テイルズ オブ フェータリアン ー希望を紡ぎ出すRPGー 作:逢月
コラムはコラムですが、エリック視点になった変なコラムです。メンタル未曽有の大事故モードな仲間達について、某所では「カウンセラー」と名高いエリック王子がまとめてみたようです。
深夜――あまりにも衝撃的な話ばかりを聞いてしまい、眠気が来ない。
「……」
僕はなるべく音を立てないように気を付けつつベッドから身体を起こし、ベッド横のチェストの上に置かれたランタンに火を灯した。周囲を、暖かな橙が照らしている。
ジャンは多分、寝ていると思う。アイツの近くでもランタンが光っているせいで、よく分からない。さっき知ったんだが、ジャンは暗閉所恐怖症だった。彼の兄の噂を聞いていたから、それとなく質問してみて良かったと思った。ここは消して広くはない室内だし、灯りを消してしまえば真っ暗だ。この条件が揃うと、ジャンは「寝ない」という選択肢を選んでしまうらしい。
話を聞いて、迷わず僕は言っていた。「ランタン点けて寝ろ」と……。
「……はあ」
思わず額に手を当て、僕は深くため息を吐き出した――それと同時に、眠れない今こそやるべきことを思いついた。
僕は静かにベッドから降り、鞄を探る。取り出したのは、藍色に金の装飾の入ったノートとペンだ。アルの真似をして日記でも書こうと思って持ってきたんだが、色々ありすぎてすっかり忘れていたんだ。三日坊主どころか、一日も書いていないまっさらなノートだ。
このノートの使用法が、漸く思いついた。僕はベッドに戻り、ノートを開く。そして、その罫線のみが引かれたページに文字を走らせ始めた……とりあえず、アイツらについてまとめておこうかな、と……。
―――――
● アル
名乗っていた名前は『アルディス=クロード』だったんだが、本名は『アルディス=ノア=フェルリオ』だった。(僕が勝手に苦手意識を抱いていたノア皇子、だったわけだ)
余計な先入観が入りすぎていたのは認めるが、僕の中でノア皇子っていうのはもっとこう、嫌味で、人間味のない感じだったんだ。だからこそ、むしろ人間臭いアルと結びつかなかったのかなー、と……まあ、一番の要因は間違いなく僕の現実逃避にあったわけだが。
自分を棚に上げるつもりはないんだが、僕に負けじとコイツも大概に現実逃避癖があるし、特に切羽詰った時の行動が極端過ぎる傾向があるんだよな。
思考の極端さは八年前の騒動の時点で、大概に分かってたけれどな。腹刺して崖から飛び降りるわ、二階から飛び降りるわ、何故か街の地下にいるわ、本当どうしようかと思った……。
ただ、さ……仕方ないんだろうな。コイツが自分のことを大事にできるワケが無かった。何故ならアルは、人工的に作られた存在だったから。
後から分かったことも含めて、まとめてみる。
ジャンは、僕らが“身体”と思っているものは“精霊の入れ物”って話してた。僕らの中には、精霊(体内精霊)が住み着いているんだって。そしてヴァイスハイトは、最初から入れ物を自分達が暮らしやすいように作成する……つまり、胎児の時点で作り替えが発生していると考えて良いと思う。
そしてアルはフェルリオがラドクリフに勝つため、母体に下位精霊を流し込むっていうとんでもない手段で生みだされたヴァイスハイトだったんだ。ジャンと比べたら明らかに攻撃術に特化していることを考えたら、もしかしたらそういう下位精霊を選んで流し込んだのかもな。
これ、本人が知らなければまだ救いがあったんだろうけど。大方、周りにそう言われてそだったんだろう。アルは、自分自身のことを酷く見下していた。そりゃそうだよな、自分は数ある“兵器”の中の一つな上に完全に望まれた姿ではなかった(アルは隻翼だし、血統をとにかく重視するフェルリオでは嫌われる
僕も僕で、アルの件に関しては本当に反省してる。平常心を保てなかったのは、僕も同じだからな。(ただ、悪いがアルよりはいざって時に冷静だと思っているぞ!)
