テイルズ オブ フェータリアン ー希望を紡ぎ出すRPGー   作:逢月

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Tune.6 龍の王子

 

 すっかりと日の沈んだ雨の日の森は、どこまで行っても闇でしかなかった。

 これといった目的も無く歩きながら、エリックは深くため息を吐いた。濡れた身体が寒さに凍え、ぶるりと震える。

 

「……」

 

 どうにも気持ちが高ぶってしまっているから、しばらくは帰れそうもない。しかし、寒い。これでは本当に風邪を引きかねない、だからといって、ここで風邪を引けば間違いなく皆に迷惑をかけてしまう。

 

 エリックがどうすることもできない葛藤と戦っていた、そんな時。突然喉がひゅう、と鳴るのを感じた。

 

「――ッ! ごほっ! げほっげほ……っ!」

 

 雨に濡れたせいだろうか、それとも、普段と比較すると明らかに多かった運動量のせいだろうか。そんなことをぼんやり考えながら、エリックはその場に片膝を付いた。

 下は水溜りだったのだろう。不快なほどに、ズボンに水が染み込んでくる。だが、そんなことに構っていられる状況ではなかった。

 

「ごふっ、ごほ……っ、げほっ、かは……っ!」

 

 上手く呼吸ができない。苦しい。それ以上に、あまりにも無様な自分の姿に吐き気すら感じる。

 濡れたせいで肌に貼り付いたズボンのポケットの中に右手を差し込みながら、エリックは自分を嘲笑った。

 

(本当に、無様だな……ッ、不幸中の幸いなのは、この姿をアイツらに見られなかったことか……!)

 

 十八年も付き合ってきたのだ。自分の身体のことは、誰よりも分かっているつもりだ。そうでなければ、こんな突然の発作に冷静に対応出来るはずがない。ポケットの中から常備薬を取り出しながら、エリックはぼんやりとそう考える。

 友人の家で、数時間過ごす。それが、今日のエリックの予定だった――たった、数時間。ただそれだけの、ほんの些細な外出予定。

 それでもエリックは、薬を忘れずに所持していた。かなり良くなってきたとはいえ、自分の身体は薬を持たずに出歩けるものでは無いということを、彼は悲しいほどに理解していたから。

 

「ッ!」

 

 雨で濡れていたせいで、滑ってしまったのだろう。薬はエリックの指をするりと抜け、少し離れた場所へと転がっていってしまった。舌打ちしたくなるのを抑え、エリックは地面に転がり、泥で汚れた薬へと手を伸ばす。

 

「っ、げほ、ごふ……――ッ、うっ、ぐ……ごほっごほっ!」

 

 激しい発作の苦しさによってバランスを崩し、エリックはべしゃりと地面に崩れ落ちた。

 落とした薬を拾うという些細な動作ですら。それだけの簡単なことですら、今の自分には上手くできない。意識が飛びそうなほどの苦しさと、あまりの情けなさに、薬へと伸ばされた右手の指先が震える。

 

 

「お、おい! 大丈夫か!?」

 

 

 そんな彼の耳に入ってきたのは、雨の中でも聴こえる微かな羽音と、まだ聞きなれないソプラノの美しい声。その声の主はエリックが取ることの出来なかった薬を簡単に拾い上げ、震えるエリックの右手にそれを握らせてくれた。

 

「ほら……これだろ? 少し落ち着いたら、あっちの木の下に移動しよう。肩、貸すから……」

 

(……ディアナ)

 

 上手く、言葉を発することができない。何で出てきたんだと文句を言いたい気持ちもあった。だが、それ以上に、助けてくれたことに礼を言いたかった。それなのに、口を開けばぜいぜいと酷い呼吸音が出るだけで。

 エリックの気持ちを察したのか、ディアナはただ「無理をするな」とだけ言い、エリックの腕を自分の肩へと回した。

 まだまだ幼いためだろうか。ディアナは見た目以上に華奢で、男らしいしっかりとした硬さというよりは、柔らかいしなやかさを感じられる身体付きをしていた。

 そんな彼の肩を借りて歩くのは、今のエリックには耐え難いものであったようだ。

 

「……ッ」

 

「? エリック……?」

 

 幸い、ディアナは強くエリックの腕を掴んでいたわけではなかった。エリックはあっさりとディアナの腕を振りほどき、驚いた様子の彼に精一杯の作り笑顔で笑いかけた。

 

「もう……大、丈夫だ。助……かった、よ」

 

「エリック……」

 

 

――嗚呼、自分は今、上手く笑えているだろうか。

 

 

 薬のおかげで、息苦しさは治まった。しかし、酷い自己嫌悪に襲われているエリックの心は、どうにも安らぐことはなかった……。

 

 

 

 

「……。改めて言わせてもらう。助かった、ありがとう」

 

