不老不死の氷噺   作:アンフェンス

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最終章 『不老不死、良喜』
第三十八話


 

ツケ。或いはフラグ。或いは伏線。

「あの時のあれは今ここにつながっていたのか」という点では全て同じである。

それが悪事の結果ならツケで、ジンクスに近いものだったらフラグで、そうじゃないなら伏線と呼ばれる。

つまり、あの時の俺はツケを払いに、フラグを迎えに、伏線を回収しにいったのかもしれない。

千二百年を超えるそれらを果たしに俺はいかされたのだ。

----あの場所へ。

 

 

文との再会からまた幾ばくもの時が流れた。

慧音とも再会し、彼女が人里を見て「ここが私の居場所だ」と守護者を名乗り始めた時も。

花妖怪と再会し、「相変わらずいびつな二人ね」といわれた時も。

宵闇の妖怪と再会し、彼女の変わりように驚いた時も。

全てが昔の話となり始めたころ。

 

スペルカードルールが発令された時も。

幻想郷中を紅い霧が覆いこんだ時も。

春先まで白い雪が降っていた時も。

全てが記憶から薄れ始めたころ。

 

夏の満月の夜のことだった。

竹林のいつもの小屋で二人で過ごしているとにわかに外が騒がしくなってきた。

 

「迷い込んだ人でもいるのか?」

「さぁ。こんな真夜中にここに来るなんて自殺志願者かなんかだろうな」

 

眠れずにいた俺らは暇つぶしにと外に出た。

 

「あら。本当に人が住んでいたわ」

「ここってあなた達が住んでいたのね」

 

外で待っていたのは紅白の(おそらく)巫女服に身を包んだ少女と紫。

謎の二人組の襲来に俺たちは困惑していた。

 

「こんなところに何の用だ?紫と…紅白?」

「博麗霊夢よ。あなた達こそ誰よ?」

「俺は良喜。でこっちが妹紅だ」

「まぁいいわ。肝試しの肝があんたたちなのかしらね」

「肝試し…?それでこんな危険地帯に来たのか?」

「ただの暇つぶしよ。生憎輝夜にもいわれたし」

「輝夜?あぁ…肝がある人間たちってあんたたちのことね」

「妹紅、輝夜が何か言っていたのか?」

「『久々に肝のある人間と会えたわ』って」

「そうか…輝夜がけしかけたって言うなら乗るしかないな」

「ちょっとアイツの思惑に乗るのは癪だけど仕方ないわね」

「何よ勝手に完結して…紫、来るわよ」

「こうやって相対するのはいつぶりかしらね…ま、人妖が対等に戦えるルールで戦うのは初めてだから関係ないわ」

 

そう言って俺たちは互いのスペルカードを構える。

真実の(満ちた)月の下、人知れず戦いが始まった。

 

戦いは互角に見えた。

けど決定的な結果だった。

よくよく考えてみれば博麗とは異変解決のスペシャリストの姓。

決闘(スペルカード)経験ではあっちの方が上手なのだ。

慣れない戦闘にじりじりと消耗していく俺たちに比べて相手は百戦錬磨のスペシャリスト。

どっちが勝つかなんて明らかな話だった。

 

「あ~!負けた!」

「負けたな」

「むぅ。スペルカードじゃなくて殴り合いだったら勝てたのに」

「俺らがやると殺し合いにしかならないからやめとけ」

「物騒なことを言うのね。殺し合いをそんなにして死なないのかしら?」

「霊夢、気付いていなかったの?」

「何が?」

「この二人、死なないよ?」

「え?」

「その死なない理由も二人で違っているけどね」

「ええ?」

「なんなら私の肝でも食べてみるか?」

「俺の肝は…喰わない方がいいな、うん」

「えええ!?」

「それはさておき。騒がせてしまって悪かったわ。帰るわよ、霊夢」

「ちょっとどういうことよ、紫!?」

「では、二人ともごきげんよう」

 

そう言うと紫と霊夢は竹林を去っていった。

 

「しかし、何だったんだあいつら」

「輝夜から何か聞いたっていう話だけど、何をしたんだ?」

「またあとで聞きに行きゃいいだろ。それよりも眠い」

「私も」

 

そうやって俺たちは小屋に戻って寝た。


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