テイルズ オブ フェータリアン ー希望を紡ぎ出すRPGー   作:逢月

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Tune.56 神格精霊は語る

 

『ふふ、どうかな? 驚いたかな?』

 

「……」

 

『驚きすぎかなぁ……』

 

 ははは、と青い目を細め、マクスウェルが笑う。だが、一方のエリックは恐ろしさを感じずにはいられなかった。偶然、とは言っていたが、どのような意味なのだろうか。

 そんなエリックの思いを感じ取ったのだろう。マクスウェルは特に躊躇うことなく、楽しげに語り始めた。

 

 

『精霊っていうのがどんな存在か、あなた達は知ってるかな?』

 

「い、いや……」

 

『だよね。それはまあ置いといて、何で容姿が似てるのかについて話そうか』

 

 マクスウェルは僅かに地面から浮いた状態で、エリック達が入ってきた扉を出て行く。外に出るつもりなのだろうか。イチハが何の迷いもなく着いていったこともあり、エリック達もその後を追うことにした。そもそも、話がまだ終わっていない。

 

 しばらく進んだ先、中庭のある場所。そこまで進んでから、マクスウェルはピタリと立ち止まり、エリック達を振り返った。

 

 

『あなた達も名前くらいは聞いたこと、あるんじゃないかな――ルネリアル=エルマ=ラドクリフと、スウェーラル=ウェン=フェルリオの物語』

 

「神歌伝説のこと、か?」

 

『そうそう』

 

 女剣士ルネリアルと大賢者スウェーラルの物語。通称、『神歌伝説』。

 伝説が語るのは、アレストアラントの歴史と不思議な力を持つルネリアルとスウェーラルの悲しき物語だ。エリックは、ぼんやりとその内容を頭に描き始める。

 

(確か、こんな内容だっただろうか……)

 

 

――古代アレストアは、二人の者により、統治されていた。

 

 龍の力を秘めし太陽の化身、ルネリアル。その者、気高き騎士なり。

 鳳凰の力を秘めし月の化身、スウェーラル。その者、聡明な賢者なり。

 

 二人の奏でる音は“神歌”と呼ばれ、人々を豊かにする七つの旋律を刻んだ。

 旋律は荒廃した大地に安らぎをもたらし、美しき世界の礎を築き上げた。

 人々は皆、二人を讃えた。そうして二人は、世界の王となった。

 

 ところが、人々は戦乱を起こした。

 友たる者達の地、富を奪い取る戦が始まったのだ。

 美しき世界は、穢れていった。

 

 ルネリアル、スウェーラルはこれを悲しみ、自らの命を引き換えに戦乱を静めた。

 

 神歌は七つに別れ、世界に散った。

 歌の加護が無くなり、幸福な世界は消え去った。

 人々は二人の王に許しを請いたが、王亡き今、美しき世界はもう戻らなかった。

 

 人々は、永久に嘆き続け、永遠の罪を背負い続ける。

 

 嗚呼、願わくはもう一度響かせて欲しい――この世界に、神歌を。

 

 

「わたし達のご先祖様の物語だし、当然知ってるよ。だけど……あまり、幸せな物語じゃないよね」

 

 綴られるのは、二人の王による平和な時代が、人々の貪欲さ故に失われたという嘆きの歴史だ。この元となった文献は、およそ千年前に書かれたものだと言われている。

 所詮おとぎ話に過ぎないと主張する者もいる。しかし、実際にルネリアル、スウェーラルの血を引いていると言われる者達がこの世界に存在している――それが、龍王族(ヴィーゲニア)鳳凰族(キルヒェニア)。今、この世界を生きている人々だ。

 そして由緒正しき血筋を守り続けているのがラドクリフの王族とフェルリオの皇族である。つまりエリックとアルディスは、それぞれルネリアルとスウェーラルの遠い子孫であるとされている。

 

「そ、それがどうしたんだ?」

 

 だが、そんなことは自分の問いとは関係ないだろうとエリックはマクスウェルを急かす。マクスウェルも要件を思い出したのだろう。彼は少し悩んだ後、口を開いた。

 