 木の下に移動し、完全に呼吸が落ち着いたエリックは、心配そうに顔をちらちらと顔色を伺ってくるディアナと目を合わせることなく、どこか沈んだトーンで礼を言った。

 

「本当に、落ち着いた様子ではあるが……無理は、するなよ」

 

「はは、残念ながら僕の場合は無理をしても無理をしなくても発作が起きる。生まれつきの持病なんだ。薬さえ飲めばすぐに治まるものだから、あまり気にするな」

 

 そう言って強がってみせるエリックを見たディアナは小さく唸り、頭痛に耐えるように額を押さえて頭を振るう。何か悩んでいるのだろうか。一体どうしたのだろうとエリックが声をかけようとすると、彼はおもむろに顔を上げ、エリックと目を合わせてきた。

 

 

「その発作……原因不明、なんだろう? あなたの発作を治すために、王国中の名医が足掻いたが、発作を抑える薬ができただけで、他には何もできなかったと聞いている……」

 

 彼の言葉は、完全にエリックが何者であるかを確信した上でのものだった。そしてエリック自身も正体に気付かれていることを薄々察していたからか、冷静にディアナと向き合うことができていた。

 

「そう、だな……それで、合ってる。かなりの人数の医者に会った。沢山の治療を受けた……それでも、医学の力には限界があった。結局この発作の原因は、分からなかった」

 

 ここでディアナの言葉を否定し、強引に正体を隠すのは得策ではない。そう考えたエリックはどこか悲しげに目を細め、ディアナに微笑みかける。

 

「昔は、ベッドから起き上がることさえ満足にできなかった。少しでも動けば、呼吸困難になって大騒ぎになっていた……ひょっとしたら、十歳にも満たないうちに死ぬんじゃないかって、そう思っていた。そういう意味じゃ、薬ができただけで僕にとっては随分ありがたいことだし、それ以上にマルーシャの能力には本当に救われた。ある程度、普通の生活が送れるようになったわけだしな。何より、ちゃんと生きれている」

 

「……!」

 

 嘘は、言っていない。今の不自由な身体に満足しているわけではないが、それでも昔に比べれば良いと、エリックは本気でそう思っている。対するディアナは何故か今にも泣き出しそうに瞳を潤ませ、それを隠すために慌てて俯いてみせた。

 

「ディアナ?」

 

「生きているだけで……満足、か。身体のどこかしらが不自由でも、それで良いと……あなたは、強いんだな。オレとは、全然違う……」

 

 神衣の裾をギュッと握り締め、ディアナが呟いたのはあまりにも弱々しい言葉だった。どういうことだと追求しようかとも思ったが、エリックはあえてそこには触れず、ディアナの藍色の髪へと右手を伸ばした。

 

 

「平気だと思えるのは、僕がひとりじゃ無いから……だと思う。昔はそうでもなかったんだが、今は、ひとりじゃないって、そう思える。マルーシャやアルがいてくれる、から……だから、この日常を壊したくない、死にたくないって、そう思うんだ」

 

 ディアナが、静かに顔を上げた。エリックは彼の頭の上に置いていた右手を自身の首筋に回し、困ったように笑ってみせる。

 

「僕は、強くない……皆に頼りっぱなしで、ひとりじゃ生きていけない。そのくせプライドだけは変に高い、弱々しい王子だ」

 

「……」

 

「ああ、そうだ。ちゃんと名乗ってなかったな……僕は戦に生きる龍王の血族、ラドクリフ王家に連なる者。聖名(ひじりな)をアベル、真名(まな)をエリックという……全部繋げてエリック=アベル=ラドクリフ、だな」

 

「アベル、王子……やはり、か……」

 

 ディアナはまたしても何かしら考え込んでしまっているようだ。ただ、彼の顔から憂いの色は消えていた。それで良い、とエリックは思った。

 

「何か思うところがあったか? とりあえず『アベル』って呼ぶのはやめてくれないか? 自分の聖名(ひじりな)、好きじゃないんだ」

 

 エリックの『アベル』やマルーシャの『イリス』という名は王家に連なる人間など、本当にごく僅かな者だけに与えられるものである。

 これらを総称して『聖名(ひじりな)』といい、その人物を表す『真名(まな)』とは違うものだ。どちらかというと、これは称号や肩書きに近い物でもある。要するに聖名(ひじりな)はそれ自体がとても名誉なものなのだが、エリックはこの名で呼ばれることが苦手だった。その理由など知るはずのないディアナは、不思議そうにエリックの顔を覗き込んでくる。

 

「父上は、僕のことを真名(まな)で読んでくれたことは無かったんだ……で、聖名(ひじりな)で呼びながら、『戦えぬ龍に存在価値など無い』を連呼。もう十年も前の話だが、聖名(ひじりな)で呼ばれる度に父上の姿が過る。要するに、これに良い思い出が無いんだ」

 

 

