不老不死の氷噺   作:アンフェンス

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第十三話

 

何でも屋の営業がある程度軌道に乗ってきたころ。

現在受けている依頼をすべて終わらせた俺は受付台で欠伸をしていた。

 

「くぁ~。暇やなぁ~」

「今日は久々の休暇ですもんね。何もないのもたまにはいいじゃないですか」

 

俺のつぶやきに答えた彼女は俺が鵺を説得した時に襲われていた女性。

あの日の恩を返したいのです!と俺の下で働くことになったのだ。

この女性、かなりのやり手でこの何でも屋が軌道に乗った大きな要因であると俺は勝手に思っている。

 

「せやな。ちょっと寝るから誰か来たら起こして~」

 

俺がこんなことができるのも彼女が有用であるからだ。

 

 

「ちょっと、良喜さん!早く起きてください!」

 

安心して舟をこいでいるといきなり慌てた様子で起こされた。

彼女が慌てるのは珍しい。

これは何かあったなと急いで頭を覚醒させる。

 

「ん?どうした?」

「どうしたもこうしたもありません!お客さんですよ!」

 

普通の客が来ただけでは彼女は慌てない。

つまり普通じゃない客が来たのだ。

 

「どんな客だ?」

讃岐造(さぬきのみやつこ)翁ですよ!」

「誰だそりゃ?」

「知らないんですか!?あの輝夜姫の養父ですよ!」

 

輝夜姫…竹取物語のか?

現実にいたんだなぁ。

…って、輝夜姫の養父!?

これは確かに大物が来たな。

 

「その讃岐造翁はどこにいる?」

「本人はいませんけど、使いのものが待っていますので」

「オッケー。広間だな」

「はい」

 

急いで俺は広間に向かう。

広間というのは名ばかりで、実態は応接間と何ら変わりはないのだが。

 

広間に行くとそこにはザ・使いの者といった風体の男がいた。

男は俺に気づくと、礼をして口を開いた。

 

「あなたが良喜さん、ですよね?」

「あぁ、そうだが」

「私、讃岐造翁の使いの者です。まず本題から行きましょう」

「…」

「あなたには輝夜姫の護衛をしてもらいたいのです」

 

成程。

輝夜姫の護衛ときたか。

確かに伝承通りならば輝夜姫は絶世の美女なのだろう。

だからこそそれをつけ狙う者も多いに違いない。

護衛をつけておくに越したことはないのだろう。

しかし疑問は残る。

 

「何故俺なんだ?」

 

現在都には陰陽師がいるはずだ。

安部で始まるあの一家の存在は俺も確認している。

別に俺じゃなくとも彼らに頼めばいいのではないのか?

その疑問に対する答えは実にシンプルなものであった。

 

「姫様があなたがいいとおっしゃったので」

「…あ?」

「ですから、あなたなら護衛を任せてもいいと言われたのであなたに頼むことにしたんです」

「具体的にはなんて言ったんだ?」

「『私と同じあの人ならいいわよ』と」

 

なんじゃそりゃ。

俺と輝夜姫が同じだと?

…受けざるを得ないじゃないかよ、姫様よ。

 

「分かった。その依頼を受けよう」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

 

依頼を受けたその日の夕方。

早速今日からということだったので俺は輝夜姫の部屋に向かった。

そこで待っていた輝夜姫は確かに絶世の美女であった。

 

「初めまして。輝夜姫と言います」

「あなたの護衛となりました良喜と言います。それで早速で悪いですが、一つ質問を」

「どうぞ」

「自分と姫様が同じとはどういうことでしょうか?」

「ふふ」

 

俺の質問に輝夜姫は意味深な微笑みを浮かべる。

そして告げられた事実は驚くべきものであった。

 

「老いないし、死なないところかしらね」

 

輝夜姫が不老不死なのは別に驚くことではない。

俺が驚いたのは俺がそうであることを知っていたことに対してだ。

 

「何故そのことを?」

「それは…」

 

「私が教えたのよ」

 

響いたのはいないはずの第三者の声。

その声に覚えがあった俺は声の在処の方を向く。

そこにいたのは、青い髪と青い服と特徴的な簪を身に着けた仙人の姿であった。

 


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