不老不死の氷噺   作:アンフェンス

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第三十一話

 

この時代で満月は妖怪に力を与える物であり、人に道を照らすものでもある。

普通の満月の夜でそうだ。

それが所謂スーパームーンだとしたらそれが誇る力はとてつもないものである。

 

俺、妹紅、慧音、美鈴の四人旅が始まって初めての満月を迎えた。

最早人間ではない俺と妹紅にとって満月の夜は移動する時間でしかないのだが、慧音と美鈴にそれを求めるのは酷というものだろう。

彼女らは俺らと違い普通の人間なのだから。

 

「今日はここら辺で泊まろうか」

 

近くに小さい水場を見つけた俺はそんなことを三人に提案する。

 

「もう夜ですし、今夜は満月ですもんね。下手に妖怪に会いたくありませんし」

「満月の夜の妖怪は凶暴化するからな…ってどうした、慧音?」

「あぁ、いや何でもない。そう言えば今夜は満月だったな」

「だからこそ早めにキャンプ地を作らないといけないから、もうここら辺でいいだろう。近くに水場もあるし」

 

どこか慧音の様子がおかしい気もするが、全員賛成してくれたようだ。

 

そうと決まれば行動は素早い。

慣れた手つきで野営の準備をしていると慧音が俺に話かけてきた。

 

「良喜、後で話しがあるのだが」

「それは二人っきりでしないといけないことか?」

「出来ればそうしてほしいのだが…」

「ならそうしようか。で、俺はいつどこに行けばいい?」

「みんなが寝静まった後で…そこの水場にでも会おうか」

「了解した」

「ありがとうな」

 

そう俺に言うと彼女は何事もなかったかのように野営の準備に戻る。

そこまでして俺にしたい話とは一体何なのか。

全くわからない俺も一先ず他の人に感づかれないように野営の準備に戻った。

 

その夜。

他の人が寝静まったのを確認した俺は慧音に呼び出されたところに赴く。

水場に行くと、そこには慧音が角を生やして待っていた。

…え?

()()()()()であるはずの慧音が角を生やしているだと?

俺の驚愕した顔を見た慧音は小さく息を漏らした。

 

「やっぱり、そんな反応をされるのが普通か」

「慧音、お前は一体…?」

「結論から言うと私は人間ではなく、白沢と呼ばれる獣の半獣だ」

「半獣?」

「あぁ。普段は人間の姿で暮らして満月の夜だけ本性を現す、そんな妖怪だ」

「つまり…?」

「私は君たち普通の人間と違って妖怪だということだ」

「それで、ハクタクだったか?それってどう言う妖怪なんだ?」

 

俺の質問に彼女は驚いた顔をする。

 

「…怖がらないのか?」

「怖がるも何も。慧音はこっちに敵対する気なんてないだろう?」

「いや、そうだが。でも、なぜそう断言するんだ」

「もし敵対するなら何も言わずに襲い掛かってくるからな。今まであってきた妖怪はみんなそうだった。それでハクタクって何だ?」

 

俺の答えを聞いた彼女はとてもうれしそうな顔を浮かべた。

 

「…!!白沢の話だったな」

「ああ。おそらく倭の国(こっち)の妖怪じゃないみたいだしな」

(こっち)の聖獣だからな。ざっくり言うと歴史を操る生き物だ」

「歴史を操る…?なんか為政者が欲しがりそうなものだな」

「幾度となく狙われたぞ。歴史を操ることは世界を操ることと同義だとあいつらは考えてるらしい。歴史(カコ)を変えても世界(ミライ)は変えられないというのにな」

「それで田舎に引きこもって教師のまねごとをしていたのか」

「そういうことだ」

「で、ここに呼び出したのはそれを伝えるためか?」

「そうなのだが…」

「だったら俺以外にも言わなければいけない人がいるな」

「……」

「妹紅と美鈴にもいつか――今じゃなくてもいいんだが伝えなきゃいけないだろう?」

「…いや、妹紅に対してはその必要はないぞ」

「は?」

 

ここで慧音は俺に後ろを向くようなジェスチャーをした。

それに促されて後ろを向くと、そこには妹紅が立っていた。

 

「妹紅!?いつの間に!?」

「良喜が一人こっそりと向かっていくのが見えたから後を付けていたんだが…慧音、隠し事はあまりよくないぞ」

 

俺らが言えた話か。

 

「い、いつかは話すつもりだったから」

「ま、そういうことにしておくよ」

 

なんかじゃれつき始めた二人を眺めて夜は更けていく。

 


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