もし、こうなっていたら・・・。
また相模か!そうなんです。
陽乃のキャラおかしくね!?その通りです。
オリキャラ出番ねーじゃん!はい、全く仰る通りでございます。
これでもウンザリしません、むしろ大歓迎という方は見ていってください。
あと予告通り、「ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。」の設定を流用してます。
μ'sは一人も出ませんが。
「相模ちゃーん!今日も帰り一緒に買い物いこーよー!」
「・・・あ、うーん!ごめん今支度するからー!」
・・・あー、つまんない。
前いたとこと変わんない、いつもの光景。みんなと喋って笑って、帰りは決まってモールでショッピング。
そう、それがうちの日常だった。
なのに、かつて輝いていたはずのその光景は、今はずっと色あせて見える。
そのことに気付いて、虚しくなった。昔のうちはこんなことに血道あげて、どんだけバカだったんだろって。
「・・・今度はしっかりやれ。私から言えるのはそれだけだ」
「はい・・・お世話になりました」
2か月前。
うちは文化祭で、文実の委員長をやった。そして何もかも上手くいかなくなって、逃げ出した。
そしたらみんな、うちから離れていった。友達も、他のクラスの子も、誰もかも。
みんながお喋りしてるとこにうちが入ると、お喋りがやんでシーンとする。そしてみんながうちをじーっと見る。
こっち来んな、出てけ。邪魔なんだけど、キモい。まるでそう言われてるみたいな気がした。
それが1週間経つと頭が痛くなって、常に吐き気がして、食欲も湧かなくなって、ベッドから起き上がれなくなった。
つまり、不登校。
昔中学の頃、女子の誰かがそうなって、友達とその子を笑ってバカにしたことが脳裏に蘇る。今はうちがおんなじ立場だ。
きっとF組では、みんながうちを家に引きこもってるんだってー、バッカみたいなんて言ってるんだろうな。
気付くと、涙が出てた。
みじめで情けない自分のことを考えると。
―――誰もお前を、本気で探してなかったってことだろ。
―――どんな気分だ?こんなやつに好き勝手言われてる今の気分は。
・・・そして、あの時比企谷から言われたことを思い出す。
ゆっこたちも、葉山くんも誰もうちを見つけてくれなくて、唯一うちを見つけられた、あいつの言葉。
うちはバカなだけじゃなくて、甘ったれてた。だからあの時逃げ出しても、誰かが探してくれて慰めてくれるって考えてた。
だけど現実は違った。うちが逃げ出した時から、いや、うちがまともに委員長の仕事をやれなくなった時から、みんなうちのことを見放してたのかもしれない。
薄々気付いていたけど、認めたくなかった。
だからあいつにそう言われた時も、結局逃げてしまった。
怖くて、嫌で。眩暈がして、その場で倒れ込んでしまいそうで。
そうやって学校から逃げて、家に逃げて。総武に居場所はないと分かってたから、親に頼んで別の学校に逃げた。
そして転校が正式に決まった時、平塚先生からは一言「しっかりやれ」と告げられた。
ありがたいと思った。こんなみじめなうちにも、きちんと言葉を掛けてくれたのが嬉しかった。
そうだ。
もう、うちに逃げ場所なんてないんだ。
親には嫌がらせに遭ってるなんて嘘ついてどうにか転校させてもらった。そんな理由でですら、親はいい顔しなかった。
自分の娘がそんなことされてるなんて恥ずかしい。情けない。世間に顔向けできない。ため息交じりに、面と向かってそう言われた。
うちの親はそういう人だ。メンツとか世間体とかそういうのにとてもこだわる。うちが周りからどう見られてるか、うち以上に気にする。
でも文句なんて言えない。なんてったって親だし、それに今回は本当に迷惑を掛けてしまったから。
だから、どんなに嫌でも、ここで頑張るしかないんだ―――
