もし、こうなっていたら・・・。
今回は材木座編です。口調はともかく言うほど中二病じゃなかったり。
八幡も原作ほど辛く当たることはありません。つまりキャラ崩壊ってことさ!
・・・海老名さんがぐ腐腐と笑ってる?多分気のせい。
あと長くなりそうなので前後に分けます。一話完結って(ry
「の、のう・・・ここは一体、何の部活なのだ・・・?」
先ほどまで地蔵のように・・・いや体型からすると大仏か。
15分近くずーっと黙りこくっていた材木座義輝が、遂に口を開く。
ぼっちに成りたての奴にありがちな反応だ。リア充みたく四六時中お喋りはできないが、かと言って重い沈黙に耐えられる精神力もない。
気の毒だがこれがここの日常だ、早く慣れてもらうしかない。
今日もいつものように気怠い放課後を過ごしていた時のこと。
体育館裏で必殺技の修行と称したよく分からん行為をはたらいたという理由で、材木座は奉仕部に連れてこられてきた。
平塚先生・・・そういうときは黙ってその場を去るべきだと思います。それが愛情ってもんでしょう。
そして「君はここでまともな人付き合いを学べ、異論反論は許さん」とだけ言い残して去っていった。いくらなんでもブン投げ過ぎだろあの人。
どうにかしたいというならまずカウンセリングを紹介するのが先では?第一この部活、まともな人間なんていないぞ。
ぼっち、アホの子、孤高の女王・・・うん、詰んでる。
「貴方は自分の頭で考えるということを放棄しているのかしら?立派な体格の割に頭脳は小さいのね」
「そ、そうではない・・・どう考えてもここが人助けと関わりある部活とは思えぬのだ」
・・・ですよねー。
ぶっちゃけやってることは文芸部、というよりただの読書部である。もう図書委員会でよくね?
しかも由比ヶ浜はスマホいじってばっかだし。もうお前お仲間の所帰れよ。
「飢えた人に餌を投げ与えるような偽善はするつもりはないわ。ここは餌の取り方を伝授するのが―――」
「―――つまりだな。誰かが依頼しに来ない限りはのんびりしてていいってことだ。
だから材木座、お前も肩ひじ張る必要はない。リラックスしとけ」
「・・・ふ、ふむ・・・左様で御座るか」
言葉を遮るなとばかりに雪ノ下に睨まれるがどうでもいい。
こちとらとうにお前の崇高な理想とやらはさんざ聞かされているのだ、その永久に実現できそうもない下らぬ理想は。
それにやらない善よりやる偽善と言うだろう。行動の伴わない善意は何の意味もない、人生の教訓の一つだ。
つまり自分から何もしない癖になぜかモテるハーレム系主人公はさっさと消えてどうぞ。・・・あれ、話違くね?
「でさー、中二ってなんでキモい表紙のマンガばっか読んでるの?」
「ぐ・・・これは漫画に非ず、ライトノベルだ!
ストーリーとて決して気持ち悪いものではない!捨てられた兄妹が助け合いながら騎士として悪と闘う冒険物語でな・・・」
要は俺TUEEE系のファンタジー物だな。いや、俺もそのラノベ好きだけど。主に絵が。
マンガ=オタク=キモいの超単細胞な方程式に未だ支配されている由比ヶ浜も由比ヶ浜だが。材木座よ、だからそんな奴に熱心に説得してもドン引きされるだけだぞ。
現にうげぇ・・・ってなってるし。
というか、中二病だから中二か・・・。ヒッキーも大概だが、こいつのネーミングセンスは一体どうなっているんだ。
心でそう思うまでは仕方ないとして、実際に言葉にするのはまともな人間のやることではない。
・・・いや、違うな。
向こうからすれば俺や材木座のような人間こそおかしいのであって、向こうが普通なのだ。
やはり、リア充という生き物は残酷だ。スクールカーストという言葉通り、弱肉強食の人間社会の縮図だ。
人が傷つくことを平気でやり、尚且つ自分は悪いことをしたとは考えない。
それは自分より階級が下の人間を人間と思っていないからだ。よくてせいぜい犬っころ、俺なぞ蟻程度にしか認識されてないのだろう。
結局は由比ヶ浜も上位カーストにどっぷり浸かって、その居心地の良さに慣れきっているのだ。
・・・ここにも、"本物"なんて存在しない。
俺は一体、何を期待していたのだろう。
人間とはそういう汚い生き物だと、嫌というほど学習したではないか。
どうせあと10分もすれば下校だ。いっそ買い物あるとでも言って早帰りするか。
そう思って荷物をまとめようとしたその時。
「・・・ごめん、ちょっと時間いいかな?」
リア充の王、葉山隼人が突然来訪してきたのだった。
「犯人は何としても洗い出すべきね。そして先生に即座に報告する。
それで解決しないなら教育委員会に訴えて問題を取り上げてもらう必要があるわ」
「そう・・・なのかな・・・」
いくらなんでも話が飛躍しすぎだろ。
大体たかがチェンメで委員の先生方がまともに取り合おうとするか?
