いよいよ布都と屠自古が尸解仙になる日が来た。
二人はそれぞれ自分の魂の拠り所とするものを持ってくる最中であるため、今儀式場には俺と神子しかいない。
何とも言えぬ雰囲気の中神子がその口を開いた。
「本当に、君はそれでいいのか?」
「どういう意味だ?」
「布都から話は聞いたよ。なんでも彼女と約束したって?」
「ああ、その件か。そうだ、俺と布都はとある約束をしたな。それで?」
「その約束の内容も聞かせてもらった」
「そうか」
「で、君はそれでいいのかとふと疑問に思っただけだ」
「俺はこれでいいと考えたからこうしただけだ」
「そうか…」
神子は興味なさげな返事をした。
他人の家庭の事情に首を突っ込むのもどうかと思ったんだろう。
そんなこんなしていると二人が帰ってきた。
布都が持っているのは皿、屠自古が持っているのは壺である。
尸解仙となる以上、その拠り所は丈夫なものであるべきだというのだから陶器という選択は妥当なところだろう。
…てか布都の持って来たあの皿って俺のじゃね?
「布都、その皿ってまさか…?」
「主のだが?もう使わないって言っておったじゃろ?丁度いいと思って持って来たんじゃが」
「うん、まあ確かにいらないとは言ったけど…」
「なら問題ないじゃろ?」
「ソ。ソウダネー」
論破された。
捨てるよりかはマシな有効利用であることは間違いないし、俺にも咎める理由もない。
…見なかったことにしよう、そうしよう。
ひと悶着はあったが、無事儀式は終わった。
死んだように眠る--実際に死んではいるんだが--二人の顔は幸福そのものであった。
二人の顔を見ていると後ろから声をかけられた。
「帰らないのか?」
「あと少ししたら帰るつもりだが」
「ならいい」
「それでこの二人の体はここでいいのか?」
「構わん」
そう言った神子は踵を返した。
部屋の入り口付近で振り返った彼女が思い出したように言う。
「ああ。そうだ…布都からの伝言がある」
「なんだ?」
立ち上がって俺は神子の方を見た。
外の光の影響で神子の表情はいまいち判別出来なかったが、彼女の声は悲しそうだった。
「『また一緒に暮らそうな』だ」
彼女は立ち去った。
俺はいまだ眠り続けている布都の顔をもう一度見た。
「…すまない」
彼女にキスを送り、俺は立ち去った。
その晩。
満月の晩であった。
物部家の人が眠りについたことを確認した俺は一人部屋を出た。
外に立っている見張り番をまず気絶させた俺は台所に向かった。
台所で油を確保し、それを主要な廊下にまき散らした後部屋に戻る。
そして部屋から火を放った。
煌々と火が燃え上がる様が部屋からも確認できた。
だんだんと熱くなっていく気温に意識がもうろうとし始める。
「ごめんな、布都。そして、------」
轟音と共に落ちてくる天井を見ながら呟いた言葉は掻き消された。
――――第一章、完