不老不死の氷噺   作:アンフェンス

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第十九話

妹紅が俺の家にやってきた数日後。

また俺の家に来訪者がやってきた。

 

「家主は今いるか?」

 

扉を乱暴に叩きながら響く声。

どう考えても面倒事にしかならないと思いつつ、扉を開けると役人ずらした男たちが立っていた。

彼らは俺ではなく、俺の背後――俺の家の中を見回してから言った。

 

「貴公が家主か?」

「あぁ、この家は俺が一人で暮らしているからな。それで、何の用だ?」

 

この言葉に間違いはない。

今は妹紅もここで寝泊まりをしているが、彼女は居候みたいなものだ。

 

「ここに藤原妹紅とかという人物が来なかったか?」

「…誰だそれ?」

「帝の荷物を強盗した大罪人だ。ここらへんでその強盗が行われたから調査しているところだ」

「最近騒がしいなと思ったらそんなことがあったのか。それでその罪人の姿格好はどんな感じだ?」

「強盗した時の格好は白い上着に赤い袴みたいなものだ。白い紙に赤い目だからそっちの方が分かりやすいかもな」

「そいつは随分と目立つ奴だなぁ。で、見つけたら報告すればいいのか?」

「そんなところだ。くれぐれも捕まえようなど考えるなよ。あいつは妖術を使うからな」

「了解。態々ここまでお疲れさまでした」

「本当にいないようだな」

 

そう言って男たちは踵を返した。

しかし、数歩歩いたところでこちらを振り返った。

ばれたか!?といつでも術を発動させる用意をしたが、彼から出てきた言葉はこちらを脱力させるものだった。

 

「言い忘れていたが、罪人は女だ。情に絆されないよう気をつけろよ」

「お互い様だな」

「違いねぇ」

 

俺の返答に満足したのか彼は高笑いを浮かべつつ帰っていった。

さて。

役人という面倒事を避けることに成功した俺だが、彼らが残していった面倒事も処理しなければならない。

 

「妹紅」

「……」

「一体お前は何をしたんだ?」

「聞かないって言ったじゃないか」

「確かに聞くメリットは存在しないが、聞かないデメリットが発生した」

「…彼らの言った通りだよ」

「天皇…帝の荷物を強奪して、その際に妖術を使ったというのがか?」

「あぁ、そうだ」

「どんな荷物を奪ったんだ?」

「ただの薬だよ」

「薬…?天皇に献上する薬か?」

「いいや、天皇に献上された薬だ」

「された?何があったんだ?」

「献上したのは蓬莱山輝夜、ということになっている」

 

彼女が天皇に薬を献上しただと?

俺の知る限りではそんなことはなかったぞ。

 

「正確に言うと彼女の宛名が掛かれた手紙と一緒におかれていた薬だ。効果は…不老不死。

 受け取った帝はそれを飲むことなくこの山で燃やそうとしたんだ。

 だからそれを運んでいるときに私が奪い、その場で飲んだんだ」

 

幸いにも妖術を扱えるという力があったからな、と彼女はこぼした。

 

「なんでそんなことをしようとしたんだ?」

「復讐だよ、復讐。私の親父を見殺しにした復讐さ。

 薬を奪い取ればあいつの落胆する顔が拝めるだろうしね。

 そもそもこの家に来たのもあんたを殺すのが目的だったんだ。

 けど、家の場所を教えてくれたあいつが言ったんだ。

 『彼は殺しても死なないし、そもそもあなたの親父さんが死んだのは月の人が原因だしね』って」

「あぁ、あの邪仙か」

「邪仙って…まぁ、まともな気はしなかったし。

 でもあんたに会って気付いたよ。あんたは見殺しにしたんじゃないって」

「実際俺の何が何だかわかってなかったしな」

「まぁ、あんたと会って話して一緒に暮らしてそういったことができない性格だっていうのは分かったよ。

 さて、私の話はおしまい。

 それで、これからどうするんだ?

 私を突き出してもいいんだぞ?」

 

「そんな気は全くないな」

 

「よし分かった。なら準備をするから…ってええ?」

「おまえ、不老不死になったんだろ?

 あいにくと俺もそれに近い存在らしいからな。

 これから長い長い時を一緒に暮らす相手をみすみす手放す理由がどこにある?」

「でも、私は大罪人で、それをかくまっているとそっちにも迷惑が掛かって…」

「それを言うなら俺の方がもっとひどいことをやらかしているぞ」

 

時の政治家の家への放火とかな。

今考えるとよくやろうとしたな、あの時。

 

「ま、罪人同士仲良くしようか。

 

 相棒」

 

「あぁ、不束者だが、よろしく」

 

この何気ない一言。

なんとなくで使った言葉がある意味俺と彼女のスタートだった。

 


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