「じゃあお母さん、私はこれで失礼します!」
そう言って文が俺の腕を掴んだまま飛び立とうとする。
しかし、すぐにその翼は叩き落された。
「痛い!一体何するんですか?」
文を叩き落したのはいつの間にか拳を構えていた妹紅。
彼女は俺に確認するように聞いてきた。
「良喜。今日の晩御飯は焼き鳥でいいよな?」
「あー、うん。今日はそんな気分じゃなくなったから」
「そう?なら唐揚げかな」
「まず鶏肉から離れようか」
そんな会話をしていると復活した文が俺の腕にもう一度抱き付いてきた。
すると妹紅が鋭い目つきで文を睨む。
しかし彼女はその目に怯むことなく妹紅に挑発まがいのことを言った。
「そんなにうらやましいならお姉ちゃんもこうすればいいんですよ。お兄ちゃんには腕が二本あるんですから」
その言葉を聞いた妹紅は少し逡巡したのちにもう片方の腕を掴んできた。
両手をふさがれ呆然としている俺に天魔が話かけてきた。
「書類は二、三時間で出来るからその間適当な場所で遊んでやってくれ」
「了解しました」
天魔のプレッシャーに押され、俺は外に出た。
外に出た俺たちは文に引っ張られるように山の中を進む。
そうやって一軒の家にたどり着いた。
両腕ともふさがったまま俺たちは家の中に入る。
「この家は?」
「私の家ですよ」
「なんでこんなところに?」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんが今までどんな生活をしてきたかを聞きたいと思いましてね」
「お前と別れた後か?」
「いえ、その前も含めて」
「長くなるけど、それでもいいのか?」
「長くなるのは覚悟の上ですから」
「まぁいいか。しかし、こういったのを話すのも久々だなぁ。皆俺の人生を聞いて何が楽しいんだか」
「他人のことを聞くのは案外面白いものですよ。それがお兄ちゃんのような『普通』の人生を送ってない人のそれを聞くのは」
「そんな物かね?」
「少なくとも私はそうですよ」
「さいで」
半ば呆れた俺はいつぞやのように話を始めた。
文はそれを随時メモを取りながら聞いていく。
そうしてすべてを話し終えたころにはかなりの時間が経過していた。
「はー。波乱万丈としか言いようがない人生送っていますね」
「俺もそう思えてきた」
「お姉ちゃんはどんな感じだったんですか?」
「私?私は…良喜に会うまでは普通の生活だったよ」
「俺にあってからは普通じゃないのかよ」
「だって、会うまでは不老不死になることはもちろん、日本中を歩いたりそれどころか日本から出ていったりするなんて思ってなかったよ」
「京の貴族の娘だったわけだしな」
「なるほど。でも今の人生の方が楽しいですよね?」
「「もちろん」」
「幸せそうですね」
幸せそう、か。
そんなことを意識したのはいつ以来だろうか。
「良喜?」
「お兄ちゃん?」
「あ、すまんな。少し考え事していた」
何はともあれ、今はこの時を楽しむのが一番だな。
――――第六章、完