真・恋姫✝無双~とある男のそれなりに不幸な人生~   作:世紀末敗者寸前

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番外編:襄陽での咲夜

番外編:襄陽での咲夜

 

洛陽から襄陽に戻った咲夜はそこにいた家臣全員に挨拶をすると、直ぐに自分の仕事を確認するべく、自身の仕事部屋に入って行った

 

 

かなり時間、黄巾党殲滅のために進軍していたために部屋にはかなりの量が溜まりに溜まっていた

 

 

「うわ~…これ全部俺の仕事ですか。見てるだけで軽く欝になるなぁ…」

 

 

文句を言っていても仕方がないため、とりあえず咲夜は目の前にある物をちゃっちゃと片付けることにした

 

 

 

 

「えっと…まずは」

「失礼します!!」

 

 

 

バタンといきなり扉が強く開かれ、仕事を始めようとした咲夜は思わず固まってしまった

ドアを開けたのは何やら少し焦っている焔耶だった

 

 

 

「ど、どうしたんだ? そんなに慌てて…」

「咲夜様!! 帰ってきたのなら直ぐに私の所に来て下さいよ!!! あの三人をこれからどうすればいいか分からなかったんですから!!!」

「あの三人……ああ、天和、地和、人和の三人だね」

「そうです!!」

「…ふむ、ならこの部屋に連れて来れるかな?」

「了解です!」

 

 

 

焔耶はそのままかなりの速度で部屋を出ていった

 

 

 

「やれやれ…これでようやく落ち着いて仕事が始められるかな」

 

焔耶が来るまで時間がかかると思って咲夜は再び、仕事を始めようとしたのだが…

 

 

 

 

ガチャッ

 

 

「失礼しま~す」

 

 

今度は風がゆっくりと扉を開けて入ってきた

 

 

 

「…焔耶の後は風か? 何か用か?」

「そうですね~、今後の動きの確認と洛陽で詠ちゃんから受け取った手紙の内容の確認、それから風が町で見つけた優秀な子を武官として推薦したいのですよ~」

「…前の二つはとりあえず雛里、麻理、燐花の三人も入ってもらおうか。残っている諸葛瑾、姜維、劉曄、董允、馬良たちはそれぞれの部署で一生懸命に働いて貰っているしね。で、最後の推薦したい子って?」

「はい~、じゃあ雛里ちゃん達を呼ぶ時に一緒に連れてきちゃいますね~」

「了解」

 

 

 

そうして風も部屋を後にしていった

 

 

 

 

「…中々仕事が始められないな…まあ今度こそ」

 

 

 

 

コンコン…

 

 

 

「…二度あることは三度ある、か。…どうぞ」

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「失礼します、咲夜様」

「しつれいしま~す」

 

 

今度は紫苑に璃々ちゃんの二人だった

 

 

 

「ん、二人とも何か用? 取り急ぎの仕事は俺や風たちだけで紫苑達留守番組は今日は休暇のはずだけど?」

「ええ、ですから今日は璃々と一緒にゆっくりと買い物でも楽しもうと思ったのですが…」

「ねぇねぇ、しゃくやしゃま。今日は一緒に璃々とお母さんと一緒にあそびにいこ~よ」

「…え、えっとね璃々ちゃん。今日は俺は紫苑とは違ってやらなくちゃならないことが沢山あるんだ。だから…」

「い~~~や~~~~!!! あ~~~~そ~~~~ぶ~~~~の~~~~!!!!」

 

 

 

珍しく、璃々が駄々を捏ね始めてしまった

しかも少し涙目でだ

 

 

「…う~ん」

「申し訳ありません咲夜様」

「…よし、なら午後からにしないかな?」

「え?」

「今日はこの竹簡の山の片づけとちょっとした話し合いだけにして、午後から紫苑と璃々ちゃんと一緒にお出かけしてあげるよ」

「本当!?」

「ああ、約束するよ」

「わ~~い♪」

 

 

先程までの涙目とは裏腹に打って変わって笑顔になる璃々ちゃんに咲夜は…

 

 

 

「(この子っ!! 紫苑とはちょっと似てないかなって思ってたけど…こう言う所は本当にそっくりだっ…璃々、恐ろしい子っ…)」

 

 

 

という風に考えていたとか

 

 

 

 

「ほ、本当によろしいのでしょうか?」

「まあとりあえず重要な案件だけかたして、後は焔耶に指示を出した後に、風たちとちょっとした話し合いをするだけだから」

「…分かりました。あ、それから咲夜様に一言お願いがあるのですが…」

「???」

「今度、是非杏ちゃんとも一緒に出かけてあげて下さい」

「あ~、そういえば杏は今どうしてるの?」

「お料理の訓練中ですよ。自分の部隊の中にいる料理上手の子に色々教わっているみたいですね」

「へ~…努力家だね、やっぱり」

「ふふふ、咲夜様。是非、杏ちゃんの料理は一番に食べてあげて下さいね」

「ああ、今から楽しみだよ」

 

