不老不死の氷噺   作:アンフェンス

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ちょっと短めですが投稿。



第二十一話

 

女性の家に案内された俺たちはそのリビングに通された。

俺たちがソファーに座ったのを確認した彼女は熊をさばきに外に出ていった。

あ、そうそう、彼女の名前は風見幽香というらしい。

彼女は自分自身のことをしがない花妖怪だと言っていたが、熊を素手で殺すような花妖怪は今まで聞いたことがない。

だからと言ってそれをとがめて藪蛇になるのはごめんこうむりたいものだが。

隣に座る妹紅も心ここにあらずといった感じでただ座っていた。

 

「ごめんなさいわね。お客さんを待たせるマネなんてしてしまって」

 

気付くと家主が戻ってきた。

服装こそ変わってはいないものの、ベッタリとついていた返り血がなくなっていたところを見ると着替えてきたらしい。

 

「それでお二人さんはどうしてここまで来たのかしら?」

「ちょっと山道を歩いていたら妖怪に襲われまして」

「あなた達みたいなモノが逃げるなんて随分な手練れに会ったのかしら?」

「そんなところですね。少なくともあの妖怪は俺たちの手には負えないものでした」

「へぇ。大方ルーミアとかそこら辺かしらね。それでこれからどうするつもりかしら」

「どっか近くの村にでも行って泊めてもらうつもりですが」

「ここら辺に村はないわよ」

「それなら適当な場所で野宿でもしますよ」

「それよりもあなた達、今夜は我が家に泊まっていかないかしら?丁度新鮮な熊も取れたし」

 

そういう彼女の目は折角の獲物を逃したくない、そんな目だ。

こんな目をした相手の前では逃げようとする方がむしろ愚策だろう。

 

「分かりました。お言葉に甘えましょう。妹紅もそれでいいよな?」

「…あ、あぁ」

「ふふ。最初からそう言えばいいのよ」

 

 

その日の晩。

一人寝室に通された俺はなかなか眠れないでいた。

眠れないのは熊鍋を食べたからではないはずだ。

そんな馬鹿らしい思考をしていると、寝室の扉が開かれた。

 

「眠れないのかしら?」

「何の用だ?」

 

振り向くと、そこには家主が寝間着姿で立っていた。

彼女は俺の前に立つと素晴らしい笑顔で話しかけてきた。

 

「造花でしかないあなた達が今までどんな生活をしてきたかに興味があるの」

「造花…?」

「あら、あなた達生きてないのに生きているふりをしているんでしょ?それを造花と呼ばずして何と呼ぶのかしら?」

「成程。確かに俺たちは不老不死だが」

「えぇ、そうね。二人とも造花だけどその本質は全く違うわね。あの娘が生きたまま固定されたそれなら、あなたは凍り付かせた上から鎖で縛りつけて無理矢理作り上げたそれだものね」

 

瞬間、空気が凍り付いた。

いきなり放出された俺の力に彼女は驚いた顔を浮かべた後、ニタリと笑った。

そのことに意を介さず、俺は彼女に問いかける。

 

「それを言いに来ただけか?」

「いいえ。本当はあなたの話を聞いてみたいところだけどその顔が見れたから満足よ」

 

そう言って彼女は去っていった。

残された俺は布団の上に倒れこむ。

空気が凍り付いた影響か、その布団は若干ではあるものの冷たかった。

それを背中で感じつつ、俺は彼女の言葉を反芻させる。

 

「『鎖で縛って無理矢理作った』か」

 

彼女は俺の不老不死をそう評したが、実際そうなのだろう。

あの邪仙の言葉通りなら俺の不老不死は無理矢理作ったものである。

だとするなら、鎖はやっぱりあれなのだろう。

 

「どうにかならないものかねぇ」

 

自分でこう言ってはいるものの、実際鎖で縛っているのは俺の方だろう。

決してアイツは関係ないはずだ。

 

…関係ないはずだ。

 


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