不老不死の氷噺   作:アンフェンス

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第四話

 

衝撃の来訪から早数カ月。

あれ以来時々訪れてきた仙人は来るたびに勧誘をしていった。

彼女の勧誘にいい加減うんざりしてきた俺はある時、こんな返答をした。

 

「隠居したら考えてやる。だからそれまでは不可侵ということにしておいてくれ」

 

彼女はその返事を聞くと北の盆地で待っていますとだけ言い残して去っていった。

今思い返せばなんとまあ愚かな返答をしてしまったんだろうとその時の自分を殴りたくなった。

 

 

それがほぼ一カ月前。

 

 

今の目下の悩みは目の前に突然現れた一人の客人であった。

 

「物部布都と良喜だな」

「誰だ、あんた」

 

布都と二人で遊んでいると突然その客人は現れた。

客人はケモ耳にも見える特徴的な髪形に、ヘッドフォンのような耳当て、時代錯誤も甚だしいマント、そして腰にはきらびやかな宝刀という特徴的過ぎる不審者であった。

しかしその不審者は俺の誰何に一切動じずに答えた。

 

「豊聡耳神子だ。それでおぬしらは布都と良喜で間違いないのだな?」

「違う、と言ったら?」

「違っているはずがなかろう。こういったことはお約束というものだ」

「そうか。ならその二人で会っているよ」

 

こんな不審者を通すだなんて門番は何をやっているんだと思いつつ返答する。

不審者は不審者で何かを探すように辺りを見渡しながら俺と布都に話し始めた。

 

「ふむ。時間もないことだし早速話を始めよう。今回私は君たちにある提案をしに来たのじゃ」

「提案…?」

 

俺の隣で布都がつぶやく。

対する俺は数カ月前に聞いたようなその単語に眉をひそめるのであった。

 

「君たち、私とともに人の可能性を追求してみないか?」

 

あ、これあかんやつだわ。

そう思う俺とは対照的に布都はその話に食いついた。

 

「人の可能性とな!?それはつまりどういうことだ!?」

「君は興味があるようだな。人の可能性とは、つまり人はどこまで高みに上り詰められるかということだ」

「つまり、人がどれほど素晴らしいものになれるかということじゃな!」

「理解が早いようで助かるよ。と言う訳で君たちは我と同じ尸解仙となって永久の研鑚の時を積もうではないか!」

「結局仙人のお誘いかよ!!」

 

なんと、不審者の正体は仙人だったのだ!

前世の頃に持っていた仙人に対する憧れとか、イメージとかがぶっ壊れていくのを感じながら俺は叫んだ。

 

「なんですか、俺を仙道に誘うのが今仙人の間でブームになっているんですか!?」

「はて、私はただ単純に今の有力者の跡継ぎを誘っているだけに過ぎないのだが。他からお誘いが掛かっていたとは、とんだ拾い物をしたものよう」

「何故そこで俺が尸解仙になることを前提として話をする!俺は隠居後ならともかく、それまでは普通の人として生きていくつもりだぞ!」

 

不審者に真っ向から叫ぶ俺。

その会話で気になる点があったのか、布都がつぶやく。

 

「有力者の跡継ぎとな?それはつまり蘇我氏の跡継ぎも誘っているということか?」

「そうだな。蘇我氏の跡継ぎはかなり肯定的な返事をくれたぞ」

 

その言葉を聞いた布都の目が輝く。

この後言われることを察した俺はあきらめた表情で彼女の顔を見た。

 

「こうしてはおられぬぞ!早く我らもそのしかいせんとやらにならないとな!」

「いやまだ蘇我氏の跡継ぎが尸解仙になったかどうかは分からない話だし、そこまで急ぐ必要はないんじゃ?」

「ならなおさらじゃ!相手がなる前にこっちが成ってより上へといくのじゃ!」

 

ほら、神子殿からも言ってくれ!と布都は不審者に助けを求める。

助けを求められた不審者は俺をこんな言葉で勧誘し始めた。

 

「どうせ君はそのうち仙人になるのだろう?なら今のうちに修行を積んでおくと後々楽になるぞ」

「神子殿もそう言っているしな!一緒に修行をしようぞ!」

 

二人からの攻めに俺はなすすべなくうなずかざるを得なかった。

 

本当、愚かな返答をしてしまったなあ。


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