不老不死の氷噺   作:アンフェンス

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第十六話

 

護衛任務についている以上、その護衛対象から離れることは殆ど許されない。

一流の陰陽師とか術師とかは離れていてもその対象の状態を知覚出来るらしいが、ただの仙人のなりそこないである俺にはそんな技術などない。

だからほとんどの時間護衛対象の輝夜姫のそばにいざるを得ないのである。

このこと自体に対する不満はない。

絶世の美女と言われる輝夜のそばにいられるというのは役得以外の何物でもないからだ。

ただ、傍から見るといつもそばにいる俺と輝夜姫の関係性を穿ってみるのはやめてほしい。

俺と輝夜の関係性は護衛と護衛対象に過ぎないのだから。

 

「ということはそこにいる男はただの護衛であり、決して親しい関係ではないと?」

「はい、その通りです。間違ってもそのような関係にならないことは契約した時に決めたことですので」

「成程。私の早とちりだったようだ。すまない」

 

護衛を始めてから一月。

度重なる求婚と垣間見にしびれを切らした輝夜姫がこんなことを言ったのだ。

 

「あぁ、もう!そんなに会いたいならもう全員一緒に会ってやるわ!本気で会いたい人だけ来なさい!」

 

当時のご時世からすると異例中の異例、異常なことである。

殆どの人がそんな暴挙には付き合えないと辞退する中、今日、五人ほどのもの好きな男たちが集まった。

男たちが通されて向かった部屋にはお目当ての輝夜、と、その傍に控える謎の男の姿があった。

…改めてこうやって確認するとそういったうがった見方をされるのはある意味しょうがないんじゃないのかと思った。

俺と翁の必死の弁解で何とか納得してくれたからもう終わった話だが。

 

ところで輝夜には結婚する気が一切ない。

それを表だって言うのは育ててくれた翁や媼に申し訳ない、ということらしいのでお題を吹っかけてあきらめさせようという魂胆だ。

所謂五つの難題って言うやつだ。

そのお題を聞いたとき成功できるのかどうかを聞いてみたところ、帰ってきた答えというのがこれだ。

 

「あら、数学の難題とかよりかは簡単なはずよ。ほら、『ある数の三乗+ある数の三乗=ある数の三乗となる整数三つの組み合わせはない』っていうやつとかよりかは簡単

 

よね?」

「もし成功するようなやつがいたらどうするつもりだ?」

「そういう人が本当にいたらその人って人やめているから妖怪とかの類よね?私には優秀な護衛がついているから問題ないわ」

「さいで」

 

その時俺はまだ見ぬ難題を吹っかけられる男たちに合掌した。

 

 

いよいよお見合いという次第になったので一介の護衛に過ぎない俺は部屋から追い出された。

どうしたものか、と屋敷の中をさまよっているとこれまたさまよっている一人の少女と出会った。

なぜこんなところに少女がいるんだ?妖怪とかの類じゃないよな?

いずれにせよ接触しないことには彼女の正体も素性もつかめないと判断した俺は彼女に声をかける。

 

「どうしたの、お嬢ちゃん?」

「くそおやじについて来たらこんなとこに来たから潜入しただけだ。いきなり家の人に見つかるとは思っていなかったけどな」

 

思ったよりも口が悪かった。全く持って親の顔が見てみたいものだ。

そんな話じゃないけど。

 

「そうかい。このことをお父さんは知っているのか?」

「いーや、しらないに決まっている。親父の付き人は気づいているかもしれないけどな」

「なんでお父さんの後をつけようと思ったんだ?」

「だって、最近親父は輝夜姫とやらにかまけて私に構ってくれないし」

 

思ったよりも可愛い理由だった。全く持って親の顔が見てみたいものだ。

そんな話でもないけど。

 

「まぁ、事情は把握した。それでこれからどうするつもりだ?」

「どーせあんたに追い出されるからおとなしく家に帰るつもりだが」

「暇なら俺とだべるか?」

「…は?お前何言っているんだ?」

「あいにくと俺も暇だからな。媼さんも喜ぶだろ」

「断ったら?」

「侵入者として扱う。まー貴族がたくさんいるこの家に侵入する人は極悪人に決まっている。もしくは妖怪かな」

「拒否権はないということか」

「理解が早くて助かるなー」

 

 

「あぁ、藤原さんの養子か。確かにあの人はここ最近毎日のように通い詰めているな」

「全く、私はともかく正妻に対して失礼だと思わないか?」

「そーゆー社会だからしょうがない。優秀かどうかはともかく高貴な血を残すのが貴族の仕事の一つだし」

「理解できねーな」

「安心しろ、俺もだ」

「あらあら、将来貴族になる可能性の人がそんなことを言っていいのかしら?」

「媼さん、俺はしがない何でも屋ですよ。貴族とか洒落になりませんから。てか相手いませんし」

「へぇ。輝夜には興味がないんですね」

「へ?ナニヲオッシャッテルノデ?」

「あなたはあの子がなついている数少ない男よ。万が一の時はあなたに引き取ってもらうつもりでいるから」

「そんな日が来ないといいですね」

「まぁあの子も今日の五人の中から決めるでしょう。そういえばお嬢ちゃん、名前は?」

「ふぇ?ふ、藤原妹紅だ。妹紅でいい」

 

これが俺と俺の生涯の相棒との初邂逅だ。

 


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