇襲をし、軍を立て直し不可能になるまで痛め付けた後、別働隊を動かして襄陽を攻め取った

 

 

劉表軍の兵士達は治療した後、直ぐに荊州城に送り届けてあげたけどね

 

 

一応更に警告して、次攻めてきたらこんなものでは済まさないと伝えておいた

 

まあ何せ、この戦いだけで向こうの蔡和、蔡沖の二人の将を討ちとり、大将の蔡瑁は捕縛した

劉表軍の被害は他にも兵数だけでなく、兵糧、馬、武器等もこの戦いでかなりの数を失った

それに比べて、劉封軍は被害は殆どなかった

普段の訓練が他国よりも過密な為、兵士一人一人の質も異なっているのだ

 

 

 

 

現在、襄陽城は劉泌に統治を任せている

少ししたら咲夜もそちらに赴く予定だ

 

 

「正直に言おう、儂は主が…いや、この主の治める領地のものすべてが敵にすると恐ろしいのじゃよ、だがお主が仲間になってくれるのであればこれほど心強いことはないと思っておる」

「…悪いがそれは出来ない。俺は悪戯に皆を傷つけたくない」

「…ふむ、では考えてもらうという形はどうじゃ。どうであれ、人の心は変わっていくものじゃからな」

「……それならまあ」

「とりあえず領土不可侵なら良いのじゃな?」

「ええ、俺としても貴方のような人と対立するのはあまりしたくないですからね」

「ほう、どうしてじゃ?」

「…第一印象としてですけど、孫堅さんと孫策さん、そして甘寧さんは武人としてはかなりの実力者みたいですし…周瑜さんはかなりの智将と聞いています。孫権さんは物事を冷静に見ることが出来、武も智もそれなりにある非常に安定感のある人だと伺っていますから」

「ほう、分かるのか?」

「一応俺も国主である前に武人であり、文官でもありますからね」

「ほぅ…噂だけではやはり人は測れんな。いずれ手合わせしたいものじゃな」

「え、構いませんよ?」

「「…は??」」

「この後、訓練がありますから丁度兵士たちに俺と徐晃、魏延と太史慈の戦いを見せる予定でしたから。誰か代わりますか?」

「はいは~~い♪私がやる~~」

「しぇ、雪蓮!? お前は何を言って…」

「まあ良いではないか冥琳。だが雪蓮よ、それは私がやらせてもらうぞ?」

「え~、母様は駄目よ~。太守でしょ?」

「…母様も姉様も駄目です!!」

「…ならば私が出ましょう、それならば問題はないと思われますが」

「思春…そうだな、それならばいいだろう」

「「ええ~~~」」

「ではこちらは俺が交代しますね。甘寧さんの相手は徐晃になりますがいいですか」

「…劉封殿ではないのか?」

「あはは、それはうちの四大将軍を倒してからにしてくださいよ」

「ほう、それではその4人は強いのか?」

「ええ、力の魏延、技の徐晃、早さの太史慈、弓の黄忠ですね。その中で一番強いのは…やっぱり黄忠ですかね? 4人の中で一番頭が回りますし」

 

 

なお、それが悔しくて現在秋葉と焔耶は必死に勉強中だが…

杏は実力不足だと思い、自主訓練もしている

杏自身、頭の方は悪くない為

 

 

「ほう、ではこの樊城で最も強い奴がその黄忠ということになるのか?」

「いえそれは違います」

 

 

突如、口を出してきたのは今まで黙っていた秋葉だった

秋葉…普段は口悪いのにこういう時は丁寧なんだよねぇ

 

 

「? どういうこと?」

「この樊城で最も強いのは劉封様です。以前、私と徐晃殿、そして魏延殿と黄忠殿の4人がかりで戦ったにもかかわらず我らは負けましたから」

「「「ほう…」」」

 

 

 

ひいぃ…な、なんだか三つほど怖い視線を感じます!! それも近距離から!!!

 

 

嫌な寒気を瞬間的に感じ取った咲夜だった

 

 

それから何とか話を逸らしつつ、城下町を案内した

すると孫堅は煙管や酒瓶の専門店に飛び付き、孫策は札遊戯の賭け事に興味を持ち始めたり、孫権は装飾品店に夢中になり、甘寧は忍者道具セットをこれぞとばかりにじっと眺めたり、周瑜は携帯用筆を買うか買うまいか悩んでいた

 

 

…フリーダムっすね、呉の人って

 

 

先程までの真面目な雰囲気が一瞬で何処かに飛んで行ってしまったようだ

 

まあ色々な意味でたいへんだったよ

 

 

 

 

それから数刻、城下町で全員がそれぞれ観光気分で堪能してくれた

 