 先代王であり、エリックの父であった男の名はヴィンセント=サミエル=ラドクリフ。

 王となる以前の彼は騎士であった。そして、その当時ラドクリフ王国内では政治に不満を持つ人々による内乱が多発していた。

 ヴィンセントは戦場に立てば何かに取り憑かれたかのように豪快に刃を振るい、その都度大きな成果を残し続けていた。戦が好きだったのだろう。そんな彼の、好戦的な姿は当時のラドクリフ王家では高く評価された。

 内戦が収まり、代わりに隣国フェルリオとの関係が悪化してきた頃。元々王家の血を引く由緒正しき公爵家の生まれだったヴィンセントに王女ゼノビアと婚姻関係を結ばせ、次期国王とすることを反対する者はいなかった。

 それだけ、当時のラドクリフ王国の人々は戦場で生き、戦場で散るということを誇りに思っていた――ただ、それはあくまでもラドクリフ王国の政治を動かしていた者たちの間の話に過ぎない。

 ディアナは真剣な面持ちでエリックの目をまじまじと眺め、おもむろに首を横に振る。

 

 

「まあ、ラドクリフ王国は軍事国家だと聞いているからな……フェルリオも似たようなところがあるし、国のお偉いさんが言いたいことも分かる。だがその辺を含め、率直に言わせてもらう。オレは『戦えぬ龍に存在価値はない』などとは思わない、と」

 

「ディ、アナ……?」

 

 こいつはいきなり何を言い出したんだ、とエリックは目を丸くする。それでも、ディアナは話をやめようとはしなかった。

 

「龍の血を一滴も引いていないせいかもしれないが、別にオレは今のままのあなたで良いと思うのでな……いや、むしろ。この国の民は、あなたのような人を待っていたのではないか?」

 

 どこか強気な笑みを浮かべ、ディアナは「考えてみろ」とエリックの目を見据えたまま自身の胸元に手を当てる。

 

「戦の目的はまあ、様々だ。領土の奪い合いだったり、政治的な問題だったり……だが、そこにどんな理由があろうと、国民はただ巻き込まれるだけだ。当事者同士が殴り合えば良いのに、国単位である以上そうはいかない。それが戦だ……国民からしてみれば、無いに越したことはない。なのに、好戦的な王が上にいたんじゃ、戦が頻発してさぞかし大変だったことだろう」

 

 オレはそんな王、絶対に嫌だ――どこまでも包み隠さない、直接的な言い回しでディアナはエリックに語りかける。先代王やエリックの立場を考えるなら、ここまではっきりと物事を言うのは普通抵抗があるものだ。

 だが、今のエリックにとってはディアナの態度はとてもありがたいものであった。別にエリックは、ディアナに敬意を払われることを望んでなどいないのだから、当然である。

 

「確かに僕は、戦を望んじゃいない。戦に出られる身体だったら、考え方は違っていたのかもしれないが」

 

「じゃあ……その身体のせいで、辛い思いをしてきたからこそなんだろうな。あなたに、弱者を思いやる優しい心があるのは」

 

「……」

 

「だからこそ、安心した。あなたは、民を守るためならともかく、利益のために戦を望む王にはならないだろうと……オレは、そう考えた」

 

 エリックは元々、必要以上に悲観的な考え方をしがちであるが、彼のこの特徴が顕著に出るのは自分自身の話題になった時だ。特に、体質の話は一種の地雷とも言える。

 当の本人も自覚していることではあるが、この話題になってしまうと自分自身ではどうにも出来ないほどに落ち込み、後ろ向きな発言を繰り返してしまうことも少なくない。

 

 

「……。はは、格好悪いな。慰めてくれて、ありがとな」

 

 飾らないディアナの言葉や立ち振る舞いが、エリックを精神的にも落ち着かせてくれる要因となったらしい。漸くいつもの自分が戻ってきた、とエリックは溜め息混じりに笑みを浮かべてみせる。

 

「い、いや……オレは、思ったことを言っただけだ」

 

「それで良い。それが、良いんだよ……ところで、格好悪いついでに頼みたいことがあるんだが、良いか?」

 

 突然感謝されて驚いたのか、ディアナはどこか挙動不審な様子である。そんな彼の青い大きな瞳を覗き込むエリックの表情は、先ほどまでとは打って変わった、真剣なものであった。そして、彼の言葉が紡がれる。

 

 

「ディアナ。僕に剣術を教えて欲しい……実戦というものを、教えて欲しいんだ」

 

「――ッ!?」

 

 簡潔に要件だけを告げ、口を閉ざしたエリックと、驚き、黙り込んでしまったディアナ。双方が何も言わなくなったがゆえに刹那の時、雨音以外の物音が全て消え去っていた。

 

 

「随分と、簡単に言ってくれるな……オレは、好き好んで戦っている訳ではないのだが?」

 

