真・恋姫✝無双~とある男のそれなりに不幸な人生~   作:世紀末敗者寸前

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第十話

劉表軍を打ち破り、荊州城と江陵城を手に入れてから、咲夜は内政を行いながら他の領土からの侵略などに備えていた。

 

領土というのは制圧した後というのが一番狙われやすいためである。

その為、武官の半分以上は領土の境の場所に展開させている。

残りの者は皆、兵士たちの訓練などを受け持ったりしている。

文官も文官で非常に忙しくなっていた。

無理もないだろう…

一気に三つも領土が増えたのだから。

だがその分、咲夜の元には有能な者達が集っていた。

元劉表軍にいたのだが、劉表が気にいらないという理由だけで使われなかった者、蔡瑁や張允、黄祖などと仲違いし出世できなくなっていた者達等は、現在以前よりも上の官職で働くことが出来ている。

 

 

勿論のことだが、咲夜はまず領民の安全の保障や治安の維持などを第一としていた。

その為、領民は皆咲夜の政治体制に積極的に協力してくれ、咲夜もそれに応える様に成果を出していく。

 

 

 

一月も経った後、江夏、荊州、江陵の三郡は見違えるように発展していった。

ほんの少しずつだが、襄陽や樊城のような店や街並みが立ち並ぶようになり、生活水準も問題なく安定して行った。

 

 

 

そんな中、咲夜は内政を行いながらも外の情報も欠かさずに頭に入れていった。

その隣には常に美鈴がいて、咲夜のサポートに徹底していた。

そして咲夜の陰にはいつも影夜や朔などといった情報収集などの能力を持つ部隊が咲夜の求める情報を可能な限りに集めていった。

 

 

 

咲夜がまず注目したのは今後の憂いとなるであろう武陵、零陵、桂陽の三郡である。

零陵の太守、劉度は対して害にはならないのだろうが、その息子である劉賢、そして刑道栄という猛将(前世ではKDAという名で有名だったWW)。

この二人をどうにかすれば大丈夫だろう。

 

次に桂陽だが、こちらも国主である趙範は問題ない。

だがやはりというか部下である鮑隆や陳応が問題である。

 

 

最後に武陵だが…太守である金旋は好戦的な男であるという情報が入っている。

その為、劉表が居なくなった今、荊州城に攻めてくる可能性は高い。

その為、ここだけは100%戦う羽目になるかも…

 

 

ただ、民のことを思い戦いは避けるべきだと主張する部下も幾人かいるらしい。

その代表が鞏志という将である。

だが、その意見は太守である金旋と息子である金禕に強く拒まれてしまっているため、鞏志自身、現在軟禁状態にされているそうだ。

 

 

更には金旋は城に韓玄と韓浩の兄弟を向かい入れたそうだ。

確か韓玄は忠志では長沙の太守をしていたようだが…

やはりこの世界は咲夜の持っている知識とは差異が生じているようだ。

 

 

 

「……とりあえずこの三群に使者を立ててみるか。何事もないのが一番いいことだしな」

 

 

咲夜はそれぞれの太守に使者を送り、様子を見ることから始めることにした。

何故なら、咲夜にはまだまだやらなくてはならないことが山の用にあるためである。

 

 

 

咲夜は頭をフル回転させながら皆の仕事を上手く振り分けつつ、自分のやるべき仕事をどんどん片付けていった。

流石は咲夜と言った所か、その仕事はまるで疾風の如く。

異常な早さでどんどん減って行った。

それに影響を受け、他の文官もどんどん自分たちの仕事を終わらせる早さが上昇して行った。

 

 

 

だがまだ足りない!!

足りないぞ――――!!!

お前に足りないのはッ!情熱思想理想思考気品優雅さ勤勉さ!

そして何より――

 

速 さ が 足 り な い !

