真・恋姫✝無双~とある男のそれなりに不幸な人生~   作:世紀末敗者寸前

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第八話

黄巾党との戦いが終わった直後、咲夜は張三姉妹を自身の天幕に連れてくるようにと焔耶に指示した

そして秋葉と風に周りの見張りの手配とすべての話が終わるまで誰も近づけないようにさせた

 

 

やがて顔を真っ青にした張三姉妹が連れて来られた

 

その場に立ち会うことになったのは焔耶・雛里の二人

この二人を選んだ理由はまず雛里は普段はあわわ軍師などと言われているが、こういった時はきちんとした判断を下すことが出来るためであり、尚且つ風は丁度事後処理の担当だった為、不参加となったのだ

次に焔耶をその場に留めたのは軍師でも国主でもない軍部にいる焔耶からの意見を聞くためである

因みに秋葉は風と同じく戦後処理の担当のため不参加

 

 

咲夜の天幕は自身が選んだ30の兵で覆われており、張三姉妹には完全に逃げ場はなく、更に誰も近づけない様になっている

 

 

 

そんな中、いよいよ咲夜の話が静かに始まった

 

 

 

 

「さて、自分の立場は良く分かったね」

「「「………」」」

 

 

三人は未だに顔色を悪くし、俯いたままだった

 

 

 

「ふぅ、話が進まなそうだからさっさと用件だけ言おうか。俺や雛里、焔耶も今は忙しくなりそうな立場にあるしね。まず第一に先程、俺は君達に罪を償うための手助けをしてやるといったね。だがその前に君達に選択肢をあげるよ」

「選…択肢?」

「ああ。一つ目はこの場で打ち首にして自分の罪から逃げ、曝し首にされること」

「「「っ!!」」」

「二つ目は既に張三姉妹は我が軍が討ちとったことにし、君達は名を捨て真名のみで生き、俺の元で働くこと」

「「「……」」」

「三つ目は二つ目とほとんど同じだけど、俺達の保護を受けず三人だけで下野すること。ただ、そうなったら他者の前で一切歌ったり踊ったりすることを禁じる」

「そ、そんな…」

「言っておくけど、選択肢を与えただけでも寛大だと思うぞ? 他の太守何かに捕まってたら、出世のための糧にされるか…性的な意味で食いものにされるか」

「「「っ!!?」」」

「そうですね…でも咲夜様、いいんですか?」

「…雛里、言いたいことは分かるがそれはこの三人との話が終わったらにしてくれ」

「……分かりました」

 

 

 

雛里はそのまま何か言いたそうだったが、咲夜に頼まれその場では黙っていることにした

 

 

「焔耶は何かあるか?」

「いえ、私は特にありません。ただこいつらが咲夜様の害になるのであれば即処分しようと思っている位です」

「そうか」

 

 

 

 

「…一つ、聞いてもいいでしょうか?」

 

眼鏡を掛けている子がおずおずと聞いてきた

 

 

「何だ?」

「…その…二つ目の選択肢を選んだ場合、歌うことは出来るんですか?」

「暫くは駄目だが、情勢が落ち着き、尚且つ三人が十分に罪を償えたのではないかと俺が判断出来たら許そう」

「…分かりました、なら二つ目の選択肢を選ばせて下さい。ねーさんたちも…それでいいよね?」

「……うん」

「…分かったわよ」

 

 

ロングヘアーの子は悲しそうに…ポニーテールの子は少し不満げにそれを承諾した

 

 

 

「なら今から君達は名を捨てること。今から真名のみで生きてもらうから。分かったね?」

「「「はい…」」」

「じゃあ一人ずつ教えて」

「…私は天和です」

「…ちーは地和だよ」

「……人和です」

 

「ん、なら暫くは君達は見張りは付けさせてもらうからね。雛里、何人か女性で選んでおいて」

「了解しました」

 

 

そうして天和、地和、人和の三人は用意された天幕に連れて行かれた

 

