真・恋姫✝無双~とある男のそれなりに不幸な人生~   作:世紀末敗者寸前

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第九話

江夏を治めることになってから暫く経った後、咲夜は襄陽にいる紫苑に連絡を入れ、そろそろ荊州と江陵の攻略に移るべきだと提案した

紫苑の方もそれが良いと咲夜の考えに同調し、江夏、襄陽で咲夜は兵を集って進軍の準備を開始した

その際に、咲夜は以前紅蓮から荊州攻略に関して紅蓮に話がしたいと言われたことを思い出し、まず使者を出すことにした

 

 

 

 

それから少ししてから使者が戻ってきたのだが…

そこには驚くべきことが書かれていた

 

 

長沙の留守を預かっている程普という者からなのだが、既に紅蓮は雪蓮、冥琳、祭、思春、蓮華、明命、穏と兵約20000を引き連れて江陵攻めに向かったとあった

 

 

 

そして…江陵を現在守っている将は…張允と

 

 

 

――――――黄祖だった

 

 

 

この世界が既に自分の知っている物とは差異があるということは理解していた

まずこの国の大半の将が女性になっていたり、名馬と言われている的盧(渚)や赤兎馬が犬だったり…時代の系列なども少し自分の知っている知識とのことなりがある

故に、黄祖が居ることが紅蓮の…孫堅の死に繋がる=100%ではないということは重々承知していた

だが、咲夜は不安を隠せずにいた

 

 

 

 

「……影夜」

 

 

咲夜が名前を呼ぶと、天井から影夜が音もなく表れた

 

 

 

「仕事を頼みたい」

「…(コク)」

「忍び二小隊を引き連れ、江陵に向かって欲しい。一つは敵将、黄祖もしくはその配下が孫堅の軍に何か仕掛けようとしていたらそれを妨害して欲しい。二つ目はもし、紅蓮達がその罠にはまっていたら、影から助けてやってくれ」

「……(コクリ)」

「第一小隊は朔を中心に睦月、如月、弥生。第二小隊は影夜を中心に皐月、水無月、神無月」

「……」

 

 

 

影夜は紙にサラサラっと質問を書きだした

 

 

【他は自由なの? 殺しは?】

 

「…お前たちが必要と判断したら、許可しよう」

「(こくり)」

「じゃあ…頼んだぞ」

 

 

 

それを聞くと影夜は再び姿を消し、移動を始めた

 

 

 

 

「…これは保険だな。何もないのが一番いいんだけどな」

 

 

咲夜はもう一つの孫堅軍が注意すべき不安要素の一つである袁術軍のことを考えていた

袁術は子供な上に世間知らず兼馬鹿と聞いているので恐らくは紅蓮の方もそれほど気をまわしてはいないだろう

だが、袁術の周りには張勲、楽蹴、紀霊などと言った有能な将もいるし、兵数も長沙の兵数と比べると遥かに上である

 

 

それ故に咲夜は汝南に対して江夏で対策と練ることにした

 

 

 

「…とりあえず牽制として江夏には十分な兵を置いておき、その上で江陵の城を攻める手はずを整えておくか。今回ですべてを終わらせてやろう、劉表」

 

 

 

それから数日後、咲夜は進軍を開始した

勿論、その前日には宣戦布告をしておいてだ

 

 

攻城戦と野戦になることを想定しているため、咲夜はまず自身が向かう荊州城には兵1万5千と十分な攻城兵器を持ち合せることにした

副将として紫苑と美鈴を

軍師をして麻理と雛里を共に連れていくことにした

 

襄陽の留守は諸葛瑾や王平、董允等を中心に任せることにした

 

江夏の方には守りを杏に任せ、江陵攻めには焔耶と秋葉、そして軍師を風と燐花に任せることにした

この二人がいればもし、秋葉と焔耶が喧嘩しても止められる上に攻城戦を得意と言っていた燐花と常に物事を冷静かつ的確に対処できる風が合わされば、どんなことがあっても大丈夫だろうと咲夜は判断したのだ

 

 

「さて…一応、遊軍として第一軍とそれを任せられる将を残してあるけど…どうなるかな」

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

→Side 紅蓮→

 

進軍してからもう十日は経っただろうか…

儂らは既に江陵に進軍し、幾度か劉表軍と野戦を交えた

それらすべて完勝し、儂らの軍の勢いは破竹の勢いとも言えるほどであった

 

そして江陵城の近くに布陣し、儂らは攻城戦を開始した

 

