「はぁい、お久しぶりね」
輝夜姫の寝室で出会った人物は俺も知っている仙人、霍青娥だった。
「あ、ども。お久しぶりです」
口ではそう答えつつも頭の中では大混乱していた。
確かに彼女の能力ではここに入ることもたやすいだろう。
入りさえすれば輝夜姫とコンタクトを取れるのも道理だ。
しかしそうすることが彼女にとって何の得があるのか?
ましてや俺の存在、そしてその秘密を教えることも。
彼女や輝夜姫にとって俺の情報は何の利益にもならない。
そう考えていた。
「あら。私がここにいる理由が分からない、って顔ね」
「あんたが輝夜姫にかかわる理由がないからな」
「彼女に興味がわいたから、じゃダメかしら?」
「仙人が一人の姫様に興味がわく理由が分からない、と言ったら?」
「その質問にはこう答えるわ。彼女は唯の姫じゃないから」
「唯の姫じゃないというのはアレか?輝夜姫がさっき言った…」
「そう、彼女は不老不死。だから長い付き合いになるであろう人物と話すのは道理ではなくて?」
「ご近所付き合い、ってやつか?」
「そうとらえて構わないわ。この星にはあなた以外にも死なない人物がいる、と知らせるのが目的かしらね」
青娥の話は一応の筋は通っている。
不老不死である人物に対して自分を含めて他に何人か同じ人物がいるんだ、と知らせるために輝夜姫の元を訪れたとのことだ。
……ちょっと待てよ。
彼女の言い方からするともしかして輝夜姫は?
「この星?なんだ?輝夜姫はここ以外の星から来たとでもいうのか?」
「ええ、そうよ。なんたって彼女は…」
ここで今まで沈黙を保ってきた輝夜姫が口を開いた。
「ここから先は私に話させてくれませんか?」
「それもそうね。こういったことは本人から聞くのが一番だわ」
「なら少し話しましょう。私が今までしてきたことを」
「最初に言っておきますが、お察しの通り私はこの星の生まれではありません。
私が生まれたのはこの星からでも見えるあの星、月で生まれました。
月で生命が育めるわけないだろって?ごもっともです。
でも昔の偉い人はどうしても月に住みたかったらしいです。
で、どうすればいいか考えた結果、生まれたのが月の緑化計画です。
おかしな発想ですよね?住めないなら住めるようにしちゃえばいい。
でもそれができるほどの技術を彼らは握っていたんです。
いえ、彼らというと語弊がありますね。
実際にその技術を生み出したのは一人の女性です。
彼女は所謂天才でした。
否、天才という枠に収めることはできないでしょう。
なんせ彼女に出来ないことはないとまで言われた人物なんですから。
まぁ、荒事は苦手と本人は言ってましたが。
そんな彼女にとって月を緑化することは難しい話ではありませんでした。
そうして彼女のおかげもあって彼らは無事に月へ行くことに成功しました。
彼らが月に行った理由ですか?
なら逆に問いましょう、栄華を極めた王が最後に求める物とは何か、と。
そう、不老不死です。
彼らもまたそれに違いはありません。
他の王たちと違うのはそれを実現する知識も、技術もあったことぐらいでしょう。
月に行くことがどう不老不死に近づくのか。
それを説明する前に穢れというのはご存じで?
ええ、妖などが持つあれです。
あれが生命に寿命というのを生んでいるんです。
そして月には穢れがない。
まぁ、あんな環境で妖が生きているわけがないのですから。
お判りでしょう?月へ行けば穢れから解放されるのです。
だから不老不死になれる、と。
その理論は間違ってはいません。
しかし、一部誤りがあった。
それは穢れがあっても不老不死にはなれる、ということ。
穢れを持つとされる妖の殆どが不老不死だというのを見ればそれは明らかな話。
それにここには穢れから解放されずとも寿命から解放されてる人物が三人もいる。
そう、三人。
何を隠そう、私もその一人であるのです。
これが私がここにいる理由でもあるのです。
話を戻しましょう。
穢れから逃れることによって寿命から解放された彼らが次に危惧したのは何か。
穢れが月に持ち込まれることです。
そこで彼らは躍起になって穢れがあるものを排除しました。
しかし彼らにも手が出せない領域があった。
先ほど言った天才、賢者の研究室です。
彼女が月に行けるようになった立役者であることは周知の事実。
いくら権限を持っている彼らでも『研究のため立ち入り禁止』と言われたら引き返すしかなかったのです。
そこには昔の研究成果もありました。
そのうちの一つに不老不死になる薬というのもありました。
ええ、
その薬には穢れがあったのです。
ある日彼女研究室に潜り込んだ少女がそれを飲んでしまったのが始まりでした。
穢れがある薬を飲んだ結果、少女にも穢れが生じてしまいました。
それを危惧した彼らはその少女を島流しすることにしました。
穢れが豊富なところへと。
その少女はとある翁と媼に拾われてすくすくと育ちました。
それが私、蓬莱山輝夜という人です。
そうそう。あの薬ですが、私の名前から借りて蓬莱の薬という名がつけられたらしいです」
「よく分からん。三行で」
「私は月出身。
月で罪を犯した。
それで島流しされた」
「それで不老不死でもある、と」
「ま、そうね」
彼女は朗らかに笑った。
今回の長台詞は琵琶を片手に話しているイメージ。
こんな長いセリフが読まれるような文章力をつけたいと思った。(小並感)