 

 

それだけ言い残すと紫苑は璃々を連れて部屋を出ていった

 

 

 

 

「ふぅ~、さて!! ちゃっちゃと終わらせましょうか!!!」

 

 

 

それから咲夜はまさに疾風の如く、右手に筆を持ち、左手は確認必須の竹簡を確認しながら必要事項を書き記していった

大事な所には印を押し、即刻部隊や他の文官に回すべき物は直ぐに部下を呼んで届けさせた

 

 

 

そんな仕事をしながら、まずは焔耶が天和、地和、人和の三人を連れて部屋に戻ってきた

 

咲夜は仕事を片付けながら三人には基本的には給仕をして貰うことにした

そして手が空いている時は、人和には文官の手伝いを、地和には町に出回っている服専門書籍などの出回り具合や町中にある服専門店などの手伝いを、そして天和には寺子屋や孤児院で子供たちの世話係をして貰うことにした

 

そして厳重注意として絶対に人前で歌ったり踊ったりしないことを再確認させ、三人にはとりあえず少しのお金と三人それぞれの部屋を用意してあることを伝えた

それから三人には個々に町の案内役を付け、今日は一日町の様子を見て回っておくようにと確認させた

 

 

それぞれの面持ちをしながら三人はそれぞれの案内役と共に町へと歩いていった

残された焔耶は、咲夜の指示によって今度攻めるであろう荊州城陥落のために兵たちにそれを意識させた訓練を行わせるようにした

 

 

 

そして焔耶と入れ違いに今度は風たちが部屋にやってきた

 

 

風、雛里、麻理、燐花、そして咲夜を中心として今後の動きを検討し始めた

まず第一として攻めるべきは劉表のいるであろう荊州、そして兵糧などが多く蓄えられているという情報のある江陵

 

ここまでは以前から決まっていることだった

だからその後、どうするかを決めているのである

 

 

 

「それにしても悪いな。燐花に麻理。二人は俺達が帰ってくるまでの間、留守を任せっきりで忙しかったはずなのに」

「しょ、しょんなことありましぇんよ!?」

「そうね…忙しいとしたら馬鹿狸(劉表)から来る書状とか明らかに挑発としか思えない行動に対して備えたりとか…それぐらいしかなかったわ」

「それでもだよ。二人とも、ありがとうね」

「…別に良いわ。それよりも咲夜はどう考えてるの?」

「…まあとりあえず荊州と江陵は落とす。序にだけど荊州が落ちれば後は自動的に江夏、上庸、西城辺りは自動的にこっちの領土に入ろうとして来るだろうな」

「まあ江夏、夏口辺りは劉表の影響もあるし、それが消えてしまえば後ろを守ってくれる輩がいなくなるから当然のことね」

「でも上庸、西城辺りは領土に入ってもあまり意味はないんじゃないですよ~。逆にあの地を守るとなれば今度は劉障軍と戦うことになるかもしれませんしね~」

 

 

 

咲夜の考えを燐花と風が補足し、その問題点などをあげていく

 

 

 

「でもそれは殆ど心配いらないのではないかと思います。劉障は愚王と言われ、今治めている領地をほぼ放っておき、自身は女性と日々を過ごしているとか」

「税もかなり高く、民からも不平不満が募っている一方とか…」

「まあ確かになぁ。それに今の蜀って、主に呉懿、張任、法正、張松、孟達、李恢、李厳等に支えられて、外からの敵に対しては巴郡にいる厳顔という将軍が纏めているとか」

 

 

 

雛里、麻理は風の考えに対して自分の考えを答え、麻理もそれに同調し、咲夜も現在の蜀に対する情報をあげていく

 

 

 

「そういえばお兄さん、最近蜀から密使が来たということを耳にしたのですが…」

「……何処で聞いた?」

「影夜ちゃんからです。お兄さんが少し神妙な顔をしていたので気になったそうです」

「……ハァ、まあ確かにそうだな」

「? どうしてそんなこと黙ってたの?」

 

 

 

咲夜の様子を見て燐花が不思議そうに聞いてきた

 

 

「…実はな、蜀の重臣の一人であるはずの張松からの密使だったんだよ」

「「「!!!」」」

「…ほぅほぅ。それで? 内容は何だったのですか?」

「…今蜀は、現益州王の腐敗した政治体制の影響で民は苦しんでおります。故に私と心通じ合う仲間が手はずを整えます故に蜀の地を得てはみませんか?…っていう内容だ」

「つまりは…蜀に進軍するならこちらは中から動くということですか…」

「それで…その…咲夜様は何とお答えしたんですか?」

「はっきり断った」

 

