テイルズ オブ フェータリアン ー希望を紡ぎ出すRPGー 作:逢月
「とりあえずいつもの奴、持っていくね」
コーヒーが二杯に紅茶が一杯。トレイの上に並んだそれらの飲み物が全て一緒でないのは、単純に好みの問題だ。中身は今しがた入れられたばかりで、白い湯気を上げている。
アルディスはトレイを落とさないように気を付けつつ、エリックとマルーシャが待つテーブルへと運んだ。そこには、既に用意されていたらしい砂糖やミルクが置かれている。
「相変わらず手際良いよね……」
「そりゃどうも。先に飲んでて。ケーキ、切り分けてくるからさ」
「じゃあ、遠慮なく」
エリックはアルディスに出された暖かな紅茶を啜りつつ、ちらりと手前の席に座ったマルーシャを見た。
彼女はコーヒーにミルクを混ぜているところで、長い睫毛が黄緑の瞳を覆っている。
「ん? どうしたのエリック?」
「いやいや。はい、角砂糖」
見ていたのに気付かれてしまった。エリックは角砂糖の入った小瓶をマルーシャに手渡し、慌ててマルーシャから目を反らす。一方のマルーシャは、少しの間だけ小首を傾げていたが、すぐに自分の作業に戻った。
「……ッ」
どうやら見とれていたらしい。何となくきまりが悪くなり、エリックはおもむろに紅茶へと視線を落とした。鮮やかな赤茶色の半透明な液体がカップの中で静かに揺れる。
「ん?」
そうしているうちに、違和感に気付いた。エリックはカップを持ち上げ、側面の模様をまじまじと眺めた――パステルカラーの、植物をモチーフにした模様だった。
「なあ、アル。またカップ変わったよな?」
気のせいでなければ、この模様は今まで無かったはずだ。いや、間違いなく無かった。毎日のように来ているのだから、そうだと確信できる。
エリックがキッチンで作業をしているアルディスに問いかければ、彼はビクリと肩を震わせた。
「ま、街で可愛いの見つけてさ……可愛くない? それ?」
「お前は喫茶店でも開く気か? どれだけカップ増やせば気が済むんだ」
棚を見ると、可愛らしいカップの数々が几帳面に並べられている。アルディスには街へ行くたびに何かしらカップを買ってくるという収集癖があるのだ……と、エリックは思っている。
「ふふ、まあ良いんじゃないかな? この葉っぱ柄、可愛いし?」
「だ、だろ? マルーシャなら分かってくれるって思ってたよ!」
「おいおい……」
しかし、その真相は実はアルディスがとんでもない頻度でカップを落として割っているのをエリックたちに悟られないために、数を増やすためにあえて買ってきているというもの。
それを密かに知っているらしいマルーシャは、クスクスと笑いながら再びカップに口を付けた。
「カップのことはほっといて。とりあえずケーキ切り分けたから食べてみて? 結構自信作だよ」
アルディスは翡翠の瞳を泳がせながら、切り目の入ったホールケーキをテーブルの上に置いた。
それは、スポンジを彩るかのようにデコレーションされた真っ白なクリームに、真っ赤な苺を乗せたオーソドックスなケーキだった――その発言からも分かるように、彼のお手製である。
「久々にこのタイプ見たな。原点復帰ってか?」
「そういうこと。飾り気が無いのもたまには良いでしょ?」
「いや、十分飾られてると思う……アルディスってさ……ホント、女の子だったら良かったのにね……」
「……マルーシャ、ケーキ没収するよ?」
ごめんなさいごめんなさい! とマルーシャがアルディスに縋り付いている。アルディスの『生まれてくる性別を間違えた感』はエリックも散々感じては来たが、下手なことを言うと何も作ってくれなくなるので黙っていた。一応、本人は気にしているのだ。
(とは言っても、これって気にしてる奴がやることじゃないだろ……)
一人暮らし歴の長いアルディスは家事全般が得意である。特に、料理に関しては飛び抜けたスキルを持ち、中でも洋菓子類が得意だった。
エリックとマルーシャもそうなのだが、彼自身がかなりの甘党である為だろう。
最初は彼の大好物であるアップルパイ(彼の好物は林檎である)から始まり、現在ではまるで芸術作品かと思うような芸当まで身につけてしまったのだから大したものである。
そして、必然的にその恩恵を独占して受けてきたのが、エリックとマルーシャだった。
「はは、マルーシャ残念だったな」
「ひどい! エリックだっておんなじこと絶対思ってるくせに!!」
「なっ!?」
――図星だった。
「……。もう良いよ、食べなよ。性別間違えた感は自分で認めてるし」
明らかに拗ねている様子である。コーヒーを啜り、アルディスはため息を付いた。
気にはしているものの、一度付いてしまった習慣は無くならないということだろう。第一、困った事に数ヶ月に一回のペースでこのようなやり取りは起こっている。
それだけ彼がある種、容赦ないということである――どこぞのお転婆嬢にも見習って欲しいものだ。むしろ性別を間違えた感はこちらにもあるのではないだろうか?