ただその手には大量の土産やこの樊城でしか食べられない屋台の食べ物で一杯だった

 

 

「う~ん♪ ここの料理、凄く美味しいわね」

「そうだな、さっぱりして食べやすかった」

「帰りにもう一度買って行ってシャオ達の御土産にしましょう、姉様」

「はっはっは、この焼き鳥は最高じゃな! 酒にようあっとる」

「………」←忍者セットを買ってご満悦のようで

 

 

 

「…ハァ~~~」

 

 

何だか胃に穴があきそう

紫苑とかだったらこんなことないけど、孫堅さん達って一応来客だから気を使わないといけないし…

 

 

 

あ~、この人たち帰ったら璃々ちゃんや町の子供たちと一緒に遊んで癒されようっと

 

 

 

 

それから部屋を案内して、荷物を置いてもらった後、軍部の訓練場にやってきた咲夜達

既にそこでは武官たちが準備運動を始めていた

 

その中には紫苑、焔耶、秋葉、杏の姿もあった

 

 

紫苑は大弓「颶鵬

ぐほう

」、焔耶は大金棒「鈍砕骨

どんさいこつ

」、秋葉は双棍「爆犀牙

ばくさいが

」、杏は大鉞「乾坤一擲

けんこんいってき

」を調整している所であった

 

 

それに続き、それぞれの部下達も劉延や孫礼を筆頭にそれぞれの武具の状態を確認していた

 

 

「へぇ~、一人一人が凄い覇気を出してるわね」

「そりゃうちが誇る第一軍の訓練だからね」

「え、第一軍ってどういうことなの、劉封」

「簡単に説明するとうちは部隊がそれぞれの特徴を持って別れてるんだよ。第5軍が主に城の守りに徹した訓練を行う部隊、第4軍が騎馬、騎射技術を磨き機動性に富んだ部隊、第3軍が歩兵、弓兵で汎用性に富んだ部隊、第2軍がそれらすべてを富んだ部隊でどんな状況にも対応できる部隊、そして第1軍がその2軍を越えた技術と技量を持ち、一人一人が一騎当千の力を持つ、最強の部隊。本来はもっと細かに分類しているけど、大まかに説明するとこんな感じかな? 新兵には最初は第6軍の訓練を受けてもらい、そこでどの部隊に所属するかを決めるんだ。その後で、部隊に入って訓練を行って貰うわけだけど、成長する見込みがある者は別の部隊に移動し、またそこで訓練を行う。一人一人の実力を生かす、それが俺の考えた部隊だからな」

「へぇ~、ならその訓練を見せてくれるってわけ?」

「いや、流石にそれは企業秘密なんでね。今日はただの模擬戦だよ」

「え~~、見せてくれても良いじゃないの~~」

「だ~~めっ」

「「ぶぅぶぅ」」

 

 

…子供ですかあんた達は

 

 

 

なんて思っている間に兵士たちの訓練が始まった

10の舞台上でそれぞれ兵士たちが1VS1で戦っていた

皆が皆、かなりの質の戦いをこなし、それを真剣な目で見ていたのは孫堅、孫策、孫権、甘寧だった

周瑜だけはその4人とは違った目で兵士達を見ていたが…

 

 

 

数刻して兵士全員の訓練が終わり、ついに将達との訓練となった

まずは先刻言っておいた通り、甘寧と杏の模擬戦となった

 

 

甘寧には事前に選んでもらった模擬刀を渡し、杏は自身の愛用している武器と瓜二つの模擬刀を持った

 

 

 

「…始め!!」

 

審判役の者が合図すると、杏は猛連撃を甘寧に浴びせた

鉞がまるで複数ある様に見える様にして、相手の視覚を潰す

だが、甘寧はそれをもろともせずに防ぎ反撃の機会をうかがっていた

 

 

「へぇ…凄いね、甘寧さん。あの杏の連撃をこうも凌ぐなんて」

「ふふ、思春は早さと鋭さでは呉一番の武将だもの。これ位当然よ」

「でも、多分杏は戦いを本来の物に戻してくるでしょうね、あれは様子見をする際の杏の戦い方ですから」

「へぇ~、それはどういうことなの?」

 

孫権が興味を持った顔をして咲夜に質問してきた

 

 

「さっきも言ったけど、杏の優れているのは力でも早さでもない」

 

 

 

おおおおおおっーーーー!!!

 

 

 

兵士たちの盛り上がる声が聞こえた後、静かにこう告げた

 

 

 

――凄まじいほどの戦闘技術だ

 

 

 

 

舞台上では先程とは異なり、甘寧が自身が誇る早さを持って杏をせめていた

 

そのはずなのだが…

 

 

 

「はあああぁッ!!!!」

 

ブゥン!!