『うーん、結果的に生まれたのが私だった……というか。ふたりの間に、“神歌”のついでに生まれた、みたいな……』

 

「!?」

 

『あなたの母親はルネリアルそっくりなんだ。で、父親も王族とそこまで血筋が離れていないから、あなたは自分で思っている以上に純粋なルネリアルの子孫なんだよ。そして私は母親似でね……まあ、どちらかというと父親似のあなたに似ているから、母方の遺伝子引っ張ってきて隔世遺伝か何かしたのかもしれないね、私、精霊だけど』

 

 ふふふ、とマクスウェルは楽しげに笑っている。しかし、エリックからしてみれば非常に反応に困る話であった。

 

「つ、つまり、ルネリアルとスウェーラルの子が、マクスウェル……?」

 

『だからそう言ってるじゃないか。まあ、そもそもあの神話ってかなり……まあ良いや。私とあなたは親戚みたいなもの。アルディスとポプリの関係みたいなものだよ』

 

「遠縁って言いたいのね……?」

 

『そうそう。別にエリックの身体から抜けた体内精霊ってわけじゃないよ』

 

 その言葉に、ほっと胸を撫で下ろしたのはエリックだけではないだろう。そんなことがあってはたまらない。どうしたら良いか、分からなくなってしまう。

 

 

『エリック、あなたの身体から抜かれた精霊は別の人の身体の中で元気にしてるよ。ただ、まあ、結果的に押し付けられちゃった側のあの子は相当困ってるみたいだけど……あの様子じゃ、体質にもかなりの影響が出ているみたいだし』

 

「そ、そうなのか……どこに行ったか、教えてくれと言ったら?」

 

 駄目元だった。教えてくれはしないだろうと、分かっていた。

 それでも訪ねてみたエリックに対し、マクスウェルはおもむろに首を横に振るう。

 

『分かってるみたいだけど、駄目だよ。ただ、本来あなたが得る筈だった、特殊能力だけは教えてあげる』

 

 色々と、気になっていることもあるだろうから。

 そう言って、マクスウェルはエリックの赤い瞳を真っ直ぐに見つめ、口を開いた。

 

 

『あなたの能力は、唯我秩序(エーリッヒ・ヴァルデマール)――拒絶系能力、秩序封印(ヴァルデマール・フレイヤ)の突然変異で上位に位置する特殊能力。魔力に関連する全てを弾く力を持っているよ。制御できなければ、治癒能力さえも受け付けない身体になってしまう……そんな能力』

 

「!」

 

「秩序封印の突然変異で、上位能力!? そんなの、純血龍王(クラル・ヴィーゲニア)のエリック君に、制御できるわけ……」

 

『そう、幼いエリックが制御できるはずがなかったんだ。だからといって精霊抜くのは良くなかったね。人間の身体は精霊いなきゃ成り立たないのに……虚弱体質で済んだのは、運が良かったと思うよ。あなた、多分元が強かったんだね』

 

 語られたのは、エリックの能力と、虚弱体質の真相。それは、クリフォードが言っていた内容とほぼ同義ではあったが、充分驚異的なものだった。

 しかし、エリック以上にポプリの方が大きな衝撃を受けている様子であった。エリックがおもむろにポプリに視線を向けると、彼女は困ったように笑い、首を傾げた。

 

「嫌な気分にさせちゃった?」

 

「い、いや違う……その、聞いて良いか、ずっと悩んでいたんだが……お前、秩序封印(ヴァルデマール・フレイヤ)能力で嫌な目にあったり、とか……」

 

 エリックが躊躇いがちに紡いだ問いを、ポプリは視線を逸らすことによって拒んだ。聞かないで欲しい、ということだろう。だが、何も答えないのは悪いと思ったのか、ポプリは「あの人には申し訳ないんだけど」と前置きしてから話しだす。

 

「あたし、フェリシティ=トルーマンって、フェレニーのこと呼んだでしょう?」

 

「ああ、反応からして、間違いなく本名なんだろうな、とは思った……というより、名前に聞き覚えがあるんだよな。アル、分かるか?」

 

「ある……けど、具体的な内容は忘れた。確か、死刑囚だったはず……ダリウスさん含め、黒衣の龍って本当に訳ありなんだなって、本気でそう思ったよ」

 