 

 

 

文官の頭の中に響き渡った文章だった…

 

 

 

 

「さてさて、次の仕事を終えたら昼食にしようかね」

 

そんなこんなで咲夜の仕事もようやく一段落といった時、

 

 

「し、失礼します」

 

 

腕一杯に山の様な竹簡を持ってきたのは雛里と麻理だった。

扉の方は咲夜が仕事の時、多くの文官達が入れ違いに竹管や書物を置いていったり、持っていったりしたために空きっぱなしになっていた為、二人は問題なく咲夜の部屋に入ることが出来た。

部屋といっても咲夜がいるのは専用の執務室なのだが…

 

 

 

「…また追加の竹簡?」

「は、はい…すいません、咲夜様」

「いや…良いんだけどさぁ。皆どんどん早くなってない? 流石に俺もびっくりだよ」

「し、仕方ないのでは? 皆さん、咲夜様に少しでも苦労を掛けたくないという一心で一生懸命に仕事に取り掛かっているようですし」

「……まあそうだけどねぇ、ハァ」

「あわわ…」

「ふわわ…」

 

 

ここ最近の仕事量増加のために流石の咲夜も溜息を出してしまい、それを見て麻理と雛里もあわあわしてしまっていた。

 

 

 

「…でもやるしかないよな。俺が頑張るだけで多くの人たちが笑顔になれるんだから」

 

 

 

うしっ、と一息入れると咲夜はまず雛里と麻理の持ってきた竹簡を簡単に確認しつつ、他の文官達の大まかな状況を二人から聞きだすことにした。

 

 

「雛里、まず他の皆の仕事の現在の状況を可能な限り教えてくれないかな?」

「はい。まず治安の方ですが、咲夜様の創立した治安維持部隊と警邏部隊の成果はかなり出ているようです。その為、担当者の人たちもそれほど忙しくはなっていない様ですね」

 

雛里が被っているとんがり帽子を弄りながら咲夜に詳細を告げていく。

その様子はちょっと可愛らしいと咲夜は思いつつも、しっかりと雛里の目を見ながら報告を頭に入れていくことに集中していた。

 

 

「次に税金と戸籍の方ですが…こちらは少し難航していますね。咲夜様の考えた貨幣を一つにまとめるということがやはり新しい土地の人たちにとって導入しにくいようです。加えて、戸籍の方もまだ完全に纏め終えていないそうで…今、担当の皆さんが一生懸命に完成させようとしています」

「そっちの方は長い目で見た方がいいかもしれないね。でも貨幣の方は出来る限り早く皆に慣れてもらわないといけないから、対策を考えておかないとね」

 

 

雛里の話を聞きながらて元にある竹簡にも目を通し、頭に入れていくあたり流石は咲夜といったところだろう。

麻理の方は咲夜に次に目を通すべき竹簡をいち早く判断し、それを手渡していた。

こういう所は、樊城に古くから居た経験が生むコンビネーションなのだろう。

二人の動きによどみは一切なかった。

 

 

 

「えっと…次は街並みの方ですね。こちらはもう家屋が古く、いつ崩れてもおかしいという場所はこちらで援助して、新しい家を改築しつつ、広い道を確保するということでした。領民の皆さんの中で樊城や襄陽に行ったことのある方々が居たそうなので…そのようにして欲しいという意見が出ているそうです」

「……う~ん…少しずつそうして行くしかないか。とりあえず仮設住宅を作って、4分の一ずつから始めていくのが一番だと思う。いきなり全部は流石に無理があるからね。後は城外の村なんかもちょっとずつ改善していかないと」

 

 

 

咲夜と雛里は次々と話を続けていき、麻理はそれの邪魔にならない様に咲夜をサポートしていった。

その為、簡単な確認だったがそれはかなり早く終わることとなった。

 

 

 

「さて…次は麻理から武官のこと。そして、総兵数と軍備、それから国境の状況なんかを軽く教えてくれるかな」

「は、はい! まずですけど…新しく参入した方々は皆さん、星さんや紫苑さん達を筆頭にこちらの主義に慣れることから始めてもらっています。次に総兵数ですが…この度、江夏、江陵、そして刑州本城を加えたことによって襄陽と樊城にいる兵を合わせると約30万になりました」

「…そんなに増えたの?」

「はい! その三郡以外からも多くの方々が軍役に服したいということから。その為、国境にいる方々以外は皆、新兵さんたちの訓練で毎日忙しいそうです」

「…幾らなんでも増え過ぎだろう」

「ふふ、それだけ咲夜様を慕ってかもしくは信頼しているのでしょうね」

 

 

そういいながら麻理は麦わら帽子を弄っていた。

そんな麻理もかわいらしいと思いつつも咲夜は、仕事に集中。

こんな時はしっかりと公私の区別がちゃんと付いているのが咲夜なのだ。

 

 

 

 