間違いなく、僕自身もアルを追い込む要因になっていた。多分、そもそも親しくなってしまった時点で良くないことだった気がしているよ。けれど、親しかったからこそ、色々聞き出すことができたんだとは思っている。
まず、第一にアイツは酷い葛藤と戦っていた。勝手に僕と自分を天秤に掛けて、自分が死ぬべきなんだとかとんでもないことを考えていたくせに、本心では生きることを望んでいた。死ぬべきなのに、生きたい――本当に、凄まじい葛藤だと思う。
しかも、
アルができなかったのは、存在証明。アイツは国民に愛されていたし、何より僕らならアイツが必要だと迷わず主張できた。存在証明が可能なだけの材料は揃っていた筈なのに、その材料に気付けない程、アイツは追い込まれていた。生きる価値のない“兵器”だって思っていた。(“人間”だって言いたいけど、言えなかったんだろうな。辛いな)
抱えているものが、大きすぎたんだろう。だからアイツは、笑えなくなってしまったんだろう……これからも時々、気にかけておこうかな、とは思う。(恐ろしいことがいくつか判明したしな)
● ジャン
本名は『クリフォード=ジェラルディーン』らしいが、ものすごく名字呼び嫌がるから名字では呼ばないことにする。ただ名前は呼んでも良さそう……というかむしろ錯乱した時なんかは特に名前呼びの方が反応良いようだから、本人の希望聞いて考えようと思う。(ていうか何で“ジャンク”なんて名乗った!?)
名字を知って判明したがジャンと、それから黒衣の龍のダークネスことダリウスは僕の又従兄弟に当たる関係だ。(祖父の代が兄弟な)
アイツら侯爵家出身だった。母親の遺伝子が強過ぎたのは分かるが、全然ラドクリフ王家の要素(金髪赤目)引いてないから気付かなかった。世間狭いなって思う。
ただ、ジャンが名字呼び嫌がる理由はジェラルディーン家が“元”侯爵家だってことにある。当主であり、ジャンとダリウスの父であるディヴィッド=ジェラルディーンが何故か突然酒に溺れてそのまま落ちぶれた……っていうのが僕の事前知識。
そして知ってしまった真実が『愛した妻の死を乗り越えられなかった上、その妻の命と引き換えに生まれた次男を上手く愛せない自分を悔いて酒に溺れた挙句、最終的に自害』とかいう後味の悪すぎるものだった。
ジャンは自分のせいで家が崩壊したって思ってるから名字で呼ばれるのが嫌なんだろうな。あとコイツ、父親から酷く虐待されていたようで、父親の面影……金髪に赤い目の男性が怖くて仕方がないらしい。(呼吸乱しながら発狂された時は正直凹んだ)
そしてどうも最後まで父親の虐待ってわけじゃなく、途中で研究施設に放り込まれてるんだ。具体的な話は聞いていないし、聞き出す気もないがどうやらそこでヴァロンが酷くジャンを痛め付けたらしい。
言い方は悪いが、ジャンはヴァロンとの再会以降、明らかに精神的に参ってしまっているし、目覚めるなりいきなり発作みたいなの起こしてたから、よっぽどなんだと思う。(そういや眼鏡どこで落としてきたんだろう?)
アルと似てるんだけど、変なとこ真逆。多分ジャンは『死にたい』ってのが大前提としてあって、その上で『生きなければ』ってなってるから変になってるんだと思う。コイツもう色々背負い込みすぎててどうしようかと思った。そりゃ精神的に脆くもなるよな。
精神的な要因っていう話だし、発作っぽいの起こした時は僕みたいに薬でどうこうするんじゃなくって、何よりもまず安心させてやる必要があるようだ。(正直ポプリにしかできないような気がするからポプリに全てを任せようと思う。僕じゃ絶対怯えさせて悪化させる)
天然のヴァイスハイトで、間違いなく希少な聖獣ケルピウスへの獣化能力持ちってこともあって、施設から逃げ出した後もろくな目に合わなかったらしい。水に濡れたらヒレが出るし、隠れるだけでも苦労してそうだもんな。
一旦マクスウェルに匿われちゃいるけど、その時点じゃ精神すり減らしすぎて愛情を感じるとかそれどころじゃ無かったんだろうな。結果的に人と上手く接することができなくなっているってのは分かった。ダリウスもだが、下位精霊とはすごく仲良くしてるのにな……とりあえず、こいつも放置したら怖い奴だ。
● ポプリ
