花妖怪の家に泊まってから一、二週間後。
俺たちは西に向かっていた。
というのも、花妖怪曰くこれより東には碌な人里はないということ。
いたとしても開拓団みたいなものだから行くのはお勧めしないとのことだったので、こうして俺らは行先を反転して西に向かっていた。
富士の山と京都の丁度真ん中あたり、諏訪と呼ばれる地に差し掛かったころ。
俺ら二人は山中で遭難していた。
「あ~、人里はどこじゃ~」
草木が生い茂る中、俺はそんな変な声を出しながら歩いていた。
後ろからついてくる妹紅はそんな俺に対して小さく息をつく。
「はぁ。こんな山奥に人里があるわけがないだろう。あったとしても精々廃村ぐらいなものだと私は思うのだが」
「また今夜も野宿かぁ。いい加減柔らかいお布団で寝たいなぁ」
「それは私も同感だ。朝露で起こされる生活から解放されたいものだよ」
「違いない。…っと、ちょっと森が途切れてるな」
愚痴りながらもひたすら歩いていた俺らは森の中の少し開けた場所に出た。
いや、少し開けた場所といったらかなりの語弊があるだろう。
そこにあったのは俺らが寝泊まり抱きそうな広場などではなく、神社だったのだから。
「こんなところに神社…?」
「まぁ、今夜の寝る場所は見つかったな」
「そうだな。お布団は期待できないけど、朝露はしのげそうだな」
神社の裏手に出てきた俺らはそんなことを話しつつ神社の正面側に回る。
見ればその神社は決して古びて等おらず、それどころか最近まで使われていたような痕跡すらある。
同時にそんなことを気にする必要なんて全くないことも分かった。
「おや、こんな時に来客とは珍しいね」
「見たことない顔だが、旅人が迷い込んできたのかい?」
金髪の幼女と赤い服の女性が二人仲良く軒先でお茶をしていた。
…どうやら、お布団も期待していいみたいだな。
「へぇ。二人はこの島国をぐるりと探索している途中なんだ」
「はい。ここにはその旅の途中で迷い込んだので」
一通りの自己紹介と、俺らがこの神社に来た経緯を話すと目の前の金髪の幼女は目を輝かせてきた。
ちなみに彼女、土着神で名を洩矢諏訪子というらしい。
「旅の途中でここに迷い込むだなんて、遭難でもしない限り難しいけどね」
「ははは…ソウデスネー」
俺が諏訪子と談笑している間、妹紅はもう一人の女性、八坂神奈子に絡まれていた。
神奈子もまた神様で、分類としては風雨の神に当たるらしい。
それを言った隣ですぐさま諏訪子が『いや、あんたはどちらかといったら軍神でしょ』と言ってたからそうなのかもしれないが。
二人が何を話しているのかは分からないが、おそらくこっちと似たようなことだろう。
「…ん?神奈子が何を話しているのか気になるのかい?」
「…えぇ。何か変なことを吹き込まれてないかな、なんて」
「それは心配無用だよ。曲がりなりにも神様だから『変なこと』は吹き込まないさ」
「それもそうですね」
「そんなことより、あんたと彼女の関係性ってどんなものなんだい?」
「旅の相棒です。それ以上でもそれ以下でもありません」
「お、おう。思ったよりも随分とはっきり言うんだね」
そりゃそうだ。
彼女との関係性に関してはこっちからは何の疑問も挟めない。
彼女とは相棒であり、それ以上でもそれ以下でもない。
ただ、目の前の神様にとってはこの答えは不服なものだったらしい。
「本当にそれだけなの?ほら、男女の深い仲とか、そういうのじゃなくて?」
「本当にただの相棒ですよ」
「む~」
いくら神様が不服でもこればっかりはどうしようもない。
そうじゃないのだから。