 

 

麻理の質問に対し、僅か0.5秒の速さで即答した

流石の四人もそれには少し驚いた

 

 

 

 

「わ、訳を聞かせてもらってもよろしいですか?」

「理由はいくつかあるが…(まあ孟達が居るのが絶対に嫌なんて言えないしな…それが第一の理由というわけではないけどさぁ…)まず第一に遠征するだけの軍備と兵と将が足りない。正規軍が現在約8万、今回の黄巾党の乱の際に捕虜としたうえで新たに軍に加えようとしている兵が約3万、計約11万となるわけだけど、まず樊城と襄陽に最低限でも兵は残すなら4万づつ。何故なら確実に俺達が遠征をするというのなら留守を狙おうとする輩がいるからだ。第二に、いくら張松などがこちらについたとしても益州は地の利が進軍するには悪い。戦をする前に兵が疲れてしまうし、地の利も向こうのほうがあるから奇襲を受けてしまえば大打撃だ。その上、兵糧を輸送したりする際にそれを狙われてしまったりもすればまずそれが命取りになりかねない。第三に張松などが信用出来ない。俺は手紙や風評のみでは人を完全に判断したりはしない。故にこの張松がいくら手紙を送ってきたとしても俺はまず信用はしないだろうな。後はやっぱり蜀を甘く見ることが出来ないから…かな?」

「? どういうこと? 三つ目までは理解出来たけど最後のは分からないわ。だって蜀軍は殆ど守ってばかりで戦の経験のあるのはごく僅かだって聞いているわ」

 

 

咲夜が地震の考えをすべていい終えた後で、燐花が最後の蜀軍に対する咲夜の認識に対して疑問を抱いた

蜀軍は国主、劉障が馬鹿な故に戦をしようとは思っておらず、唯一対立しているのは漢中の張魯位なのである

後は、五胡や南蛮の侵攻を防ぐために防衛線を張っていたりするだけでそれらを動かすことは出来ない為に、中心にいるのは新兵、もしくは戦の経験が全くない兵士のみだと報告に入っていたのだ

その為、燐花は勿論、雛里や麻理もそう思っていた

ただ一人、風だけは違っていたのだが…

 

 

 

「皆さん~それは少し浅慮だと思います」

「? どういうことですか、風さん」

「確かに蜀軍は我が軍と比べると大した練度ではありません~。しかし、立地の条件をそこに加えると蜀軍はそれだけで脅威になるのです~。それを踏まえたうえでの考えだと風は蜀への進軍は反対します~」

「…風、補足してくれてありがとう」

「いえいえ~」

 

 

 

咲夜の説明を風が少し補足し、雛里たちも納得してくれたようだった

 

 

 

「じゃあ簡単に纏めるよ。まず荊州・江陵を落とした後、さっき言った四つの都市の太守がこちらに来たら状況などによって受け入れをするかを決める。それを終えた後、もしかしたらだけど他の荊州の郡へも進軍するかもしれない。武陵太守金旋、零陵太守劉度、桂陽太守趙範…どの太守もまともな政を行っておらず、私腹を肥やしている傾向有りとか。まあまだ確定事項ではないからな。とりあえず確定してるのは狸ブッ転がすことだけだ…フフフフフフフ…」

「しゃ、しゃくや様!? こ、こわいでしゅ…」

「お、おちちゅいてくだしゃい!!」

 

 

 

どす黒いオーラを出しながら笑顔で静かに笑う咲夜…

しかも目だけが嫌なくらいに微妙に開いているのでそれが余計に怖さを助長させる

 

 

雛里、麻理はそれなりに長く咲夜と共にいるがこれだけは慣れずにいた

 

 

 

話が終わりかけていた頃、咲夜は一つのことを思い出した

 

 

「あ、そういえば風。一人、推薦したい子がいるって言っていたよね? 誰かな?」

「………ぐぅ」

「「寝るな!!!」」

 

思わず咲夜と燐花が突っ込んだ

 

 

「おお、これは失礼。すっかりそのことを忘れていました。今は私の部屋に待たせてたのです」

「? 何でだ、連れて来てくれっていったのに」

「それが「これから重要な話し合いがあるのだろう? それに見ず知らずの居るとなれば会話しにくくもなるであろうに。故に私はここで面までも食べて待っているとするぞ」だそうです~」

「……何でメンマ?」

「大好物だからだそうですよ~」

「そ、そう…とりあえず会おうか」

 

 

 