「ごめんなさいってば! でも、貰えるものは貰うね。いただきます!」
「遠慮無いな……まあ、そういう僕も遠慮なく……」
「はいはい、どーぞ」
何だかんだ言いつつ、怒っては居ないようだ。本人も慣れっこなのだろう。呆れ返った様子ではあったものの、アルディスはケーキを皿に取り分けてくれた。
▼
「ん……?」
「どうしたの?」
「い、いや。声が、聞こえた気がしたんだ」
話をしながら、紅茶のおかわりを飲んでいたエリックが突然立ち上がった。食べ終わった皿を片付けながら、アルディスは首を傾げる。
「気のせいじゃなさそうだな。ちょっと、見てくる」
ドアの向こうから、謎の声が聞こえる。この辺りに、自分達以外の人がやってくるなどという珍しいことが起きているのだろうか?
片付けをするアルディスを気遣い、エリックはドアのそばへと向かう――しかし、それよりも先に何かを感じ取ったのだろう。アルディスの手から皿が落ちた。
「! エリック、ドアに近付くな!」
ガシャン、と床に落ちた皿が割れ、破片が飛び散る。その音を合図にするかのように、鍵が掛かっていた筈のドアが蹴破られた。
「!?」
「ほう……なかなか警戒心が強いんだな」
現れたのは、二対の漆黒の影。驚き、怯んだエリックの前に何かが飛び出す。
「ッ! ぐ……っ」
(……え?)
飛び出した何かが崩れ落ち、膝を付いた――それが、アルディスであったということに気付いたのは、エリック自身も驚くほどに遅かった。理解が、追いついていない。
膝を付いたまま、アルディスは微かに光っている左手を真横に伸ばす。瞬間、その光が強くなる。輝きが収まっていくのにつれて、その手に薙刀が握られていることがエリックにも分かった。
「不意討ち、ですか……!」
ギリ、とアルディスは奥歯を噛み締めた。どういうわけか、息が荒い。エリックは膝を付いた彼の姿をまじまじと見つめ、息を飲んだ。
「アル!」
脇腹を押さえる右手の間から、どくどくと赤い血が流れている。こういったことにはほぼ素人のエリックでも分かる。急所ではない。だが、血の量からかなりの深さだろう。
「くっ、くそ……!」
「動かないで!」
立ち上がろうとするアルディスの傍に、マルーシャが座り込んだ。大量の血を間近で見たためか、彼女は泣き出しそうに目を細める。怖いのかもしれない。それでも、彼女はキッと眉を上げ、傷のすぐ傍まで右手を持っていった。
「どこまでやれるか、分かんないけど……」
マルーシャはそう言って、意識を集中し始めた。右手を中心に生み出される淡い光が、傷を癒していく――彼女の生まれ持つ力、“
しかしながら、どうやらあまり効果がないらしい。アルディスは依然として痛みに目を細めている。
(そうだ……誰だよ、こんなことした奴は!)