本名は『ポプリ=クロード』らしい。こいつも偽名かよって言いたくなったが、ポプリの場合は孤児院にいた時期があるし、クロードは“旧姓”っていうのが正しいのかもしれない。(ただ、追い出されたとか言うし、どうもその孤児院時代が闇っぽいなぁ……)
アルとは義弟の関係で、アルが“ノア皇子”ってのを隠すためにクロード家が引き取って育ててたらしい。まあ、実際にアイツら遠縁とはいえ血縁関係あるっぽいけどな。
驚くことに被害者の筈のアルが全く気にしていないんだが、アルの右目を斬り付けた張本人でもある。その結果、アルの力がポプリに流れ込んで、ポプリを強化する結果になったみたいだ。この辺は難しいなって思うんだが、また体内精霊関連の話だ。今回の場合、アルの身体から出てきた体内精霊がポプリに吸収されたってことらしい。
(正直分かりにくいから、考察)
どう考えてもアルの体内精霊の方が素の状態なら強いと思うが、体内精霊が何の盾も無しに身体の外に出る=瀕死、みたいな法則が成り立つみたいなんだ。
これは僕の想像なんだが、多分、体内精霊にとっての僕らの身体が『家』だとすれば、僕らの目は『玄関に繋がるリビング』的なものなんだと思う。そんな場所が破壊された時点で体内精霊的には大打撃だし、苦しい外に放りだされるし……ってことで、近くの別の『家』に避難しようとする、みたいなことなんだと思う。
この考えで行くと、外に出てきた体内精霊は助けてもらった『家』の家主には遠慮するだろうし、そもそも弱ってるわけだし。通常『後から入ってきた精霊がその身体を乗っ取ることはない』って話はこういうことなんだろうって解釈している。
よくよく考えたら、アルは自分に価値を見出してなかったし、目を取られようが関係なかったのかもしれないな。それ以上に、ポプリを傷付けたことを酷く悔いていたから。女の身体に、大きな火傷痕を残してしまったっていうだけで相当落ち込みそうだし。(大好きな姉だったんだから、なおさらな)
ただ、ポプリはポプリで恨んでいて欲しかった思いと、許されたい思いの葛藤で苦しんでいるようだし、難しいな。(これに関してはポプリがどんなに苦しもうと、僕がそこに介入するつもりはない。するべきじゃないと、思っている)
どう見てもジャンが好きみたいなんだが、告げる気は無さそうだ。多分、アルの件(アルはジャンと同じヴァイスハイトだ)が引っかかってるんだと思う。しかも、ジャンは恋愛とかそういうのに疎そうだし、何より母親の件でトラウマになっていてもおかしくないから、多分このまま告げずにいるんじゃないかな。(正直もう面倒だからさっさと結婚して幸せになれば良いのにって思う)
ただ、ちょっとマズイことが分かった。ジャンの家庭――ジェラルディーン家を崩壊させたのは、ポプリの母親らしい。その母親を殺した人物がダリウスだが、どう考えてもダリウスの行為は仇討ちだ。なのに、ポプリにはそれを告げない。
正直、嫌な予感しかしないし、目を背けてはならないなって、思っている。他の奴ら程の危うさは無いとはいえ、危険なことに変わりはないからな。
● ディアナ
もう忌み子ダイアナ説が通説化しているな。さっきジャンから聞いたが、本名は『ダイアナ=セラフ=リヴァース』でほぼ間違いないだろう。できれば違っていて欲しいが。
聖者一族は銀髪碧眼が普通っぽいんだが、たまに突然変異で藍色の髪を持った子が生まれるらしい。そして藍色の髪の子は世界に何らかの異変が起きる時に生まれる――よりによって、それがたまたま両国の関係悪化の時期に被ってしまったせいで愛されずに育ったのが、ダイアナだ。(藍色の髪珍しいなって思ってたら突然変異だった)
男装娘でした。見た目が明らか女の子だから、それが変に作用して騙されたなって。(温泉の件は本当に申し訳なかったと思ってる。そりゃ男に胸見られたくないよなごめん)
アルはラドクリフで盗賊に襲われた時(あれだけ力強く抱きしめたら男女の違いくらい分かるよな)、ジャンは最初から気付いてたみたいだけど、色々気にして黙ってたみたいだ。
というより、多分アルもジャンに止められてるな。ディアナを支えてるものを奪うなって。それがアルを守ることなんだからって。
これ、うっかり僕がアル殺してたら、多分ディアナ死んだんだろうなって(少なくとも心は確実に死んだ)思うと、そういう意味でも本当にアルが生きててくれて良かったなって(二度目の自殺未遂が無いことを祈らずにはいられない。僕も変になりそうだ)