 その静寂を破り、先に話を切り出したのはディアナの方だった。彼は困惑した様子のまま、それでいてどこか苛立ちが混じったような、そんな声音でエリックの出方を伺っている。「ごめん」とエリックは短く謝罪の言葉を投げかけ、間を開けることなく話し始めた。

 

「分かってる。だからこそ、お前に頼んだんだよ。僕はただ、大切な人を守りたいだけだ。誰にも、傷付いて欲しくない……お前の言葉を借りるなら、僕は利益のために戦を望んでいるわけじゃない。だから、戦いを好まないお前から戦う術を教わりたいと思ったんだ」

 

「……なるほど、な」

 

 ダークネスとの戦いの最中、何も出来なかったことが本当に悔しかった。そんなエリックの心境を理解したのだろう。ディアナの顔から苛立ちの色は消え、その代わりに彼はどこか不安げな眼差しをエリックに向けてきた。

 

「念のため聞くが、あなた……動き回って大丈夫なのか? その、発作は……」

 

「起こさない保証はないが、それはいつものことだ。剣術の訓練をやってるが、特に問題は起きていない。実戦経験は全く無いが、一応、激しい動きが出来ないわけではないよ」

 

 発作を起こしているところを見られてしまったのだ。まず身体について聞かれるだろうとは思っていた。こればかりは、仕方のないことだろうと諦めていた。

 

 とはいえ、エリックは病弱体質ではあるが、男らしいしっかりとした身体付きをしている。それは王国騎士団の者達が行うような過酷なものではないとはいえ、それでも毎日ほぼ休むことなく行っている訓練や体力作りのための運動によってもたらされたものだ。

 ディアナは値踏みするようにエリックの全身をまじまじと見つめた後、胸元の十字架へと手を伸ばした。

 

「あなたは純血龍王(クラル・ヴィーゲニア)だ。訓練がどんなものかは知らんが、根本的に戦い向きの身体……最初こそ戸惑うだろうが、実戦ができないわけではないだろう」

 

「!」

 

「だが、忘れるな。生き物は……人間は、意外と脆い。驚くほどにあっさりと、殺せてしまうんだ」

 

 赤のレーツェルを片刃剣へと変化させ、ディアナはその切っ先をおもむろにエリックの顔面に向けた。刺されることは無いだろうとは思っていたが、それでも鈍い銀の輝きを持つ切っ先を見て息を呑まずにはいられなかった。

 

「既にオレは、多くの人々の命を奪ってきた。相手がオレのような奴でも人は死ぬ。あなたならきっと、オレ以上に簡単に命を奪える……実戦とは、そういうことだ」

 

「……」

 

 ラドクリフとフェルリオ。双国の戦争は終わったが、今でもこの世界は、あまりにも治安が悪い。そのため、人を殺して罪に問われるということはないが、罪に問われるか問われないかの問題ではない。ここで問題となるのは、それとはまた別の問題だ。

 

「言っておくが、殺めずに戦う、というのは無理があるぞ……こればかりは、本当に無理だからな」

 

「……分かってるよ。そんなに甘くないって、言いたいんだろ?」

 

 恐らくディアナは、何とか命を殺めずに戦い続けようとしていたのだろう。しかし、それは叶わなかった。そんな甘えたことは、できなかったのだ――怖い、とエリックは思ってしまった。それでも、彼の覚悟は揺らがなかった。

 

「確かに、怖くないと言えば嘘になるよ。だが、それ以上に僕は守られる側ではいたくない。力になりたい、そう願うんだ」

 

「……。本当にあなたは、優しい人だ。だからこそ、罪の意識に押し潰されないか心配になる……が、何を言っても気は変わらないのだろう?」

 

 くすり、とディアナは笑い、手にしていた剣をエリックに渡した。それが何を意図する行動かを問う前に、彼はその辺に落ちていた長い枝を拾い、背中の翼を大きく動かしてエリックが首を動かさなければ見えないような位置まで飛び上がった。

 

 

「あなたの実力を、見定めさせてくれ。今から特攻を仕掛けるから、どうにかしてみろ」

 

「えっ!?」

 

 そんな無茶苦茶な、とエリックが言うのも聞き入れず、ディアナはくるりと空中で一回転し、枝を両手に構えて急降下してきた。

 唐突だったこともあって、彼の攻撃をかわせるとは思えない。ならば、受け止めるしかないだろう。エリックは受け取った剣をぐるりと裏返し、頭上に降りてきたディアナの枝をそのまま受け止め、弾いた。

 身体も軽く、非力なディアナはそれだけで怯んでしまった。その隙にエリックは左手を腰のホルダーへと伸ばして短剣を抜き、逆手に構える。

 

「おっ、と……ん? 二刀流、か。意外だな、あなたは大剣を振り回すような戦い方をするものだとばかり」

 

「僕の体質のせいだよ。あまり重い剣を使っては危ないと細身の物ばかり渡されるんだが、それだと片手が手持ち無沙汰になるから色々考えた結果二刀流になった。一応これも由緒正しきラドクリフの剣術だ……女剣士用の、だが」