 

 

「…ふぅ」

「…お疲れ様です、咲夜様」

「お茶をどうぞ」

「ああ…ありがとう」

 

 

三人が離れたことを確認すると咲夜は深く溜息をついた

 

 

 

「……可哀想だけど、彼女たちはああするしかなかったんだよな」

「…咲夜様」

「あの子達は本当にただ純粋に歌って踊っていたかっただけだったんだろうけど…時期が悪かったんだろうね」

「はい…平和な時代であるのなら彼女たちがこうなってしまうことはなかったのでしょうね」

「…そうだな」

 

 

 

咲夜も好きであのような厳しいことを言ったわけではない

だがあそこでああ言わなければ彼女たちはまた同じ過ちを繰り返してしまうかもしれないそうなればまた多くの人たちの命が犠牲となってしまう

そうなることを防ぐため、そして彼女たちの行動によって起こった乱の被害と彼女たちの罪をちゃんと認識させるためにあえて厳しく接したのだ

 

 

 

「…さて、彼女たちはもう我が軍で助けると決めているからね。変わりは用意してあるしね」

「変わり…ですか?」

「雛里、さっきこっちで幾人か元黄巾党軍所属の兵に秘密裏に通達しておいたんだが…こう言う考えはどうだ?」

 

 

 

ヒソヒソ…

 

 

 

「…いいと思います。ですが何人かはそれが嘘であることに気が付いてしまうと思いますよ?」

「いいよ、それぐらいは承知の上だ」

「…分かりました」

 

 

 

 

 

後日…

 

 

咲夜は風、雛里を連れて華琳の陣に向かっていた

というのも黄巾党の頭である張角、張梁、張宝は咲夜と焔耶が討ちとったということになっていたからである

その為、咲夜は三つの首が入っている桶を三つ持ち、会合に参加することになったのだ

 

 

 

咲夜達が陣に入り、一つの天幕に案内されると既にその場には桃香、朱里、華琳、桂花、紅蓮、冥琳が居た

 

 

「すまない、待たせてしまったか?」

「いいえ、それほど待ってはいないわ。それよりも貴方が首領を討ちとったと聞いたわ。それは本当なの?」

「それが…どうにも分からないんだ」

「? どういうことですか?」

「皆、首領である張角、そしてその血族である張梁、張宝の三人の顔。誰か一人でも知ってる?」

「…知らないわね」

「知らんな」

「知りません」

 

 

華琳、紅蓮、桃香の三人が咲夜の言いたいことを理解し、咲夜は説明を続けた

 

 

「というわけでこちらとしては黄巾党軍の捕虜にそれらしい連中の首を見せて確認させることしか出来ないんですよ」

「…成程ね。それで?」

「とりあえず捕虜たちの声を聞いた結果、これらがその首領だそうです」

 

 

そうして出したのは首の入っている桶

勿論蓋は閉まっている

 

 

 

「確認させてもらうわ」

「どうぞ」

 

 

 

華琳・紅蓮は普通に、桃香は少し嫌そうに桶に入っている首を確認した

そこに入っていたのは何やら髭面で顔中に傷があるというのだけが分かるのだが、目や鼻などの至る所が重度の火傷であるために少々判別がしにくくなっていた

 

 

 

「…本当にこれがそうなの?」

「仕方ないだろう? あれだけ多くの火を使ったんだから。鎮火した後の死体となれば、これでも状態は良い方だと思う」

「…まあそうだな。では今回は咲夜が敵の総大将を討ちとったということになるのかの?」

「いや、この場にいる全員で討ちとったんでしょ?」

「「…は?」」

「だって今回のこの戦い、どれか一つの部隊でも欠けていたらもっと苦戦していたかもしれない。更には華琳さん、紅蓮さん、桃香、俺たちの中の一つでも参戦していなかったらこの戦いもどうなっていたか分かったもんじゃない。だからこそ、この勝利は皆で勝ちとったものだと俺は思うのだけど」