「そうなると総領民数の方も凄いことになってそうだね…」

「そうですね…色々な場所から咲夜様の噂を聞いてくる方々が居ますから。咲夜様の考えた法案で異民族の方々も受け入れるようになっていますしね」

 

 

最初こそ、多くの反対意見や様々な問題があったが今では樊城、襄陽においては異民族であってもしっかりと規則を守り、治安を乱すような行いをしなければ受け入れられている。

山越、南蛮、羌族等が例としてあげられる。

 

 

 

「次に軍備の方は兵糧と武具、攻城兵器なども充実しています。その為、もし攻めて来られたとしても十分に対応できますね」

「そっちの方はまあとりあえず安心できるか…」

 

「後は国境の方ですが…実はいくつか書状を受け取っているんです」

「書状??? 誰から…まあ一部は何となく分かるけどね」

「一つ目は…まあいつもの袁家か「燃やして」ら…? え、えっと「燃やして」……はい」

「だ、駄目でしゅよ!!」

 

 

咲夜は雛里に説得されて、何とか踏みとどまり念のため読んだのだが…やはりというか内容はいつもと同じだった。

だが、その書状には少しだけ気になることが書かれていた。

それはこの国の言葉ではなく…

咲夜の前世の頃に使われていた……

 

 

日本語だった。

 

 

 

咲夜は内心吃驚したが、それを表情に出さずに冷静に分析することにした。

その中で一番有力だろうというのは、以前聞いた情報の中であった冀州に落ちた天の御遣いだろうという男…

 

 

少し興味が湧いた咲夜は後で誰かに調べに行って貰うことにした。

 

 

 

「次は武陵にいる鞏志、そして韓玄からです」

「…鞏志は分かるが…韓玄から?」

 

 

咲夜はまず鞏志からの手紙を拝見することに。

そこに書かれていたのは今の金旋による軍部拡張などによる民の生活の圧迫化のことや町で行われている非道な行為のことについてが書かれていた。

それを雛里、麻理と一緒に見ていたのだが…次第に二人の顔が悲しそうに見えてきた咲夜だった。

その咲夜自身もこれが真実なら…許せざることだと思った。

 

 

「……金旋、やっぱりどうにかしないと拙いかな」

「咲夜様…」

「…次は韓玄からの手紙だな」

 

 

 

気を取り直し、咲夜は次の手紙を開いた。

内容は一部のみが鞏志と同じことを書いてあって、残りは咲夜に武陵を攻めてもらいたいというものだった。

もし、攻めてもらえるのならば零陵と桂陽は自身が説得しようということも書かれていた。

 

 

 

更にちょっと驚くことも書かれていた。

 

 

 

「…韓玄って…紫苑の知り合いなの?」

「そ、そのようですね」

 

 

 

書かれていたのは、

 

 

――黄漢升は元気でしょうか? 昔馴染みのため、会いたいとは思っていたのですが…璃々ちゃんとも会いたいものです。

 

 

 

というのが最後に書かれていた。

 

 

 

 

「…とりあえず紫苑に事実確認してから判断するか。後は燐花と風の二人にも話を通しておかないと…」

 

 

 

手紙を読み終えると咲夜は一息つき、とりあえずだが自分の仕事を確認し終えた。

そして時間を確認すると、もうお昼時を過ぎる直前であることが分かった。

 

 

 

「やばっ…そろそろお昼食べないと」

「あ、しゃ、しゃくやしゃま(がり)~~~~~っ!!!」

 

 

雛里が声を掛けようとして、また舌をかんだようで…

 

 

 

「あ~あ…全く雛里は。落ち着いて話しなさいって」

「しゅ、しゅみましぇん…」

「ふふ、はい。口あけて」

 

 

 

何だか恒例のやり取りとなっていることであるのだが…

咲夜はやれやれといった感じ半分、雛里は申し訳ないと思いつつも何やら嬉しそうな顔をしていた。

そしてそれを羨ましそうに見つめるのは麻理。

 

 

 

「で、何か用かな雛里」

「えっと…さ、咲夜様さえよろしければ私たちとご一緒にお昼はどうかなっと。ね、ねえ麻理ちゃん?」

「そ、そうだね雛里ちゃん! 良いと思うよ!!」

「…そうだな。一人で食べるのも味気ないし…じゃあいっしょに食べに行こうか」

「「は、はい!!」」

 

 

 

 