穏と冥琳、この二人が指示を出し、前線では祭、思春、明命が城に矢を放ちながら攻城し、雪蓮と蓮華、そして儂が攻城兵器部隊を指揮することとなった

 

 

じゃが流石は黄祖と張允と言った所じゃろう

三日ほど続けて攻めさせたが、一向に落ちんかった

じゃが、後一日ほど攻めれば絶対に落ちるだろうと冥琳は言っておった

じゃから儂達は見張りの兵以外は皆、休みを取らせることにした

 

 

 

しかし、その夜黄祖自身が率いる夜襲部隊が陣を攻めてきおった

見張りの者達は皆殺され、数十名の者が殺されてしまった

儂は怒り、黄祖が逃げたという方向に数百の兵を引き連れ、向かった

その際に冥琳は儂を止めようとしたが、儂は止まらんかった

 

 

これは儂らの油断あっての被害…

ならば黄祖を儂自らの手で討ちとらねば、この奇襲で死んでいった者達が報われぬ

 

 

 

 

じゃが…それは罠じゃった

 

 

 

黄祖は自らを囮にし、坂になっている道まで儂らを誘導すると落石を始めた

 

 

 

「くっ…罠じゃったか」

「孫堅様!! 危ないっ!!」

「なッ…」

 

 

 

儂に岩が迫ろうとしていたとき、部下の一人が儂を突き飛ばし、その者は岩に押しつぶされてしまった…

 

 

「くっ…」

 

 

 

それからもわしを守ろうと幾人もの部下が儂を庇いおった…

 

落石の際に頭を打ったようで…朦朧とする意識の中……儂がみたのはその者たちの背中だけじゃった

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

薄れ行く意識の際に聞こえたのは…聞いたことのない声と…

誰かが斬り殺され、そ奴らがあげた叫び声じゃった

 

 

 

 

→Side Out→

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

「へっ!! あの孫堅でもこういった手なら簡単に引っ掛かってくれるぜ」

「黄祖様、孫堅は死んだでしょう? ならさっさと首を取りに行きましょうぜ」

「そうだな、これで俺達の軍は活気付き、あいつ等は士気が下がって後退して行くだろう」

 

 

黄祖は落石の罠で孫堅は完全に死んだだろうと判断し、一応待機させていた部下を呼びだそうとし、一人を選び、それを連絡させに行った

 

 

 

 

だが…

いくら待っても誰も来ようとしなかった

 

 

「ちっ、何をやってるんだ」

「黄祖様、もしかしてあっちで何かあったのでは?」

「それにしても誰一人としてこないなんておかしいだろう…仕方ない、この場には数人を残しておいて他は俺と様子を見に行くぞ」

 

 

 

 

そして部下たちが待機していた場所…

そこに着くと黄祖と部下達は驚愕せざるを得ない現場に遭遇してしまった

 

 

 

そこには人一人居なかった

あったのは…

 

 

 

血生臭い何かの欠片の様な物体と…

それを食している野生の動物達

そして…黄祖のたちの部下たちが持っていたであろう武具などだけだった

 

 

 

それを見た瞬間、黄祖の部下たちの多くがその場で吐いてしまった

仕方ないことだろう

ほんの少し前までは一緒にいたはずの者たちが皆、無残な状態で動物達に喰われているのだから…

 

 

 

この異常な場所から少しでも離れよう

そう判断した黄祖は声をあげようと部下達の方へと向き直った

だが…

 

 

 

ここで一つの異常に黄祖が気が付いた

 

 

部下の数が…

 

 

 

減っていたのだ

 

 

 

つい先程まで一緒にいたはずなのに…

 

 

 

 

「お、おい…お前達、他の奴らはどうした!?」

「ゴホッ…ゴホッ…え、な、なんですか?」

「数が減ってるんだよ!? お、お前達、見てないか?」

「あ、あれ…ほ、本当だ」

「さ、さっきまで俺達の隣にいたのに…」

 

 

 

その言葉でようやく黄祖の部下達も自分たちの周りの異常に気付くことが出来た

いや、気付いているのだが…

一種の錯乱状態に陥っていた

 

 

 

「お、お前達!! 周りを警戒しろ!!」

「は、はい!!」

「お、おい…また数が減ってるぞ!?」

「う、嘘だろ…」

「い、嫌だ…こ、こんなところで死にたくない!!」

 

 

 