「……まあそういう考えもあるのだろうけど…」

「ふむ…」

「まあ朝廷には率直に伝えればいいじゃないですか?」

「…そうね、そういうことにしておくわ」

 

 

 

何やら含みのあるような顔をして華琳は咲夜を見据えた

 

 

 

「さて、じゃあこれで連合軍は解散ということになりますね」

「いえ、このまま洛陽に行くことになるわ」

「あ~、成程。でも俺はあまり行きたくないですねぇ」

「え? 爵位や恩賞は……ってそういえば貴方はそういうことに全く興味がないのね」

「ええ。ハァ…でもどの道呼び出されそうですし…仕方ないか。一部の部隊のみ引き返させることにしますか」

 

 

 

 

 

それから咲夜は仕方なく、半分の兵を雛里、焔耶に任せ、張三姉妹は厳重な監視の元、その部隊に入れ、襄陽に送ることとなった

 

咲夜のほうは風と秋葉を連れて仕方なく、洛陽に行くこととなった

 

 

 

 

 

そして洛陽に辿り着き…

桃香は新野の城の太守になった

そして華琳、紅蓮もそれぞれ相応の報酬を貰うこととなった

だが、咲夜のみそれを拒否した

 

 

だが、霊帝やその周りにいた者たちもそれを少しも不信とも思わなかった

何故なら、咲夜は今までもこういったことがあっても殆どそういう物を受け取らなかったのである

 

 

 

そして一時的な連合が解散されることとなり…皆それぞれの土地に戻ることとなり

 

 

 

 

「師匠…」

「凪、これを渡しておく。これにはお前の力を引き出す為の訓練方法が書かれている。自身の仕事がない時、必ずこれに従って自らを鍛えておくこと。今度会う時、どれだけ成長しているか…楽しみにさせてもらうよ」

「はい!!!」

 

 

本当に短い期間だけだったが師弟関係を築いていた凪(半泣き)と咲夜は一つの約束を交わし…

 

 

 

 

「今回の戦、貴方と一緒に戦えて私も得る物があったわ。感謝しておこうかしら?」

「あ~、まあこっちもそれなりに楽しかったよ」

 

 

華琳とは少し腹の読み合いをし…

 

 

 

「…咲夜よ。今度、荊州にいる邪魔者のことを話したいのじゃが」

「…分かりました。近いうちにそちらに使者を送ります」

 

 

紅蓮とは密約を交わし…

 

 

 

 

「咲夜さん! 新野って樊城から近いですよね!?」

「あ、ああ…そうだね」

「だから落ち着きが出来たらそちらに行ってもいいですか? また色々と教えてもらいたいんです!!」

「……か、考えておくよ」

「前向きにお願いしますね♪」

 

 

 

咲夜は相変わらずというか…桃香にタジタジ状態…

やはり苦手意識があるのか…それとも前世の記憶のせいなのか…

それは今は誰にも分からない

 

 

 

 

 

こうして別れを告げて、咲夜は風、秋葉と共に樊城へと戻って行った

 

 

 

その帰り道…

 

 

 

 

「…さて、風?」

「はい~。詠ちゃんから手紙は受け取っておきましたよ~」

 

 

 

洛陽に行った際、咲夜は序として詠から今洛陽における宦官たちの状況や月達の立場についてなどを纏めた書状を受け取っていた

 

 

そこには主に二つのことが書かれていた

一つ目は策略によって悪質な宦官たちへの偽情報を流したことで潰し合いが上手くいっていること

二つ目は最近、帝が病気気味のようでありとあらゆる医者たちが部屋を出入りしているということ

 

 

 

この二つの情報を得て、咲夜は少しだけだが嫌な予感を感じざるを得なかった

そして…それは少しした後、現実の物となってしまう

そう…咲夜が知る忠志での出来事…

 

 

 

 

――――反董卓連合


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