 

「そ、それはどうなんだ、それは……まあ、良い。その辺も踏まえて、実践を通してあなたに合う戦い方を考えていこうか」

 

 苦笑するディアナが放り投げた木の枝が水溜りの中に落ち、飛沫を散らす。彼によるエリックの『見定め』は終了したらしい。それを感じ取ったエリックは短剣を腰のホルダーへと戻した。

 いつの間にか、雨は止んでいた。雨雲もある程度流れていったようで、向かい合う二人の姿を月明かりが照らしている。

 

 

「剣を持った経験はあるが、実戦経験は無いと聞いたから、咄嗟の判断力が見たかったんだ。悪かったな、突然襲ったりして」

 

「ああ、なるほどな。全く、驚いたじゃないか……ほら、剣。返すよ」

 

 はい、とエリックが剣をディアナに手渡そうとしたその瞬間。ディアナの長い耳がぴくりと動き、彼は剣を受け取ることなく辺りを見回しながら叫んだ。

 

「! 待て!」

 

 直後、遠くの茂みがガサガサと音を立てた。純血鳳凰(クラル・キルヒェニア)特有の優れた聴覚によって、ディアナはいち早く異変に気付くことが出来たのだろう。音は次第に、こちらへと近付いてくる。

 返しかけた剣を構え直し、エリックは今にも飛び出してきそうな『それ』へと意識を向けたが、ディアナはエリックの顔を横目で見て首を横に振るってみせる。

 

「ディアナ?」

 

「息切れが聴こえるんだ……複数の魔物に追われているようだが、こちらに向かってきているのは人だ。魔物に襲われて逃げ回っているのかもしれない」

 

「なっ!?」

 

 エリックにはガサガサという木の枝や葉を乱雑に掻き分ける音しか聴こえないのだが、こればかりは種族の差である。仕方のないことだろう。

 その音は、どんどんこちらへと向かってきている。こちらのコンディションを考えるならば、逃げるという選択肢が最も利口なものだろう。だが、エリックもディアナもそのような気には到底なれなかった。

 

 

「ディアナ。人助けついでに、魔物と一戦してみても良いか?」

 

「良いんじゃないか? なら、あなたには少々使いにくいかもしれないが、その剣を使ってくれ。オレは援護に回らせてもらう」

 

 ひらり、と空中に飛び上がり、ディアナはエリックの少し後ろへと回った。彼はすぐに詠唱を開始できるように意識を高め始めている。魔術を使うつもりなのだろう。

 茂みの向こうから、息を切らした苦しげな声が聴こえてきた。声の高さからして、女性のものだと判断して良いだろう。漸くその声を聴き取ったエリックは、剣を手にしたまま茂みへと走る。そして木々の間から微かに見えた腕を左手で掴み、迷うことなく自分の方へ引き寄せた。

 

「! きゃ……っ」

 

 バランスを崩し、女性はエリックの方へと大きくよろけてしまった。それを避けることなく受け止め、転ばないようにと上手く支えてやる。女性はエリックより少し年上に見えたが、丸っこい橙色の瞳が可愛らしい娘だった。

 そんな容姿とは対照的に、彼女はスラリと高い身長と豊満な体型の持ち主であった。大きく開いた胸元とパフスリーブが特徴的な淡い緑を基調としたレオタード型の魔導服を着ているが、恥ずかしいのか胸元の露出部分は濃い藍色のスカーフでその大半が隠されている。そこだけを見ると育ちの良さそうな印象を与えるだけに、かなり深いスリットの入ったロングスカートから覗く、左足の露出範囲が異常に広いのが気になった。ふとももに付けた銀色の輪から伸びる半透明の黒い布が彼女の足を包んではいるが、この場合包めば良いという問題では無い。

 見たところ、逃げる際にスカートが破れたというわけではないようだ。つまり、最初からこのようなデザインだったということだ――何となく気まずくなってしまい、エリックは思わず娘の肩を軽く掴んで自分の身体から引き離した。

 

「……。手荒な真似して、悪い。大丈夫か?」

 

「ッ、あ、なた……は?」

 

 垂れ目がちな瞳が、困惑気味のエリックを真っ直ぐに見つめてくる。その瞳は傷の痛みのせいか、酷く潤んでいた。

 桜色のゆるやかなウェーブを描く肩のラインで切り揃えられた髪は、雨のせいで彼女の頬や首筋にぺったりと貼り付いている。髪の右側には、解けかけで不格好な状態の黒いリボンが結ばれていた。

 

 何はともあれ、早く手当てをしてやらなければならないだろう。だが、迫り来る魔物たちは、今すぐエリック達にそれをする余裕を与えてはくれないようだ。

 

「話は後だ。先にあれを片付ける!」

 

 娘を後ろに下がらせ、エリックはその場で剣を振るって刃に付いた雨雫を払う。雫が前方へと弧を描いて飛び――それを合図にするかのように、茂みから大きな獣とその子どもが数匹飛び出した!

