上白沢慧音と名乗った女性は流ちょうな日本語でこちらに話しかけてきた。
「さて、事情はそっちの彼女に聞いたのだが。君が良喜で間違いないのかな?」
「あぁ。俺が良喜だ。それで慧音さん。ここはどこだ?」
「ここは一応唐の国の一部、ということになっている」
「一応?…そういうことか」
「察しがよくて助かるよ。唐の国の権力がすぐには届かないような場所、それがここだ」
「そんな片田舎で慧音さんは何をしているんだ?」
「子供たちに勉学を教えているぞ」
「他の国の言葉をうまく扱うような人が?」
「……」
俺の質問に慧音さんは押し黙る。
流石に深入りしすぎたと思った俺はお茶を濁す。
「すまない。変なことを聞いてしまった」
「いや、気にしなくていい。それで二人はこれからどうするんだ?」
「どうって…」
「君たちは交易船の護衛としてこっちに来たのだろう?帰りの船のあてはあるのか?」
「あ」
「その様子だと考えてなかったな。まぁ、難破して無事目を覚ました直後の人に聞く方が酷だったか」
「慧音さん、近くに倭国と交易をしている港ってあるか?」
「分からない。少なくともこの周辺でそういったことをしているところは聞いたことがないな」
「噂でもか?」
「あぁ。大方政府にばれないようにこそこそとやっているのだろう」
「それは…面倒だな」
「そういったことを踏まえてもう一度聞くぞ。これから二人はどうするんだ?」
「旅にでも出るしかないか」
「言葉の壁はどうする?」
「どうにでもするよ。身振り手振りは世界の共通語だしな」
「最悪現地の人に追われるかもしれんぞ?」
「その時はどこかの山奥にでも引きこもるつもりさ。幸いにもそう言った暮らしにはなれているからな」
そう言った俺の顔を慧音さんはじっと見る。
そして唐突に笑いだした。
「はははははは!そこまではっきりと言いきられると気持ちがいいな!」
「……」
「よし決めた!私も君たちの旅についていこう!」
「おい、それって大丈夫なのか?」
「子供たちのことか?それなら私の後輩たちがうまくやってくれるだろう!」
「そんなんでいいのか…」
「何、もともと私も流れでたどり着いた人だ。いつかここを離れないといけないとも思ってたところでもあるからな」
「そうか。ならよろしく頼むぞ、慧音さん」
「慧音でいい。通訳の代わりぐらいにはなるつもりだ、良喜殿」
「殿は余計だ」
そうやってこれからの予定を固めたところで妹紅が戻ってきた。
いつの間にか消えていた彼女の手には大量の貝類が乗っていた。
「あ、妹紅…なんだその両手に抱えているのは」
「すぐそこで見つけた。いやー、大量だったよ」
「大量って…それを料理するのは誰だと思っているんだ?」
「今日は貝の蒸し焼きかな」
「聞いちゃいないし。まぁそういう時間なのは否定できないけど」
山の方を見ると夕日が沈もうとしていた。
夜。
慧音は住んでいる近くの村に話をしてくるということで妹紅と二人きりの夜だった。
妹紅が自分の妖術で作った貝料理を二人で食べてると妹紅が話しかけてきた。
「皆、死んじゃったんだね…」
「そうだな。慧音もそう言ってたし」
「…なんで生き延びちゃったんだろうね」
「さあな。ただ単に死ねなかったから生きただけかもしれないぞ」
「…本当に、私たちって化け物なんだね」
そう言えば、妹紅は初めてだった。
自分が目を覚ました時に周りが死体だけだという体験は。
自分はもう三回目だから慣れているが、初めてで精神を保つ方が難しいだろう。
だから。
「ふぇ?」
「例えお前が化け物だったとしても俺はずっとそばにいてやるぞ。なんたって相棒だからな」
その言葉に妹紅は糸が切れたかのように俺の胸でわんわん泣き始めた。
こんな俺で救われた気になるのならそれでいい。
心のケアも相棒の大事な役目だから。