不老不死の氷噺   作:アンフェンス

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第三十二話

 

唐の国に流れ着いて大体2,3カ月がたったころ。

点々とある村を伝っていきながらついに倭国…日本と交易をしている土地にたどり着いた。

地理的にのちの上海となるここはこの時は小さな漁村であった。

 

「やっとついたな」

「あぁ。これでようやく倭国に帰れるな」

「長いようで短い旅路だったな…これでお前たちともお別れか」

 

漁村の空き家に案内された俺たちはそこで次の交易までの間ゆっくりすることにした。

因みに美鈴は途中にある村が目的地だったらしく、そこで別れている。

 

「なぁ、やっぱり慧音は来ないのか?」

「なんだかんだ言って私はこの国の者だからな。誘いはありがたいんだが、それよりもこっちにいたいんだ」

「そうか…ならしょうがない。また俺らがこっちに来れば慧音には会えるからな」

「今度は漂着しないでくれよ?」

「流石にそうそうあってたまるか」

 

さっきの会話にもあるように慧音はこの漁村で別れることになった。

ここの村長が妖怪に対して理解のある人物だったらしく、彼女が生活することに何の拒否感も現さなかったためだ。

 

「それでお前たちは倭国に行ったら何をするつもりなんだ?」

「取りあえず、今の都に行こうかとは思っている」

「あとは知り合いのところに行きたいなー。あの子がどれぐらい成長したかみたいし」

「前行っていた修行仲間のことか?」

「そうそう」

「ふむ。ともに切磋琢磨する相手がいるのは嬉しいことだな…良喜にはいないのか?」

「…いたなぁ、そんな奴」

 

脳裏に浮かぶのは緑と白、それぞれの服を着た少女達。

仙人のもとでともに修行した相手を思いだしていた。

 

「ほう。それでそいつはどんな奴なんだ?」

「底抜けに明るい奴と、真面目すぎて若干暴力的な口調の奴の二人だ」

「良喜はその人たちには会いたいとは思わないのか?」

「…今はいいかな」

 

震えた声を自分の中では上手く隠したつもりだ。

 

「そうか。いつか会えるようになるといいな」

 

慧音を誤魔化すことはできなかったようだが。

 

「それで出発はいつの予定だったか?」

「確か明後日の早朝だったな」

「なら見送らせてもらうとするか」

 

そんな話をしながら夜は更けていく。

 

だけど。

 

俺たちは明後日の朝をこの村で迎えることはなかった。

 

 

 

その夜。

慧音が新しい家に移った後に二人でゆっくりしているときのことであった。

 

「始めまして」

「「!?」」

 

唐突な来客があった。

訪れたのは紫色のドレスを着た女性。

八雲紫と名乗った少女は俺たちに一方的に言って来た。

 

「早速だけどあなた達を幻想郷に招待させていただくわ。

 幻想郷というのは忘れられた存在(モノ)が集まる場所。

 そこにはあなた達の知り合いもいるわ。

 これはその人たちからのお願い。

 あなた達を幻想郷(こちら)に連れてきてほしいという願いをかなえるために私は来たわ。」

 

そう言って彼女は手に持った扇子を振る。

すると俺たちの足元の空間が裂けた。

重力に引かれて落ちていく俺らを見ながら紫は言う。

 

「幻想郷は全てを受け入れるところ。それはとても美しく、それ故に残酷ですわ」

 

 

 

 

 

――――第五章、完




次回から幻想郷編です。
多分あと二章位でエンディングかと思います

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