咲夜、雛里、麻理の三人は一緒に手を繋いで町まで食事を取りに行った。

店は咲夜提案似非日本料理店。

似非というのが付く理由としては…純粋に日本料理とは言えない物が多少あるからである。

だが、恐らくこの店に北郷一刀が訪れたのなら…十中八九驚くことだろう…

本来なら樊城もしくは襄陽でしか食べることは出来ないのだが…咲夜が職人に頼みこんで今居る刑州本城に仮の店を立てて貰ったのだ。

それも新しく咲夜の領地の民となる人たちに可能な限り美味しいものを食べてもらいたいと咲夜が思って、手配しておいたためである。

今ではそれが功をなし、かなりの人気が出ていた。

 

 

 

 

 

咲夜はこの店で唐揚げ定食、雛里は団子肉定食(ハンバーグ定食の様なもの)、麻理は山菜定食を注文。

 

 

食事を終えると咲夜は二人と一緒に仕事場に戻り、自室近くになると二人と別れまた一人仕事を始めた。

 

 

 

 

 

 

そうしたことを幾日か続けていたある日…

 

 

 

 

 

金旋が武陵を出て咲夜達が居る刑州本城に宣戦布告をしてきた。

そして現在、江陵に向けて進軍中だと影夜から情報が入った。

先鋒は金旋自身で、兵は20000。

その間、城の守りを韓玄に任せているそうだ。

 

 

 

その報告を受け、咲夜は一部の武官と兵たちを国境から呼び戻し、戦いの準備を整えることにした。

といっても殆どが終わっているため、後は編成をすればいつでも出れる状態になってはいるのだが…

 

 

 

 

 

 

軍議の場…その場にいるのは咲夜、燐花、紫苑、美鈴の4人。

杏と風は現在、江夏で内政を行っている最中であり、今この場には居ない。

秋葉と雛里は荊州本城で、麻理は襄陽に戻り仕事をして貰っている。

焔耶の方には副官として魔理沙(王平)と雛(諸葛瑾)の二人を付けて益州を警戒して貰っている。

智や慧音などにもそれぞれ苑、揚州などへの警戒を怠らずにいて貰っている。

その為、現在江陵にいる主だった将はこの四人のみなのだ。

 

 

 

「さて、現在もう国境近くに武陵軍が来ているそうだ」

「それで…どうするのですか咲夜様?」

「決まっている」

 

 

 

咲夜はスクッと立ち上がると…

 

 

 

 

「粉砕!! 爆砕!!! 大喝采!!!! …って感じで野戦でけりをつける。態々領民を危険にさらす気はない」

「了解しました」

 

 

 

先鋒は紫苑と美鈴の二人に任せ、咲夜は燐花と共に中軍を指揮することになった。

因みに先程の咲夜のハイテンションだが…スルーされて少し寂しいと思った咲夜だった…

 

 

 

 

そして…

 

 

 

戦いの舞台はおとずれた。

 

 

 

 

劉封軍 30000

金旋軍 20000

 

 

この時点ですでに決着は見えているようなものだった。

 

 

 

数でも将の質でも金旋の軍は咲夜に負けていた。

その上、金旋の元には有能な軍師が居なかった。

逆に咲夜の元には燐花…荀攸が居たために隙はない。

最も、それ以前に金旋と咲夜では国主の器が全く異なっていたのだ。

いや…比べるまでもなく、金旋には将としての器ならまだしも主はおろか太守の器すらなかったのである。

 

 

 

金旋は意気込んで当初、偃月の陣で自らを先頭として突っ込んできた。

咲夜は定石通りといえば良いのだろうか…それに対して、鶴翼の陣を敷いて金旋軍の動きに合わせて包囲し、せん滅する作戦に出た。

 

 

勢いに任せる金旋に対して、咲夜は冷静に対処し、次第に状勢は決していった。

 

 

紫苑が弓で的確に敵の命を射抜き、美鈴はその紫苑に近寄ろうとして来る敵を手甲をはめた手で殴り飛ばし、咲夜自身も近寄ってくる敵をハルバートで斬り倒していった。

 

 

そんな無双をする三人に次第に敵の兵たちは怖じ気づき、次々と退却を始めていった。

その様子を見た金旋は悔しそうにしながら敗走兵に紛れながら武陵へと逃げていった。

 

 

 

 

