自分が住んでいた山―暫定的に妖怪の山とでも名付けようか―に拠点を構えてからそれなりの時間が経過した。
本当はそこまでいるつもりではなかったが、鬼の二人が『どうせなら泊まっていきなよ』といったのを断れないままズルズルと過ごしている。
その間に山に住んでいた天狗や河童等と仲良くなってしまい、今の今まで出るに出られない状況だったと言う訳だ。
妹紅は最初こそ妖怪や鬼とともに暮らすことに抵抗を覚えていたが、今ではすっかり仲良くなっている。
今日も白狼天狗の友人とともに修行をしに出ていったところだ。
「良喜兄ぃ、何を考えているの?」
「ここにいるのも長くなったなぁ、って」
「ふ~ん。それよりも今日は何をして遊ぶの?」
「たまには俺以外の人と遊ばないのか?」
「それもそうだね!じゃ、みんなで遊ぼう!」
「いや、だから俺以外の人と遊べって…」
「そうと決まったら善は急げ!ほら、良喜兄ぃも早く早く!」
そういうとその少女は自慢の羽を羽ばたいて飛び去っていく。
あ?今話かけてきた少女は誰かって?
聞いて驚け、天魔が娘の射命丸文だ。
…どうして俺がそんな重要人物と仲良くなっているかって?
安心しろ。俺も分からん。
文が俺を連れて行った場所は天狗、それも烏天狗たちの子供が集まっている広場だった。
そこにいる子供たちは俺の姿を認めると餌に群がる鳩のごとく集まってきた。
ピーチクパーチクと口々にしゃべりだす子供たちに向かってしゃべる。
「だぁー!もう!落ち着け!ちょっとそこに座ってろ!」
俺の一言で子供たちが一斉に静まり返る。
そして俺の続く言葉を今か今かと待ち構えた。
「…今日はみんなで仲良く、怪我も無いように遊ぶこと。何かあったらそこにいるから遠慮なしに言いに来ること。返事は?」
「「「「はい!」」」」
威勢のいい返事とともにみんなが思い思い遊びだす。
子供たちがはけたのを見計らって俺は近くの切り株に座った。
そう、俺は今保育士のまねごとをしている。
なぜこうなったのかはさっぱり覚えもないが、少なくとも止めろの声が親子共々聞こえてこないため、嫌々ながらも続けているのだ。
子供たちが遊び疲れて眠った後。
一緒に子供たちを見ている天狗(姫海棠とかという苗字で、天魔とは長年の連れらしい)に後を任せて、俺は川の方へと向かった。
川のそばにつくと後ろから唐突に背中を押された。
「うわっ!?」
「へへぇ~ん、ビックリした?」
「ビックリしたもないだろ、くそ河童が!」
後ろを振り向くと案の定、緑色のリュックを背負った青いコートを着た少女が立っていた。
リュックの肩ひもをかぎ状のアクセサリーに結びつけたその少女、河城にとりはこちらの反応に笑っていた。
「ははは、やっぱり盟友は面白いね!打てば打った分だけ響いてくれる、気持ちのいい反応をしてくれるね!」
「おう貴様、今から二つの選択肢を選べや。乾燥か、凍結か」
「何そこまで怒ってるんだい?唯のジョークってやつだよ、河童ジョーク」
「よし分かった、両方だな」
そう言って俺は火炎系の術が封じられた符を取り出す。
あくまでも俺の能力は凍結系に偏っているだけであり、媒介等を用いれば他の系統の術を使うことが可能である。
準備が面倒くさいのであまり使わないが。
それはさておき、その府に力を込めだすとにとりの顔がみるみる青くなっていった。
「分かった分かった!謝るから!その符をしまって!」
若干泣きながら謝り始めた彼女に流石に可哀想になった俺は符をしまう。
それにホッとした顔を見せたにとりは改めて話しかけてきた。
「それで、今日は何をしに来たんだい、盟友?」
「暇つぶしに散歩だよ」
「そうか、それならうちに来ない?盟友と久々に将棋が打ちたくなってきたんだ!」
「お前、俺より強いだろ?」
「大丈夫だって。今回は飛車角落ちでいいからさ」
「そこまで言われたらしょうがないな」
特にすることもなかった俺はにとりの家に行くことにした。
将棋は完敗だった。