混乱が更なる混乱を呼ぶ

それはもうその場にいた誰にも止められなくなっていた

 

 

「に、逃げるぞ!!」

「こ、ここにいたら死んじまう!!」

 

「お、おいお前ら!! 勝手に逃げるな!!」

 

黄祖は自分の部下達の逃走を止められず、かといってこの場から身動きできずにいた

その場に残ったのは黄祖自身を加えてほんの数名

 

 

そして次第にその数もゆっくりと…そして静かに減って行き…

 

 

気が付けば…黄祖の周りには誰も居なかった

 

 

 

 

そのせいだろうか…

 

黄祖は精神に異常をきたし

 

 

 

「あひゃひゃひゃ!!! 」

 

 

剣を振りまわしながら奇声をあげ、あらぬ方向に歩き始めた

 

 

 

そしてそんな黄祖も…

 

 

 

「あひゃひゃぐガッ………」

 

 

静かに討ちとられていった

 

 

 

 

 

「………(お仕事終わり)」

 

 

 

暗殺部隊をしている影夜の部隊によって

 

 

 

 

そして影夜は残った仕事を片付けに動き始めた

少しでも早く咲夜の元に戻るために

 

 

 

 

それから暫くした後、紅蓮は遅れて追ってきた雪蓮と祭、冥琳の部隊によって救出された

三人は当初、血まみれで右腕は無くなっている紅蓮を見て愕然としてしまったが、息をしているのを確認するとすぐさま軍医にを呼ばせながら紅蓮の容体を確認しつつ、周りに敵兵が居ないかを確認し始めた

 

 

 

やがて軍医が紅蓮の容体を診ると…その軍医は驚きを隠せずにいた

何故なら、紅蓮の体には既に十分と言えるほどの処置が施されており、後は時を待ちながら十分な休息をとることだけであったためである

 

 

「…これは明らかに何者かが紅蓮様を助けてくれたのだろう」

「でも変じゃない? 誰もこの場に残っていないし、それに戦闘の痕跡はまったく残っていないのよ? あるのは母様の部隊の兵の死体だけ」

「そうじゃのう…劉表軍の死体が一つも見当たらぬというのは奇妙じゃ」

「…それにしても誰が」

「…勘なんだけど、咲夜じゃないかって思うのよねぇ」

「何? 咲夜じゃと?」

「ええ、多分だけど…」

「…雪蓮の勘は馬鹿には出来ないけど……奴は今江夏で内政をしている最中だぞ」

「……」

 

 

 

雪蓮と祭と冥琳が話し合っている中…

 

 

 

「しぇ、雪蓮様~~~~!!!」

「あら、明命? 何かあったの?」

「ハァ…ハァ、そ、それが…劉封軍が一軍を率いて我が陣を訪れ、江陵攻めに加わるとのこと!」

「っ!?」

「…やっぱり私の勘は当たってるかもね」

「そ、それから雪蓮様と冥琳様に程昱と荀攸から話があると言伝を」

「…行きましょうか、母様もゆっくりと休ませてあげたいしね」

「そうね…」

 

 

 

雪蓮達はゆっくりと自分達の陣に戻って行った

そして陣に戻ると雪蓮は状況の説明を祭に任せ、冥琳と共に風と燐花の待っている天幕へと歩いていった

 

 

その場に行くと既にそこには蓮華と思春、そして焔耶も居た

 

 

「さて…荀攸に程昱。貴方達が劉封の代わりということかしら?」

「そゆことになりますね~」

「現在、我が主は荊州城を攻めており、劉表を追い詰めております故」

「…江夏を治めたばかりというのに、大丈夫なのか?」

「それに関しては我が軍は有能な武官・文官が揃ってますからね~」

「それに既に劉表軍の内部は一部を除いて手を入れていますから」

「…本当に恐ろしい奴だな、劉封という男は」

「私達自慢の国主だからな」

 

 

 

そこまで話すと皆、一呼吸置き…

 

 

 

そして先程とは違って真剣な顔をした雪蓮がゆっくりと問いかけ始めた

 

 

 

「さて、ここに来た理由と…後少しだけ聞きたいことがあるのだけど」

「どうぞ~」

「まず、どうして江陵攻めを?」

「元々我々は二面作戦を実行する予定だったのですよ~。ですが、その前に呉軍が動いているという連絡を受け、至急動くようにとお兄さんは指示したのです」

「…そうか」

「一応、使者は行かせたが既に進軍しているという報告を受けたのよ。だから、私達も私達の判断で進軍したわけ」

「成程、納得したよ」

「他に聞きたいことは何ですか~?」

「………先程、母様が黄祖の奇襲部隊を追って…落石の罠にはまったわ」

「っ!!?」

「紅蓮…様が?」

「姉様!! か、母様は!?」

「…大丈夫よ、右腕は失ってしまったけど、一応生きてはいるわ」

「そう…ですか」

 