 

 

「ディアナ、あれは……?」

 

「ボア、という獣型の魔物だな。繁殖力が強いから、あちらこちらに出没する……ほらみろ、子連れだ。子どもの方は通称ボアチャイルド、だな」

 

「子連れ……」

 

「ええい! 魔物相手に躊躇うな! 可哀想に思う気持ちも分かるが、躊躇えばこっちが殺されるぞ!!」

 

 焦げ茶色の体毛を雨で濡らしながらもこちらに殺意を向けてくるボア達。戦うのを躊躇うエリックに一喝し、ディアナは両手を胸の前で組んだ。彼の真下には、白い輝きを放つ魔法陣が浮かび上がっている。

 

「鋭鋒を携えよ! ――シャープネス!」

 

 魔法陣がより一層強い輝きを放ち、いくつもの光がエリックの元へと飛んでくる。光は刃に、そしてエリック自身と同化して消えた。残ったのは、これまでに経験したことのない、力がどんどん湧き上がってくるような高揚感だった。

 剣の柄を右手で強く握り、腰のホルダーに戻していた短剣を取り出して左手に持つ。明らかに緊張した様子のエリックを見かねたのか、再びディアナが叫んだ。

 

「ちゃんと言わないとあなたは逆のことをしそうだから、言うぞ! ボアチャイルドから狙え! ボアは後回しだ!」

 

 子どもから狙え、というのも随分と残酷な話である。とはいえ、魔物に囲まれてしまったり後ろの娘が襲われてしまったりする確率を減らすためにも、まずは早く数を減らさなければいけないことはエリックにも理解できた。

 

「分かった、助かる!」

 

 覚悟を決め、エリックは一番自分に近い場所にいたボアチャイルドへと狙いを定めて駆け出した。訓練で繰り返し行った動作を頭で思い浮かべ、体ごと剣の切っ先を低く落としてチャイルドボアの腹の下へと滑り込ませる。ぐっと右腕と両足に力を込め、剣を振り上げながらエリックは重力に逆らい大きく飛躍した。

 

「――絶翔斬(ぜっしょうざん)ッ!」

 

 腹の下から斬り上げられたボアチャイルドは鮮血を撒き散らし、親のボアが鳴き声を上げる。深々と身を斬りつけられたボアチャイルドは小さな光の粉となり、空気中へと消え去った。

 

「! 消えた……!?」

 

「オレもよく分からないんだが、大抵の魔物は何らかの形で汚染され、神力を失った下位精霊の成れの果てだという。生きているうちは他の生物と代わりないが、命を終えれば魔力として空に還るんだ……不思議だよな」

 

 魔物の亡骸が残らなかったことに驚くエリックに簡潔な説明をし、ディアナは右足に付けていたケースから三枚の細長いカードを取り出した。美しい絵の描かれたそれらは、通常ならば占いに使われるタロットカードだった。それをディアナは、何のためらいもなく宙に放り投げる。

 

「――集いて爆ぜよ、紅蓮の連弾!」

 

 投げられたカードは地に落ちることなく、ディアナの周りをくるくると回っている。そして、彼の詠唱に合わせて一つ一つが炎を纏っていった。

 

「ファイアボール!」

 

 詠唱を完成させ、ディアナが叫んだ瞬間。三枚のカードが強い光を放ち、炎を纏ったまま一匹のボアチャイルドへと襲いかかった!

 体毛と肉の焼けたことによる焦げ臭さが辺りを漂う。ボアチャイルドは小さく呻くような鳴き声を上げ、魔力の塊となって拡散した。不幸中の幸い、ボアチャイルドは大した耐久力を持っていないらしい。ディアナが魔術発動の隙で怯んでいるうちにエリックはボアの突進を避けつつ、最後のボアチャイルドの元へと駆けた。シャープネスの効果は、まだ続いている。躊躇うことなく、彼は腰を落としてボアチャイルドの小さな身体を剣で薙いだ。

 

「終わりだ! ――真空破斬(しんくうはざん)ッ!」

 

 剣の軌跡が風の刃を生み出し、それがボアチャイルドの身体をズタズタに切り裂いていく。元々剣による傷を負っていた上に、シャープネスで強化されたエリックの攻撃だ。耐えられるはずもない。

 ボアチャイルドが、空に散る。しかし、まだ終わりではない。エリックは最後に残された親のボアを探すために辺りを見回した――その時!

