第十一話
改めて自分が不老不死という人間とはかけ離れた存在になったことを理解した少年は久々に山を下りる。
そこにあったのは集落と呼ぶのもおこがましいほどの小さな村ではなく、碁盤の目状に整備された大きな都市であった。
そこで何でも屋として商売を開始した少年はとある護衛依頼を受ける。
その護衛対象は自分のことを月から来た不老不死であると自称した。
山を下りてから少しの時間がった。
麓に降りて真っ先に驚いたのはそこに都市ができていたことだ。
自分が生まれた時代、そこからの経過時間を考えるあたりここが日本だとするなら平安京だろうか。
碁盤の目状にもできているし、羅生門らしき大きな門もあったからそういうことなんだろう。
大きい街。
ここまで大きな街というのはこの時代の世界でも珍しいほうだったっけ?
まぁ、相対的な評価なんてどうでもいい。
ここまで大きくなっているということに気づかなかった自分が恥ずかしく思う。
あの仙人が俺に忠告してきたのもうなずける話だ。
「ちょっと、そこの兄ちゃん?」
門の周辺でそんなことを考えていると人に呼びとめられた。
その声のした方を向くと何やら大きな荷車を引いた集団がいた。
「俺のこと?」
「そうそう、あんた以外に誰がいる?」
「…そうだな。それで何の用だ?」
「助けてほしいんだよ。車輪が轍にはまってしまってさ」
見ると確かに荷車がきれいに地面に埋まっている。
それを押し出すのを手伝ってほしいとのことだろう。
…折角のいい機会だし、使わない手はないな。
「それならお安い御用だが、ちょっと取引と行こうか」
「…こちらとしてもタダでとは言わないが、あの荷物以外ならある程度のことなら飲んでやる」
「俺がこの都に入るための協力をしてほしいんだ」
「あぁ、成程。兄ちゃん、さては流浪の旅人だね?」
「そういったことじゃないんだが…。確かにこの都に入るのは初めてだ。だからここでの流儀とかそういったことを教えてもらいたい」
「それならお安い御用だ。兄ちゃんがこっちの護衛をする代わりにこっちが兄ちゃんの都入りの手伝いをするということでいいな?」
なんか条件がしれっと追加されているような気がするが、まあいいだろう。
下手に機嫌を損ねて困るのはこっちの方だし。
「了解した。あの荷車を出せばいいんだよな?」
「とりあえずは、だな。じゃ、早速頼もうか」
結果として荷車を取り出すことにはそこまで苦労しなかった。
今は一応護衛として雇われたためにその荷車のそばを歩きながら俺に話しかけてきた人と話している。
「しっかし、何を運んでいるのかと思ったら税だったはねぇ」
「だからこそこの荷物は渡せないのさ。自分らも首は惜しいからな」
「でも税を引き渡したら都観光ができるんだろう?役得じゃないか」
「違いない」
結論としては無事に引き渡すことに成功した。
途中で何回かこちらを狙おうとする人がいたのでさっきを少~しだして追い払ったぐらいか。
「そういや、結局何を税として提出したんだ?」
「金だよ、金」
「あぁ、成程」
「だからこそ都の中で護衛がほしかったわけだが、ちょうどいいところに兄ちゃんがいて助かったよ」
「普通クニで雇うもんじゃないのか?」
「道中で食われちまったんだよ」
「…すまん」
「この時代ではよくあることだから気にしなくていいよ」
「恩に着る」
「恩に着るのはこっちの方だけどねぇ。そうだ兄ちゃん。あんた、ここでどうやって暮らしていくつもりだ?」
「んー、まぁ。ぼちぼち考えるよ」
「考えなしと言う訳か。それならいい考えがあるんだが?」
「なんだ?」
「あんた、何でも屋として働いてみたらどうだい?」
「は?」
「兄ちゃんと話してて分かったんだ。『こいつ、ただものじゃない』って」
「ほう」
「ただのお人よしとは違ってこっちが飲める条件を提示してくる頭の回転の速さはもちろんだが。あんた、なんか牙か爪だか分からんが隠しているんだろう?」
「…隠しているのはお互いさまと言う訳だな」
「やっぱり兄ちゃん、ただもんじゃないね」
二人して互いに笑いあった。
新章突入。