あの時、この時、もしもの話。   作:スパルヴィエロ大公

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奉仕部に入部させられた川崎沙希。
もし、こうなっていたら・・・。

久々の投稿はサキサキ編です。改変多いです。
八幡?誰それ知らないなぁ(棒)
なんかキャラもおかしい(気がする)し、僕、俺ガイルファン失格?
材木座、戸塚天使の次に好きなキャラなんだけども。実のところ。

それとまた前後分割、になりそう。なるかもしれない。
後編の執筆は大分かかりそうですが、ちょいと待っていただければと。


それと最後に。
ssにいろはすを登場させようとすると迷走してしまう僕に愛の手を(汗)








世界がまちがってるのは、どう考えても私のせいじゃない。

「そういう訳だ、川崎。奉仕部に入って君の生活態度を改めてもらおう」

 

・・・何、それ。意味分かんないんだけど?

 

思わずそう毒づきそうになったが、それはどうにか堪えた。

この先生の中では、私は"バイトにうつつを抜かして遊び惚け、勉強サボってるヤンキー"になっているらしい。

暴言なんて吐いたら相手の思うツボだ。

 

両親が離婚して以来、私の家庭は一気に家計が苦しくなった。

母さんがパートを掛け持ちしてどうにか食べていける、その程度。となると、私の学費は自分自身で稼がなくてはならなくなった。

大学は新聞奨学金とかでどうにかするとして、当面は塾の月謝をどうにかしなくてはいけない。だからバイトを始めた。

平日は、塾が終わったあとに夜のレストランで。土日は家庭教師。それで月謝を払って、残ったわずかな額は貯金に回した。

遊びに使うお金なんてない。もし奨学金を取れなかったら、もし母さんが働けなくなったら、私の貯金が一家の生命線になるかもしれないのだ。

 

正直、バイトと学業の両立はしんどかった。母さんや大志たちが自分に申し訳なさそうな態度を取っているのも辛かった。

でもこれも将来のためだ。バイトだってやってはいけないことをしているわけではない。

だから今は堪えて―――そう思っていた矢先に、これだ。

 

担任からの呼び出し。生活指導担当も兼ねている先生の命令を無下にするわけにもいかない。

渋々応じる羽目になった。

 

「・・・確かに、最近はずっと始業ギリギリに登校してますけど。でも遅刻はしてないじゃないですか」

 

「ああ、だがギリギリに登校しているのは君だけだぞ?正直、生活が乱れているとしか思えん。

小遣い稼ぎもいいが、学生の本分を忘れてはいないかね?」

 

忘れてる訳ないでしょ。

スキマ時間だなんてよくいうけど、こっちがどんだけ必死で時間見つけて勉強してると思ってんの。

成績が大幅ダウンしてるならそう言われても仕方ないかもしれない。でも今のところ高水準でキープしている。

 

大体他にも成績の悪い奴とか、やたら髪とか染めて生活態度の悪そうな奴だっているのに。

なんで私だけ目を付けられるわけ?この人、普段はやる気なさそうなくせに、変な所でいちいち細かい。

だからいつまで経っても結婚できないで生徒相手に愚痴吐く羽目になるんだ。授業の途中でいちいち脱線するのは本当に勘弁してほしい。

 

「それに私、妹が保育園に入ってるんで、学校が終わったら迎えに行かなきゃいけないんですけど。

部活なんて無理です」

 

「なら1時間早く、5時に帰ればいい。君もその時間までは図書館にいるだろう?

調べはついてる、嘘も誤魔化しも甘えも許さんぞ」

 

「ッ、私は嘘なんて・・・!」

 

「異論も反論も許さん。分かったら大人しく部室まで付いてこい」

 

 

・・・ふざけんなっ!

 

 

そうキレられたら、どんなに良かっただろうか。

でも、私の中の理性がやめろと何度も警告を発する。ここでキレたら終わりだとも。

必死で怒りを抑え込み、担任の後ろに付いていくことを選ぶ。

 

こうして私は、奉仕部という不可解な部活に入ることになったのだった。

 

 

飢えた者に魚の釣り方を教える。そして、世界の誤りを変える。

如何にもな偉ぶった態度で、その女―――雪ノ下雪乃は言った。

 

一言でいうと、アンタ馬鹿なの?・・・と言うのは流石にアレなので、少々の皮肉に留めておく。

 

「悪いけど、宗教勧誘なら私は間に合ってるよ」

 

「一方的なレッテル張り、実に結構よ。貴方も俗物だということがよく理解できたから」

 

いや、どう考えてもあんたがおかしい。

こんなちっぽけな部活の部長如きが、世界を変える?危ないカルト宗教の思想そのものだ。

なんで学校も放置してるんだか。

 

こんなのとやり合っても仕方ないので、無視して勉強を始めることにした。

おかしい奴と関わってるとこっちも毒される。

 

「がり勉だなんて、随分と効率の悪い方法ね。そんなやり方では成績向上なんて望めないわ」

 

「流石学年一位の人は余裕だね、私は馬鹿だからがり勉するぐらいじゃないといけないの。

分かったらいちいち話しかけないでくれる?」

 

「そうもいかないわ。平塚先生曰く、貴方は誰とも話したりしないそうね。

だから孤独に苛まれて生活も乱れているのよ」

 

あの担任、そんなことまで調べてこいつに教えてる訳?こっちにもプライバシーがあるのに何を勝手にやってるんだ。

それに私は遊んでる暇がないから、学校では友達を作っていないだけ。一応バイト先にそこそこ仲のいい年上の先輩はいる。

大体独りぼっちなのを寂しがってたら、とうの昔に不登校児だ。知ったかぶりで偉そうに言うのはやめてほしい。

 

