「なんだこの竹林。ちっとも前に進んでいる気がしないぞ」
「同じところをぐるぐると回っているような…」
謎の女性――八雲紫というらしい――との話し合いが一段落した俺らは竹林に足を踏み入れていた。
というのもこの竹林の中に輝夜がいるらしいからだ。
それを聞いた妹紅が話が終わるや否や弾き出されたように迷いの竹林へと向かった。
そうして竹林へと足を踏み入れて早一時間。
目的地はおろか、現在地さへ分からなくなっていた。
「引き返そうにも今まで来た道すらわからないとは参ったなぁ、これは」
「もういっそのこと竹林ごと焼き払ってやろうかな」
「それはやめてくれ。竹林だけじゃ被害がすまないから」
そんなことをして紫の逆鱗に触れるのはまずい。
俺ら二人がかりでようやく対等に持ち込めるかどうかすら怪しい相手と戦いたくはない。
「でも手がかりすらないしどうしようかな」
「おや、あんたたちは誰ウサ?」
手詰まりで呆けていると、いきなり後ろから話かけられた。
驚いて身構えると、そこにいたのは一人の少女。
彼女の頭の上には耳が付いていた。
…兎の耳が。
「そんなに身構えなくてもいいウサ。私はただ道案内に来ただけだから」
「…ここの住人なのか?」
「そんなところウサね。私の名前は因幡てゐ。この先の永遠亭にお世話になっているウサよ」
「永遠亭…?」
「薬師とお姫様が住んでいる少し大きめのお屋敷ウサ。で、あんたが良喜ウサね?」
名前を呼ばれて俺の体が少しこわばる。
俺は
それなのに知っているということはつまり、誰かから聞いたということである。
問題はその誰かが『誰か』ということだ。
「誰から聞いた?」
「分かり切ったことを聞くウサね。『お姫様』に決まっているウサ」
「そうか」
「なら納得したところでついてくるウサ。永遠亭に連れて行ってやるウサよ」
そう言って彼女はピョンとはねたかと思うと竹林の中を迷いなく歩きだした。
慌てて走り出した俺が感じたのは謎の浮遊感。
気付くと穴の中にいた。
「にしししし。ひっかかったウサね」
穴の上からの声に見上げるとてゐがこっちを見て笑っていた。
「よくもやってくれたな…」
穴の中から飛び上がった俺は彼女の耳を掴むと穴の中に放り投げ入れ、ふたをするように氷の幕を張った。
「~~~~!~~~~~!!」
てゐが氷をバンバンと叩きながら何か叫んでいる。
次第にその声も小さくなっていき、ついに彼女は穴の底で蹲った。
彼女に気づかれないように氷を解除すると何かグチグチ言っていた。
「なによ冗談のつもりだったのに…これが冗談の通じない人ってやつ?輝夜も彼のどこが気に入ったんだか…」
「おい」
「うわ!あ、あれ?氷はどうしたウサ?」
「それよりも道案内、よろしくな」
「へ?」
「道案内しなかったら今日の俺らの晩飯が兎鍋になるだけだから」
「分かったウサ!道案内するからついてきてほしいウサ!」
ちょっと炎を出しながら話すとてゐは素直に案内し始めた。
そんな自分のことを見る妹紅の目が少し怖かったのは内緒だ。
彼女の後ろをついていくと古風なお屋敷にたどり着いた。
門をくぐるとそこには大量の兎が出迎えてきた。
その兎たちの群れをかいくぐっていくと縁側に一人の女性が座っていた。
単を着た彼女は俺の姿を見ると話かけてきた。
「久しぶり、良…」
「かぁぐぅやぁぁぁあああ!」
彼女のあいさつに対して返事をしようと思ったら彼女が燃やされていた。