 

 

 

 

「ふっ…」

 

 

ガキンッ!!!

 

 

「ハァっ!!!」

 

 

「くっ!!!」

 

 

 

甘寧の攻撃を防ぐだけでなく、その攻撃によって生まれた隙を上手く突き、攻勢に転じる

所謂カウンターである

杏は守りながら攻撃を行い、相手をどんどん追いつめていく

それが杏の戦い方である

 

 

 

 

「うわ、あれは凄いわね」

「しかも杏の凄いところは受け身だけでなく、自ら攻勢に転じることも出来るところです。攻撃と防御の両方を兼ね備え、それらの切り替えが異常な位に早い。だからこそ、杏は技の徐公明と言われるんです」

 

 

 

そのまま甘寧は自分の獲物を跳ね飛ばされ、杏の勝利となった

 

 

 

「くっ…負けたか」

「いえ、正直危なかったです。甘寧さんって凄くお強いんですね」

「…思春だ。我が真名、お前に渡そう」

「あ、なら私のことも杏って呼んでください。又機会があれば、戦いましょうね」

「…ああ」

 

 

 

 

何やら二人の間で友情のようなものが芽生えたようで…

 

 

 

 

その後、焔耶と秋葉の戦いが始まった

 

この二人は幾度も戦っていて、戦績は50戦26勝23敗1分けで秋葉が勝っている

というのも力で優れる焔耶と早さで優れる秋葉は少し相性が悪いのである

その相性の悪さを補いつつ戦っている焔耶も凄いのだが…

相性を上手く使いつつ、戦っている秋葉も凄いのだ

 

 

 

今日の戦いは二人とも劉封が見ている上で外からの来客もいるということでいつもよりもやる気を出し、かなりの戦いが舞台上で行われた

 

 

その結果…

 

 

 

「「……」」←正座中

 

 

 

もう完全に駄目になってしまった舞台の上で大人しく正座をさせられていた二人であった

いくらやる気を出していたとしても度が過ぎたのであった

 

 

 

「全く、二人ともやり過ぎるなといつも言っているだろう? この舞台だってタダじゃないんだぞ?」

 

 

二人に物凄く良い笑顔をしながら説教をする咲夜

だが、その笑顔が異常なくらい怖いのだ

微かに焔耶と秋葉が震えている位に…

 

 

 

 

結局、二人の戦いは引き分けという形で強制的に終わらせる形となってしまった

 

 

 

 

「…申し訳ない、うちの恥ずかしいところを見せてしまって」

「かっかっか!! 気にするでない、久しぶりに面白いものが見れたでのう!」

 

 

 

咲夜はその後、孫堅達の部屋への案内を紫苑と劉延達に任せ、焔耶と秋葉には罰として修繕部隊と共にその壊れた舞台を治すことを命じた

その後、咲夜の処理する竹簡の量が普段の3割増しになったことは言うまでもない

 

 

 

翌日、孫堅達が長沙に帰るということで皆で城門まで送り届けることとなった

 

 

 

 

「いやはや、楽しかったぞ」

「…楽しんでいただけて何よりですよ。それからこれは土産としてお持ち帰りください」

「何から何まで悪いのぅ」

「いえ…気にしないでください。あ、それから決まりについての詳細は後日そちらに書を送らせてもらいますが、それで良いですか?」

「ああ、ではな」

 

 

 

そういって孫堅は孫策達を引き連れて出ていこうとした

 

だが、その前に何かを思い出したように戻ってくると

 

 

 

 

「そうじゃそうじゃ!! 忘れとったわ」

「? 何か?」

「真名を交換したいと思っての!」

「………はい?」

「主と直接会って儂はお主が気にいった。だから我が真名、受け取って欲しいのじゃよ」

「…まあいいですけど」

「うむ、では改めて自己紹介といこうかの。儂は性を孫、名を堅、字を文台、真名を紅蓮と言う」

「俺は性を劉、名を封、字は持っていない。真名は咲夜だ」

「うむ! ではな」

「ちょっと待って母様。私も真名交換したいわ」

「咲夜が良いというのならそうするがよい!」

「良いかしら?」

「…ええ、どうぞ」

 

 

 

というわけで咲夜はその後、孫策、孫権、周瑜、甘寧とも真名を交換し合った

 

 

 

それに満足すると紅蓮達は長沙へと帰っていった

 

 

それを確認すると、咲夜はもう今までで一番の溜息をつき、自室に戻っていった

 

 

余談だが、その日は咲夜は仕事をする気になれず、璃々達と一緒に遊んで心の疲れを癒していたとか…

 

部下達も咲夜の心情を理解して、咲夜に変わって仕事をこなしていた


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