「・・・だから私に、アンタの悪口をぶつけられるサンドバッグになれっての?ふざけんじゃないよ」

 

「あら、いきなり恫喝だなんて、俗物は忍耐も知らないのね」

 

「アンタこそやたら人に喧嘩吹っ掛けたがる態度、どうにかしなよ」

 

それから5時まで、ずっとこの調子。

お互い相手をひたすら罵倒し、こっちは勉強もできず、得た物はストレスだけ。実に無駄な時間。

 

そしてもう一つ分かったのは、雪ノ下と私は永遠に分かり合えないということだ。

 

 

「そういう言い方、やめてもらえるかしら。自分の駄目さを肯定しているだけよ、酷く不愉快だわ」

 

「・・・私っ・・・そんな、つもりじゃ・・・!」

 

・・・まただよ。

なんで言い方をもっと優しくできないんだか。

 

部活に入って1週間、依頼人がやってきた。

私と同じクラスの由比ヶ浜結衣。私が部室に居るのを知るとやたら大騒ぎした。

こっちだって好きで入ってるわけじゃない、癪に障るからギャーギャー騒ぐのはやめてよ。

 

で、由比ヶ浜の依頼は"お礼の品にクッキーを作りたい"というもの。

レシピをネットで検索すれば?と言ったら、上手くいかないから教えて欲しいと返す。

たかがクッキーぐらい、ちょっと練習すればそこそこのはできるのに・・・。

・・・と思って作らせてみたら、ただの木炭が出来上がった。明らかに火加減を間違えている。

それ以前に入れてはいけない調味料を混ぜたりと、色々と料理を舐めているとしか思えない。

そこでもう一度作り直させようとした時、由比ヶ浜が私才能ないから~とボヤいた。それに雪ノ下が噛みついて、今の事態になっている。

 

確かに教えている側としてはムカつかないでもないけど、私だって本気で付き合っているわけではない。

冗談半分で言っているのはすぐ分かったし、別段どうでもよかった。さっさと依頼を済ませて帰りたい。

それが、雪ノ下の説教のせいで長引くことになりそうだ。由比ヶ浜も泣き止む気配がない。

 

ああ、めんどくさい。

 

「・・・ほら、いい加減落ち着きなよ。

雪ノ下はこういう性格だから、いちいち真に受けてたらクッキーなんて出来上がんないよ」

 

「・・・でも、私・・・」

 

「べそ掻くぐらいなら、意地を張りな。こんな奴にぼろくそ言われてたまるかってね」

 

「・・・うん」

 

そこでようやく泣くのを止め、由比ヶ浜は料理を再開する。

今度は最初からきっちりと指導し、最後は由比ヶ浜もきちんと手順を守って調理し、完成品は最初の木炭より格段に進歩した。

 

「それで満足?」

 

「・・・うんっ!これなら相手にも喜んでもらえるよ、ありがとねサキサキ!」

 

・・・なんで渾名付けられてるんだか。別に私とアンタは友達じゃないんだけど。

 

まあ、これで依頼は終わったんだし、私も帰ろう。

 

「・・・待ちなさい。さっきの言葉はどういうつもりかしら」

 

「は?」

 

またか。

ホントにこいつ、何かの病気?自分以外の人間すべてが敵とでも思ってんの?

 

「何なの?由比ヶ浜さんはクッキーの出来に満足してたんだし、依頼はこれで解決でしょ」

 

「あれで解決だなんて・・・冗談じゃないわ。

彼女には真摯さが欠けている、自分の弱さも欠点も改善しようともしない。あんなものは逃げよ」

 

「普通の人間なんてそんなもんじゃないの?第一、たかが高校生でしょ。

一応最後は自分の力で完成させたんだから、少しは彼女も成長したと思うけど」

 

仕事でやってるわけじゃないのに、そこまで入れ込む理由が分からない。

ちょっと人から頼まれごとをされた程度で、ここまで神様みたく偉そうにする理由も。

 

世界を変える前に、まず自分が変わったら?

そう言いたかったけど、どうせ逆ギレされて無駄に時間を使うだけだ。ここは諦めて帰ろう。

 

「道徳論議は授業でやれば?私は妹迎えに行かなきゃいけないから、もう帰るよ」

 

「許可した覚えはないわよ、勝手に帰るなんて―――」

 

「平塚先生には5時に帰っていいって言われてるから。じゃあね」

 

そこで強引に打ち切って、家庭科室を出た。

あの担任、人の交友関係なんて教えるなら家庭事情のこともきちんと教えておけっての。

結局はいい加減な人なのだ、遅刻ギリギリに登校するのは咎める癖に。だから結婚できないんだよ。

 

こっそり持ってきたクッキーを齧って、甘さを噛みしめながら思う。

人生は、こんなクッキーみたく甘くない。なら、たまには甘えたって、逃げたっていいんじゃないかって。

なんで雪ノ下は、そういう生き方を肯定できないんだろう。

 

結局は、分かり合えない人同士はどうやったって分かり合えないのだ。

そういうめんどくさい人間関係はさっさと切るに限る。それができないのが辛いところだけど。

 

その時、私のスマホが鳴った。京華の保育園からだ。

早く迎えに来てねー、多分そんなところだろうか。

 

「・・・可愛い妹のために、もうひと踏ん張りしますか」

 

大切に思う人がいるなら、人は頑張れる。

その教訓を思い出し、尻を叩いて、学校を後にした。

 

 


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