テイルズ オブ フェータリアン ー希望を紡ぎ出すRPGー 作:逢月
『どうせ俺は、欠陥品だ……失敗作でしか、ない……ッ』
ーーアルの言葉が、頭から離れない。
そんな状態で睡眠を取ったのが悪かったのだろう。酷い、悪夢を見た。
あまりの気持ち悪さに飛び起きた僕は、両目を閉ざしたまま頭をゆるゆると振った。
『また失敗か。駄目ですね……全く成果が出ませんよ』
やめて、ください。
『可哀想に。どんどん死んでいく。根本的にお前が合っていないんだろうな』
嫌だ。
『この
嫌だ、嫌だーー!
「……ッ、く……っ、……ッ」
息ができない。苦しい。頭の中を、ドロドロとした思いが埋め尽くしていく。
喉を押さえ、何とか呼吸を正常にしようともがく僕の目の前に右手を差し伸べつつ、左手で背をぽんぽんと叩いてくれる存在がいた。
「先生」
ポプリだ。
それを理解すると共に、僕は差し出された手に指を伸ばす。その指先は、情けない程に酷く、震えていた。
「最近はちょっと落ち着いてきてたけれど……なかなか治らないわね。無理しちゃ、駄目よ……」
彼女は、僕のこの“発作”についてよく知っていた。恐らく勉強してくれたのだろう。彼女は何かと呼吸困難に陥る僕を、いつも助けてくれていた。
「悪い夢でも見た? 何か悩んでるの?」
ポプリはこの発作が精神的なものであることも知っていた。彼女が得意とする薬の類で治せる物ではないだけに、苛立たせてしまうこともあるに違いない。
それでも彼女は、僕を見捨てずにいてくれていた。
「ポプリ……」
呼吸が落ち着いてきた。息苦しさも、かなり治まってきた。今日はもう眠れないだろうが、十分だ。悪夢を見るくらいならばもう、睡眠なんて取りたくなかった。
「話しては……くれないの、ね」
「……」
「やっぱりあたしじゃ、力にはなれないのかしら……?」
違う、と言いたかった。しかし、否定などできるはずが無かった。
自分の弱さを曝け出すのが、怖い。その恐怖に、僕は勝てない。その結果僕は、彼女に何も話せないのだ。それが、もう何年も続いている。
「ッ、すみ、ません……」
「……」
ポプリは、
しかし、恐らくはそれだけではないのだろう。むしろ問題は、僕自身にある。そんなことは、とっくの昔に分かっていた。
「……。さっき、市場で美味しそうな林檎を見つけたの。これ、ノアのところに持って行ってくるわね」
僕が何も答えないことを察したポプリは、テーブルの上に置いてあった紙袋から赤い林檎を取り出して微笑んでみせた。
「そういえばさっき、マルーシャちゃんが買い物に行くって言ってたわ。先生、気分転換に一緒に外に出てみたら?」
その上で彼女は、僕がひとりで思い悩まないようにと新たな選択肢を与えてくれた。僕が黙って頷くと、ポプリは再び笑みを浮かべ、部屋を出て行った。
後には、僕ひとりだけが残される。さあ、早くマルーシャのところに行こう。ここを動かなければ、またポプリに心配されてしまう。
「……」
それなのに。込み上げてくるのはやはり、醜いドロドロとした感情だった。
もう嫌だ。どうして。どうして。
「母さん」
ぽつり、と呟く。その声は随分と擦れ、僕以外誰も聴き取れないようなものだった。
「どうして……」
ーー僕なんかを、産んだのですか?
「……」
自分が世界に必要とされていることくらい、分かっている。
だから僕は、死を選ぶことは許されない。これは異端に生まれたからこそ課された、僕の“宿命”なんだと思う。
僕は、この世に生まれた以上、生きていなければならない存在だ。
そんなことは分かっている。けれど、こんな思いをするくらいならば。
こんな苦しみを味わい続けるくらいならば、もう、いっそ……。
―――― To be continued.