不老不死の氷噺   作:アンフェンス

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第十二話

 

何でも屋を開くのはどうか?

 

税を運んでいた人からの提案はとても合理的なものだ。

この街で暮らす以上、ここでの通貨を手に入れる必要がある。

通貨があるかどうかは微妙なところではあるが、それでも暮らすために必要な通貨の代わりになるものは重要であるだろう。

で、よそ者の俺がそれを得るのに手っ取り早い方法と言ったら商売をすることである。

さて、商売をするうえで必要なことは何か。

場所とか人件費とかいろいろあるが、一番重要なのは需要。

需要がない所に供給しても無駄なだけだ。

ただ俺はこの時代のこの街における需要を知らない。

百年近い昔や千二百年近い未来の需要ならある程度知っているけど、ここでそれは通用しない。

だからこその何でも屋である。

要するに、供給の方から飛び込んできてもらおうという魂胆だ。

 

そんなこんなで始めたこの何でも屋。

最初は全くと言っていいほど客は来なかった。

碌に広告を出せないこのご時世ではしょうがないことだと時々来る依頼をこなしながら暮らしていた。

 

機転が訪れたきっかけはとある日のこと。

その日俺は何でも屋の受付台でうつらうつら舟をこいでいた。

 

「キャァァァァアアアアアア!」

 

そんな俺の耳に飛び込んできたのは女性の悲鳴。

折角人がいい気分で寝ていたのに、それを妨げる悲鳴に俺の機嫌は傾いていった。

イライラしながら外に出ると、一人の女性が一人の少女を指さして震えていた。

 

「何があったんだ?」

 

取りあえず悲鳴を出したであろう女性に声をかけるとその女性は震えた声で訴えかけてきた。

 

「あ、あそこに、化け物がいるの!!あなた、見えてないの!?」

 

彼女が指さす方には一人の少女しかいない。

化け物なんて全く見えない。

 

「あ?化け物なんていねーぞ。俺には少女しか見えないが」

「う、嘘?そこで化け物が…ヒィッ!ほら、こっちを見て吠えてきた!!」

 

もう一度その少女の方を見る。

…あぁ。そういうことか。

自分にとっては当たり前のことだったから見逃していたが、この少女、洋服を着ていやがる。

この時代にそんな服を着ているのは西洋から来た人か化け物ぐらいだ。

で、西洋から人が来ることなんてこの時代ではほとんどありえないだろう。

つまり、彼女は妖怪である可能性が高い。

 

「成程な。ちょっとそこで待ってろ」

「え、あなた大丈夫なの?」

「まー大丈夫だ。それなりには強いし」

 

最悪、死ぬ事はないしな。

 

少女の方に向かうと少女は驚いたようにこっちを見た。

 

「ありゃ?おにーさん、私が見えているの?」

「うん、まぁ、真っ黒い服を着たかわいらしい少女なら見えているぞ」

「うへ、まじで?」

「まじで」

「まぁ、見えているならいいや。それでおにーさんは私をど央するつもりなの?…ハッ!私に乱暴するつもりなんでしょ!エロ同人みたいに!」

「何故この時代でそのネタを知っているのか問い詰めたいが、正直な話お前がここから離れて二度とここの近くに来なけりゃあ何もしないぞ」

「…え?それだけでいいの?」

「もっと具体的に言えば俺の安眠を妨害しなけりゃなんだっていい。それとも、」

 

ここで退治されたいのなら話は別だが?

少しばかり力を開放する。

力に充てられて周囲の水蒸気が凍り付いたのは、まぁ、余興だろう。

 

「…つ。分かったよ。おにーさんの言う通りにするよ」

 

俺にかなわないと悟ったのか少女は後ずさりする。

 

「あぁ、そうだ。お前って結局なんなんだ?」

「私?私は鵺だけど。それじゃあまたあおーねー」

 

そう言って少女は立ち去った。

さて、女性の方はどうかな?と振り返ると、

 

「追い払ってくれたんですか?」

「いや、説得しただけだ」

「えっと、それじゃあ何か白いのがキラキラしてたのは化け物の…?」

「いや、説得の途中で俺が仕掛けた手品だ」

 

そういうとその女性は黙り込んだ。

やべ、怯えさせてしまったか?

その女性の顔を覗き込むように近づくといきなり彼女は顔をあげた。

 

「あなた、陰陽師だったんですね!!」

「あ、あぁ?いや、違うぞ?」

 

陰陽道じゃなくて仙道の力だからな。

そう言って説得しようとする間もなく女性は叫んでいた。

 

「で、でも、陰陽師じゃなくてもそういった力を持っているんですね!あぁ、こんな頼れる人が近くにいたなんて…これはみんなの報告しないと!」

 

走り去っていった。

走り去っていきやがった。

 

 

まぁ、それ以降依頼が増えたのはいいことではあるのだが。

如何せん、荒っぽい仕事が多いのは何だろうな…

 


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