 フェリシティ=トルーマン。黒衣の龍幹部、フェレニーの本当の名前。

 何故かポプリは、その名を知っていた。否、知らなかったのはエリックと、それからマルーシャだけだったようだ。アルディスに続き、おずおずと手を挙げたのは、ディアナだった。

 

「フェリシティは確か、シャーベルグの一部を爆破した罪に問われ、死刑宣告された……んだったよ、な? こっちに来る前に、少しは鳳凰狩り対策ができるかと思って、犯罪関連を軽く勉強してきたんだ」

 

 この件に関しては、ディアナも詳しそうだ。落ち着いたせいか、彼女はいつもの堅苦しい喋り方に戻っている。だが、そこは気にしないことにする。彼女がやりたいように、させてやれば良いだろうと。

 エリックの視線を、説明を催促しているのだと受け取ったのだろう。ディアナは記憶の片隅から情報を引っ張り出しながら、エリックに向けて語り始めた。

 

「あの人は純血龍王(クラル・ヴィーゲニア)だった。つまり、制御できなかったんだろうな。目覚めたばかりの、秩序封印(ヴァルデマール・フレイヤ)の能力を」

 

「そ、それで……爆破……」

 

 故意では無かった。しかし、大きな損害が生まれた。多くの生命が、失われた――だから、フェリシティは死刑囚となってしまったのだという。

 言いたいことは分かる、しかしあまりにも理不尽ではないかとエリックは両の拳を握り締める。そんな彼の肩を叩いたのは、ポプリだった。

 

「特殊能力、秩序封印(ヴァルデマール・フレイヤ)はすごく強力な能力だから。そして、鳳凰狩りを隠れ蓑に、あたし達も狩られる側になった……フェリシティは、その最初の被害者よ」

 

「え……」

 

 秩序封印。確かに、冷静に考えてみればこれは恐ろしい能力だ。身動きを取れないように拘束することも、毒を打ち込んで苦しませることも、能力を封じ込めることも、だってできてしまう。あまり目立たないが、対人相手ならば極めて有用な能力であろう。

 ポプリはどこか悲しげに笑い、空を仰ぎながら話を続ける。

 

「彼女の能力を見て、研究者達は秩序封印(ヴァルデマール・フレイヤ)能力者に目を付けたんだと思う。だけど、国民を普通に捕らえるわけにはいかない。だから、フェリシティみたいに暴走しちゃった子どもは真っ先に被害にあったの……そうね、やっぱり、話しておこうかしら」

 

 橙色の瞳を閉じ、ポプリは深く息を吐いた。そして、エリックを見据えて、笑った。

 

 

「一番の標的は、あたしみたいな孤児。孤児院にも入れず、放浪してる孤児のひとりやふたり、捕まえたってバレないもの。いなくなったって、気付かれないもの……ここまで大きくなるまで、生きていられたのって奇跡だと思ってるわ」

 

「……!」

 

 ポプリはいつ捕まったとしても、おかしくは無かった。しかし、彼女を守る存在がいた。だから、助かった――だが、どうしてもエリックには引っかかるものがあった。

 

(ポプリって、領主の娘なんだよな? なのに、何で誰にも引き取られずに育ったんだ? クロード家は、一体どうなったんだ?)

 

 ちらり、とアルディスを見る。アルディスもアルディスで、何かを言いたそうにしている。恐らく、同じことを考えているのだろう。否、ポプリの故郷、ペルストラで暮らしていた彼はエリック以上に疑問を感じている筈だ。

 

「……」

 

 

 領主の娘が、領民に蔑ろにされたというのか――どう考えても、これはおかしい。おかしいが、これは恐らく、ポプリが最も触れられたくない部分だ。

 

 

「……。ところで、フェリシティの事件って何年前なんだ?」

 

 これは、変に踏み込んでいってしまう前に話を変えた方が良いだろう。そう思い、エリックはディアナに問いかけた。

 

「あ、ああ……事件自体は結構前で、十五年前だって聞いてる。フェリシティは当時十二歳、か。爆破した場所がよりによって、西のチェンバレン領だったものだから子どもだろうが容赦なく……って感じだったかな。せめて東側だったら……」