「さて…燐花、どうする?」

「勿論、このまま追討戦に入るわ。当然でしょ?」

「そうだな」

 

 

 

咲夜は全軍を率いて武陵城に向かい、けりをつけることにした。

 

 

 

 

そして咲夜達は武陵城までたどり着いたのだが…

 

 

 

「…静かすぎる」

「そうですね咲夜様、どう思われますか?」

「罠…の可能性は否定できなくはないけど」

 

 

城に近づいても何の行動も起こそうとしておらず、門だけが閉じられていてただ静かに旗が風で揺れているだけの状態。

明らかに不自然な状態であった。

すると、いきなり門が開き始めた。

 

 

咲夜達は金旋がまた懲りずに戦いに来たものだと思って皆、戦闘の用意を始めた。

だが門から出てきたのはたった二人。

一人は何やら桶の様なものを持ち、もう一人は何やら布に包んでいる物を持ちながら咲夜の元に歩いてやってきた。

 

 

 

 

「止まれ! 何者か!!」

 

美鈴が警戒しながら警告した。

 

 

「怪しい者ではありません。私の名は鞏志と申します」

「何…では君がこちらに書状を送った」

「はい」

 

 

桶を持っている者は自らを鞏志だと言い、その場に立ち止まった。

もう一人の方はと確認しようとすると、咲夜は紫苑が驚いた顔をしていたのが目に入ったため、どうしたのかと聞いてみた。

 

 

 

「琥珀?」

「ええ、そうよ。久しぶりね紫苑」

 

 

 

もう一人の方は何やら紫苑と知り合いのようで二人で真名を呼び合っていた。

 

 

 

「もしかして…貴方は韓玄でしょうか?」

 

 

咲夜はふと思い立ったことを聞いてみた。

 

 

 

「ええ、そうよ」

「……それでお二人だけで城外に出てきたのは?」

 

 

燐花が警戒を解かずに問いかけた。

紫苑はびっくりしたのが大きいのか…少し警戒が解けてしまっているのだが…

他の面々は皆警戒を解いておらず、いつ何が起こっても対処できる状態にあった。

こういった所も咲夜の提案した訓練などが役に立っているのである。

 

 

 

 

「ええ、これより武陵は劉封様に下ります」

「「!?」」

「……どういうこと? 先程は金旋自らこちらに攻めてきたというのに」

 

 

美鈴と紫苑は驚き、燐花は先程から曲げていた眉を更に曲げ、質問を続けた。

 

 

「簡単よ。私達は元から劉封様に刃向う気なんてなかったの。でも太守がそれを一人だけ嫌がってね。で、太守の独断でそちらに攻めていったってわけなの」

「私はその間に韓玄様に助けられ、共に残った者を説得していたというわけです」

 

 

韓玄と鞏志の話を聞き、成程という顔をする燐花。

 

 

「じゃあその金旋はどこに?」

「…ここに」

 

 

 

咲夜は当たり前のことを聞くと、鞏志は手に持っていた桶を差し出した。

それを開けるとそこには金旋の首が入っていた。

先程、戦いで見たばかりの顔のため、咲夜達はこれは間違いなく金旋の首であると判断した。

 

 

「…武陵にいる人たちは皆こちらに降伏するということでいいのかな?」

「はい」

「……分かった。なら詳しい話をしようか」

 

 

 

咲夜は全軍を率いて、武陵の城へと入って行った。

すると入場した瞬間、民衆がわっと騒ぎ始めた。

 

 

 

「あ、あれが劉封様か?」

「おお、これで暮らしが楽になる」

「劉封様、ばんざーい!!」

 

 

 

その歓迎の声は咲夜達が城にはいるまで止むことはなかった。

これだけでも今までどれだけ苦しい生活を強いられていたかが伺いしれた。

 

 

 

城内にはいり、鞏志と韓玄は応接間に案内した後、席に座って欲しいといった後、真剣な顔をし、咲夜達もそれに釣られ、先程よりも真面目な顔をし始めた。

 

 

「ではまず劉封様からこちらにお聞きになりたいことがありましたら何なりとお聞きください」

「じゃあまずどうして俺を選んだかについて聞かせてもらおうかな」

 

 

鞏志に応え、咲夜は一番聞きたかったことから聞くことにした。

 

 

 