翌日、奉仕部では葉山の持ち込んだ依頼を解決すべく話し合いが行われた。
葉山グループの3トリオの悪口がメールで学年中に広まっているので何とかしてくれとのこと。正直、ほっとけとしか言いようがない。
内容といっても、昔野良犬を殺して遊んでただのオヤジ狩りをしていただの、デタラメで何の根拠もないしょーもない類のものだ。
どうせ1、2ヶ月すれば皆すぐに忘れるだろう。
加えて、今回のメールはどうも自演臭が凄い。ゲロより強烈な臭いがプンプンしている。
恐らく来週の職場見学の班決めに絡んで、トリオの誰かがグループからハブられないために仕組んだものだろう。葉山がいない時の様子を見ればすぐに分かる。
つまりは、葉山は奴らにとってのアクセサリーでしかないということ。イケメンで成績優秀かつサッカー部のエース、表向きスペックは高い。だからそれを利用する。
哀れな話だが、同情するつもりは微塵もない。こんな茶番劇の裏も見抜けず、解決するのも他人頼み他人任せ。程度の低い連中しか寄ってこなくて当然だろう。
みんなのリーダーが聞いて呆れる。
とはいえ早急に解決すると請け負ってしまった以上は仕方ない。
だが雪ノ下の案は少々メチャクチャすぎる。それ以前に事態は何も解決しないだろう。
由比ヶ浜は端から自分ではどうすればいいか分からず、困惑しながらも雪ノ下に追従するだけだ。
仕方ない。ここは―――
「・・・その、解決する方法はあると思う。葉山氏と3人を、切り離せばいいのではないか?」
―――ほう?
「・・・何を言いたいのかしら?財津くん」
おい、部員の名前くらいちゃんと覚えとけよ。政治家の娘がそれでいいのか。
「き、きっと3人の誰かが、葉山氏と離れ離れになるのを恐れてこんな行動に出たのだと・・・我は思う。
だから職場見学の時、あやつら全員を葉山氏と別のグループにすれば・・・」
「ちょっと?!戸部っち達がそんなことするわけないじゃん!みんな優しいし・・・」
おいビッチ、口挿むな。
上から目線で悪いが、材木座もなかなか目の付け所がいい。俺自身こうしようと考えていたからな。
あとは五月蠅い奴を黙らせるのみ。
「そりゃ男なんてそんなもんだろ。可愛い女子の前では優しそうに振る舞う、腹の内はどうあれな」
「え、かか可愛いってヒッキー?!」
勘違いすんな、これっぽちも褒めてねえ。
見た目が可愛いだけの女なら、それこそ二次元の世界にいくらでもいる。だから俺はそんなものには騙されないんだ。
「・・・とにかくだ。俺もあの3人の誰かがやったってのは正しいと思う。
それに今の材木座の提案なら、誰も傷つかずに職場見学を乗り切れるぞ。
俺は賛成する」
さあ雪ノ下、さっさと賛成してもらおうか。
「でさー!あの材木くんがキョドキョドしてて実にウケたっつーか!」
昼休み、今日もリア充たちは喧しい。
男ならペチャクチャ口を動かすなっつの。女々しくて見るに堪えん。
「えーマジキモーい!」
「いやもう、最後のあいさつするときも真っ青で噛みまくりでさぁー!」
誰も傷つかず、職場見学を乗り切る。
それは、間違いだった。
職場見学で、材木座はあのトリオと同じ班になった。自分から希望したのだ。葉山は俺と戸塚、由比ヶ浜に海老名さんと組んだ。
そこで対人スキルに乏しい材木座は色々とやらかしてしまい、今はそれをネタにトリオが女子グループと盛り上がっている。
共通の敵を作ると人は仲良くなれる。これもまた、人生の教訓だ。
・・・もしかして。
あいつは、自分がこうなることで葉山グループの崩壊を防ごうとしたのか?