 

「東側……そういうの、許す人なのかどうかは分からないけれど、愛に生きた人だってことしか今となっては分からないわね……まあ、チェンバレン家よりは、まともだと信じたいけれど……」

 

 シャーベルグはラドクリフで最も大きな都市である。そのため、あの地は二つの領土に分かれて統治されている。西のチェンバレン領と、東のジェラルディーン領だ。ただし、今現在東側に関しては実質チェンバレン家が支配している――その理由に関しては、エリック達も勿論知っているわけだが。

 エリックはルネリアルからろくに出たことがなかったし、マルーシャはシャーベルグの出身だがよく覚えていないとのことなので、あの地に詳しい者は現状いなかった。ただひとつ言えるのは、チェンバレン家はかなり気難しい上に、ラドクリフには珍しい“陰湿な”一族である、ということだ。

 

「……」

 

 チェンバレンの名前が出たことによって、マルーシャが表情を曇らせた。それもそのはずだ、彼女は貴族――特に、男爵家であるウィルナビスよりも上の位、伯爵家であるチェンバレンの者達には、特に目を付けられていた。

 

(ジェラルディーンが、残ってればなぁ……)

 

 ウィルナビス家は東側、ジェラルディーン領の内部に僅かな土地を持っていた。だが、ジェラルディーン家が衰退してからは、その後に入ってきたチェンバレン家に相当な嫌がらせを受けていたのだという話を、母から聞いている。だからこそ、ウィルナビス家は今、ラドクリフ城の傍に屋敷を構えているのだという話も。

 嫌がらせを受けていたという時期は、マルーシャもまだまだ幼かった筈だ。覚えていないに違いない。しかし、結局彼女はエリックの許嫁になったことによって嫌がらせを受ける羽目になっている。

 

「マルーシャ? 大丈夫、か?」

 

 急にマルーシャの顔色が曇ったことに気付いたディアナは、マルーシャの前へと移動し彼女の顔を覗き込む。それに対し、マルーシャはハッとした表情を浮かべた後、引きつったような笑みを浮かべてみせた。

 

「あはは、ごめん……あの家、苦手なの……」

 

「! ……マルーシャに嫌われるなんて、相当だな」

 

 これは根が深い。シャーベルグに行く用事は今のところは無いのだが、用事ができた時は用心した方が良いかもしれない。そう思い、エリックは何となくマクスウェルへと視線を向ける。

 

 先程から会話に入ってこないなと思えば、マクスウェルはイチハと何か話し合っているようであった。彼らはいつの間にか、エリック達から少し離れた場所へと移動している。

 

「マクスウェル? イチハ?」

 

 余程熱心に話し込んでいるのか、二人はエリックが近付いても気付かない。よく見ると、マクスウェルがイチハに責められているようだった。

 

『ごめん、契約を緩くしていたんだよ。違反事項が発生すれば、すぐに解除されるくらいには。それに……あの子は、魔力の影響を人一倍受けてしまう。強すぎる契約は勿論危険だし、契約期間が伸びれば伸びるほどに、あの子は本当に“人では無くなってしまう”。だから……だけどまさか、国境を跨いで追っかけてくるとは、思わなかった。本当に申し訳ないことをしたよ』

 

「あなたが、あんな事態を例外扱いしない筈がないとは思っていました。けれど……どうされるおつもりですか?」

 

『……。悩んでる。素質で行けば、今ならライでも大丈夫だし、適役は……何か盗み聞きしてくれちゃってるエリックなんだけど』

 

「!?」

 

 会話を聞いているのがバレてしまったらしい。びくり、と肩を震わせたエリックを見て、マクスウェルはくすくすと悪戯っ子のように笑ってみせる。

 

精霊の使徒(エレミヤ)契約って、良いものじゃないんだよね。力に溺れて狂ってしまう子もいるし、適応力が無さ過ぎると理性が崩壊しかねない。クリフみたいに適応力があり過ぎる子は、私と同化して、神格の器――自我を持たない本当の操り人形と化してしまう危険性がある。だから、ゆるーく契約を結んで、何かあったらすぐに契約が切れるようにしておいたんだ。そのせいで、あなた達には苦労をかけてしまったみたいだね』