思わず、注意が痛みに苦しむ友人へといってしまっていた。彼に傷を負わせた相手は、そもそも自分を狙っていた可能性の高い相手は、まだ目の前に居る。意を決したようにエリックは顔を上げ、ドアの方を見た。
「え……?」
顔を上げた先にいたのは、長い漆黒の癖のない髪に、剣の刀身を思わせる銀の瞳を持つ色白の男。彼も王子なのだが、エリックが先ほどまで着ていたような高価な衣服を身にまとっているわけではない。彼が身にまとうのは、暗い色を基調とした軍服だった。
「な……っ、あなた、は……」
エリックの声が震える。それに対し、どこか中性的な容姿を持つ男はそんなエリックの存在など気にもならない様子だった。
彼は騎士団“黒衣の龍”の団長であることを示す黒いマントを翻し、長剣を手に押し入るように部屋に入ってきた。銀の瞳は、真っ直ぐにアルディスの姿を捉えている。
「しかし、驚きだな……本当にお前は“あれ”によく似ている」
目の前で立ち尽くすエリックのことなど、明らかに眼中にない様子である。だが、それでもエリックはそのまま彼を放置しておくことはできなかった。
「あ……兄、上……何故、ですか……?」
そこに立っていたのは、ゾディート=カイン=ラドクリフ――エリックの、兄であったから。
「おや、アベル王子とイリスお嬢様ではありませんか」
ゾディートの後ろから覗き込むように、短い空色の髪をした長身の青年が顔を出した。
エリックとゾディート兄弟も比較的長身の部類に入るのだが、彼はさらに背が高い。どうしても、見下ろされているような気分になる。顔を隠すように布を巻いているため、その表情は読めないのだが。
「この辺りに
そう言って青年、通称『ダークネス』は口元を綻ばせる。ゾディートに目で合図され、彼も部屋に入ってきた。
彼は黒衣の龍の副団長でもあり、ゾディートに信頼を寄せられているがゆえに彼の専属執事も兼任している。
ただ、その服装はきっちりとした物ではあったが、執事というよりは戦場で動くことを前提とした軽装の軍服であった。
「ダークネスまで……!」
マルーシャが声を震わせるのを見て、ダークネスはぐるりと軽く首を回した。ダークネス、という通称は仕事名義である。たまにゾディートや彼の部下に当たる者達は彼を本名で呼んでいるのだが、一体、何という名前だったろうか――否、今はそのようなことを考えている場合ではない。
ダークネスは口元を綻ばせたまま、アルディスに言葉を投げかけた。
「さて、そこのフードのお前……お前以外に、考えられないとは思わないか?」
「……」
口調が違う。相手が貴族ではない為だろうか。アルディスは顔色こそ悪くなっていたが、臆することなく立ち上がり、目の前の長身の男を真っ直ぐに見据えて口を開いた。
「確かに俺は
アルディスのような細身の体格に色白で、全体的に冷たい印象を与える容姿は
とはいえ、目の前にいるダークネスも
それに対し、アルディスは見事なほどに
エリックとマルーシャは
彼に、
「その印象的な外見でそう言うのか……?」
ゾディートの言葉に、アルディスは不快感を剥き出しにして奥歯を噛み締める。
「何が言いたいのです!?」
「そ、そうですよ……兄上、少し、落ち着かれては……」
埒があかない。そう考えたエリックはアルディスとゾディートの間に割って入った。親友の出血量も放置はできない状態になってきている。早く、まともな治療をするべきだ。
「兄に、楯突くか」
「……ッ、無礼なことであることは、私も分かっております。しかし、それとこれとは話が別です!」
身長は然程変わらないし、兄はあまり体格に恵まれなかったために、エリックの方がそれ自体は良い。もしかすると、力だけならエリックの方が強いかもしれない。だが、それでも「勝てない」と思わざるを得なかった。
「……ほう?」
