不老不死の氷噺   作:アンフェンス

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第二十三話

 

「泊めてくださってありがとうございました」

「いいよー。こっちも久々の話し相手になってもらったし」

「神奈子様もありがとうございます。地図までいただいてしまって…」

「私には不要なものだしな。二人っきりで辛いこともあるだろうが、頑張って旅を続けろよな」

 

翌朝。

守矢神社から都への地図を貰った俺らは神社を発つところであった。

分かれるのが少し名残惜しく、しばらく喋っていると唐突に後ろから声をかけられた。

 

「おはようございます!神奈子様、諏訪子様…?」

 

振り向いた先に立っていたのは、緑色の髪をしたちょっと変わった巫女服を着た少女だった。

彼女は俺らの姿を見ると、少し戸惑った感じで神奈子に質問していた。

 

「神奈子様、あのお二人は一体…?」

「昨日ここに迷い込んできたから一晩泊めてやったところだ。何も、この島国を一周しているところだとよ」

「なんでそんな面白いこと教えてくれなかったんですか!」

「いや、あんたが帰ってから来たから態々呼び戻すのも気が引けたし…」

「むぅ…そういう問題じゃないです!お二人だけで楽しいことをしていて一人だけ蚊帳の外なのもつらいんですよ?」

「そうはいってもなぁ…」

 

二人が話しているのを見ていると、諏訪子が俺に小声で話しかけてきた。

 

「ほら、今のうちに行っておいで」

「いいんですか?」

「いいっていいって。こっちは何とかしておくから」

「それならいいんですけど…彼女は誰ですか?」

「ここの神社の風祝…儀式の進行役とかをしている娘だよ」

「へぇ…巫女とは違うんですね」

「似て非なるものだね。ささ、こんな無駄話をしてないでとっとと行った行った。今言っておかないと京に行く前に野宿する羽目になっちゃうよ」

「は、はぁ。ありがとうございます。さ、妹紅行くぞ」

「うん、了解」

 

風祝の彼女に気づかれないように神社を後にする。

後ろで何か大きな声が聞こえてきたが無視無視。

なんせ次の目的地はかなり遠くの場所にあるからだ。

 

 

その目的地を決めたのは幽香の家を後にしたとき。

都近くでの拠点となりそうなところを話していた時だ。

 

「良喜の家?」

「そう、俺の家」

「でも良喜ってなんでも屋をしていたよな?それなら京の中に家がないか?」

 

拠点を作る上で重要なことは都の人に感づかれない場所にすることだった。

犯罪者と死んだと思われている人、二人が都に入るのはリスキーすぎるからだ。

 

「いや、俺がそれを始める前に住んでいた場所。近くの山奥に引きこもってた頃の家だよ」

「へぇ。そういえば良喜は私が生まれる随分と前から生きているんだったよな…」

「とは言ってもその家が今あるがどうかは分からないけどな」

「でも他に選択肢もないしなぁ…ならそこに行くしかないのか」

「じゃ、しばらくの目的地はそこということで」

「…にしても良喜の家か…」

 

 

 

そういう訳で今俺らは都の近くの山の麓までやってきた。

時刻はもう夕方。

むしろ夜になる前につかなかったから上出来とすべきか。

 

「うし、あと少しだからな」

「へーい」

 

山を登り、俺の家の前につくとそこには俺の予想に反し、きれいなままの家が建っていた。

そしてその前には警戒するように立っている二匹の妖怪の姿が。

背中に黒い羽を生やした彼らはおそらく烏天狗だろう。

 

「…っ!そこにいる人間ども、こちらに出てこい!」

 

逆らっても碌なことにならないので、俺と妹紅は両手をあげて烏天狗の前に立つ。

 

「貴様ら、どうしてここに来た!」

「……」

 

まさか俺の家だから泊まりに来ましたなんて言えるわけもなく、無言で烏天狗を睨む。

 

「話さないなら話したくするだけだな。連れていけ」

 

その言葉にもう一人の烏天狗は頷き、俺らを後ろ手に縛る。

よく分からないが、一つだけ言えるのは俺と妹紅は更に登山をしなきゃいけないことだ。

…なんて厄日だよ、ほんと。


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