 

 

「エリック!」

 

 ディアナの声が響く。彼はそこまで言わなかったが、大体想像が付く。エリックは慌てて剣を横に構えて後ろを振り返り、勢いを付けて迫り来るボアへと防御姿勢を取った。

 

「ッ、ぐあっ!」

 

 しかし、ボアの攻撃力は想像以上のものであった。ボアの攻撃を受け止めきれなかったエリックは後ろに大きく飛ばされ、地面を転がった。打ち付けた背中と、剣を持っていた両腕がじんじんと痛む。

 

「くそっ! 負けてたまるか!」

 

「……。根性は認める。さて」

 

 すぐに立ち上がってみせたエリックを見て、ディアナは微かに笑みを浮かべて再び両手を組んだ。

 

「守護の大翼! ――バリアー!」

 

 術の完成と共に現れたのは、エリックには無い光の翼。それは一瞬だけ彼の背から伸びて全身を包み込み、シャープネスの時同様に彼の身体に同化された。今度も身体能力向上系だろうが、術がもたらす効果は違うようだ。

 ディアナの支援に感謝しつつ、エリックはボアに向かって駆け出した。子どもを殺されたボアは怒り狂っており、完全に敵と判断しているらしいエリック目掛けて逃げることなく突っ込んできた!

 

「く……っ!」

 

 突っ込んできたボアの重い一撃を何とか耐えたエリックは一歩前に踏み込んで剣を斜めに薙ぎ、左手を勢いよく振り下ろして短剣をボアに突き立て――ようとした。

 

「え……?」

 

 剣も、短剣も。ボアに傷一つ与えていない。そのことにエリックが気付いた時には、ボアは既に反撃体勢に入っていた。刹那、鈍い音と共に腹部に吐き気を催すほどの衝撃が走った。

 

「がっ!? ……ごほっごほっ!」

 

「え、エリック!!」

 

 今度は、ただ地面を転がるだけでは済まなかった。雨でぬかるんだ土を背で抉りながら、エリックは飛ばされていく。泥水が跳ねる中、喉の奥から込み上げてくるものを抑えきれずに彼は嘔吐いた。胃液をぶちまけたかと思ったが、それだけではない。それどころか、吐き出したものの大半は血であった。

 

 

「は……っ、はぁ……っ、ぐ、うっ!!」

 

 起き上がろうと身体を起こすと、腹部に激痛が走った。これは当たり所が悪かったかもしれないと、エリックは奥歯を噛み締める。それでも自分は横たわっている場合では無いと、飛ばされる途中で落としてしまった剣を拾い上げ、再び構えを取る。

 

「おい、無理をするな! その剣をオレに……!」

 

「大丈夫だよ、これくらい……どうってことない!」

 

 口の中いっぱいに広がる鉄の味を感じながら、我ながら大した強がりだとエリックは自分自身を嘲笑う。必要以上に強がってしまうアルディスの気持ちが、何となく分かったような気がした。

 

「そんなはずあるか! 良いから代われ!」

 

 

 エリックのことを気遣っているのだろう。そう叫んでディアナはエリックの元へと飛んでいこうとする彼の腕を掴んで行く手を阻んだのは、先ほど助けた桃色髪の娘だった。

 

「ごめんね。失礼なこと言うけど……絶対に無理よ、君じゃ」

 

「な……っ!?」

 

 いつの間にディアナの背後に回ったのだろうか。確かに彼女はエリックとディアナに庇われるような場所にいたが、ここまで接近された覚えはないとディアナは頭を振るう。

 だが、彼女が太ももの銀の輪――その中心で控えめに輝く紫のレーツェルに手を伸ばすのを見た二人は、ここでようやく彼女が「ただ守られているだけの存在」では無さそうだということに気が付いた。

 

「見たところ、“先生”と同じ精霊術師(フェアトラーカー)ってわけじゃ無さそうだし。戦いなれてはいるみたいだけど、あそこの彼……エリック君、だったかしら? あの子の腕っ節には叶わないわ。あの子で入らないのなら、君じゃ無理よ。あと、あの速さじゃ魔術詠唱やってる余裕もあまり無いだろうしね」

 

 それこそ、前衛の彼に頼らなきゃどうしようもないわ、と娘は橙色の瞳を細める。彼女の視線の先には、何とかボアからの攻撃を受け流し続けているエリックの姿があった。あれでは、いずれ身体が持たなくなってしまうだろうと。娘の言うことが正論だと判断したディアナは悔しそうに奥歯を噛み締めていた。

 

「――ッ、悔しいが、間違いなくそうだろうな。だが……」

 

 娘のレーツェルが、銀色のワンドへと変化する。その先端部分には、桃色の長いリボンが繋がっていた。右手でワンドの柄を握り締め、左手でリボンを掴んだ娘は、ディアナに話しかけながら魔力を高め始める。

 

「君は……ディアナ君、で良いのかしら? ディアナ君は彼に、もう一度シャープネスを掛けてあげて。ずっと見てたから言うんだけど、あたしと君達二人の力が合わされば、何とかなるわ」

 

「し、しかし、一旦エリックの傷を癒した方が……」

 

