目の前で輝夜が燃えている光景に呆けていると、その火達磨状態の輝夜が立ち上がって彼女を燃やした張本人を睨みつけていた。
「誰?あなた?」
「妹紅だ。あんたには色々言いたいことがあるからな」
「分かったわ。私にもあなたに言いたいことがたった今できたからちょっと表に出ましょう?」
そう言うと二人は門の外に出てしまった。
怒濤の流れに全く反応できずにいると、屋敷の奥の方からまた一人の女性が出てきた。
「輝夜ー、何があったの?いきなり轟音がしたけど」
「俺が聞きたいです」
「あら、見ない顔ね。初めまして。私の名前は八意永琳よ」
「あ、ご丁寧にどうも。俺の名前は良喜です」
「あなたが輝夜の言っていた良喜ね。何かお茶でも飲む?」
「いただきます」
座敷に上がると、永琳がお茶と茶菓子を持ってきた。
「それで良喜。私のことは輝夜からどれぐらい聞いているの?」
「月の頭脳と呼ばれる科学者で、輝夜の逃亡の手助けをしたというところでしょうか」
「そこまで聞いているのね。それであなたはなぜここに来たのかしら?」
「知り合いがいると聞いたので。彼女は今連れと外に行ってしまいましたが」
「あら、お連れさんがいるのね。その人はどんな人かしら?」
「まぁ、相棒みたいなもんです」
こうして何気ない世間話を繰り広げていると唐突に座敷の襖が開かれた。
「良喜!あの女って一体何なのよ!?いきなり私を燃やすなんて!」
「良喜!この女って一体良喜の何なんだ!」
襖を開けたのは輝夜と妹紅。
互いにボロボロになりながらお互いの顔を指さして俺に指さした相手のことを聞いてきた。
「うん、二人とも取りあえず落ち着け。一度に話しかけられても聞き取れないから」
神子でもない俺に一度に複数人の言葉を聞きとれるわけがなく、一先ず二人を落ち着かせることにする。
俺の言葉に従った二人は座敷に座った。
俺を挟んで。
本当はその着席に対してもいろいろ言いたかったのだが、それはあきらめて二人に互いのことを説明した。
「まず妹紅。こいつはこいつが讃岐造翁の養子だったころに俺が身辺の護衛をしていたと言う訳だ」
「え?」
俺の説明に疑問の声をあげたのは輝夜張本人。
彼女が何か言うともっと面倒くさくなることは明白なので、彼女を黙らせることにした。
「うん、お前は何も言うな。それで、輝夜。こいつは藤原妹紅と言って、お前に求婚してきた五人のうちの一人の娘だ」
「求婚してきた人の娘?そんな人が生きているわけないでしょ?」
「簡単に言うとこいつも蓬莱人、と言う訳だ」
「蓬莱人、って地上に蓬莱の薬なんて…あっ!」
「まぁ、その通りだ。詳しくは本人から聞いてくれ。で、妹紅」
「なんだ」
「満足したか?」
俺の質問に妹紅は俯き、小さい声で言った。
「まだ納得はできてないけど、彼女を殴るのは一発だけって決めていたから」
「そうか」
彼女の答えを聞いた俺は輝夜に向き合って、言った。
「すまないな。彼女のわがままに付き合ってもらって」
「全く何よ!勝手に納得して!」
「うん、後は二人の問題だから」
「あぁ、もう!妹紅、だっけ?ちょっとこっちに来なさい!」
「え!?えぇ!?」
「行ってこい、妹紅。いいたいことがあるなら思う存分ぶつけてこい」
こうして輝夜が妹紅を引きずって部屋から出ていくと、それまで沈黙を保っていた永琳が口を開いた。
「大変ですね」
「他人事だと思っ…いや、他人事か」
深く深くため息をついた。