「でさぁ~。あのブス島、スクールアイドル目指してんだってよ?」
「はぁ?!アイドルって・・・ちょ、鏡見ろってーの!さがみんもそー思わなーい?」
「ははは・・・だよねぇ・・・」
また次の日の帰り道。今日のみんなは悪口大会で盛り上がってる。
これも前なら、恥ずかしげもなく同調していたと思う。でも今はどこか気乗りがしない。それでも黙ってる訳にはいかないから、無難な言葉を返す。
心が痛い。罪悪感を感じていながら、結局みんなに合わせてしまううちが、恥ずかしくて。
"ブス島"というのは、クラスメートの毒島さんのこと。ロングの黒髪で、ぱっと見はあの雪ノ下さんにそっくり。
でも性格的にはある意味反対で、優しいけど気弱、いつもどこかオドオドしてる。音楽の授業の様子を見る限り、歌は上手いみたいだけど。
そのせいで、うちが転校してくる前からみんなにいじめられてたらしい。毎日毎日、ジュース買ってこいってパシられてる。女子にも、男子にも。
担任も他の教師も放置してる。それどころか、前に用事があって職員室に行ったら「アイツ早く転校してくれねーかなぁ」なんて愚痴り合ってた。
助ける気なんて全然ないんだ。
で、毒島さんは何でもスクールアイドル―――文字通り学生アイドルのことだ―――に憧れてて、動画サイトに自分の歌った曲をアップしたりとかしているらしかった。
それがどういう訳か、クラスのみんなにバレた。
今日は朝から、みんなの前で歌ってみろ、テメーのヘッタクソな歌を、なんて囃し立てられていた。毒島さんはずっと黙ってた。
みんなからゴミやシャーペンを投げつけられても。
「・・・さがみん顔色悪いけど、具合悪いん?何かあったら相談しなよー」
「あはは、ごめーんそうみたい・・・今日は帰るね、また今度埋め合わせするから!」
「ん、じゃねー!」
はぁ・・・。
もう疲れた。
こんな下らないこと、いつまでやらなきゃいけないんだろ。
この前親に毒島さんのことをそれとなく言ってみたとき、即座に絶対その子と関わるなと言われた。
また嫌がらせされたらどうする、もう引っ越しも転校もできないんだから―――ヒステリックに捲し立てられた。
実際、親の言ってることは間違ってはない。世の中上手く渡りたいならそうするしかない。
でもそこまで露骨に否定しなくたっていいのに。
「あー・・・死にたい・・・」
ぽつりとそう、呟いてしまう。
「―――私さ、今日は千葉戻って両親のご機嫌伺いしなきゃならないんだよ。
だから雄介くん、悪いんだけど今日はさ・・・」
「まーまー、そんな堅いこと言わずにさぁ!ちゃんと時間厳守すっから、ね?
陽乃ちゃん来ると評判いいんだよー」
・・・あれ。
「・・・雪ノ下さんの・・・お姉さん?」
「ん?」「あ?」
10分して。
うちは雪ノ下さんのお姉さんに連れられて喫茶店に来ている。しかもやけに高級そうな。
いつもみんなと行ってるファミレスの安っぽさを考えれば、どう考えてもうちが場違いな人間に見える。
・・・というか、絶対そう思われてる。
「ふぅ・・・ありがとね。あのバカ男子さ、ちょっと顔良くてボンボンで金あるからってすぐ調子乗るの。
毎回毎回ホントにしつこくて。てことで、お礼にこのお茶とケーキ、お姉さんの驕りね!
・・・あ、聞き忘れてたけど、貴方の名前聞かせてくれるかな?」
「え、えと・・・相模、です・・・」
「んー?聞こえないなー?もう一度大きな声で!」
う・・・。なんか思った以上に怖い人だ。
声が大きい。顔は笑ってるのにすごく怖い。ていうか、何で周りの人は気にしないの?
「さ、相模です!・・・その、総武高の文化祭の時の・・・」
「あー・・・いたねぇ。そっか、君があの時の相模さんかー」
「は、はい!」
「委員長なのに平然とサボっちゃって、スローガン決めの時比企谷くんに論破されて、最後は逃げ出しちゃった、"あの"相模さんか!