「・・・・」
教室の前端に、材木座は座っている。自身が嘲笑の対象になっていることを知りながら、黙ってラノベを読んでいる。耳にはイヤホンをして。
中学時代の俺もああだった。聞こえないふりだけでは意味がない。
だからああやって、自分の世界に入り込む。逃避する。そうするしかないのだ。
―――誰も傷つかずに職場見学を乗り切れるぞ。俺は賛成する。
・・・俺は、何ということを言ってしまったのか。
他人の犠牲の上に自らの安寧を得る。これでは、いつも軽蔑しているリア充共と大差ないではないか。
「おいお前たち、とっくに昼休みは終わってるぞ、さっさと席につけ。
・・・材木座、君は音楽の授業を受けに来たのか?教室を間違えてるぞ」
爆笑。
平塚先生・・・あんた、雰囲気から察してやれよ。
ジョークにしても酷過ぎるぞ。
数日経つと、「材木座挙動不審事件」のことはほとんど話題にならなくなった。
それでも一旦ついたレッテルは簡単には剥がせない。女子も男子も、時折材木座の方をチラ見してはニヤニヤと笑っている。
神様、これが青春です。巨人のいる世界より、遥かに残酷です。
「・・・ああ、ここにいたか」
今日は時間になっても材木座は部室に顔を出さず、雪ノ下から探して来いと命じられた。
弱小部の部長風情が偉そうに、とも思わないでもない。由比ヶ浜なぞ自分から入部した癖に今日はカラオケ行くからと、堂々とサボり。五月蠅いのが減るからいいけど。
だが結局のところ、強制入部させられた俺に拒否権はない。・・・それなんて監獄付き学園ですか。
という訳であいつの行きそうな場所を当たっていると、中庭のベンチで読書に耽る姿があった。
その気持ちも分かる。教室や廊下で毎度毎度侮蔑の視線にさらされれば、誰だって一人になりたくなるだろう。
「む・・・八幡か」
「ああ。今日もラノベ読んでるのか?」
「・・・うむ」
どうやら責められていると思ったらしい。だがそれは違う。
今材木座が読んでいるのは兄妹もののラブストーリー。俺はまだ読んでいないが、割とコアなファンがいるらしい。
多重人格に苦しむ妹に寄り添い続ける兄との悲恋を描いた、ひと夏の物語。これ以上に中二心をくすぐるストーリーがあるだろうか。
アンニュイな感じのイラストと、本の内容が上手く噛み合わさっているとのこと。シュレーディンガーの猫とか、そういうSF的な要素も盛り込んである。
「いいセンスだな。俺もその手の本は嫌いじゃないぞ」
「む・・・む?」
「まあでもな、世の中にゃ芸術ってもんを理解できない奴も多い。そういう奴らからしたら単にキモがられるだけだ。
だから、これを渡しとく」
そこで手提げ袋から、前に購入して放置しておいたブックカバーを渡す。
ペットボトルから再利用してつくられたというエコロジーな一品。蝶の柄が幾何学的というか美しい。
埃を被らせておくよりはこいつに利用してもらった方がカバーも喜ぶだろう。
「・・・何故、お主はこのようなものを?」
「趣味のことで他人からバカにされるのは嫌で仕方ねえからな。だからお前も、ラノベ読むときはそれ被せとけ」
茫然としている材木座の横に、もう一つ品を置く。
マッカン。千葉のソウルドリンクにして至高。ひと時の癒しを提供してくれる素晴らしい飲み物だ。
「落ち着いたら部室来い。あんまりサボると、雪ノ下がうるさいからな」
それだけ言い残すと、俺はその場を去る。
このまま帰れば部長様のお怒りに触れるだろうが、できるだけのことはしたのだ。あとは天運を待つのみ。
「・・・八幡。お主は―――」