「無理よ。それをしている間に、今度はバリアーの効果が切れる。そうしたら彼は恐らく、次のボアの攻撃に耐えられないと思う……エリック君が可哀想だけど、ちょっと我慢してもらって次の一撃に賭けてもらった方が懸命よ。あの子、間合いに入っていくの上手みたいだから、一撃だけなら確実にボアの反撃受けずに決められるわ」

 

 無条件で相手を安心させてくれるような、優しげな微笑み。そんな微笑みを戸惑うディアナに向けながら、娘は自身の真下に紫の魔法陣を展開させた。

 

 

「任せて。攻撃魔術使うだけの体力は無いけれど、専門の“これ”なら出せるから」

 

 

 名前も知らない娘の言葉。ただ、戦いなれているのだと考えられる彼女の言葉は強い説得力があった。ディアナは一度だけこちらを振り返ったエリックと視線を合わせた後、両手を胸の前で力強く組んでみせた。

 

「――鋭鋒を携えよ!」

 

「――崩壊を唄いし、黒蝶の舞踊」

 

 エリックとディアナが出した結論、それは娘の言うことを信じ、次の一撃に賭けるというものだった。ディアナの詠唱に続く形で、娘が詠唱を紡いでいく。二人が詠唱を唱えている間に、エリックはボアの攻撃を受け流しながら、次の一手を出すタイミングを見計らっていた。

 

「シャープネス!」

 

「スケアべイン!」

 

 ディアナとポプリの詠唱が完成する。先ほど同様にシャープネスはエリックの力を上昇させ、一方ポプリの術は魔法陣から飛び出した黒い光が複数の漆黒の蝶と化してボアの身体に貼り付き、そのまま同化していった。一体何の術だとエリックが娘に問いかけようとしたその瞬間、ボアが前足のバランスを崩して軽くよろめいた。

 

(今だ!)

 

 術の効果を聞いている場合ではない。エリックは一気にボアとの間合いを詰め、剣を大きく横に薙いだ。先ほどチャイルドボアに放ったものと同じ『真空破斬』だ。剣の一閃と、風の刃。両方に身体を裂かれ、今度こそボアは血飛沫を上げる。次の一撃で、とは言っていたが、一撃だけ放てという意味では無いだろうと思ったのだ。どうせなら、確実に仕留めておきたかったのだ。

 

 ずうん、と巨大なボアの身体が地面に倒れ込む音がする。刹那、その大きな身体は子ども達がそうであったように、小さな光の粒となって空気中に拡散していった。

 

 

「か、勝った、の、か……?」

 

 気が抜け、エリックはその場に両膝を付いた。呆然とする彼の目の前に、不安げな表情をしたディアナが飛んでくる。

 

「大丈夫か!? い、今、治すから……!」

 

「無理はするなよ。お前、ついさっきまでアルの治療してくれてたんだから……ところで、さっきのあの女の人……」

 

 ディアナに傷を治してもらいながら、エリックは辺りをきょろきょろと見回し――驚愕した。彼は目の前のディアナを下がらせ、娘の元へと走る。

 

「ッ!」

 

「エリックどうした!? ……って、こっちの方が大丈夫じゃなかったのか!?」

 

 ぐったりと、地面にうつ伏せになった状態で荒い呼吸を繰り返す桃色髪の娘。エリックは慌ててその身体を起こし、娘の顔色を窺った。

 

「うふふ、情けないなぁ……さっきのアレで、あたし、限界だったみたい……」

 

「だ、大丈夫なのか……!?」

 

「心配しないで、大丈夫よ。ただ……少し、眠い、かな……」

 

 娘の橙色の瞳が、瞼に覆われていく。彼女はここに来るまでの間に魔術を多く使っていたようであるから、魔力切れによる疲労感が原因である可能性が高い。

 否、それだけではない。傷口から雑菌が入ったか魔物の毒攻撃を受けていたかしていたのだろう。先ほどは気が付かなかったのだが、彼女は高い熱を出していた。

 

「え、ええと……」

 

「……そう、だ。名前……名前、名乗ってなかった、な……」

 

 朧げな意識の中、娘は言葉を紡ぐ。エリックは娘をそっと抱え上げ、ディアナが前を飛ぶ形で洞窟へと歩き始めた。二人の間に言葉は無かったが、考えたことは全く同じだったようだ。

 

「あたし……ポプリっていうの。エリック君、ディアナ君……巻き込んじゃって、ごめん。助けてくれて、本当に、ありがと……」

 

「……。僕の方こそ、礼を言わせてくれ。こちらこそ助かった。ありがとう……ポプリ」

 

 

 娘――ポプリの身体が震えている。雨に濡れた上、熱による寒気が酷いのだろう。呼吸もかなり荒い。さらには、意識を保っていられないほどに衰弱してきている。

 これは一刻も早く安全な場所での手当をしなければならない、と考えたエリックの歩く速度は自然と早くなっていった。

 

 

 

―――― To be continued.

 

 


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