うん、今キッカリ思い出しちゃった」
・・・・。
この人、全部知ってたんだ。逃げたことまで。
「で、相模さんはなんで東京なんかにいるのかな?まさか総武に居場所なくなって転校してきたとかかな?」
「え・・えっと・・・」
怖い。
早くここから出たい。何ならこの人の分まで払ったっていい。早く帰りたい。
暫くの間、うちは何も言えなかった。するとお姉さんの顔から笑みが消える。
「―――あのさ、質問にちゃんと答えようか。今聞いたよね?なんでこんなところにいるのかって」
「・・・その、雪ノ下さんの言った通りで」
「何のこと?私はただ鎌かけただけだよ?もう高校生ならさ、ちゃんと答えようよ。
おまわりさんに職質されたら一発でアウトだよ?補導されちゃうよ?」
「・・・東京の学校に、転校しました。さっきはその、帰宅途中で」
「ハイオーケー。言えるなら最初からちゃんと言わなきゃね」
それでようやく笑顔に戻る。
何なのこの人。今までいろんな女子と付き合ってきたけど、こんな喜怒哀楽の激しい人は見たことない。
まるでカメレオンだ。
「それにしても、君にはガッカリだよー。ちょっと私が煽てたら、すぐそれに同調しちゃうし。
お蔭で雪乃ちゃん、働きすぎて体壊しちゃったんだよ?しかもお見舞いに来てたのは比企谷くんとガハマちゃんだけだし。
めぐりんもガッカリしてたよ?『私は比企谷くんだけ悪者扱いしてたけど、ホントは相模さんの失敗を隠してみんなを団結させるためだったんだ・・・』って」
・・・そっか。
うちはあの優しい生徒会長さんですら失望させてしまったんだ。
笑顔で淡々と事実を告げるお姉さん。
うちが言えるのは、ただ一言。
「・・・ごめんなさい」
「ん?別に謝ってなんて言ってないよ、私。それにあくまであの場にはOBとして参加してただけだしさ。
謝るなら相手、違うんじゃない?」
「それでも・・・ごめんなさい。お姉さんにも、雪ノ下さんにも、会長さんにも。
あの時あの場に居た、うちが迷惑かけた全員に、謝りたいです」
必死に、声を絞り出す。
どんなに怖くても、謝りたい気持ちだけは本当。だから・・・
「・・・比企谷くんは?」
―――あ。
やってしまった、と思った時は遅かった。
またお姉さんの笑顔が消えている。
「君さ、人を舐めてるよね。表舞台にしか出たことないから分かんないんだろうけど。
裏方で舞台支えてる人の気持ちとか、全然気づいてないね。いや、気づいてても見ないふりしてるのかな?」
「・・・・」
「私さ、これでも一生懸命努力して何かを支えようとしてる人、好きなんだよ。
で、嫌いなのはそれに胡坐掻いてのほほんとしてる奴。あとさんざ迷惑掛けときながら自分は悪くないなんて駄々こねて、人に責任押し付けて逃げる奴もね」
「・・・・」
「君は自分に歯向かってきた彼の姿しか見てないんだろうけど。
男子の中じゃ彼ぐらいだよ?君のあの一言でどんどん人減ってく中、残って真面目に仕事してたのは。
その時君、何してた?クラスの出し物を重視するだっけ?ただクラスの友達と駄弁ってたんじゃない?」
「・・・・」
反論する暇も隙も与えない。
おまけに全部正論だ。言い返すなんてできる訳ない。
「・・・ふぅ。そろそろお店の人にも迷惑だし、私はこれでお暇するよ。
さっき言った通り、お代は払っておくから」
「あっその・・・ありがとうござ―――」
お姉さんが席を立って、慌ててうちはお礼を言おうとする。
その時。
「―――最後に言っとくね。君はこれで一つ、逃げ道を使った。
あとはもう、ずっと茨の道だよ。おまけに後ろは断崖絶壁。
それだけは心に留めておくんだね」
そして、店の人に愛想を振りまきながら、うちのことなど気にもせずに店を出ていく。
―――どんな気分だ?こんなやつに好き勝手言われてる今の気分は。
あいつに言われた言葉が、再び頭に蘇っていた。
翌朝。
この日は一人で登校した。今まではうちがみんなに合わせて、おんなじ時間に登校してた。
でももう、どうでもよくなった。周りのことも、親のことも、どうでも。
「おいブス島!テメーCD買う金あんならウチらに渡せよ、あ?」
「何お洒落気取ってんだよ?!ブスはブスらしく質素にしてろってーの!
アイドルになるとか夢見る権利ねーんだよ」
「・・・っ」
そして今日も、毒島さんはみんなにいじめられていた。
女子には耳元で怒鳴られて。男子には髪を引っ張られ、小突かれて。
それでも必死に耐えている。誰も守ってくれないから、自分一人で戦っている。涙を堪えて。
―――あとはもう、ずっと茨の道だよ。
そうだ。
うちに、もう逃げ場なんてない。
だから。
「―――ちょっと、みんな!」