不老不死の氷噺   作:アンフェンス

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第三話

 

俺が養子になってから数週間が経過した。

この数週間でわかったことの一つに物部家の強情さと貪欲さがある。

親は親で俺を後継者にするための準備を着々とおこなっており、子は子で俺を婚約者にする準備を綿密に行っている。

そのせいか俺は早くも物部家の世話人から若様などと呼ばれるようになっていた。

 

「若様、おはようございます」

「ああ、おはよう」

 

この屋敷に住み始めてからも続けていた朝の洗顔を行っていると朝食の準備かなんかで水を汲みに来た世話人に話しかけられた。

 

「若様は今日は何をされる予定ですか?」

「今日は久々に何もないから実家に帰る予定だな」

「成程。若様の母上に会いに行くというのですね」

「最近全く会えてないからな。いい加減元気な姿を見せてやりたいと思っていたところだ」

「それはそれは。孝行息子をもってさぞかし幸せな母上でしょう」

「よせやい。照れる」

「若様って案外照れ屋さんですよね」

「るせぇ。ほら、さっさと仕事をしに行けよ」

 

からかってくる世話人に水の入った桶を向ける。

 

「へぇへぇ。水をかけられないうちに退散しますか」

 

俺が何をするのか分かったのか世話人はさっさと退散していった。

息をついた俺はただ何となく顔を洗う作業に戻った。

 

 

 

 

久しぶりに母と再会した夜。

母の提案に乗る形で久しぶりに実家で一晩過ごすことになった。

昔自室として使っていた部屋で寝ていると、人が一人近づいてくる足音がした。

足音は扉の前で止まるとそこから全く音を出さなくなった。

 

「誰だ?」

 

このままではらちが明かないと思った俺はその足音の主に向け声をかけた。

相手はこちらが声をかけるのを予想していたかのように詰まることもなく声を返した。

 

「わけあって名は名乗れませんが、少なくともあなたに危害を与える気はありません」

 

…女性の声?

このご時世に女性が一人で男性の部屋を訪ねる--正確には部屋の前で止まっているが--ことはほとんどないため、俺は相手の意図を読めずに押し黙った。

俺の沈黙をどうとらえたのか分からないが、その声はしばらくすると声を続けた。

 

「いきなり睡眠中のところを押しかけてきて危害を与えないとは理解できないでしょうが、そこは信じてください。私はあなたを勧誘しに来たのです」

 

違う、俺が驚いたのはそこではない。

本当はそこを指摘したいのだが、それよりも気になるワードが彼女の言葉にあったので、そっちから話を聞くことにした。

 

「勧誘…?お前がどこの氏族に所属しているかは知らないが、俺のことを調べているはずだろ?なら俺がどういう状況かくらいは把握しているだろ?」

「ええ。あなたが物部家の養子となって数週間がたち、今ではもうすでに若様と呼ばれていることは既に知っています」

「そこまで把握しているなら俺がその誘いに乗るわけがないと分かるはずだが?」

「いいえ。私はあなたが人間、しかもこのはずれの島国という小さいところでどの勢力として生きていくかは全く問題にしていません」

「ならお前らにとって重要なことってなんだ?」

「私にとってはあなたみたいな素質のある者が人間のまま人生を謳歌しようとしているのが問題なんです」

「人間のままだと…?つまり、お前らは俺を人間以外の何かにしたいのか?」

「察しがいいようで助かります。私はあなたを仙人にするためにここまで来たんです」

 

仙人とはずいぶん大きく出た話だな。

でも、彼女の言っていることをまとめると俺には仙人になる素質があるということなのか?

 

「何だって俺が?俺は、自分で言うのもあれだがごく普通の人間だぞ?」

「いいえ。あなたは普通の人間ではありません」

 

これ以上ないほどに綺麗に返された。

そして真っ向から否定した彼女は理由を訥々と話し始めた。

 

「あなたは自分自身の父親がどんな人か聞いたことはないでしょう?あなたの父親は実は仙人だったのです。そして彼はあなたが幼いときに死神に命を狩られてなくなっています」

「まてまて。いきなり急展開しすぎだろ。父さんは幼いころに戦いで亡くなったって聞いてるし、仙人だなんて母さんはそんなこと言ってないぞ」

「それはだって言ってないですから。むしろあなたを仙人から遠ざけたかったからあえて言わなかったかもしれません」

「じゃあなぜその遠ざけたかった仙人が今ここにきている?」

「見つけたからです。いやあ、ここまで誰にも悟られずに来るのは大変でしたよ。物部家でしたっけ?あの屋敷の警備がすごくてすごくて。今日やっと接触できたんですから」

 

微妙に答えになっていない返答を聞きながら俺は絶句した。

出生に関する秘密とか、仙人が狙っていたという事実とか、いきなりすぎて脳がパンクしていた。

そんな俺の状態を察したのか、彼女はこんなことを言って来た。

 

「流石に一度にたくさん言い過ぎましたね。今日明日で返事をよこせとは言いません。それこそあなたが隠居してからでも構いませんので」

 

ではお達者でと言うと彼女はどことなく消えていた。

色々ありすぎて這う這うの体の俺は何もかも忘れて眠りにつくことにした。

 

 

 

翌日。

仙人に会ったことを母に話すと、鬼のような形相でその仙人を狩りに行くと言い始めたので必死に止めた。





ちょっと急展開だったかもしれません。

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