山の頂上あたりまでたどり着いた時にはもう辺りは真っ暗になっていた。
頂上付近の少し大きな屋敷の前に泊まり、ここまで俺らを連れてきた天狗は振り向いてこういった。
「よし、着いたぞ。今からお頭を読んでくるからそこで待っていろよ」
そうして彼が屋敷の中に入ってからしばらくすると俺らに対して屋敷の中に入るよう言って来た。
通された広間には角が生えている女性が二人ほどいた。
明らかに鬼と思われるその二人のうち、小柄な方が天狗に下がるよう言う。
そしてこちらに話しかけてきた。
「やぁ、いきなりとらえるなんてことをしてすまない。こっちにも事情っていうものがあってね」
「…驚いた。てっきり天狗の親玉かと思ったら鬼が出て来るなんて」
「ま、こっちにもいろいろあってね。それであんたらはどうしてここに来たんだい?」
そう言ってこっちを見てきた鬼の顔こそは笑っていた。
が、その目はこちらを見抜くようなそれであった。
嘘は許さないという視線を受けつつ俺は事実を答える。
「麓にある家がもともと自分が建てたものだったので旅の途中の休憩地点にしようかと思って」
その答えの真偽を吟味しているのかしばしの静寂が訪れる。
妹紅も俺も何かを話す気にもなれず、ただ座っていると唐突に二人の鬼が笑い出した。
「あはははははは!昔の家に戻って来ただって!」
「しかも自分が建てたと来た!こいつは傑作ってやつさね!」
笑い出した二人に俺と妹紅は体をこわばらせる。
二人の鬼は少しを呼吸を整えたのちに口を開いた。
「いきなり笑いだしてすまないね。あんたの話が面白かったからつい笑っちゃったよ」
「うん、あんたたちの言ってることに嘘はないみたいだし、本当なら私たちが謝るべきなんだろうね」
そう言って二人は立ち上がり、俺たちの後ろに回る。
いきなりのその行動に身構えそうになるのを二人がとどめる。
「あぁ、身構えなくていいよ。その縄をほどくだけだから」
「そうそう。疑いも晴れたし君たちはもう自由の身だから…ね!」
鬼の怪力ゆえか縄はあっさりとちぎ
自由になった手をぶらぶらさせながら鬼に問いかける。
「それで麓の俺の家には今誰が住んでいるんですか?」
「おや、それを聞くのかい?」
「まぁ、元家主としてその権利ぐらいはあるでしょう」
「違いないね。あそこには今天狗の長…天魔とその娘が住んでいるんだ」
見張りがいることからそれなりの人が住んでいるとは思っていたんだが…天狗の長とはこれまたでかい人物が来たもんだ。
ん?天狗の長…?
「天狗の長ってあんたらじゃないのか?」
「違う違う。私たちはこの山にいる妖怪全般の長をやってはいるんだけど、それなりに大きい社会を持った種族は各々の長を持つんだよ」
「あぁ、成程」
「でだ。その天狗の長が身ごもったらしいからそこに今住んでいると言う訳なんだ」
「そこに俺がやってきたと」
「そういうこと。まぁ、退治しに来たとかそういったことで内容で安心したよ」
いつの間にか取り出した大きな盃を呷りながら小柄な鬼はいった。
「あ、酒飲む?」
「いや、結構です」
「そんなこと言わずにほら、一杯!」
その盃をこちらに傾けて飲むことを強要してくる。
これがアルハラってやつか…と思いつつ、もう一人の鬼に助けを求める。
その鬼は首を横に振ってきた。
あきらめろ、ということなんだろう。
「ほ~ら~の~め~よ~」
「それじゃあ、一杯だけ…」
その盃を呷った。
俺がおぼえているのはそこまでだった。
小鳥のさえずりを聞いて目を開ける。
その目に飛び込んできたのは美しい銀髪と可愛らしく、美しい寝顔。
思わず服が乱れてないことを確認したのは言うまでもない。
アルハラ、ダメ、ゼッタイ。