兄が放つのは、身体が震えそうになるほどに、息が苦しくなるほどに、圧倒的な威圧感だった。これが、潜ってきた戦場の差だと言うのだろうか。訓練はしていても、実戦経験の無いエリックには分からない感覚だ。
そんな感情を見抜いていたのだろう。ゾディートはつまらないものを見るかのようにエリックを一瞥し、手にしたままだった長剣の柄を軽く握り直した。
「せっかくだ。こいつと一緒に……お前も殺してやる」
「え……?」
そして耳にしたのは、信じられない――言ってしまえば信じたくない、そんな言葉であった。
「エリック!」
後ろに居たアルディスに手を引かれ、エリックは軽く後ろに下がらされていた。根本的に力の弱いアルディスではこれが限界だ。それでも、たった一歩の差に命を救われた。
「……ッ!?」
先程まで、自分がいた場所には、床を抉るように長剣が深々と刺さっている。
兄は、本気だというのか……エリックは思わず、目を細めて奥歯を噛み締めた。
「動くな!」
二人が向き合っている隙を付き、アルディスが左足に隠し持っていた二本の投げナイフを放つ。短い距離から放たれた、鈍い銀の輝きを放つナイフはゾディートとダークネスをそれぞれ狙っていた。
それは、簡単に避けられてしまっていたが、アルディスは襲撃者達がナイフを避けるそのわずかな間にエリックとマルーシャの腕を掴み、自宅から飛び出していた。
「ッ、アル!?」
「ごめん……勝てない。逃げるよ」
頭の中の処理が、全く追いついていなかった。それはエリックだけではなく、マルーシャもであった。
何も、考えられない。それでも、今立ち止まることが何を意味するかだけは、分かっていた。
彼らは、前を走るアルディスに置いていかれないようにと、ただ無心で足を動かし続けた。
▼
アルディスの家を飛び出してから、二、三十分は走り続けただろう。
「は……っ、はぁ……っ」
流石に、アルディスの息の荒さが酷く気になってきた。しかも彼は、エリックを庇って傷を負っているのだ。
あまりにも心配になり、エリックはマルーシャと一瞬だけ顔を見合わせた、アルディスに声を掛けた。
「……アル」
長い前髪とフードに隠され、顔そのものは見えない。だが、白い顔を伝っていく酷い量の冷や汗と、真っ青になった顔は確認出来る。しかも、こちらの声が届いていないらしい――これ以上は、とエリックはアルディスの肩を掴み、叫んだ。
「アル! ここまで来たらもう良いだろ!? 一度、止まらないか!?」
そこまでして、ようやくアルディスはエリックに声を掛けられていることに気付いたようだ。足を動かし、前を向いたまま彼は返事を返した。
「大丈夫だよ……これくらい。俺は、傭兵だよ……」
「馬鹿なことを言うんじゃない! 良いから、ちょっと座れ!」
無理矢理にでも止めなければ、このまま走り続ける気だ。エリックはせめて立ち止まるようにと、アルディスの腕を後ろに力強く引いた。その衝撃で、アルディスの重心が振れた。
「っ!」
他所から力を加えられたため、力が抜けてしまったのだろう。アルディスはそのまま、へたりと地面に座り込んでしまった。
「だから言ったんだ……」
先程、アルディス本人が言ったように、彼の職業は傭兵である。怪我をすることも、怪我をしたまま走り続けることも、日常的な事なのだろう。
とはいえ、いくら傭兵という職業の件があるにしても、アルディス自体は本当に華奢な体格の持ち主である。とてもではないが、今の彼に無理をさせる気にはなれなかった。
「マルーシャ、頼む」
「うん」
マルーシャが傍に寄り、再び天恵治癒の能力を発動させる。しかし、傷はどうしても塞がりきらない。力の強さと傷の深さが釣り合わないのだ。
「しばらく、休まないか?」
「……いや、もうしばらく進まないと危険だよ」
エリックに身体を預け、ぐったりとしたままアルディスが口を開く。そんな彼の姿に、マルーシャは金色の睫毛を震わせた。
「ごめん、わたしにもうちょっと力があれば……」
マルーシャの