 

蓮華は当初酷く慌てたが、雪蓮の言葉を聞いて安心したのか、それとも腰が抜けてしまったのか、膝を地に付けてしまった

思春は表情に見せない様にしていたようだが、それでも他の者には分かる位に動揺しているのが分かった

それも無理もないことだろう

 

 

蓮華にとっては国主である以前に大事な母親なのだ

その母が死んでしまったかもしれないような言われ方をしたらそれは驚くだろう

 

 

 

「さて、それは大変でしたね。ですが、何故それをこの場で?」

「母様の周りの状況が余りにも不自然な事があったのよ。黄祖の罠は明らかに的中していた。それなら黄祖は母様の首を取ることも出来たはず。なのにそれを行わず、しかもその場にいたという痕跡すら残さずに消えていた。部下の一人も残さずにね」

「……(もしかして)」

「それで? 私達に何を聞きたいんですか?」

「単刀直入に聞くわ。…母様を助けてくれたのは、貴方達の指示? それとも劉封?」

「さあどうでしょう? 少なくとも我々はそういった指示は受けていませんね」

「………そう」

「それで? そちらはこれからどうするんですか?」

「冥琳」

「我らは長沙に帰還する。国主の紅蓮様がこの容態なのだ。少しでも早く安静にして欲しいのだ」

「そうですか、なら江陵は私達が攻めますね~」

「ああ…悔しいが、此度の戦は我らの負けだ」

 

 

 

話を終えると雪蓮、蓮華、冥琳、思春はその天幕を後にしようとする

その時、風が一言だけ呟いた

 

 

 

「…袁術に注意」

 

 

それに気付いたのは冥琳と雪蓮…

 

 

「…国主の忠告なのです~」

 

 

 

「……本当に恐ろしいわね」

「ああ、そうだな」

 

 

 

こうして呉軍はゆっくりと引いていった

 

 

その退却の最中、袁術が軍を動かす気配を見せるという情報が雪蓮達の元に入るも、結局袁術軍は軍を出さなかった

 

 

いや、出せなかったのだ

 

 

何故なら、その動きを江夏にいる杏が袁術に対して牽制をしていたためである

 

 

こうして呉軍は三度にわたって咲夜の軍に助けられたこととなった

 

 

 

それから6日後…

 

 

 

江陵、荊州城共に咲夜の軍によって落城することとなった

 

 

 

 

咲夜はまず内通していた者たちの取り立て、そして国主劉表とその一族、そして側近とも言えた張允と蔡瑁などのことを決めることとなった

 

 

 

まず劉表とその一族だが、咲夜はとりあえずこちらで取り立てることもせずただ、身分を落とすことにした

劉表が生き残ったとしても大した害にはならないと皆が判断したためである

 

 

次に蔡瑁、張允の二人だが、この二人は満場一致で処断することになった

生かしておいたら確実に咲夜に牙をむけるだろうと思ったためであるのと、以前蔡瑁が捕えられた時、もう一度咲夜に攻撃すれば今度は命を刈り取る。だから、もう二度と攻めて来ない様に進言しておけと忠告していたのだ

それなのに、荊州軍は襄陽に攻めてきた

 

 

それ故に、処断することとなった

 

 

次に咲夜が事前に行っていた内からボロボロにするという策、それが見事に的中し、劉表の部下の大半が咲夜に従順することになった

 

その代表が王威、蒯越、霍峻、韓嵩、王儁、鄧義などだった

 

 

それから落城した後、その者たちの説得もあって文聘、龐季、傅巽なども劉封軍に降伏し、従ってくれることを約束した

 

 

 

こうして咲夜は樊城、襄陽、江夏、江陵、荊州と5つの城と広い領土を得ることとなった

 




荊州という郡の大半を手に入れた咲夜
そして更に領土は増えていき、咲夜は朝廷にとあるものを名乗るようにという勅を受け取る
咲夜は、こうして更に力を得ていくのであった


次回、第十話
荊州王 劉封


…予告ってこういう感じの方が良いんでしょうか?

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