この章のテーマは主に『再会』です。
第三十三話
幻想とは、実際にはありえないことをあたかも現実に存在するかのように説明することであり、その説明対象でもある。
具体的には妖怪、モンスター、神様、魔法使いなどがそうだろう。
時代が進むにつれてそのくくりに入るものは増えていき、いつしか人は科学というものを信仰するようになっていった。
元来、人が信じることによって存在していたそれらは消滅の危機を迎えていた。
そんな彼らの現状を問題視したのかいつしか妖怪の賢者は彼らを守るための場所を作ろうとした。
その賢者の名前は八雲紫。
その場所の名前は幻想郷。
賢者によれば幻想郷は全てを受け入れるとのこと。
たとえそれが不老不死でも、不老不死もどきでも。
聞こえてきたのは川のせせらぎの音。
謎の空間に落とされた俺たちはいつの間にか気を失っていたらしい。
「…ここは?」
「…分からん」
隣の妹紅も目を覚ましたようだ。
だが、俺も彼女もここがどこか分からない以上、何か行動をとろうにもなにも思いつかなかった。
しばらく呆けていると、あの女性が再び姿を現した。
「お二人さん、ごきげんよう」
「あんたか。何の用だ?」
いきなり変なところに連れてきた相手に敵意を隠すことなく話しかける。
「あらこわい。二人にここのことについて教えてあげようかと思いまして」
「そんなことより元の場所に戻してくれないか?」
「ふふ。それを提案するにはいささか早計じゃないかしら?」
「どういう意味だ?」
「ここにはあなた達の知り合いがいるわよ」
「知り合い?」
「ま、それは後で話すわ。ここについての説明をしてから、ね」
胡散臭い言い方をする奴だ。
俺にとってのその女性の第一印象はそれであった。
ただ、彼女の言った『知り合い』というワードが耳に残った。
だからこそ胡散臭くても話を聞かざるを得なかったのだ。
それが彼女の狙いであると分かっていても。
「ここは幻想郷、忘れ去られた者たちが集う場所よ。
あなた達にとっては当たり前の物である妖怪。
最近はそれを信じる人も少なくなっているわ。
正しく言うならば、それに代わるものを信じるようになってきた、というべきね。
それとともに妖怪たちは住む場所を変えていき、最終的にここをはじめとした山奥の人里に住むようになったわ。
そのうちの一か所であるここで私はあることを始めたわ。
それは全ての存在の共存。
忘れたものも覚えたものも捨てたものも拾ったものもすべてを受け入れる、そんな場所の創造ね」
彼女が語ったのは理想。
それをなぜ自分たちに話すのか彼女の真意を掴めないまま話は続いた。
「共存を狙う中で一つ気付いたことがあるわ。
それは種族の差。
当たり前の話だけど、人間は妖怪を畏れ、妖怪は人間を襲う。
けど人間だって襲われるだけにはいかないわ。
滅んでしまったら元の木阿弥にしかならないしね。
だからあなた達にはその過ぎた妖怪を退治してほしいわ。
見境なく人間を襲うような、そんな妖怪をね」
「何故俺たちなんだ?腕の立つ妖怪退治屋ならいくらでもいるだろう?」
「あら。私は恒久的な妖怪退治を望んでいますわよ。死なないあなた達なら簡単なことでしょう?」
「どこでそれを?」
「私は聞いただけですよ。輝夜姫と呼ばれていた人に」
それからは一瞬で全てが起きた。
まず妹紅が女性につかみかかろうとする。
それに気づいた女性は彼女の足元にあの謎の空間を作り、足をとった。
そして手に持った扇で妹紅の頭を叩こうと振り上げる。
振り上げた手を俺が凍り付かせ、女性の目の前に氷の針を作り上げた。
「あら、随分と手の速い人ですわね」
「輝夜がいるのか!?どこにいるんだ!?」
「落ち着け妹紅。今ここであいつを襲ったところでいいことなんてない。てか、返り討ちに逢うのがおちだ」
「…っ!!」
妹紅が体を起こし、地面に座り込んだ。
それを見届けてから女性の周辺に作っていた氷を解除した。
「知り合いっていうのは輝夜のことだったのか」
「ええ。彼女たちは今竹林にいるわ。会うのは勝手だけど、もしあった場合には私のお願いを聞いたということにさせてもらうわよ」
納得。
確かにそうだったら俺らを選ぶわけだ。
そして、俺らが断るわけにもいかないから、最初からそっちの勝ちだと言う訳か。
「家ってこっちで勝手に作っていいよな?」
「ふふ。引き受けたのならばそれぐらいでごちゃごちゃいわないわよ」