奇妙な同居生活が始まってから何年たったのだろうか。
最初の頃はどうにかしてこの同居人を追い出そうと躍起になったがそのたくらみはことごとく失敗した。
半年たったころからもう追い出すのはあきらめて逆に開き直ってみたところ、なんか引かれた。げせぬ。
今ではもうおとなしく、この同居人との生活を送っている。
気分としてはルームシェアみたいなものだ。
だから間違いなんて起きてない、いいね?
朝起きたら裸の女性が隣に寝ていた。
まぁ、いつものことなのでとりあえず蹴とばしてから体を起こす。
大丈夫、俺の着衣は乱れていない。
蹴とばされた人が何か言ってきているがそれを無視して顔を洗いに外の井戸へと向かった。
朝食を食べた後は二人で農作業を行う。
同居人は見た目はか弱い女性ではあるが、仙人である以上は死神に対抗できるほどの力を物理的にも術式的にも持っている。
そのため彼女も農作業を手伝っている。
尤も、働かなかったらその農作物を食わせないだけではあるのだが。
適度な休息をとりつつ農作業をしていくともう夕方になっていた。
暗くなってから農作業をするのは面倒くさいうんぬん以前に危険なので農具を片付けて夕食の準備をする。
簡単な汁物とごはん、そして昨日取ってきた猪肉が今日の夕食だ。
「「いただきます」」
二人で手を合わせてから食事をとる。
料理を箸で突いていると同居人が声をかけてきた。
「そういえば良喜は自分の能力をどれぐらい把握しているのかしら?」
「突然どうした?」
いきなりの質問の意図が分からなかった俺は皿を置いて同居人の方を見る。
彼女もまた皿を置いており、こっちを見るその目は真剣であった。
「昨日の狩りを見て思ったことがありまして。あなたは一応ある程度の術は収めているんですよね」
「一応な。その気になればいつでも仙人になる程度には修行はしているぞ」
「仮にそうだったとして、なぜ昨日の猪狩りでは氷の術しか使わなかったんですか?」
「得意不得意っていうやつだ。俺は氷の術が得意なんだよ」
その言葉に嘘は決してない。
昔神子の下で修行していたころ、俺は氷系統の術式が得意であったのだ。
ちなみに一緒に修行した布都は炎の術が、屠自古は雷の術が得意だった。
「成程。それならなぜあなたはそんなに長い間過ごしているのですか?」
何故長生きしているのか?
何を今更。
俺が数十年という長い間生きている理由なんてこれしかないのは知っているだろう。
「死ねないからだ」
「そう。ならなぜ死ねないのか考えたことでもありますか?」
「知らねぇよ。なんかの手違いで尸解仙か何かにでもなったんじゃねえのか?」
彼女の質問にどこか俺はイライラし始める。
何か自分の奥底にある物を引きずり出されそうな気分である。
「いいえ。あなたが仙人になっているならとうの昔に死神がやってきていてもおかしくはないはずよ」
「あいにくだがその死神とやらには会ったことないな」
「でしょうね」
「何故それが分かる?」
「それはあなたのような人に会ったことがあるからにすぎませんわ」
俺みたいな人?
その答えを知ったら何か以前の自分に戻れない気がして。
けど知らなければ一生その疑問にとらわれる気がして。
逡巡の果てに俺が出した答えは。
「誰だ?」
答えを知るというものであった。
しかしその答えは俺の予想を軽く上回るものであった。
「芳香よ。キョンシーね」
…キョンシー…だと…?
次で二章もラストかなー?