不老不死の氷噺   作:アンフェンス

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第三十六話

 

輝夜と妹紅はどうやら和解したらしい。

そう判断したのも二人だけで入っていった部屋(永琳曰く、輝夜の私室)から出てきた二人からはわだかまりを感じなかったからだ。

輝夜の服の一部がすすけていたり、妹紅のリボンが若干引きちぎれているのには目を瞑っておこう。

 

後日、幻想郷を一通り見て回った俺らは住むところを永遠亭がある竹林の中に決めた。

この事は意外にも妹紅から提案されたものだった。

理由を聞くと彼女は満面の笑みで答えてくれた。

 

竹林(ここ)に住めばいつでも輝夜と戦えるからな」

「お前らって和解したんじゃないのか…?」

「それはそれ、これはこれだ。あいつも私と戦いと思っているだろうしな」

「妹紅がそれでいいというなら俺は何も反対しないけどさ…」

「なら早速建築しようか。思い立ったが吉日っていうらしいし」

 

竹林での俺たちの新しい家の建築は思いのほかサクサク進んだ。

小さな家だったというのもあるが、それ以上にてゐや妖怪兎たちが手伝ってくれたというのも大きい。

 

「これで貸一つウサね」

 

建築が終えた時にてゐがそう言ったのがとても気になるが。

新しい家ができてからの日々は思いの外充実したものだった。

普段は家や近くにある永遠亭でゆっくりと過ごし、人里からの要請があればそれに答えて妖怪を倒しに行く。

倒しに行く妖怪の殆どは下級妖怪が多く、人語すら介さないものも多い。

そのほとんどが俺たちの敵ではないため、問答無用で退治していく。

逆に要請があっても人語を介するような敵にはまず説得から始める。

説得が失敗したら退治することに変わりはないのだが、そんな敵は強大な力を持つものが多く、普通の人間なら何もできずに殺されてしまうだろう。

その点俺たちは不死身で、妖術や仙術(のできそこない)を使うことができる。

普通の人間とはとても言い辛いそんな俺たちでも苦戦するときはするのだが、死なない体を使ってごり押しで退治していく。

そして退治した次の日には何事もなかったかのように永遠亭に遊びに行ったり、自宅でゴロゴロしたり。

 

そうやってかなりの時間が経過した。

具体的には分からないが、おそらく百年単位で時が過ぎたんだろう、多分。

ある日、人里からの使いから仕事の依頼が舞い込んできた。

 

「最近、近くの山で妖怪の活動が活発なようなのでちょっと調べてほしいんです」

「山って言うと、あの山?」

「はい。近くにあるあの山です。元々妖怪が多いあの山なんですけど、最近急にその活動が活発化していて、その上新しい妖怪の姿も見かけるようになってきたのでその調査

 

をしてほしいと思いまして」

「了解。報告はいつも通り、稗田の屋敷にすればいいんだよな?」

「はい。よろしくお願いします」

 

依頼を引き受けた俺たちは早速件の山へと向かう。

途中で何回か妖怪の襲撃を受けるが、それもいなしていく。

そうして山についた俺たちを待ち受けていたのは熱烈な歓迎だった。

 

「そこの二人。何をしているんですか?」

 

こちらに剣を構えながらそう誰何をしてくる相手の頭にはケモ耳。

腰には尻尾を生やした彼女はどう見ても懐かしきあの種族、白狼天狗だった。

 

「俺の名前は良喜。でこっちが妹紅。近くの人里の依頼で調査をしに来た」

「ここは私たち天狗の住処。これで満足か?」

「生憎だがそれだけでは満足できないな。なぜ天狗がこの山にやってきたのか、人里に危害を加える気はないかとか他にも聞きたいことがある」

「ふむ。まぁ人がここに入ってこないようになるならそれでいいか。なら私についてこい」

 

そう言って彼女は振り向いて立ち去っていく。

有無を言わせぬその姿勢に慌てて俺たちはついていくのであった。

 

そうして山を登ることおよそ2時間。

一つの屋敷に通された俺たちを待っていたのは天魔だった。

 

「貴様らが侵入者か。って、は?」

「あ、お久しぶりです」

「娘さんは息災ですか?」

「文なら毎日天狗社会のあちこちを飛び回っているぞ…って貴様たちがなぜここに?」

「近くの人里から依頼を受けたので。最近現れた新しい妖怪の調査をしに」

「あぁ、成程。私たちが来たからその調査をしに来たということだな」

「あなた達天狗だとはこちらも知らなかったんですが」

「貴様たちがここに来ることを私は知らなかったがな。まぁいい。人里ように何か文書でも渡せばいいんだろう」

「そんなとこです」

「じゃあ今からその文書を作るからその間…あー、そうだな。文のところにでも会いに行ってやれ」

「会いに来なくてもこちらから行きますよ!」

 

その時一陣の風が俺たちの間に吹き、現れたのは黒髪の少女。

最後に見た時からかなりの成長を遂げた彼女は笑顔で抱き付いてきた。

抱き付いてきたのは射命丸文。

天魔の娘の烏天狗だ。

 

「良喜お兄ちゃん、久しぶりですね!」

「文。久しぶりなのは確かだからとりあえず離れてくれ」

 

相棒とあんたの親の視線がいたいから。

二人ともマジで人を殺せそうな目をしているから。

 


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