数か月後 総武高文化祭2日目
「もう時間がない、それにお前の持ってる賞の集計結果が―――」
「じゃあこれ、持ってけばいいでしょ!」
相模から投げつけられた書類の束が、俺の右足に見事命中。
・・・痛てえな、クソ。誰のためにここまで駆けずり回ってると思ってやがる。
目の前でしゃがんでいるこのバカは、これでも今回の文化祭で実行委員長をやっている。何の能力も責任感もなく、ただ目立ちたいだけだったようだが。
自分は碌に仕事をせず、奉仕部にサポートという名目の押し付けをして、結果雪ノ下に実権を奪われ。
それを妬んで自ら仕事を妨害する真似に出た。参加者全員に、事実上のおサボり許可を出したのだ。
もっともメンバーは相模ほど腐ってはおらず、誰もその提案に賛成しなかったが。
逆に自身の威信を失墜させるだけに終わり、以後何の仕事も与えられずただ座っているだけだった相模はそれに耐えきれず、また終盤になってやらかしてくれた。
司会を務めるセレモニー直前に逃亡。しかも進行に必要な書類を持ち去って。
そこで俺と材木座が捜索を命じられ、川・・・島さんの協力で居場所を特定できた。
場所は屋上。心が壊れ、黄昏たい時にはうってつけのベストプレイスだ。
だが当の本人はこの有様。
とても連れ出せそうにはない、もし無理矢理やれば犯罪者扱いを受けるまである。
「うぅ・・・うっ・・・」
泣きたいのはこっちだっての。お前ひとりの所為で学校行事をぶち壊されては堪らない。
それにしても葉山・・・お前は何をしてるんだ?まさかこの期に及んでまだ聞き込みか?
ちょっとあいつが優しく慰めてやれば、相模もコロッと絆されるだろうに。どうしてこう、必要な時に限っていないのか。
・・・もう、本当に時間が差し迫っている。
ならば俺も腹を括ろう。たとえ自分が悪者扱いされようとも―――
「さ、相模氏!我、我は・・・!」
ん?
「―――我は、お主がエンディングセレモニーに立つ場を見たい。こ、心からそう思っておる!」
・・・おい、まさか。
「は・・・?アンタ何様のつも・・・」
「お、お主がたどたどしいながらも、ささっ最後までオープニングセレモニーをやり遂げたのは、我も、見て・・・おる。
つまり、その・・・感動したのだ!我が同じ立場なら、きっと同じようには、で、できなかったであろう。
途中で逃げ出しておったやもしれぬ。だがお主は、やり遂げた」
口調は無茶苦茶、噛みまくり。だが、言いたいことはきちんと伝わってきた。
大きな体を震わせながら、必死に声を絞って言葉を伝えている。
真剣に。
葉山が同じことを言ったとしても、恐らく俺は薄っぺらい奴らの戯言と流していただろう。
しかし材木座は違った。コミュ力ゼロ、レベル1のこいつが、勇気をフル動員して、我が儘な王女を説得している。
舞台へ導くために。
「・・・キモっ。分かったわよ、行けばいいんでしょ行けば」
その勇気を、相模は冷たくあしらう。
・・・この屑が。人の善意を利用するだけ利用して、あとの残りは踏みにじろうってか。
「相模、お前・・・」
「・・・八幡。もう、やめてくれ。
相模氏は行くと言ったのだ、それでいい」
相模に詰め寄ろうとする俺の腕を、材木座が掴む。そして俺にしか聞こえないように呟く。
そうしているうちに、やっと葉山達が駆け付けた。
一転して笑顔になった相模が、悪びれもせずにはしゃいでいる。
葉山は苦笑いをしながら、手を引いてセレモニーへと連れていく。
―――材木座。
なんでお前は、進んで汚れ役を引き受けようとするんだ?