麻理、燐花には休暇を楽しんでもらうことにし、雛里には自身の仕事に戻って貰った

風はその紹介したいという人物を今度こそ、咲夜の元に連れてきた

その間、約5分ほど

 

 

 

「始めまして、俺がこの襄陽、そして樊城の太守をさせてもらっている劉封だ」

「…ふむ、風から色々と話は聞いたが…確かに良き漢であるな」

「そうですよね~」

「……風、君は俺をどういう風に説明したんだ?」

「そんなことよりも星ちゃん、自己紹介ですよ~」

「ふむ、そうだな。劉封殿、私は性を趙、名を雲、字を子龍と申す。此度は我が友程昱殿の推挙と私自身の目を持って貴方を我が主とし、仕えたい」

「…ふむ、君があの噂の【常山の昇り竜】か」

「おや、私のことをご存じで?」

「ああ、槍の名手だそうだね。だけど聞きたいことがある。何故、我が軍に入りたいと思った? 他にも有力な勢力は多々あるだろうに」

「…私は各地を旅し、私が槍を振るうべき主を探していた。袁紹、曹操、孫堅、公孫賛、張魯などなど…だがどの主も私が使えても私が槍を存分に震えぬと思えて仕方なかった。故に私は一時、時を待ち、私が使えるべき主が現れるまで身を潜めよとも思った。その矢先、風が仕官したと聞いている襄陽の近くにたまたま居たのでな。旧友を深めようと思い、訪ねてきたのだ。そして、先程風からここに仕官したらどうかと聞かれた。最初はいくら風からの言葉でもと思ったのだが…この国の民の顔を、町の様子を、そして貴方の顔を見て決めたのです。我が槍、龍牙

りゅうが

を振るうべきに値するであろうと」

「……成程ね、了解した。これからよろしく頼むよ、趙雲殿」

「星とお呼びください、劉封殿」

「ならば俺のことも咲夜と呼んでくれ。それが俺の真名だ」

「ふふふ、ならば主とお呼びしても?」

「ああ、ご主人様とか変な呼び方以外なら何でもいい」

「おやおや、主はそういうことはお嫌いですか?」

「偶にならいいが…別に俺にはそう呼ばれたい願望なんてないし」

「ふふふ、分かりました」

「じゃあ、これから星は軍部に所属して貰うことになるから。この城のことは風に聞いてくれ」

「「分かりました(~)」」

 

 

 

そんなことがありながらも咲夜は何とか自身の仕事で早めに終わらせるべき物を終わらせ、璃々と紫苑を迎えに行き、一緒に出かけることにした

 

 

 

その際に璃々は咲夜に肩車をしてもらい、紫苑は咲夜と手を繋ぎながら町の中を歩くこととなった

 

 

 

 

「わぁ~い♪」

「うふふ、璃々ったら」

「……」

 

 

 

咲夜は一人、町の光景を見ながら璃々と紫苑の笑顔を…そして町の中に溢れている人々の笑顔を見て、自分のやってきたことが間違っていないのだと強く思うことが出来ていた

表面上は冷静な顔をしていても、咲夜はやはり時々不安になってしまう時があるのだ

 

 

―――自分の行った政は正しかったのか?

―――もっと最良の策があったのでは?

―――救えた命があったのでは?

―――時を違えてしまったのではないか?

 

 

などなど…様々な負の思考が頭を過ってしまうのだ

そういう時、咲夜はまず自らの周りを見ている

自らの行いによる結果は、大体他の人を見ていると分かったりするものだ

咲夜は樊城の太守になる前まで様々な場所を旅して回ってきた

そこで見た物は文明や技術だけではなく、人々の笑顔だった

だが、時折その笑顔が消えてなくなり…変わっていく所も幾度も見てきた

悲しみに…憎しみに…恐怖に…

 

それを見るたびに咲夜は胸が締め付けられるような痛みを経験した

 

 

そしてその時、こう思ったのだ

 

 

 

【もう俺は…誰かの涙を見たくないっ…】

 

まあこれの元ネタは仮面ライダークウガなんですけどねぇ

因みに咲夜は前世ではライダーシリーズは大好きで特にクウガの主人公には一種の憧れを抱いていたのだ

 

 

 

そんな咲夜を隣にいた紫苑はちょっと心配そうに見ていた

それに気付いた咲夜は紫苑に「大丈夫だよ」とだけ答え、そのまま買い物を続けた

 

 

 

 

そして、その後、一人執務室に戻った咲夜は残りの仕事を片付けることにした

明日、また皆が笑顔でいられる様に…

 

 

そう心に願って…




暫くは番外編&荊州攻略戦がメインになります
誰かとの絡みを書いて欲しい等の要望があれば是非
ご応募、待っております

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