「簡単よ。民の言葉を聞けばすぐに分かるわ」

「劉封様は良主であり、領民となれば苦少なく生を得ることが可能。そう広まっておりますので」

「……そんなことないと思うのだが。生は良い意味でも悪い意味でも平等だ。俺はただ酷過ぎる落差を失くして、この荒れた世を少しでも良くしたい。それだけだ」

 

 

 

咲夜の調べで分かったことでもあり、咲夜自身前世での記憶にもあったことなのだが…この時代は豪族や宦官などは裕福な生活を送ることが出来ているのだが、庶民はその日の糧を得ることすら難しく、酷く貧しい生活を強いられているのだ。

前世で親に支えられながら幸せに生きていたという記憶も持っている咲夜だけにこの世の中の情勢に耐えられずにいたためにこうも一生懸命に動いているという理由もあるのだが…

 

 

そんな咲夜を感心したように見る韓玄と目を輝かせながら咲夜を見つめる鞏志。

 

 

「さて…次に聞きたいのは韓玄にだ」

「私か…何が聞きたい?」

「韓玄って紫苑と知り合いなんだよな? ならどうして金旋に仕えることにしたんだ?」

「…ふむ、なら私と紫苑の出会った時の話から始めるとするか。私は昔、紫苑と同郷だったのだよ。それで暫くの間は一緒にいたんだ。でも紫苑が結婚してから、私は弟と旅に出ることにしてな。その旅の途中で黄巾党の乱に巻き込まれてしまったんだよ。で、そんな中私と弟は様々な場所を見てきたし、聞いてきた。一番多く聞いた噂はやっぱりあんたの領土のことだね」

「……」

「だから私達もそっちに行こうとしたんだけど…情けないことに路銀が完全に底をついちまってね。だから客将として武陵に仕えることにしたんだけど…ここは酷かったよ。武官が領民を虐げ、文官は横領し、太守である金旋は酒と女の毎日。そのくせ自尊心だけは一人前。だから私は韓浩と鞏志に話を付けて、金旋を殺してあんたにこの地を任せた方が絶対に領民のためになると思ったのさ」

「…成程ね、納得したよ」

 

 

 

全員が韓玄の言葉に納得し、うんうんと肯いていた。

 

 

 

 

「じゃあ最後、書状で送ってきた桂陽と零陵を説得するっていうのは?」

「ああ、劉度と趙範の二人は国主としての器じゃない。だからこちらから切っ掛けを作ってやれば直ぐにでも降伏してくる。問題は国主ではなく、その配下にあるが…」

 

 

 

韓玄は咲夜が以前から考えていたことをそのまま挙げてきた。

咲夜はそれに感心しつつも韓玄の発言に耳を傾けていた。

 

 

 

「でもまあそれもあんたを見れば考えも変わると思うよ」

「…そうか?」

「ああ、私が言うからね。こう見えても私は人を見る目があると思うよ」

「…そうか。分かった、ならこの案件は韓玄に任せてもいいかな、皆」

 

「はい、私は構いませんよ」

「咲夜様の考えにお任せします!!」

「…ま、紫苑の知り合いだって言うし…それに考え自体も悪くはないからね。いいわよ」

 

 

 

「おや、加入してもいいってことかな、これは」

「ああ、これからよろしく頼むよ。韓玄、鞏志」

「ああ、任せな」

「これからよろしくお願いします!!」

「じゃあ自己紹介から。私は性は韓、名は玄。真名は琥珀よ」

「私は性は鞏、名は志。真名は雫です」

「俺は性は劉、名は封。真名は咲夜だ。これからよろしくな、琥珀、雫」

 

 

 

 

 

それから数日後…

 

 

 

 

桂陽、零陵からそれぞれ使者がやってきて降伏するという書状を持ってきた。

咲夜はそれを受け入れ、劉度と趙範の二人としっかりと話し合いをし、二つの郡をしっかりと治めることを約束した。

 

 

 

 

 

咲夜はこうして短い期間ながらも武陵、零陵、桂陽の三郡を手にしたことで荊州の大半を手中に収めることとなった。

 

 

これ以降、民の間では咲夜が刑州を治める王となるのも時間の問題だろうと囁かれる様になった。




刑州の大半を治めることとなり、多くの領土の主となった咲夜。
暫く続いた戦いの日々から離れ、内政をしながら日常を楽しむこととなった。

さて…今日は誰と一緒の時間を過ごすのだろうか。

次回…平和な一日?

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