テイルズ オブ フェータリアン ー希望を紡ぎ出すRPGー 作:逢月
「……ッ」
身体が、重い。目を開けると、黒い布が身体の上に被せられていることが分かった。
(一体、何が……)
慌てて、身体を起こす。覚醒しきっていない意識でも、これが異常事態であることくらいは、理解できていた。
隣でディアナが眠っていることにも気付いたが、それに大した反応ができなかったのはここがスウェーラルであることと、“何が起こったのか”を同時に思い出したからだろう。
「ッ、い、急がないと……」
ディアナをそのまま置き去りにしていくことには抵抗があったが、そんなことを言っているではない。
俺は端に青い刺繍が入った黒い布――ジャンさんが腰に巻いていたものだ――をディアナに掛け直し、術のせいか覚束無い足に鞭を打って走り出した。
周囲にはエリック達の姿どころか、ジャンさんの姿も見えない。
あれから俺がどれほどの時間眠っていたのかは分からないが、太陽の位置からしてそこまで長い時間は経過していないだろう。だから、すぐに見つかる。そう思っていた。
――ツンとした、血の臭いを感じた。
(え……)
明らかに、尋常でない血の量だった。臭いが、濃すぎる。これは一人ふたりが流した物ではない。そんな、生易しいものではない。
その臭いのする場所へと足を進める俺の中で、第六感が「行くな」と警鐘を鳴らしていた。けれど、俺の足は止まらない。まるで操り人形のように、その場所へと向かっていた。
もしかすると、そこにエリック達がいるかもしれない。そんな思いがあったのも確かだ。
けれど、それ以上に俺は、“ある光景”が広がっていないことを確かめにその場所に向かっていたのだろう――現実は、非情だったけれど。
「――!」
たどり着いたのは、広場のような開けた場所。
ここは十年前、豪華な装飾が施された噴水を中心に構える、美しい庭園だった。しかし今はただの廃墟でしかない。
そんな廃墟に漂うのは、気分が悪くなるほどの血の臭い。そして転がる――数多の、亡骸。
廃墟と化したスウェーラルから離れずにいてくれたのだろう“彼ら”の大半は、もはや人とは言えぬ姿となって、辺りに“散らばっていた”。
「ッ……」
地獄というものが存在するのならば、きっとこのようなものなのだろう。いや、きっと地獄の方が、ずっとずっと、マシだ……。
「あ、ぁ……」
思わず、ゆるゆると頭を振っていた。しかし、目の前の光景は、充満する血の臭いは、何も変わらない。消えてくれない。涙が頬を伝っていく。身体の震えが、止まらない。
「……っ、あ……ッ、あぁ……ああぁ……」
彼らは俺にとって大切な、国民達だった。俺が、守らなければならない存在だった。
俺は国民を守るために、そのため“だけ”に、生まれてきたのに――それなのに、俺はまた、何もできなかった。
「うああぁあああああああぁぁ――……ッ!!」
もう、嫌だ。
どんなにもがいたって、俺は空回りしかできないんだ。
やっぱり俺は、アイツとは違うんだ。アイツとは、何もかもが、違いすぎる……。
何も、できないのに。俺は一体、何のために、この世に生まれてきたのだろう。
こんな俺に、“存在価値”なんて、あるのだろうか――いや、むしろ俺は。
……この世に、いない方が良いのではないだろうか?
―――― To be continued.