 

「いや、それは良いんだが……その危険性だとか、契約を緩くした理由なんかはクリフォードに話してないだろ?」

 

『話したら多分あの子、喜んで神格の器になると思ったんだ。言っちゃ悪いけど、クリフは死にたがりなとこあるし……何より、何も考えなくて済むようになるって、あの子にとっては凄く魅力的だと思うんだよ。特に、契約当時のあの子には、尚更』

 

「……なるほど、な」

 

 精霊の使徒(エレミヤ)になるためには、マクスウェルに認められる何かを持った人物であり、精霊術師(フェアトラーカー)の才能があることが大前提。後者に関しては、クリフォードほどの適材はなかなか現れないとのことであった。

 

『私は母親のシェリルと面識があったから、最初からジェラルディーン兄弟に目を付けていたんだ。なのに、何か厄介なことになっちゃってね……丁度、ゾディート君が失踪したダリウス君を探していたから、導いて何とか助け出した。けど、クリフを探すのに時間が掛かっちゃって、時間差が開いちゃった。後になったこともあって、私がクリフを引き取った……精霊の使徒(エレミヤ)の適正面を考えたら、ダリウス君のが欲しかったんだけどね』

 

「適正、面……?」

 

『両方共適応力ありすぎるから、どっちも神格の器化の危険性は持ってる。けれど、適正って意味じゃダリウス君が向いていたんだ。あの子の方が、戦闘向きの能力してたし、何より意志が強いから、私の力に飲まれすぎないだろう……って、思ってた。別に、クリフが不満なわけじゃないけれど、心配なんだよね』

 

 自分は母親と面識がある上に、クリフは小さい頃から見てたからなぁ、とマクスウェルは苦笑する。親のような、祖父のような気持ちになってしまっているのだろう、と。

 こんな話をしていると、マルーシャ達も気付いてこちらに寄ってきた。それを見て、マクスウェルはおもむろに首を横に振るう。

 

『多分、あなた達も気にしてるだろうけど……ごめんね、精霊の使徒(エレミヤ)再契約の件は、もうちょっと考えさせて。場合によっては、使徒を替えることも考えてる』

 

「!」

 

 マクスウェルの言葉に、エリック達は絶句してしまった。マルーシャやアルディスは何とか反論しようとしている様子だった。だが彼女らが口を開くよりも先に、マクスウェルが再び語りだした。

 

『あの子……あんなに表情がコロコロ変わるようになったんだね。少しずつ、感情ってものを理解し始めたんだね。あなた達のお蔭かな。そこは、本当に感謝してる』

 

 エリックによく似た顔立ちの男は、エリックとは異なる青い瞳を細めて笑う。

 

『心配しないで。何かしら、考えるから。あの子は、精霊の使徒(エレミヤ)であることを生きる目標にするんじゃなくて、あなた達の旅に着いて行きたいがゆえに精霊の使徒であろうとしてたから……せっかく、前を向いて生きる希望ができたんだ。それを、奪いたくない』

 

「そう、か……分かった」

 

『とりあえず、私の話はおしまい。クリフに会いにいってあげてよ……多分、今頃困ってるから』

 

「!?」

 

 一体、何を困っているというのか。エリック達が困惑していると、横にいたイチハが盛大にため息を吐いた。

 

「ま、また力の無駄遣いを……! クリフ頭固いから苦手なんだよな、ああいうの。ライ連れてって一緒に解読するか……」

 

「は……!?」

 

「ふふ、クリフの家面白いよ。俺様やライの家みたいに殺しに来ないから、大丈夫。案内するから行ってみようか」

 

「ちょっと待って! どういうこと!? それ多分、わたし達が知ってる家じゃない!!」

 

 動揺するマルーシャ達を放置し、イチハは踵を返して出口へと進んでいく。迷子にならないためにもと、一同は慌てて彼の後を追った――「殺しに来る家って何だよ」という共通の疑問を抱えながら。

 

 

 

―――― To be continued.


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