ただ、その『支え』を生み出した奴らはただ単にディアナ虐めたかっただけみたいだっていうのを考えたら本当に腹が立つ。ディアナ、間違いなくアイツらに髪の毛散切りにされてるし。(じゃなきゃハサミであんなに泣き叫ばないだろうし、そもそもジャンに確認してみたらもう否定のしようがない。しかも多分首の後ろのもだろ。本当腹立つな)
結局アイツ、記憶があろうがなかろうが同じような目に合わされてるんだって考えたら正直泣きたくなる。そうじゃなきゃ「優しい家族の記憶が欲しい」なんて願わないだろう。神様を信じないどころか「いるか馬鹿」って言いたくなる勢いだ。ディアナに言ったら怒られるんだろうけど。下手すりゃアルにも怒られるんだろうけど。
そんなダイアナ(ディアナ)を救えるかも知れない存在がアルだ。当時、アルだけがダイアナの味方で、片耳のピアスを送られた記憶はきっとダイアナにとって唯一の救いだったんだから。だからこそディアナは、その記憶すら無いのにピアスを大切にしていたわけで。(そう考えると本当にダイアナ説否定できないし、あの女達は苦しめば良いのにって思う)
いざ、ディアナの記憶が戻った時。どうするべきか。
しっかりと、考えておかなければって、思う。
● マルーシャ
僕はどうしたら良いんだ。
ジャンは最後の最後までこの話を取っておいたから、僕の態度次第では話さなかったんだろうけれど。話してくれて良かった、とは思っている。
マルーシャは、肉体だけみればアルの妹『シンシア=アルカ=フェルリオ』だった。二重だったり、タレ目だったり、色白だったりするから雰囲気似てるなぁって思ってはいたが、まさかこんなこと想像できるはずも無かった。(スウェーラルでマルーシャの姿変わったときは流石に「そっくりだ」って思ったけどな)
何で『マルーシャ』が存在しているかというと、何らかの手段で強い力を持った精霊をシンシアの中に埋め込んで、シンシアの意思を乗っ取っているから……らしい。意思を乗っ取るどころか、身体の大半も持っていく(見た目を変化させる)くらいだから、相当強い精霊なのは確かだ。
人為的な力が働いているし、恐らく『マルーシャ』の元になった精霊自体も普通じゃないことが考えられる(間違いなくヴァロン関わってるしな)から、アルの力を奪ったポプリみたいに、平和な感じにはならなかったってことだな。
思えば時々、マルーシャが何か考え込んでたような気がする。アイツもアイツで、きっと自分自身の違和感に気付いていたんじゃないだろうか。だからといって、今ここで僕にできることは無いし、この真実は今のマルーシャにはあまりにも重い。
――絶対に、気付かせてはいけない。
その前に何か、何かアイツを救う手段を探さなければ。
―――――
「……」
考えることが多すぎて、もう何を書いて良いやら分からなくなってきた。特にマルーシャに関しては、頭と心の整理が追いつかない。
一番辛いのは間違いなくマルーシャの筈なのに、僕自身も頭が痛くなってきた。
「別に……」
あの愛らしい容姿がマルーシャ自身であろうが、なかろうが。そんなことは、どうでも良かった。
見た目なんてどうでも良い。マルーシャがマルーシャでいてくれるなら、僕はそれだけで良かった。
――好きなんだろうな、と、思う。
見た目などではなく、彼女の清らかな心が。
沈んでいた僕を救ってくれたのは、彼女の優しさだったから。
マルーシャを傷付けたくない。泣いて欲しくない。悲しんで欲しくない。笑っていて、欲しい。あまり認めたくはないが、僕はアイツの笑顔が何より大好きなんだと、思う。
第一この件、アルをまた追い詰めるだけの破壊力がある。マルーシャだけじゃない、アルにも大いに関係のある『爆弾』のような事実だ。
不幸中の幸いだったのは、この事実に気付いたのが僕だけでは無かったことだろう。本当にどうしようもない場面になって、この事実が判明するような事態が発生しなかったことだろう。それだけが、救いだった。まだ、考えるだけの猶予がある。
「……」
僕はノートを閉じ、深くため息を吐いた。
きっと、きっと何もかもが上手くいく――そう、願うことしか。それだけしか、今の僕にはできなかった。