しかし、特殊能力というものは力の向上にかなりの努力を要する為、使いこなせない者も多い。それはマルーシャも例外ではなく、決して自身の能力を極めているわけではなかった。
「これで、僕も
「う、うーん……未来の君に期待してる。何だろうね? エリックの能力」
特殊能力――人々がそれを得るのは“覚醒”という段階を終えてから。それがどんな力であったとしても、通常、人は十歳前後の年齢で覚醒する。
聞いたことが無いためにアルディスの覚醒がいつなのかは知らないが、マルーシャは七歳と早めの覚醒をしている。
だが、それにも関わらずエリックは十八歳にもなって、いまだにそれらしい現象が起きていないのだ。
最悪、
(早いとこ、覚醒してくれないと困るんだが……)
この国、ラドクリフ王国は現在、女王によって納められている。国王が十年前の戦で戦死した関係で、代理としてその妃が勤めているのだ。
「……」
この国の民はほぼ、その息子であるエリックの早期交代を望んでいる。それでも彼が王位を継がないのは、未覚醒な上に
▼
「こんなこと、聞きたくないけど……これから、どうするの……?」
更に三十分程歩き続けた辺りで、マルーシャは躊躇いがちに口を開いた。
ヘリオスの森も、王都ルネリアルも既に見えない。それなりに、遠くまで来たらしい。マルーシャの言葉に、アルディスは脇腹を押さえたまま目を伏せた。
「……ごめん、俺のせいだ」
それは違う、とマルーシャは首を横に振るう。仮にあの二人がアルディスを追ってきたのだとしても、彼本人に非があるわけではない、と。
「違うよっ、そんなこと、ないよ……!」
「そうだ。アルは悪くない。むしろ、謝るのはこっちだ……」
状況が状況である。仕方がないとはいえ、エリックまで落ち込んでしまっている。自分が話題を降ったとはいえ、こんな空気になることを望んだわけではない。
責任を感じたマルーシャは、何も言えずに辺りを見渡し……ある一点を見て、己の目を疑った。
「え?」
――鳥だ。アルディスの隣に、鳥が居た。
「な……? え……?」
それも、エリックを一回り大きくしたくらいの、額に青紫の石が付いた、巨大なオレンジ色の鳥。
マルーシャはゴシゴシと目を擦り、再び鳥を見た。大きな青紫の瞳と目が合う。
「きゅ」
「あ、鳴いた……」
随分と間の抜けた、何だか愛嬌のある声である。流石に落ち込んでいたエリックもアルディスも、その異様な存在に気が付いた。
相手は可愛らしい外見に似合わず、獰猛な魔物かもしれない。油断させておいて襲って来る可能性もある。絶句している場合ではないと、アルディスは薙刀を構えた。
「二人とも下がって!! ……って、あれ?」
……遅かったようだ。アルディスは新たな異変に気付いた。
「え? 俺、飛んでる? 浮いてる?」
「アル……」
決して飛んでいるわけではない。浮いているのは、鳥がアルディスのローブを咥えているためだ。
そしてアルディス本人は笑いを誘っているわけでは全くなく、本気で馬鹿なことを言っている。キョトンとした表情の親友を見て、エリックは呆れ返った様子でため息を吐いた。
「……は?」
「じゃなくて! 馬鹿! 抵抗しろよ!!」
「はっ!?」
冷静に物事を判断したエリックの指摘でアルディスは我に返ったが、これまたもう遅い。
何を思ったか、鳥はアルディスを咥えたまま踵を返して疾走していった。
「……」
微かに砂埃が舞う。完全に置き去りにされてしまった。唯一の頼みの綱であるアルディスが居なくなったのだ。
「……嘘だろ?」
「嘘だと、思いたいよ、ね……」
こうなることなど、いったい誰が想像出来たか。対処方法なんてあるはずがなかった――あまりにも予想外なことになってしまったせいで、大混乱に陥ってしまったのだろう。
その場に取り残された二人が「アルディスと鳥を追いかけよう」という結論に至るまでには、かなり無駄な時間が費やされてしまった……。
―――― To be continued.